安楽涼監督にとって初のドキュメンタリー作品となる映画『ライフテープ』。親友である隆一(RYUICHI)とその家族の日常を、適度な距離感を保ちながら記録した本作は、難病という過酷な現実と向き合いながらも、愛とユーモアに溢れたポップな日常を描き出しています。今回、幼馴染である隆一さんから「家族を撮ってほしい」と依頼された時の心境や、撮影時の葛藤、「カメラの後ろで泣かない」というルールの真意、そして再編集に至るプロデューサー陣とのやり取りまで、安楽監督に余すところなく語っていただきました。

- 1. ■ 映画『ライフテープ』安楽涼監督インタビュー
- 1-1. ▼1:珀久くんの名前の由来と、ご家族の思い
- 1-2. ▼2: 幼馴染としての関係性と、隆一さんへの憧れ
- 1-3. ▼3: 「家族を撮ってほしい」という依頼と映画監督としての決意
- 1-4. ▼4:カメラの後ろで泣かないためのルールと杉田協士監督の言葉
- 1-5. ▼5:世界に向けて発信したいという彼らの勇気と希望
- 1-6. ▼6:「カメラの暴力性」とドキュメンタリーを撮る覚悟
- 1-7. ▼7:対象と個人として向き合うための「抱っこしない」という決断
- 1-8. ▼8:撮影のタイミングと、日常を断片的に捉えないこと
- 1-9. ▼9:最も苦しかった時期を語る、朱香さんの日記の朗読シーン
- 1-10. ▼10:バージョン42まで及んだ編集と、プロデューサー陣との対話
- 1-11. ▼11:映画を通じて深まった隆一さんとの絆とこれからの期待
- 1-12. ▼12:タイトル『ライフテープ』に込められた思いとカタカナ表記の理由
- 1-13. ▼13:観客へのメッセージ「気楽な気持ちで観に来てほしい」
■ 映画『ライフテープ』安楽涼監督インタビュー
▼1:珀久くんの名前の由来と、ご家族の思い
ー: 本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、映画の被写体である珀久(はく)くんの名前の由来について、ご家族から聞いていらっしゃいますか。
安楽涼監督:漢字の由来についてははっきりとは聞いていないのですが、夫婦で話し合って「この漢字を使いたい」と決めたということは聞いています。
ふたりで話して決めたという話は、撮影の前に聞いています。
▼2: 幼馴染としての関係性と、隆一さんへの憧れ
ー:安楽監督の作品には幼馴染の方々がよく登場されますが、今回カメラを向けた隆一さんと、よくご一緒されているDEGさんとでは、安楽監督にとってどのような違いがあるのでしょうか。
安楽涼監督:DEGは「連れ」という感じで対等なんですよ。お互いが変な意味で意識せず、彼が音楽をやっていて僕が映画をやっていることに対して嫉妬も何もなく、はっきりと応援し合っている感覚があります。一方で隆一は、昔はずっと憧れがあったんです。ダンスなどを僕らより先に外に向けてやっていましたし、人と群れずに一人で突っ走るタイプでした。僕らに相談しなくても決断が早いんですよね。そういう強さがあって、これまでの作品では僕が無理やりお願いして出てもらっていたようなところがありました。今はDEGと接するように対等な感覚になっていますが、映画を撮り始めた頃までは憧れが強かったです。
ー:隆一さんの今の活動名の“RYUFO“という名前は、中学生の時に路地で銅色のUFOを見たからだとか。エレクトロユニット「OOPARTZ」といった名前も、雑誌「ムー」が扱うような。UFOや未確認生物、超常現象に興味があるのかと思っていました。
▼3: 「家族を撮ってほしい」という依頼と映画監督としての決意
ー:そんな隆一さんから「家族を撮ってほしい」と依頼された時、何を残せるのか、どう応えるかなど、どのようなことを考えられたのでしょうか。
安楽涼監督:撮ってほしいと言われて、結構即答で「やる」と言ったんです。僕らは友達としてずっと一緒にいるから、彼らがどんな状況であっても、一緒にいる方法が僕にとっては映画を撮ることだったんです。ドキュメンタリー映画を自分が作れるのかという不安はありましたし、病気の話を聞いてからどうやって映画にするかはずっと悩んでいました。でも、彼らが「俺たちは幸せだ」とはっきり言ってくれたことが大きかったです。その言葉は強がって言っているわけではなく本当だと思ったので、友達として彼らの行動に応えるために、映画を作るしかないと決意しました。
▼4:カメラの後ろで泣かないためのルールと杉田協士監督の言葉
ー: 撮影にあたり、「カメラの後ろで泣かない」などご自身でルールを決められていたそうですが、なぜそのようなルールを設けたのでしょうか。
安楽涼監督: 彼らの素晴らしい生活を面白い映画にするためには、友達として一緒にいること以上の力が僕には必要だと思ったんです。自分は友達だからこそ親身になりすぎる部分があるので、カメラという距離に加えて、もう一つ距離を置く必要がありました。一人で撮っていて孤独で不安だった時に、杉田協士監督が言っていた「カメラの後ろで泣かない。監督としての冷静な判断を失うから」という言葉を思い出して、それを心の指針にしました。感情を押し殺して、隆一と朱香ちゃんと珀久を一人ひとりちゃんと見るためのルールでした。

▼5:世界に向けて発信したいという彼らの勇気と希望
ー: 隆一さんたちは、自分たちの生活を外に発信したいという思いを持っていたのでしょうか。
安楽涼監督:西葛西の真っ暗な土手で初めて話した時に、世界に向けて発信したいと言っていました。いろんなイメージを持たれるかもしれないけれど、自分たちは幸せに生きていて、珀久が自分たちの元に生まれたことには意味があるんだと。自分たちが幸せに生きていることが誰かの希望になると信じているんだと思います。彼らは珀久のパワーを一番信じていますから。その勇気ある行動に対して、僕は映画にすることで応えたいと思いました。
▼6:「カメラの暴力性」とドキュメンタリーを撮る覚悟
ー: ご自宅での注射のシーンなど、撮影中に「カメラの暴力性」を感じた瞬間があったと伺いました。安楽監督にとって、カメラの暴力性とはどのようなものだとお考えですか。
安楽涼監督: カメラを向けること自体、相手が撮られたくないと思っていたらそれはもう暴力になり得ると思うんです。ドキュメンタリー映画は、人の人生を勝手に編集して物語をつける危険性も孕んでいます。だからこそ、「撮ってやる」という感覚ではなく、「撮らせてもらいながら撮っている」という意識が絶対に必要です。意思疎通や信頼関係がない限りは成立しないと痛感しました。この映画を作ってから、僕自身もカメラを向けることに敏感になってしまい、今は家族や親しい友人にしかカメラを向けられなくなってしまったほどです。
▼7:対象と個人として向き合うための「抱っこしない」という決断
ー: 珀久くんを「抱っこしない」と決めていたというエピソードも印象的ですが、その裏にはどのような思いがあったのでしょうか。
安楽涼監督: 隆一や朱香さんを抱きしめないのと同じように、珀久とも一人ひとりの人間としてきちんと向き合いたかったんです。珀久を抱っこしてしまうと「手伝う理由」ができてしまい、彼らの生活に介入することになってしまう。彼らからは「3人の生活を撮ってほしい」と頼まれているので、手伝うのではなく、尊敬の念を込めて距離を置くために、撮影が終わるまでは抱っこしないと決めていました。
▼8:撮影のタイミングと、日常を断片的に捉えないこと
ー:撮影はどのようなタイミングで行われていたのでしょうか。何かイベントがある時に撮りに行くような形だったのですか。
安楽涼監督:月に2、3回、隆一の仕事が休みの日に行っていました。家族3人で過ごしている姿を撮るのが目的だったので、手術などの予定が入るまでは特別なイベントを決めていたわけではありません。最初は撮り逃したくなくてずっとカメラを回していましたが、後半は回すタイミングを考えるようになりました。仮に何かを撮り逃したと思っても、その後の彼らの生活は続いているわけですから、断片的に考えすぎないように、心に余裕を持つようになりました。

▼9:最も苦しかった時期を語る、朱香さんの日記の朗読シーン
ー:映画の中で、朱香さんが最も苦しんでいた時期の日記が読み上げられるシーンは非常に印象的でした。あのシーンはどのようにして生まれたのでしょうか。
安楽涼監督:基本的には深いことを聞かないスタンスだったのですが、あの日は朱香さんの様子がいつもと違っていて、思わず自宅での注射のことなどを聞いてしまったんです。そうしたら、今まで聞いたことのない辛かった過去の話をしてくれて。いつかこういう瞬間が来るかもしれないとは思っていましたが、突然始まったのでカメラを三脚に置いて話を聞いていました。でも、朱香さんが日記を取りに行き、隆一が読み始めた時に空気が一変して、彼が見たことのない表情になったんです。友達として心が揺さぶられ泣きそうになりましたが、「俺は映画を撮ってるんだ、この瞬間をカメラで捉えられるのは俺しかいない」と必死に頭をフル回転させて撮影しました。彼らが自分たちの思いを打ち明けてくれた瞬間だったので、編集して完成後にはまず彼らに見せて、公開を喜んでくれたからこそ今の形になっています。
▼10:バージョン42まで及んだ編集と、プロデューサー陣との対話
ー:編集はバージョン42まで及んだと伺いました。また、大島新さんや前田亜紀さんといったプロデューサー陣からの再編集の提案には、どのように折り合いをつけたのでしょうか。
安楽涼監督:編集する時は毎回全編を通しで見ないとダメだったんです。少しでもシーンを足したり引いたりすると、視線がずれてしまって、彼らの魅力が伝わらなくなる感覚があって。プロデューサーのお二人は、僕が感覚として整理できるまで何ヶ月もかけて丁寧に話し合いの時間を設けてくれました。最終的に、会議で普段あまり喋らない配給・東風の早坂さんが「2人の関係性を知って面白くなったから情報が欲しい」と言ってくれたことが心に響いたんです。それで杉田監督にも電話で相談して、西葛西で会うシーンなどを追加することに納得できました。今見返すと、やはり必要なシーンだったと思っています。
▼11:映画を通じて深まった隆一さんとの絆とこれからの期待
ー:この映画の制作を経て、隆一さんとの関係性に変化はありましたか。
安楽涼監督:今が一番、お互いを理解し合えている気がします。これまでの作品では僕の一方的な思いが強かったですが、今回はお互いに向き合ってちゃんと映画を作れました。一番気楽に話せる関係になりました。ただ、彼には勝手に売れて僕を置いていってほしいという気持ちもまだあって、「ともだちなんだよ」と自慢げに語らせてほしいなと思っています。
▼12:タイトル『ライフテープ』に込められた思いとカタカナ表記の理由
ー:映画のタイトル『ライフテープ』の由来について教えてください。ネイティブな英語の表現ではないようですね。
安楽涼監督:自分の言葉でタイトルをつけると、どうしても重くなってしまう気がして悩んでいたんです。そんな時、劇中でも使っている隆一の曲が入ったミニアルバムのタイトルが『LIFE TAPE』だったことを思い出しました。まさに彼らの日々の生活の記録そのものだったので、「これだ!」と思って言葉を借りました。英語表記にしなかったのは、彼らの生活がもっと柔らかいものだと感じたからです。ひらがなとも迷いましたが、思いつきでカタカナの『ライフテープ』にして、隆一も良いと言ってくれたので決まりました。
▼13:観客へのメッセージ「気楽な気持ちで観に来てほしい」
ー:これから映画をご覧になるお客さんに向けて、メッセージをお願いします。
安楽涼監督:彼らが真っ直ぐに愛情を向ける姿や、純粋に人を思うことに僕は感動して、それを映画にしました。病気などがきっかけで撮り始めた作品ではありますが、あまり重く捉えずに、気楽な気持ちで観に来てほしいです。「観たら面白かった」くらいの感覚で楽しんでもらえたら、それが一番嬉しいですね。

映画『ライフテープ』
大切な記録は、愛おしい記憶になる。
「かわいい~♡」もちりとした白い肌に何度も頬をすりよせる朱香。家族の未来を想い、音楽制作やダンスに取り組
くむアーティストの隆一。ふたりには珀久が生まれたばかり。3 人と猫のフィガロの暮らしには笑顔が絶えない。
珀久は、 約 12 万人にひとりという「メンケス病」 を抱えている。 銅の欠乏により様々な健康問題が生じる指定難病だ。
出産から診断までの日記には現実をなんとか受け止めようとするふたりの切実な言葉がありのままに綴られていた。
「あのときは、支えがお互いしかなかったよね」。逃げ場のない孤独と不安に向き合いつづけ、ここまで紡いできた日
常——そうして家族は、珀久の喉の切開手術という大きな決断のときを迎えようとしていた。
「たとえ短い時間だったとしても、幸せに暮らしている俺ら家族を撮ってほしい」。祈りにも似た隆一の声に対して、
親友として、作家として何ができるのか。自らに問いながら記録をつづけた本作は、これまで自身の経験を元に映画
を制作してきた安楽涼にとって初のドキュメンタリー。座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル 2025 コンペ部
門で出会った審査員の大島新が作品に惚れ込み、盟友の前田亜紀とともにプロデューサーを買って出た。
些細なのにきっと忘れられないやり取り、ふれてはじめて伝わる体温、ちいさな変化に出くわす瞬間。他愛なくてと
てつもない〈存在〉の奇蹟をいくつも積み重ねながら、映画はどこまでも軽やかに編まれていく。
人が人を想う、願いを込めて優しくまなざす。カメラを見つめ返す幼子の瞳に映るこの世界は、ちゃんときらめいて
いるだろうか。
これは、なぜだか誰かと生きずにはいられない私たちに手渡された、とびきり大切な“ライフテープ”。
■クレジット:
出演:隆一 朱香 珀久 フィガロ
監督・撮影・編集:安楽涼 プロデューサー:大島新 前田亜紀
音楽:RYUICHI(EP「LIFE TAPE」より)
製作:すねかじり STUDIO 制作協力:ネツゲン 配給:東風 2025 年|101 分|日本|DCP|ドキュメンタリー
(C)『ライフテープ』製作委員会
■WEB:https://lifetapefilm.jp/
3 月 28 日(土) [東京]ユーロスペースほか全国順次公開
4 月 3 日(金)[京都]京都シネマ
4 月 4 日(土)[大阪]第七藝術劇場、[神奈川]横浜シネマリンほか全国順次公開

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