読書体験の映画『たまらん坂』初日舞台挨拶。主演・渡邊雛子の4年間が86分に凝縮

読書体験の映画『たまらん坂』初日舞台挨拶。主演・渡邊雛子の4年間が86分に凝縮

3月19日、新宿K’s cinemaにて、映画『たまらん坂』が上映初日をむかえた。初日舞台挨拶には、主演の渡邊雛子、小沢まゆ、小谷忠典監督に加え、原作小説の黒井千次氏が登壇。本作参加の経緯や撮影時のエピソードを語った。

たまらん坂
左から)小谷忠典監督、黒井千次、渡邊雛子、小沢まゆ

■映画『たまらん坂』初日舞台挨拶レポート

▼ごあいさつ

渡邊雛子
本日はご来場いただきありがとうございます。
緊張と感無量というか、次の言葉が出てこないのですが、たくさんの方にこれから観ていただけるように、公開に至ったんだと思うととても嬉しいです。ありがとうございます。

たまらん坂
渡邊雛子(山下ひな子役)

小沢まゆ
今日は貴重なお時間をいただきまして、こうしてたくさんの方に足をお運びいただきましたこと、とても嬉しく思っております。短い時間ですけれどもどうぞ楽しんでいってください。よろしくお願いします。

たまらん坂
小沢まゆ(みずき役)

小谷忠典監督
本作の監督を務めました、小谷忠典と申します。よろしくお願いします。
この作品は製作期間が4年間で、公開までにいろいろありまして3年もかかってしまって、計7年かかった作品です。本当に今日この日を迎えられることができたことをとても嬉しく思います。皆さんありがとうございます。

たまらん坂
小谷忠典監督

▼撮影時の思い出 ~間違えて授業に~

-この作品は武蔵野大学で製作された作品なんですけれども、大学の1回生のときに渡邊雛子さんが参加されて、そのまま学生時代をこの作品を通して過ごされたというふうにお聞きしているんですが、その辺り、最初どういった経緯で出演されたのかということと、撮影のときの思い出がありましたら、お聞かせいただけますか。

渡邊雛子
そうですね。大学1年生の時に黒井千次先生の『たまらん坂』という小説を映像化するという授業がありました。すごい面白そうだなと思って参加したのがきっかけでした。最初はスタッフとして、カメラをちょっと触ってみたいなみたいといった感じで入ったんです。
最初は人を出さないものにするという話でした。

小谷忠典監督
最初は間違えて授業に来られたんですよね。

渡邊雛子
間違えてというか。

小谷忠典監督
映画監督がやる授業というのがウリの授業だったんです。
この時、「何であなたはこの授業を受けたんですか?」って聞いたら、「黒井千次先生に会えると思ってきました」って答えられて、僕はがっかりしました。

渡邊雛子
そうです。その節は失礼しました。

▼撮影時の思い出 ~4年間ずっと同じ髪型で過ごすことに~

小谷忠典監督
渡邊雛子さんは、1年生から4年生までの時間が86分に凝縮されて写ってるんですけども、
意外と観てみると、そういう時間がわからないというか繋げてみて不思議だなと思っていました。

渡邊雛子
みずきさんに会いに行くまでの日数は、作品の中では1日、2日ぐらいですか?

小谷忠典監督
一週間ぐらいですかね。渡邊さんは髪型を、4年間一切変えられなくてね。本当に失礼しました。

渡邊雛子
ずっと同じ長さでいました。切りすぎた時は失礼しました。

小谷忠典監督
一度、切りすぎたことがあったね。よく見ると短くなっている時があるよね。

渡邊雛子
でもちょうど黒井先生とお会いするところで短くなっていて、不思議な感じになっています。

▼撮影時の思い出 ~顔が映らない撮影・出演でオファー~

-小沢さんも出演された経緯や、実は途中で役どころが変わったお話もお聞かせください。

小沢まゆ
私はみずき役で出演しているんですけれども、もうひと役で出演しているのですが気づいてくださいましたか?うなずいてくださってる方はお気づきかと思いますが、小説『たまらん坂』の中の要助の妻役でも私、出演してるんです。
顔が写ってない不可思議なダンスをしたり、坂を思いっきり駆け下りているあの妻をやってるのも私なんです。もともと最初にお話をいただいたのが要助の妻役の方だけ出演のオファーをいただいていました。
「顔を写さないで撮影しますので、小沢さんかどうかもわからない感じになりますがいいですか?」って小谷監督に言われました。

小谷忠典監督
その際は失礼しました。顔を撮らないなんて失礼な話ですよね。

小沢まゆ
とんでもないです。その感じが面白いなと思いました。俳優として顔を映らずにどうやってこの妻を表現しようかと思って、試行錯誤したのもすごくいい思い出です。
その後に「みずき役を、登場させたいのでそちらでも出演していただけないですか?」ということで、ようやく顔が映る役で出演することができました。

▼撮影時の思い出 ~二人で泣いたこと~

-渡邊さんは小沢さんと現場で交流された話はありますか。

渡邊雛子
そうですね。小沢さんが踊ってるシーンには私はスタッフとしてその場にいました。小沢さんがみずきさんとして出ていただくことになった時には、「ここはどういう感情とか、ここはどんな話をしているのかな」といったことを一緒にやりとりしてつくっていきました。
川沿いの道を2人で歩きながら、撮っている時も撮っていない時もずっといろんなことを話していました。
お母さんの存在についてだとか、二人の関係がどんなものなのかとかを話しました。
私はすごくみずきさんにすり寄りたいんだけど、みずきさんの気持ちってどんななんだろうとか、そういう話をしながら泣いたのを覚えています。
カメラが回っていないときに二人で泣き始めて、それを土屋プロデューサーや小谷さんがなだめに入るという場面がありました。

たまらん坂

ー小沢さんもその辺りのお話はいかがですか?

小沢まゆ
ひな子と対峙したときのみずきの感情を実はしっかりつかめきれないところがありました。それで雛子ちゃんに助けてもらいたいなと思って、この場面では「この山下ひな子っていう人物はどんな感情でこの言葉をみずきに投げかけてきてるの?」って雛子ちゃんに問いかけてみました。
雛子ちゃんも初めての映画出演・お芝居にも関わらず、しっかりと自分の役どころを自分の中に落とし込んでいっぱい考えて、撮影に臨んでいたんです。
「私はこんなふうに思ってこのセリフを言ってます」みたいなことを言ったら、二人でボロボロ泣けてきてしまって、「そうだよね」って言って二人で泣いていたら、カメラの準備が全然できていなくて、カメラマンにも「もうちょっと待って」と言われたことがいい思い出としてあります。

▼小説・原作者「黒井千次先生」登壇

ー本日、原作者であり出演もしてくださった黒井千次先生がお越しくださっているので、ちょっと一言ご挨拶をいただこうと思います。

黒井千次先生
原作の「たまらん坂」を書きました黒井千次です。「たまらん坂」は、もう何十年も前に書いたもので、武蔵野短編集というタイトルのもとに、多摩の多摩蘭坂などの土地を取り上げて、そこに生きている人たちのドラマを連作の形式で書きたいと、七つの作品をまとめて「たまらん坂」という短編集を作ってもらいました。

たまらん坂
黒井千次先生

その一番最初が「たまらん坂」なんですけど、これは中央公論の当時出ていた「海」という文芸誌がありまして、それに載せて、以下、連作をずっと続けようと言ってたらば、連載を始めた次の号から雑誌そのものが廃刊になり、掲載場所がなくなってしまったんです。これはいいきっかけなのか悪いきっかけなのかわかんないのでちょっといろいろ考えてみようとなったんです。

今度は別の編集者が、福武書店にいった寺田博、元「文藝」という雑誌にいた編集者が、「雑誌がなくなっちゃって困っているだろうから、俺のところで書かないか」と声をかけてくださいまして、それが創刊間もない「すばる」という雑誌でした。
それに載せてもらって、以下、七篇書いて出来上がったということになります。「たまらん坂」は、
自分でもよくわかんないんですよね、どういう小説だったかというのは。
一番わからない。今でもよくわからないんです。わからないんだけど、割合と面白いなって言ってくれる人がいるんです。
それならば面白いんじゃないかなと思って、当時、武蔵野女子大の土屋先生という文学部の教授、その頃まだ助教授から「面白いから映画にしたいという考えがあるんだけどどうだ?」って言われました。

それは正式に「作品として映画にする」っていうんじゃなくて、私が聞いた印象で言えば、「半ば遊びみたいな勝手なことをやってみたい」というニュアンスだったんじゃないかなと思います。

小谷忠典監督
遊びっていうよりも真剣勝負をさせていただきました。

黒井千次先生
失礼しました(笑)撮影時も武蔵野大学の客員教授でしたよね?私も客員教授で、大学の中では会ってはいないですよね。

小谷忠典監督
そうですね。僕は先生の講演会で初めてご挨拶させていただきました。

黒井千次先生
僕は映画監督というと、山田洋次さんとかそこら辺しか知りませんが、何だかタイプや、やり方が違うんで、はっきりしたことがよくわからないところがあって、それはもう作品そのものにもそういうところがあるように思いますから、そういった先生から土屋先生から言われた時に、「もし映画にしてくださるなら、大変ありがたい。ただし、原作を忠実に作品にするという風なことではなくて、原作から思い切り離れちゃって構わないから、遊ぶ感じで作ってくれたらいいんじゃないかな。一切、何も文句は言いませんから」と伝えました。
そして映画作りが始まって、そこで「映画づくりのスタッフ全員が集まる会があるから、それに出てみないか?」と土屋さんから言われて、行ったらば、渡邊さんがいらして、それで初めて皆様に会いました。

「なんであなたはこんなところにきたのか?何をモチーフとして、映画に出たいというふうに思ったのか、そのゼミに参加したのか?」と聞いたらば、「どんな人だか、作者に興味がある」と言われたんですね。「作者に興味がある」と言ったって、まだわからんことを含めて書いてるだけなんですけれども。
では渡邊さん、興味はどうだったんですか?

渡邊雛子
分からないです(笑)

小谷忠典監督
スクリーンの中で、念願叶って黒井先生とお話するシーンがあるんですよね。

黒井千次先生
そうなんです、あの時だって、実は出演するはずじゃなかったんですよ。出演するはずではあったんですけれども、「黙って多摩蘭坂を登ったり降りたりする冴えない爺さんがいる、それをやってくれないか」と言われていました。
「それならばふさわしいから、ぜひやらせてほしい。」と言って、それで雪が残っていた多摩蘭坂を冴えない格好をして来いって言われたのでそういった格好をして、何度か行ったり来たりしました。そんな撮影をして、それから、大学に行ったんです。
そうしたら、渡邊雛子さんとスタッフ全員がいらして、そこで突然「出演してください」と言われて、でも、「こんな薄汚い格好では出にくい」とか、「もうちょっとちゃんとすればちゃんとなるんだから」というつもりで行ったんですけど、“冴えなくて、歳をとっていて、しかもその土地に住んでいて、そこの歴史に興味があって、調べたり何かしてるおかしなおじいさん”というのが設定としてあったそうです。
その日に渡邊さんと初めて話をしたし、撮影もしたんですよね。

たまらん坂

小谷忠典監督
原作・小説の方で、図書館で実際にご老人の方が新聞を読んで、描写があったんですけど、黒井先生にはその役を演じてもらいました。

黒井千次先生
何だかよくわかんないまま出ちゃったもんだから全然手応えがなくて、それでも出演者の一番最後に“黒井千次”という名前まで入れていただいたので、これは原作者としてじゃなくて出演者として扱われて、大変に光栄に思っております。

小沢まゆ
そんな黒井千次先生がこのパンフレットのために書き下ろされたエッセイも掲載されている「たまらん坂のパンフレット」。皆様ぜひ映画のお供にご購入いただけると大変嬉しいです。よろしくお願いいたします。

たまらん坂

黒井千次先生
そこに、割と真面目に映画の製作について書いてますよね。

小沢まゆ
はい、格好いい文章なので是非、読んでください。

小谷忠典監督
いわゆる小説原作の映画化という作品ではなくて、観ていただいた通り、読書体験そのものを映像化してみたいという思いがありました。黒井先生からの「自由にして作っていいよ」という気持ちを受けて作ったのですが、それは皆様にどんなふうに伝わったのかとても楽しみに思っております。本日はお忙しい中ご来場いただきまして、ありがとうございました。

たまらん坂

<作品概要>

『たまらん坂』(2019/日本/モノクロ/16:9/DCP/5.1ch/86分) 

出演:渡邊雛子 古舘寛治 小沢まゆ 渡辺真起子 七里圭 黒井千次 ほか

監督:小谷忠典 脚本:土屋忍 小谷忠典 撮影:倉本光佑 小谷忠典 録音:柴田隆之 永濱まどか 

助監督:溝口道勇 老山綾乃 整音:小川武 編集:小谷忠典 脚本協力:大鋸一正

子守唄:松本佳奈 音楽:磯端伸一(ギター・磯端伸一 ピアノ・薬子尚代) 

使用楽曲:「ロックン・ロール・ショー」「多摩蘭坂」RCサクセション アニメーション:大寳ひとみ

タイトルデザイン:hase 企画・プロデューサー:土屋忍 製作:武蔵野文学館

原作:武蔵野短篇集「たまらん坂」黒井千次 宣伝デザイン:tobufune 配給・宣伝:イハフィルムズ

公式サイト:https://tamaranzaka.com/
Twitter:https://twitter.com/tamaranhill

たまらん坂

映画カテゴリの最新記事