ブラックホールに願いを!

構想8年の空想特撮映画『ブラックホールに願いを!』米澤成美&吉見茉莉奈×渡邉聡監督インタビュー。「運命」の配役と「壁」を越える物語の裏側

12月6日(土)より公開された映画『ブラックホールに願いを!』。構想から8年の歳月をかけ、ついに公開された。W主演の米澤成美、吉見茉莉奈、そして渡邉聡監督にインタビューを行った。「運命」とも言えるキャスティングの真実、軍艦島やKEKでの貴重なロケ秘話、そしてアナログ特撮へのこだわりとは?物語の鍵となる「壁を越える」というテーマに込められた熱い想いと、笑いあり苦労ありの制作の裏側を3人に語ってもらった。

■『ブラックホールに願いを!』W主演・米澤成美 x吉見茉莉奈&渡邉聡監督インタビュー

▼キャスティングと役作りにおける「実体験」と「運命」

ー: キャスティングと役作りについてお伺いします。監督にお聞きしたかったのですが、米澤さんが演じた伊勢田という役柄についてです。以前、米澤さんご自身が小学生の頃に場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)を経験されたというお話をうかがったことがありました。そのエピソードがキャスティングに影響しているのでしょうか?


渡邉聡監督: 以前、YouTubeの番組で、映画『つむぎのラジオ』に出演された方が米澤さんにインタビューをする動画を拝見したんです。そこで、緘黙症だったことやそれがきっかけで役者になったというお話をされていて、それを見て僕自身も「緘黙症というものがあるんだ」と知ったことがきっかけになっています。米澤さんには今回、オファーでお声がけしました。


ー: 米澤さん自身の経験と発言が役につながったんですね。一方で、吉見さんのキャスティングはいかがでしたか。


吉見茉莉奈: 私は、吉住役のオーディションでした。2020年のコロナ禍だったのでZoomでオーディションをおこなったのですが、実はオーディションが終わったその場でネタばらしをされたんです。よくよく話を聞いてみると、吉住という役は私のことを頭の片隅に置きながら作った役だったそうで。そこにまんまと私が応募してきて、その場で「決まりです」と言われて驚きました。


ー: まさに運命的な配役だったわけですね。オファーを受けた時の米澤さんの感想はいかがでしたか?


米澤成美: 最初は「私が巨大化して街を壊す」みたいな作品を撮りたいというオファーで、「やった、楽しそう!」と軽いノリで引き受けたんです。でも蓋を開けてみれば、とても深い物語でした。

▼短編から長編へ進化した脚本と、専門用語への挑戦

ー: 脚本やストーリーについてですが、吉見さんはオーディション時に一部のシーンだけ演じられたと思います。全体を通した脚本を読んだ時の感想はいかがでしたか?


吉見茉莉奈: 実は一番初めの脚本は、今の完成形とは全然違う30分未満の短い作品想定だったんです。タイトルも当初は『輝ける者たち』や『虹の彼方の物語』という案があったそうで、そこから今の形になりました。最初は吉住という人物像もそこまで深く描かれていなかったのですが、完成版では長くなった分、さらに深まっていて「いい話だな」と思いました。


ー: 科学者役としての専門用語の多さも印象的でしたが、苦労された点はありますか?


吉見茉莉奈: セリフを頭に入れるのが大変でしたね。監督も脚本を改稿する中で分かりやすくしようと工夫されていましたが、私の役は説明役でもあったので、現場でギリギリまで読み合わせをして調整しました。


ー: 逆に米澤さんは「声が出せない」という役柄でしたが、表現で心がけたことはありますか?


米澤成美: 困ったら笑う…とかですね(笑)。あとは目線の動きで困っている様子を表現したり、読み合わせで監督と「こうじゃない、ああじゃない」とやり取りしたりしながら微調整して固めていきました。

▼世界遺産と最先端研究施設でのロケーション撮影

ー: 本作は撮影地、ロケーションも非常に特徴的で魅力的だと思いました。軍艦島(端島)や高エネルギー加速器研究機構(KEK)など、普段はなかなか入れない場所で撮影されていますが、感想はいかがでしたか?


米澤成美: KEKの巨大な地下施設に行った時は「こういう場所が本当にあるんだ」と圧倒されました。そこで作業している方々もかっこよかったです。軍艦島にも2回行けるとは思っていなかったので、どんどん立ち入りが厳しくなる中でありがたい経験でした。


ー: 軍艦島の撮影許可は取るのが難しいと聞きますが、上陸などはスムーズだったのでしょうか?


渡邉聡監督: 最近は特に難しくなっていますね。上陸に関しては、地元の漁師の方に旧暦を使って潮の状態を見てもらい、「この日なら大丈夫」というタイミングを狙ってピンポイントで行きました。ただ、1回目は撮れたのですが、その後取り直しが必要になり、翌年にもう一度行くことになりました。


吉見茉莉奈: 帰りの船で監督の顔が険しかったので、その時点ですでに撮り直しを考えていたんだと思います(笑)。

▼アナログ特撮の現場とこだわりの演出

ー: 特撮ならではの現場のエピソードについても教えてください。CGに頼りすぎないアナログな撮影現場の雰囲気はどうでしたか?


米澤成美: グリーンバックでの撮影だと、完成形がどうなるか想像がつかないんです。「これくらいかな?」と思ってリアクションしても、映像を見たらすごい爆発になっていて「もっと驚けばよかった!」と思いました。完成して初めてわかる楽しさがありました。


吉見茉莉奈: 私は物が浮くシーンが新鮮でした。ペンひとつ浮かすのにも銀色の脚立みたいなものを使って撮影し、後で背景だけ撮って合成するんです。スタッフの皆さんがテキパキと動いている姿がすごく素敵でした。


ー: 「ボブル空間」のような未知の現象に対して、監督はどのような演出指示を出されたのですか?


吉見茉莉奈: 私は、『もののけ姫』で乙事主がドロドロになっていく場面を思い浮かべていました。液体や流体の中に入り込んで動きがゆっくりになるような感覚です。

ー:初期の段階から目にしたメインビジュアルのふたり、伊勢田の赤、吉住の青といった色の対比が印象的でした。これに関するエピソードはありますか?

渡邉聡監督: こだわりとして、時間の進み方が違う空間同士の見え方には「ドップラー効果」を意識した考え方を取り入れています。時間が早く進んでいる側を見ると光の波長が短くなって青く見え、遅れている側を見ると赤く見えるという理屈で、それぞれのキャラクターのテーマカラーが決まっていたんです。

ブラックホールに願いを!

▼作品に込めた「壁を越える」メッセージ

ー: 最後に、作品のテーマやメッセージについてお伺いします。SFや特撮としての面白さはもちろんですが、人間ドラマとしての見どころも多いと感じました。これからご覧になる方へメッセージをお願いします。


米澤成美: 見どころはやっぱり「友情と爆発」です!特技監督の爆発がすごいですから。SFでありながら、ドロドロしていない純粋な人間ドラマでもあるので、性別や年齢を問わず楽しめる作品だと思います。


吉見茉莉奈: 特撮やSFというジャンルにとらわれずに見てほしいですね。研究所内の人間模様が魅力で、一見悪に見える人にも事情があったりする優しさのある物語です。見終わった後に、理解できないと思った人とも「もう一回話してみようかな」と思えるような映画になっていると思います。


渡邉聡監督: 特撮映画として「現実にありえないことが起きている感覚」を楽しんでいただきたいのが一つ。そしてもう一つは、現代的なテーマである「見えない壁を乗り越える」や「分断」といったメッセージも込めました。どう乗り越えるかというテーマを盛り込んでいます。それぞれが感じたことを大切にしていただきつつ、そういった部分も受け取っていただければ嬉しいです。


この記事を書いた人 Wrote this article

Hajime Minamoto

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