映画『浮かぶ』高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」にて上映。見ること・見られること、撮ること・撮られること。

映画『浮かぶ』高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」にて上映。見ること・見られること、撮ること・撮られること。

3月23日(土)、映画『浮かぶ』が、高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」セレクションにて、シネマテーク高崎で上映。諏訪珠理(進 役)と吉田奈津美監督、サプライズで、結衣(演・田中なつ)と佳世(演・芋生悠)の母親役の三坂知絵子が登壇。5年前に撮影された本作を振り返った。

左から)吉田奈津美監督、諏訪珠理、三坂知絵子

■ 映画『浮かぶ』

天狗の神隠しがあるという大きな森に囲まれていた町。結衣は、最後に残る林の伐採の決定をきっかけに、11年前の年子の妹・佳世の神隠しを思い出す。あの日、自分も一緒にいたのに選ばれなかった…。結衣は、誘われるように伐採前の林へと足を踏み入れていく。

©2021 MOEWE

▼舞台挨拶

吉田奈津美監督
本日は雪が降る中、高崎で『浮かぶ』を観てくださってありがとうございます。高崎映画祭で上映していただきありがとうございます。



諏訪珠理
本日は本当に寒い中ありがとうございます。進役の諏訪珠理です。本当にこの映画を、まずは高崎映画祭で、流していただけるということで、この機会をいただけて本当に嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします。


▼撮影は何年前

-この作品を撮られたのは何年ぐらい前なんでしょうか?

吉田奈津美監督
『浮かぶ』の撮影は、実は2019年の3月に主に撮影をしているので…

諏訪珠理
ちょうど5年前…


吉田奈津美監督
です。

▼映画の企画・着想は?

-この映画の企画・着想は?

吉田奈津美監督
まず『浮かぶ』の始まりなのですが、実は『浮かぶ』が私の初めての長編作品なんです。『浮かぶ』は大学4年生のときに撮ったんですけど、その一年前の大学3年生のときに早稲田の実習で短編を撮らせていただきました。
ずっと長編作品に挑戦したいと考えていたので、その次のタイミングとして考えていた企画でした。着想としては、このポスターにも書いてある通り、「見ること見られること」っていうのをテーマに、映画を作りたいと思っていて、映画の中にもいろいろちりばめています。
“見られる”っていうことを仕事にしていこうとする佳世と、それを取り巻く姉と幼なじみの物語を作りたいというふうに考えました。

©2021 MOEWE


▼どれくらの時間をかけて?

ー企画、脚本にどれくらいのお時間がかかったのでしょうか

吉田奈津美監督
企画自体を練っている時間は半年ぐらいあったんですけど、脚本は2ヶ月ぐらいで書き上げました。

-大学生のときに企画されて、大学生のときに
脚本を書いて撮影までされたということでしょうか?

吉田奈津美監督
そうですね。大学4年生のときに、卒業制作的に仲間を集めて自主制作したんですけど、実は撮り終わらなかった部分もありまして、社会人になった後も休日にみんなで集まって撮影をしたりしていました。


▼キャスティングについて

-キャスティングの際、脚本を書いていらっしゃるときから、田中なつさん演じる結衣と芋生悠さん演じる佳世、そして諏訪さん演じる進、この3人が軸ですけれども、イメージされていたのか?それとも書いてから、この方がいいなとか、どのような感じでしたか?

吉田奈津美監督
キャスティングに関しては、『浮かぶ』が撮影の直前までのプロットっでかなり練っていたので、脚本になる前に諏訪さんだったり、お三方にはもうお声がけはしてました。なのでその3人をイメージしながら脚本に落としていく作業するっていう形で作りました。

-プロットの段階で、諏訪さんには、「こういう役をやっていただきたい」といったお話をされていたのでしょうか?


諏訪珠理
リハーサルみたいなものも、実際にお芝居をするっていうよりかは、撮影の前に打ち合わせをしたんですけど、「この場面のときに進ならどう感じるのか」といったことを打ち合わせる感じで、実際のシーンができていったのはその後でした。脚本はそんな感じでした。

-脚本の前からいろいろ考えて、監督からコミュニケーション的なことをされていたのでしょうか?

諏訪珠理
されていたんですか?

吉田奈津美監督
諏訪さんのキャスティングの背景としては、まずこの映画のお姉ちゃんの主人公の田中さんがまず結衣役で決まっていて、それはもう完全に当て書きで田中さんが『アイスと雨音』という作品に出演されていたときに、「彼女で絶対に映画を撮りたい!」と思って当て書きでした。
その次に決まったのが諏訪さんで、それは芋生さんがこの脚本を読んだときに、「進役にすごく合っていて、吉田とも相性がいいと思うこの俳優さんがいる」っていうので紹介してくださって、2人で一緒にキャスティング前に話す機会があったんですけど、そのときからもう「カメラで写真を撮ることってこういうことだと思うよ」といった、進寄りの話を2人でしていた記憶があります。

▼監督の視点は進?

-監督は以前、監督の視点をどなたかに投影されるとしたら進むだという話をされていましたが、
そのことについてはいかがでしょうか?

吉田奈津美監督
この3人のメインの中で誰が自分に近いかと言われるとやっぱり一番進だなっていうふうに思っています。この映画を作ろうと思ったきっかけも、何か自分自身が周りで俳優だったり、モデルさんの仕事をしている友人のことをカメラで撮ることにすごく罪悪感を感じてしまう時期がありました。
「それって何でなんだろう…」って思ったときに、自分の中にある相手に対しての、「この人は見られることを仕事にしている人だから、自分が撮ることで消費してしまうんじゃないか」とか、すごく
葛藤があって、それがこの『浮かぶ』に繋がっています。それが完全に進の思考だったので、
今日、諏訪さんの横で『浮かぶ』を観て、進が主人公くらいの映画でもあるなと思ったりもしました。

-諏訪さん的には、いま、吉田監督がおっしゃられた“見る/見られる”については、当時はどういうお考えでしたか?

諏訪珠理
当時、写真については個人的にいろいろ思うことがありました。父親が写真家で、撮ることとか、撮られることもそうですけど、当時一番考えていたのは、日常生活でも見てるし、見られてるじゃないですか。そういうとき、ふとした瞬間に、「なんか珠理くんは優しい人だよね」と言われる言葉が苦しくなっていた時期でした。

“優しい人”って言われると、「優しくなきゃいけないんじゃないか」みたいな考えがあって、その人には優しい人に写っている・優しい人って見られているから、そういう人だって見られ続けなきゃいけないんじゃないかみたいな。だから、相手にそういう言葉をかけるのは、「俺はそこはどうなんだろう…」といったことをぐちゃぐちゃと考えていた時期でした。


吉田奈津美監督
諏訪さんは当時19歳で…諏訪すごくいろいろなことを考えていて、撮る・撮られるとか、見る・見られるということって今日観ていて、僕もそういう仕事をしていますが、答えは出ないことだし、考え続けることなんだろうなと思いました。

-吉田監督が、この映画の進に近いことを考えていらっしゃったということでしょうか。

諏訪珠理
そうですね。そういうことを感じてたし、父親も同じ感じだし。それで吉田さんと芋生ちゃんを通してあえてやれることを面白いと思ったし、すごく意義のあることだなと。当時思いながらやっていた記憶があります。

▼諏訪さんにとっての初長編作品

-諏訪さんにとって、『浮かぶ』が初長編作品だそうですね。90分の映画は初だったんですよね?

諏訪珠理
初めてでした。短編も1、2本くらいしかやったことがなくて、『浮かぶ』が初長編で、同世代と
話し合いながら、垣根なくできる現場だったので、すごく恵まれていたなと思います。

-劇場公開的には昨年、第36回高崎映画祭で最優秀新進俳優賞となった工藤梨穂監督の『裸足で鳴らしてみせろ』が、長編として先にはなるんですけれども、『浮かぶ』の方が撮影時期的には初めてだそうですね。諏訪僕の人生初めての長編映画でした。

▼3人の役どころ

-進ー進の役をはじめメインの3人の役どころに対して、すごく難しそうだと感じました。進・佳世・結衣のやり取りもそうですが、同級生とのやり取りに個人的に「とてもわかるな」という役どころでした。その自然さが素晴らしいのですが監督の演出、他の人との距離感とかそういう点はいかがでしたか?


諏訪珠理
教室のシーンは進・僕のはじめての撮影日で、僕自身経験もないですし、訳がわかってなかったんです。だから吉田監督と一緒に作った部分はすごく大きいんですけど、今日観ていて思ったのは、「時を経たら、こういうのって分かるな」って思うような感情も、その当時に現場にいるときはわかるななんて思えていないし、もういっぱいいっぱいでしたから、進を理解して、できていたってよりかは、ぶつけるしかなくて、ああいう結果になったっていう方が、僕的には合っていて、意識的にできない時期にできたから、良かったのかなっていうのはあります。

-吉田マジック的なことは、発生しなかったんですか?それともそれが吉田マジックですか?

吉田奈津美監督
諏訪さん自身という人間が、目の前で起こってるものに対してしっかりそれを受け取ってお芝居をされる方だったので、今の質問に対してお返しすると、いつも進の前には友達役の人たちがお芝居をしてもらうようにはしていて、それに対してすごく敏感に反応してお芝居をしていただいていたので、教室の写真を初めて撮るシーンも、友達を道路を挟んで撮るシーンも、意外とその対岸にいる子たちの動きだったり表情に機敏にというか反応してくださった結果があの芝居に繋がっているのかなと思います。

▼撮影の話

-引きの絵とか、実際の距離とか、鏡とか、
初めて観たときはスクリーンで映すことを意識している感じがしたのですが、監督に狙いはありましたか?

吉田奈津美監督
ずっと考えていたことで、実は今日高崎にさせていただくっていうことで、自分でパソコンでももう1回『浮かぶ』を見てたんですけど、「なにかこのカットの繋ぎ方に違和感があるな…」とか、タイミングが変な気がしていて、今日スクリーンで観たときに、「そうだ!」と思いました。この映画はスクリーンで観るために作ったものだから、カットのタイミングとかも実はそのスクリーンを借りて細かいところの調整とか見え方とかしていて、なのでスクリーンで観せることは撮影のときからみんなで決めて動いていました。

▼まとめ・メッセージ

吉田奈津美監督
『浮かぶ』で姉妹のお母さん役を演じてくださった三坂知絵子さんが駆けつけてくださったので、一言ご挨拶をいただきます。

三坂知絵子
結衣と佳世のお母さん役を演じております、三坂知絵子です。本日ありがとうございました。


諏訪珠理
5年前に撮ったものが、こうして皆さんと一緒に劇場で観ていただけて、僕も見れてすごく幸せですし、
見る/見られる、撮る/撮られるっていうのは、僕自身が多分人生でずっと考えていくことなのかなって今日見ながら思っていて、それでもこの『浮かぶ』に僕がうつれたことっていうのはすごく人生において、特別で幸せなことだったなと思います。本当に本日はありがとうございました。

吉田奈津美監督
本当に嬉しくてずっとテンパってしまったんですけど、諏訪さんと2人でこうやって上映後に登録することってなかなか機会がなくて、あまりお芝居の経験というか作品数も多くなかった諏訪さんと、諏訪さんに進を演じてもらいたいと思った5年前の気持ちっていうのは、本当にこの人と一緒に映画を作りたいっていう人柄…
この人と一緒に物を作りたいって思ったことがきっかけで、それを今日こうして高崎のスクリーンで皆さんと一緒に観て、どういうふうに皆さんの眼に『浮かぶ』が映ったのかまだわからないんですけど、でも諏訪さんの演じる進を見て、この人と一緒に作品を作れて本当によかったなと思いましたし、それを皆さんにこうやって届けることができてよかったなという感じました。
今日は来てくださって本当にありがとうございます。



高崎映画祭にて、3/25(月)にも上映あり。
場所 シネマテークたかさき

上映:16:40〜18:05
吉田奈津美監督の舞台挨拶付き


映画『浮かぶ』

2021年製作/85分/日本
配給:MOEWE

監督・脚本・編集:吉田奈津美
出演:田中なつ、芋生悠、諏訪珠理

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