高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」セレクション上映作品『はこぶね』大西諒監督、主演・木村知貴。

高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」セレクション上映作品『はこぶね』大西諒監督、主演・木村知貴。


日時: 2024年3月23日(土) 、シネマテークたかさきにて、映画『はこぶね』が高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」セレクション作品として上映。上映後の舞台挨拶には、主演の木村知貴、大西諒監督が登壇。撮影時のエピソードを語った。

■ 映画『はこぶね』

▼映画『はこぶね』あらすじ

とある小さな港町で生きる、視力を失った男・西村芳則。さびれても美しいこの町で、感性を失わず生きようとする西村の姿が、周囲の人々の心を振るわせていく──。

障害や介護、地方の疲弊といった厳しい現実を題材としながら、西村の知覚と感情を追うような、観賞者自身が感覚を研ぎ澄ませる独特な観賞体験が、観るものの心を惹きつける。

主人公の西村を演じるのは、多くの映画監督に愛され、数々の作品に花を添えてきた木村知貴。待望の長編主演作となる本作は、映画祭で上映されるや、その強烈な存在感と独特な佇まいがすぐさま絶賛された。

脇を固めるのは、一時帰郷し西村と再会する同級生を演じる高見こころ。西村の母が他界後に、生活の面倒を見ることになった叔母を演じる内田春菊。認知症の進む祖父を演じる外波山文明など、実力派キャストら。監督は、本作で若手作家の登竜門となる田辺・弁慶映画祭、TAMA NEW WAVEでのグランプリなど、6冠を獲得した大西諒。

ゆったりとした独特なテンポで進みながら、人々の生活と葛藤が生々しく炙り出されていく。

▼舞台挨拶

-監督から一言お願いします。

大西諒監督
『はこぶね』の脚本と監督をしました、大西諒と申します。よろしくお願いいたします。

ー木村さんお願いします。

木村知貴
西村芳則をやらせていただきました、木村知貴です。本日は朝早くからありがとうございます。

ー早速、お話を伺っていきたいと思います。この作品は大西監督の初長編ということですが、最初の企画では短編だったとうかかっています。そのあたりのお話をお願いできますでしょうか?

大西諒監督
いま観ていただいた作品の前半の30分ぐらいでバス停で同級生の2人が対話して、お互いそれぞれ去っていく…っていうところまでの短編として元々作っていて、その短編で西村役の木村さんが出ていただくことが決まったタイミングぐらいで緊急事態宣言が出ちゃって、1回目のコロナですね。
絶対撮れないというか、いつ撮れるかもわかんない状態だったっていう。

そのタイミングで木村さんの方から、「これ当然撮れないし、現状でいくと、この後の話の続きが気になるっていうのもあるから、短編でもいいんだけど長辺にしてみてはどうか?」と提案してくれたんです。そこから一緒に脚本的に途中段階も見てもらって、締め切られながらやってました。

ー今のお話は木村知貴さんはかなり企画の早いから入られていたんですね。

木村知貴
脚本は短編から長編するということで、短編の土台からちょっと長編に膨らます段階から一緒にやらせていただきまして、はい。

―そもそもなぜ最初から木村さんにあて書きの脚本だったんですか。

大西諒監督
いや、そうではなかったですね。木村さんのもちろん出演作も知っていたので、知ってはいたんですけど、初めましてって感じでオーディションに来てくださったんですよ。短編のオーディションのとき。その時にもう、明らかに西村だなっていう感じがしたので、すぐ決めました。

そうしたらいつの間にか提出する側になっちゃって。

ー木村知貴と大西さんの二人三脚で進んでたというような感じで脚本を書いたりとか、短編から若干長編にという、そういう流れという感じでよろしいですか?

大西諒監督
よろしいです(笑)

-私的なことなんですけれども、この画がからいろんなもの・感情が立ち上がってくるような素晴らしい感じ、撮影が素晴らしいなと思ったんですけれども、撮影はなにかプランがありましたか?

大西諒監督
撮影をしてくれた寺西涼という、僕が映画美学校っていう渋谷の学校に通ってたんですけど、そのときは同級生で、彼も監督をしてるんですけど、撮影でもいろいろな現場に行っていて、彼が撮る画が本当に大好きなんです。「一緒に作らせてもらえるならこういうところで撮りたい」とか、「次に撮るとしてもそうですし、あの人にこういう場を与えたらどんな画を撮ってくれるだろう」っていうのを僕自身わくわくしながら。おまかせで。

-ロケ地が真鶴等でしたが、どうやって決められたのでしょうか?

大西諒監督
場所のイメージとして、閉塞的にも見えるし、美しくも見えるしっていうところを、みんなと探していて、初めはお金がないので、東京からある程度近い地域で探して、2日間ぐらいひたすら Google マップで、港沿いを探しました。
Google マップって写真も見れるじゃないですか。なので、沿岸をひたすらこうやって、 Google マップ上で、ずっとぐるぐるしていたんですね。実際に何ヶ所か候補をあげて、真鶴って神奈川県の東京から西2時間半ぐらいから行けるとこなんですけど、そこに行ってみたら「本当にぴったりだな」ってなって、短編のときからもうそこで撮ると決めていました。

-この短編の脚本がでたときには、もう真鶴で撮ろうっていうのがあったということなんですね。

大西諒監督
そうですね。

-そこは木村さんのアイディアではないんですね。

木村知貴
僕のアイディアではないですね。最初からバス停は場所も決まっていて、何度か真鶴に直接見に行ったりして、ちょっとシナハンというか、シナリオにちょっと落とせるものがないかなみたいなこともやったりしたんで、前からありましたね。

-バス停がとてもいいですよね。木村さんどうですか、今、ちょうど監督のこの Tシャツにあるシーンだと思うんですけど、このバス停も、では最初からもう決まってらっしゃる?

木村知貴
決まってて、西村が渡っていくじゃないすか。向かい側にももう1個バス停があってっていう設定だったんですけども、なかなか最初わかりづらくて、「何のためにあそこに座ってて、あっちにどうしていくのかな?」みたいなのがあったんですけどもあっち向かい側の方には椅子がなくて、座るためにはそこに行ってちょっと移動してあっちに乗っていくみたいなことを言ってて、それがどこまで伝わるのかなと思ったりもしたんですけども、わからんでもないなっていうか、そういう感じでした。

-この映画で、木村知貴魅力全開って感じがするんですけれども、木村さんの役作り的なものとかって何かあります。

木村知貴
結構、普段駄目な男とか、チンピラみたいな感じの役が多いんですけども、今回のは結構自分の内面に近いような人物をやらせていただきまして、それで監督と一緒に白杖の使い方とかも支援センターの方とかにお話を聞いたりとか、いろいろリサーチした上でいろいろやらせていただいて、とてもやりやすかったです。はい。

-監督、この間木村さんの後ろ姿と、あと見えないはずの空を見上げてるようなシーンとかが結構印象に残っています。その辺りはもうなんか、脚本を書いてる段階から、そういう何か考えてらっしゃったんですか。それとも何か現場でそういうアイディアが出てきたのでしょうか?

大西諒監督
脚本を書いている時からですね。これを作っていくときに感じたものがあるんですけど、沈んでるとき、気持ち的に落ちていくときとか、その回復する過程で、今ある時間がめちゃめちゃ愛おしくいうってか、もう「とりあえず生きてるだけでいいや」って思えてくる瞬間みたいな、太陽の光を浴びてるだけでもちょっと幸せというか、生きてる感じがする実感があるみたいな。
飯食って、ウンコして生き太陽の光を浴びて、そういう感覚を得てるっていうのが、やりたかったことの1個でもある。

-木村さんはそのあたり何か監督と、話し合いはされたんですか。

木村知貴
「最後はバックショットで終わりたいな」みたいなことは言っていて、最後だけ僕は杖を引きずるのではなく、トントンっていうちょっとリズムを刻んで歩いてるんですけども、そこは僕があれやりたいなと、現場で思いついて、「そういう終わり方の方がいいんじゃないか」っていうことで提案をさせていただいたりしました。だけど大体はもうほぼほぼ脚本通り全部やらせていただいてます。

ー監督の演出に従ってっていうか。

大西諒監督
脚本のときからもう背中から撮りたいっていうものがありました。

-じゃぁ、イメージ通りの画が撮れて、撮影の寺西さんと擦り合わされたっていう感じですかね。

大西諒監督
そうですね。でも、ここを背中から撮りたいとかは言わずとも彼がやってくれるんで意識は一緒でした。

▼音楽について

-監督にお伺いしたいんですけれども、音楽もまた結構、印象深いですけれども、そちらのお話よろしいでしょうか?

大西諒監督
「お前は何をしたんだ?」って逆に言われてしまうんですけど、音楽も寺西涼が作ってるんです。脚本を見るのは木村知貴で撮影は寺西涼が全部やってるんですけど、「俺何やってんだ」って話なんですけど。
ただ、彼とポイントポイントでこういう音楽をつけたいっていう話をしていて、こういうところがあるから、こういうのをやってくれないかっていう形で、車のシーンとかは、バイオリンをエレキバイオリンというちょっと不安を煽るような、キャキャキャキャキャキャキャという。

-ラスト近くですよね。

大西諒監督
そうです。そういうふうなのをイメージしてるっていうのと、エレキギターをこうやって弦で弾いてくれてるやつなんですけど、そういうふうに、ポイントポイントでこんなイメージってのは擦り合わせながら、あとはおまかせしていきました。

-他に、先ほどロケ地のお話をされていましたけれども私が見た最初に見たときの感想で、すごく閉塞感があるんですけれども、いうことは、港の全景が映るのは本当に最後の最後に1回だけかなと思うんですけど、この辺とかの画作りってやっぱり意識されていましたか?

大西諒監督
そうですね、そこを本当にこだわって、擦り合わせましたよね。そういえば撮り方で。

もう狭く撮っていって、全景的に見せるのはあの部分と、あとは夢のシーンというか、始めて20分ぐらいで奥に西村が向かっていくところ、その2ヶ所ぐらいにしたいっていう話はしてました。

-そこは木村さんのアイディアではないんですね。

木村知貴
僕じゃないです。

-私的には木村さんの代表作になったなという気がするんですけれども、ご自身の手応えはいかがですか。

木村知貴
今回、俳優部だけとしてじゃなく、いろいろそういうキャスティングとかも手伝いをさせていただいたり、脚本もそうですし、演出面に関してもたまに話とかもしてて、なんか総合的に関わったので、今までの関わり方じゃない作品にはなってるんで、僕としてもすごい思い入れの深い作品になりました。

▼メッセージ

木村知貴
本日はどうもありがとうございます。この作品は大きな何かが起きるとかじゃなく。何ですかね、高級ピーナッツを騙されずにちゃんと買ってもらえるようになったっていうぐらいの話なんですけれども。

最後の、コンコンと歩いてるシーンに、僕なりに込めたものは、「生きていたら何かいろいろあるけども、明日も生きていこう」みたいな、ちょっとだけ前向きになってもらえたらいいなと思って、この作品に携わったんで、もしそういうのが伝わってたらいいなと思います。本日は本当ありがとうございました。

大西諒監督
初めて長編を撮ってみてすごく大変なこともいろいろありながら、でも映画をつくるのって楽しいなと、僕は30歳から映画を作っていったんですけど、こんなに楽しいんだっていうのは…つらいんですけどつらいけど楽しいなって思いながらやれた作品だったのでこうして本当にいろんな方に見ていただいて、めちゃくちゃ嬉しいなと思っております。

もうちょっとぐらいたったら、配信とかも始めようかなと思っているので、まだもうちょっと多くの人に見ていただけると嬉しいなと思ってたりしますので、もし可能であれば口コミというか、ツイート(ポスト)だったりしていただけると非常に嬉しいなと思ってます。本当に貴重なお時間ありがとうございました。

■ 大西諒監督 ~高崎映画祭参加を受けて~

大西諒監督
今回歴史ある高崎映画祭「監督たちの現在(いま)」部門で上映させて頂くことができ、とても光栄でした。
『はこぶね』を見てくださったお客様や、同部門作品の監督やキャストの方々からたくさんの感想を頂き、改めて同じ映画祭で映画を観ていただける喜びを感じました。
授賞式にも参加させて頂き、高崎映画祭は制作の規模や成り立ちに関わらず内容を見て下っているのだなと改めて感じました。今後も高崎映画祭で上映をしてもらえるような作品を継続的に作っていきたいととても背筋が伸びました。ありがとうございました。



<作品情報>

映画『はこぶね』

出演:木村知貴 高見こころ 内田春菊 外波山文明 五十嵐美紀 愛田天麻 森海斗 範多美樹 高橋信二朗 谷口侑人
監督/脚本:大西諒
撮影/音楽:寺西涼 録音:三村一馬 照明:石塚大樹 演出・制作:梅澤舞佳 稲生遼 美術:玉井裕美 ヘアメイク:くつみ綾音
2022年 | 99分 |日本 |シネスコ |宣伝・配給:空架 -soraca- film
© 空架 -soraca- film


公式ウェブサイト:https://hakobune-movie.com/

公式X(Twitter):@Hakobune_TheArk


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