水中写真家・古見きゅう、写真集「Longing」出版記念イベント、トークゲストに映画監督・岩井俊二。少年時代の原体験、水中撮影の魅力と挑戦

水中写真家・古見きゅう、写真集「Longing」出版記念イベント、トークゲストに映画監督・岩井俊二。少年時代の原体験、水中撮影の魅力と挑戦

水中写真家・古見きゅう氏の20年間の活動の集大成となる超大型写真集「Longing」の出版を記念したイベントが9月12日、東京・恵比寿のギャラリー「AL」にて開催された。 イベントでは、古見氏が敬愛する映画監督・岩井俊二をゲストに迎え、「世界をどう見ているか?」をテーマにトークセッションが行われた。会場では、写真集「Longing」に収録された作品の一部が展示され、来場者は古見氏が切り取った美しい海の世界に深く魅了されていた。

■水中写真家・古見きゅう、写真集「Longing」出版記念イベント

▼熱帯魚との出会いから始まった水中写真家への道

トークセッションは、古見氏と岩井監督それぞれの少年時代の原体験に話が及んだ。古見氏は、子供の頃に訪れた熱帯魚店で海水魚を見た時の衝撃を振り返り、「海水魚の原色に魅せられたことが、水中写真家への道の原点だった」と語った。

一方、岩井監督も幼少期から生き物に強い興味を示し、図鑑を愛読していたという。特に印象的だったエピソードとして、3~4歳の頃にカナヘビを捕まえようとして失敗し、悔しさのあまり手足をバタバタさせた際に自宅のガラス戸を突き破ってしまったというエピソードを披露し、会場から驚きの声があがった。

▼デジタル技術の進化と創作活動について

トークセッションでは、デジタル技術の進化が写真や映画の創作活動に与えた影響についても語られた。岩井監督は、2000年頃には映画制作に使えるレベルのセンサーサイズを持つデジタルカメラは存在せず、スチールカメラの方が先行してデジタル化が進んでいたと振り返った。

「(デジタルカメラを)連写の枚数が増えていく様子で進化を見ていました。これが24コマに到達したら映画だなと。」

そして、ニコンとキヤノンから動画撮影機能を搭載したデジタル一眼レフカメラが登場したことを機に、映画制作の現場にも変化が訪れたという。

「(ニコンやキヤノンからの動画も撮れるカメラが登場したことは、これでデジタル一眼レフ機を使った映画の世界への)まさに突入だ!という感じでしたね。撮影現場でも一眼レフ型のカメラが増えて、映画と写真の世界が混ざっていきました。」と岩井監督は振り返った。

▼水中撮影の魅力と危険性

水中撮影の難しさや魅力についても、両氏から多くの示唆に富んだ言葉が聞かれた。岩井監督は、映画「リリイ・シュシュのすべて」で水中撮影に挑戦した際のエピソードを披露した。天候不良やスケジュールの都合で、自らシュノーケルを装着して撮影したという。

「(シュノーケルは)意外と水が入ってこないようになっているので、潜って多少吸っても大丈夫なんですよ。」と説明。息の吸い込みと吐き出しでシュノーケルが水面上に出ているか否かを判断する動作について語った。

古見氏は写真展の来場者からの質問に対して、「(水中撮影は)いつも怖いです」とその危険性を語った。

「空気がなくなりそうな時に限って、すごく良いシーンが来るんですよ。でもこれ以上先に行ったら死ぬ、と思って諦める。その辺の葛藤が重要だと思います。」と水中撮影でよくある出来事と対応について説明した。

水中撮影を続ける原動力について、古見氏は「魚を最高に可愛く撮りたい」というシンプルな情熱を挙げた。 また、まだ和名のないエビを発見し、和名を付けた経験についても語り、会場を沸かせた。

▼自然のリズムに寄り添う撮影スタンス

トークセッションの終盤には、来場者から「被写体である生き物とどのように向き合っているのか」という質問が投げかけられた。古見氏は「海の中に入るときは、余計なことは考えないようにしている。無心に近い状態です。」と回答した。

「海と同化するわけではないんですけど、何も考えずにファインダーを見ながら待っているしかない。ひたすら。」と説明。

さらに、狙っていた被写体とは違う生き物が偶然フレームインしてくるなど、「意外性」も水中撮影の魅力の一つだと語った。 また、古見氏は水中撮影の技術的な側面について、海の揺らぎに逆らわずに自然のリズムに身体を任せることが重要だと説明した。

▼写真集「Longing」に込められた想い

イベントの最後には、古見氏から、写真集「Longing」に込めた想いが語られた。

「20年間、魚に恋焦がれてきました。世界中の海を巡り、水中写真家として活動できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。」

写真集のタイトル「Longing」には、「憧れ」という意味が込められている。

「子供の頃から魚図鑑を見て、この魚が見たい、あの魚が見たいと、世界中の海に憧れていました。」

「Longing」は、古見氏が20年間抱き続けた海への憧憬と、魚たちとの一期一会の出会いを、圧倒的なスケールで表現した写真集となっている。

古見氏は、写真集の制作にあたり、自身が撮影した写真の中から20年間の集大成となるベストセレクションを選び、最新の印刷技術を用いることで、海の生き物たちの生命の輝きや海の奥深さを細密かつダイナミックに表現したと語った。

イベントは、「写真集「Longing」は、私たちを未知なる海の深淵へと誘い、生命の神秘さを改めて認識させてくれるでしょう。」という言葉で締めくくられた。

▼イベントを終えて

トークショーは予定時間を超過するほど盛り上がり、古見氏と岩井監督の深い自然への愛情が伝わってくるイベントとなった。
写真集「Longing」は限定30部の販売となっており、価格は693,000円(税込)。


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