映画監督の杉田協士による最新長編映画『十月のうた』が、2026年11月20日より開催される第27回東京フィルメックスのコンペティション部門に正式出品されることが決定した。本作は、『春原さんのうた』や『彼方のうた』で国際的評価を受けた杉田監督が、教員を務める京都芸術大学の学生や卒業生、撮影技師の鈴木一博らと共に全編京都ロケで完成させた作品だ。主演を務める俳優の早織が、大切な人を失った後も続いていく人生に向き合う主人公の姿を演じ、残された者の心の機微を静かに描き出している。

■ 映画『十月のうた』
台湾華語のテープが紡ぐ記憶と出会い 京都を舞台にした物語
本作は、大切な人を失った後も続いていく人生に、残された者がどのように向き合うかを主題に据えたドラマである。物語の主人公は、東京での生活を離れ、生まれ育った京都で再び暮らし始めていた写真家の桃子だ。彼女は馴染みのカフェでたまたま居合わせた大学生たちから卒業制作映画への出演を依頼され、かつて一緒に暮らした台湾人のパートナーが残したカセットテープの音声を翻訳してもらうことを条件に引き受けることとなる。
留学生たちの手によってテープに録音されていた台湾華語の詩が明らかにされていく中、桃子は映画撮影を通じた父親・いっぱくとの再会や、電車で偶然乗り合わせた旅行中の詩織との出会いを経験する。これらの出来事を重ねる中で、桃子は自身の手元に残された記憶や心の内にある喪失に対し、改めて向き合い直していく。主人公の桃子役を京都出身の俳優である早織が務め、父親のいっぱく役を鈴木一博、旅行者の詩織役を村上由規乃がそれぞれ演じている。
大学の留学生や撮影技師と共に創出 独自のアプローチで挑む撮影現場
監督を務める杉田協士は、これまでにも第32回マルセイユ国際映画祭でグランプリを含む3冠に輝いた『春原さんのうた』や、第80回ヴェネチア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門に出品された『彼方のうた』などを手掛け、高い評価を獲得してきた。2024年からは京都芸術大学映画学科で教員も務めており、本作では自身が教壇に立つ同大学のアジア各国からの留学生を含む学生たちや、同校卒業生で俳優の村上由規乃、同僚教員であり撮影技師の鈴木一博らと一丸となって制作を進めた。
撮影は2025年10月、杉田監督が日常を過ごす京都の左京区を中心として、全編京都ロケで敢行された。東京を拠点とした映画を作り続けてきた杉田監督にとって新たな一歩となる本作は、大学のキャンパスで交わされる多様な言語や文化的な背景、地域との深いつながりの中で培われた表現が色濃く反映された作品となっている。
「心奥に降り立つ経験」 監督と主演の早織が込めた思い
今回の正式出品決定に際し、杉田監督と主演の早織からコメントが寄せられた。杉田監督は、撮影期間中に「今これは何を撮っているのだろうと自問しながら、目の前で起きる出来事に胸打たれていた」と当時の撮影を述懐した。さらに、主演を務めた早織の歴史や京都という街との関わりに思いを巡らせて作った映画であることを明かし、過去に数々の貴重な作品と出会ってきた東京フィルメックスへの参加に対して深い感謝の意を表明している。
一方、主演の早織は、準備から撮影に至るプロセスを通じ「言葉にはできなかった自身の心奥に降り立つことになった」と述べている。また、通常の俳優としてのコントロールを超えて、思いや人生、目に見えないけれど確実に存在するものが映画に刻まれたと振り返り、作品に対する強い思いを覗かせた。



11月20日より開催 映画祭会場で初上映と舞台挨拶も予定
第27回東京フィルメックスは、2026年11月20日から11月29日までの10日間にわたり、有楽町朝日ホール、丸の内ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町の各会場で開催される。『十月のうた』の選出発表に伴い、映画祭版のビジュアルや特報映像、およびスチール写真も初めて解禁された。映画祭期間中の詳しい上映スケジュールや舞台挨拶に登壇するゲストの最新情報については、東京フィルメックスの公式サイトにて順次案内される予定だ。
▼コメント
【コメント】
私が教員を務める京都芸術大学映画学科では、たとえば上海からの留学生と台北からの留学生が、お互いの言葉のイントネーションを真似して、仲良く笑い合っている光景を目にすることができます。映画学科のあるキャンパスの入口には、戦時中に治安維持法への違反に問われて獄死した韓国の詩人・尹東柱の詩碑が建っていて、いつも誰かが花を供えています。これは2025年の10月に、私が日常を過ごしている、京都の左京区で生まれた映画です。そして何より、この街で育った主演の早織さんの歴史と、語りきれないこの街との関わりを思いながら作った映画です。私は毎日、今これは何を撮っているのだろうと自問しながら、目の前で起きる出来事に胸打たれていました。学生のときに見て、いまでも忘れがたい台湾のホウ・シャオシェン監督の『ミレニアム・マンボ』、中国のジャ・ジャンクー監督の『プラットホーム』、日本の篠崎誠監督の『忘れられぬ人々』(撮影は今作と同じく鈴木一博さん)など、数多くの大切な映画に出会えた東京フィルメックスに、この作品とともに参加できることに、心から感謝しています。
――杉田協士(脚本・監督)
わたしは、嬉しい、楽しい、幸せや喜びを強く感じるほど、今と同じ時間がやってくることは二度とないと先取りして思い、哀しくなってしまうことがしばしばあります。なぜこのような気質なのか。『十月のうた』の準備から撮影を通して、期せずして言葉にはできなかった自身の心奥に降り立つことになり、また、通常の俳優としてのコントロールを超えて、思いや人生、見えないけれど在るものが映画に刻まれました。ありがとうございます。
――早織(主人公・桃子役)
映画『十月のうた』
<あらすじ>
ある日、写真家の桃子(37)がカフェで昼食を食べていると、大学で映画制作を学ぶ学生から、卒業制作作品への出演を依頼される。撮影当日、彼女の前に現れた父親役の人物は、長い間会っていなかった彼女の本当の父親・いっぱく(65)だった。
早織
鈴木一博
村上由規乃
脚本・監督:杉田協士
プロデューサー:杉田協士 槻舘南菜子|撮影:鈴木一博
ヘアメイク:松村妙子|衣裳:早織|編集:大川景子|整音:松野泉
カラーグレーディング:田巻源太|音楽:SKANK /スカンク
2026年/日本/80分/カラー/1.85:1/ 5.1ch
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