映画『無名の人生』先行上映イベント 鈴木監督と岩井澤プロデューサーが制作秘話語る

映画『無名の人生』先行上映イベント 鈴木監督と岩井澤プロデューサーが制作秘話語る

2025年5月8日、アニメーション映画『無名の人生』の先行上映が新宿武蔵野館で行われ、上映後に鈴木竜也監督と本作のプロデューサーを務めた岩井澤健治氏が登壇。制作の舞台裏について語った。本作はコロナ禍に独学でアニメ制作を始め、短編で注目を集めた鈴木監督にとって、本作が劇場長編デビュー作となる。

■ 映画『無名の人生』先行上映 トークイベント

映画は、生まれてから死ぬまで様々な呼称で呼ばれた主人公の100年の生涯を、監督がたった1人で1年半かけて描き上げた作品。高齢ドライバーや芸能界の闇、若年層の不詳の死、戦争など、現代社会が直面する様々な問題が背景に盛り込まれている。

鈴木監督は、作品の着想について、まず「無名の人生」というタイトルが浮かび、「名前と人生の映画を作ろう」と思ったことが始まりだと述べた。さらに、新宿・歌舞伎町のバーでのアルバイト経験から、飲み屋ネームやSNSでの匿名といった「名前」をテーマにする面白さを感じたといい、一人の男の一代記を描きたいという思いが合わさって本作が生まれたと説明した。全10章の構成は当初から決めていたという。

驚くべき制作スタイルとして、全10章と名前の話以外は、脚本や絵コンテを特に準備せずに制作をスタートしたことが明かされた。監督は、めんどくさがりな性格ゆえに手っ取り早く作りたかったことや、飽きずに続けるために思いつくまま次のカットを描き進める「ゲーム」のような感覚で制作を進めたと語った。また、制作中に経験した個人的な別れにより、当初の死で終わる結末を変更し、途中から「長寿」がテーマとなり、そこからラストが変更されたと述べた。観客を飽きさせない工夫として、章ごとにタッチ、色彩、画角、さらには尺も意図的に変えたという。

本作でプロデューサーを務めた岩井澤健治氏は、鈴木監督の短編作品を映画祭で見て以来、その構成で見せる力や、アニメーションでありながら「止め絵」で見せるうまさに感銘を受けていたと語った。監督との最初の出会いは、岩井澤氏が主催したトークイベントに鈴木監督をゲストとして招いた時で、それが本作の制作直前だったという。鈴木監督からキャスティングなどの相談を受け、制作途中の音の入っていない70分ほどの映像を見た際に、その面白さと長編作品としての強度を感じ、「劇場で公開できるものになる」と確信し、プロデューサーとして参加することを決めたと経緯を説明した。

プロデュースにあたっては、内容にはほとんど関与せず、鈴木監督の作りたいものを形にするサポートに徹し、主に音回りやキャスティングで協力したという。特に劇場公開に向けて音響のクオリティアップに注力し、自身の監督作『音楽』などの経験から音響の重要性を感じていたと述べた。アフレコにも毎回参加し、自身の次回作『ひゃくえむ。』のアフレコを控えていたことから、監督が粘って演出する様子を見て、プロデューサーとしてだけでなく「勉強になった」と率直に語った。岩井澤氏は、面白いと思った作品が世に出る手助けをしたいという思いでプロデュースを引き受けたという。

イベントでは、より作品を深く知るための100ページに及ぶパンフレットや、監督デザインのTシャツなどのグッズ販売も告知された。

最後に鈴木監督は、観客に感想をSNSなどで広めてほしいと呼びかけた。映画『無名の人生』は5月16日より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開される。



映画『無名の人生』

作品概要
 人は生まれてから死ぬまでに、あだ名や続柄、芸名や源氏名に、蔑称まで、いくつかの呼称を持ちながら、それぞれの人生を送っているーーー『無名の人生』は、全10章にそれぞれ主人公の「別名」を冠し、 「誰にも本当の名前を呼ばれることの無かった男」の波乱に満ちた100年の生涯を描く壮大な長編アニメーションだ。

 仙台の団地でひっそりと暮らす、いじめられっ子の主人公。やがて彼は、ある転校生との出会いから父親の背中を追ってアイドルを夢見るように。そこから図らずも成り上がっていく主人公の美しくも悲哀に満ちた人生が、高齢ドライバーや芸能界の闇、若年層の不詳の死、戦争など、今まさに我々が直面する数々の問題を背景に描かれていく。「本当の名前を呼ばれることの無かった男」が最後に直面する、誰も見たことのない景色とはーーー。

 脚本をあえて準備せず、章ごとにタッチや色彩を変化させ、観る者を飽きさせない変幻自在なアニメーションを生み出したのは、短編作品がぴあフィルムフェスティバル、下北沢映画祭ほか国内の映画祭を席巻した新鋭・鈴木竜也。たった一人で監督・原案・作画監督・美術監督・撮影監督・色彩設計・キャラクターデザイン・音楽・編集を兼任し、満を持しての長編アニメーション監督デビューを果たす。そして、声の出演は、監督たっての希望で抜擢された孤高のラッパー、ACE COOL。少ない台詞ながらも主人公の心の揺らぎと悲哀を繊細に表現した。そのほか、監督の孤高の映画作りと、唯一無二の作風に共鳴したキャストが集結。長編アニメーションの新たな傑作がここに誕生した。

監督・原案・作画監督・美術監督・撮影監督・色彩設計・キャラクターデザイン・音楽・編集:鈴木竜也

声の出演:
ACE COOL 
田中偉登 宇野祥平
猫背椿 鄭玲美 鎌滝恵利 西野諒太郎(シンクロニシティ)
中島歩 毎熊克哉 大橋未歩 津田寛治

プロデューサー:岩井澤健治(『音楽』『ひゃくえむ。』)
配給:ロックンロール・マウンテン 配給協力:インターフィルム 
2024年/日本/カラー/93分/2.35:1/5.1ch /DCP  ©鈴木竜也

5月16日より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開

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