25歳の脚本家、ばばたくみ氏が、7月期土曜ドラマ「マル秘の密子さん」(日本テレビ系)で初の地上波連続ドラマ脚本に挑む。京都芸術大学で映画製作を学んだばばさんは、大学入学当初は映画監督を目指していたが、脚本の魅力に惹かれ転身。その後、在学中に新人シナリオコンクールで特別賞を受賞するなど、その才能は早くから注目を集めていた。卒業後は、着実に経験を積んでいる。 最新作「マル秘の密子さん」は、サスペンス、サクセスストーリー、恋愛など、様々な要素が複雑に絡み合う人間ドラマ。 特に注目すべきは、主人公の心の闇が描かれる第4話。 ばば氏は、チームライティングを通して他の脚本家たちと意見をぶつけ合いながら、作品をより良いものへと昇華させている。
■ 脚本家・ばばたくみ氏インタビュー
▼脚本家になる経緯について
-インタビュー時に、「初めて」にまつわるお話をよくうかがっているのですが、ばばさんが脚本家を目指した「きっかけ」についてお話を聞かせていただけますか?
ばばたくみ
もともと映画が好きで、映画の勉強をしようと京都芸術大学の映画学科に入学しました。監督志望だったのですが、実習で挫折を感じてしまい、脚本の授業を受けたなかで、その面白さに目覚めて、この道に進みました。
-映画を好きになったきっかけは何だったのでしょうか?
ばばたくみ
中学生の頃に観た、フランソワ・トリュフォー監督の最初の長編映画の『大人は判ってくれない』(仏 1959年)という映画がきっかけです。
ー監督を断念された理由は?
ばばたくみ
大学の実習で実際に監督をやってみたのですが、自分には向いていないと感じたんです。
-監督は全体をまとめ、作品の世界観を構築していく大変な仕事ですよね。
ばばたくみ
自分が思い描く映像をどのように形にする方法が全く分かりませんでした。 初歩的な部分でつまずいてしまい、挫折を味わいました。
▼はじめて書いた脚本
-ご自身が思い描く映像を形にするための勉強は、大学ではおこなわれるものなのでしょうか?
ばばたくみ
そういった授業がありました。大学では、とにかく先に映画を作ってみるという方針で、実習が入学して最初の授業でした。
1年の後期から脚本の授業が始まって、そこで初めて書いた作品が、周りから「面白いね」って言われたんです。そこから、「脚本って面白いんだな」と思うようになりました。
-では、大学に入る前は脚本を書くことはしていなかったのでしょうか?
ばばたくみ
脚本は書いていなかったですね。読んだことすらなかったかもしれません。
-そうだったんですね。意外ですね。ちなみに大学で初めて書いた脚本は、どのような内容だったのでしょうか?
ばばたくみ
ブラックコメディで、彼氏の頭の上にコンクリートブロックを落とそうとする女の子の話です。
-インパクトのある内容ですね。それは、どこから着想を得たのでしょうか?
ばばたくみ
太宰治が好きで、「きりぎりす」という小説がすごく好きなんです。好きだった絵描きの夫が成功するにつれて、どんどん凡庸な人間になっていくことを妻の視点から描いた話で、それが面白いなと思ったんです。“彼氏がどんどん平凡な人間になっていってしまう…”という話を書いたら、どうなるのかなと思って脚本を書きました。
▼2度目の挫折?と古典戯曲
-大学時代に脚本を学び始めたという話でしたが、その際に、“古典戯曲を読み込むようになった”という一文を目にしました。そのきっかけについて教えてください。
ばばたくみ
1年生の時に初めて書いた脚本を褒めてもらって、脚本の面白さに気づいたのですが、長編作品になると全く勝手が違いました。60分や120分という時間の中で物語をまとめることができず、2年生の頃には脚本家としての自信を失いかけていました。
-そこからどのようにして古典戯曲を読むようになったのでしょうか?
ばばたくみ
3年生の時にコロナ禍が始まり、大学が封鎖されてしまったんです。授業もなくなってしまったので、過去のノートを見返していた際に、多くの教授が「芝居を学ぶには古典戯曲を読むべきだ」と強調していたことを改めて認識しました。
-なるほど。そこで実際に古典戯曲に触れてみていかがでしたか?
ばばたくみ
当時、授業でイプセンの『人形の家』を構造分析したのですが、その時はピンと来なかったんです。しかし改めて読んでみると、その面白さに衝撃を受けました。そこから夢中になって、イプセン戯曲全集はもちろんのこと、アーサー・ミラーやテネシー・ウィリアムズ、エドワード・オールビー、サム・シェパードなど、多くの劇作家たちの作品を読み漁りました。
-素晴らしいですね、多くの古典に触れることで、どのような影響を受けましたか?作曲家が多くの音楽を聴くことで作曲技法を学ぶといった話を耳にします。
ばばたくみ
それと同じように、優れた戯曲を読むことで脚本の構成力やキャラクターの描写方法を深く理解することができました。その経験は、私の現在の脚本執筆の礎となっています。
▼構造分析について
-戯曲の構造分析についてお伺いします。大学でおこなわれた戯曲の構造分析はどういったものなのでしょうか?
ばばたくみ
大学の授業でイプセンの『人形の家』を扱った際に、登場人物の動機や経歴を全て書き出すということを行いました。それが構造分析になります。登場人物がなぜそのような行動や発言をするのか、その背景にある動機や性格を分析していく作業です。
-なるほど。登場人物の行動原理を深く掘り下げていく作業なのですね。先ほど、「長編になると勝手が違った」という話がありましたが、脚本の長さによって、執筆の仕方は変わってくるのでしょうか?
ばばたくみ
大きく異なります。長編になると、物語全体をまとめ上げる構成力や、多くの登場人物を効果的に動かす力が必要不可欠になります。
アイデアや勢いだけでなく、緻密な構成力が求められる点が大きく異なります。
-短編、中編、長編の中で、得意もしくは、長さで書きやすいジャンルはありますか?
ばばたくみ
そうですね…強いて言うなら、映画の長さのものが好きなので、長編120分くらいでしょうか。
▼担当された「マル秘の密子さん」第4話について
―担当された「マル秘の密子さん」第4話ですが、第4話というと、物語の中で重要な位置づけになっていると思うのですが、脚本を書く上でこだわった点はありますか?
ばばたくみ
第4話は、本作の重要な位置付けになっていると思います。特に、密子のダークな部分が出てくるところや、夏との関係性が変化していく様子を意識して描きました。
-今回、20代という年齢で、ゴールデンタイムの連続ドラマの脚本家デビューは素晴らしい実績だと思います。脚本家として選ばれた時の率直な感想をお聞かせいただけますか。
ばばたくみ
率直に嬉しかったです。「デビューできる!」と実感しました。
―大学卒業後は、すぐに脚本家として活動を始められたのですか?
ばばたくみ
はい。映画のシナリオを書いたりしながら、将来的にはNetflixなどの配信作品でも仕事ができたらいいなと思っていました。
-そこから、どのようにして現在の事務所に所属されたのですか?
ばばたくみ
大学在学中に脚本コンクールで受賞した時の選考委員の方経由で、事務所に紹介していただきました。
-まさにトントン拍子に夢を叶えられている印象ですが、地上波の連続ドラマでデビュー作が放送されることについてはどう感じていますか?
ばばたくみ
これまで、自分が書いた脚本を俳優の方々に演じてもらった経験がなかったので、それをとても楽しみにしています。
▼大学時代の脚本の映像化経験は?
-大学時代にも脚本を書かれていたとのことですが、映像化された作品はなかったのでしょうか?
ばばたくみ
大学時代はゼミでシナリオを書いたり、卒業制作として脚本を書いたことはありますが、映像化されたものはないんです。
-では、今回が初めて、ご自身が書かれた脚本を役者の方が演じるのを見る機会になるわけですね?
ばばたくみ
はい、初めてです。
-それは素晴らしい記念になりますね。俳優の姿を思い浮かべながら脚本を書くことはありますか?
ばばたくみ
今回でいえば、私が脚本を書いていた段階では、まだキャスティングが決まっていなかったので、配役を意識することはありませんでした。いただいたキャラクター設定に沿って書きました。
▼メッセージ
-それでは、テレビの視聴者に向けて、今回のドラマと、担当された第4話で意識したことなどがあれば教えて下さい。
ばばたくみ
全体的には、サスペンス、サクセスストーリー、恋愛など、色々な要素が詰まっている作品です。特に第4話は、密子さんの今までとは違う一面が見られる回になるかと思います。
-ありがとうございます。ところで、今回はチームで脚本を書かれているとのことですが、そのことに関する感想などはいかがですか?
ばばたくみ
チームライティングは、自分一人で書くよりも、色々な意見を取り入れることができるので、良い作品作りに繋がると感じています。私自身、不器用なところがあるので、色々な方の意見を聞くことで、より良い作品になると思っています。
-具体的に、チームライティングではどのようなことがなされるのですか?
ばばたくみ
チームにもよると思いますが、まず、最初に大まかな流れをみんなで決めて、それを担当ごとに分けて書いていきます。その後、それぞれが書いたものを持ち寄って、意見交換しながら、より良いものにしていく…という流れです。
-チームで意見を出し合うことで、新しい発見などはありますか?
ばばたくみ
たくさんあります。自分一人では思いつかなかったようなアイデアが出てくることも多く、とても勉強になっています。
-チームライティングは、今回が初めての経験なのでしょうか?
ばばたくみ
いいえ、初めてではないです。
-今回のドラマ制作を通して、学ぶことは多いですか?
ばばたくみ
毎日が勉強です。特に、今回は色々な年齢、性別、経験を持つ方々と意見交換する機会をいただけたことが、とても良い経験になっています。
―ありがとうございます。最後に、ドラマを楽しみにしている視聴者に向けて、一言お願いします。
ばばたくみ
ドラマ本編の完成に向けて、チーム一丸となって頑張っていますので、ぜひ楽しみにしていてください。
-ありがとうございます。本日はありがとうございました。
▼ばばたくみ氏 プロフィール
1998年8月21日生まれ、大阪府出身 脚本家。
京都芸術大学映画学科映画製作コース卒業。
学生時代よりシナリオの執筆を始め、大学3年の時に執筆した長編シナリオ『R団地のミツバチ』が、第31回(2021年)新人シナリオコンクールにて大伴昌司賞を受賞。大学卒業後、脚本家として活動を開始。映画、ドラマなどの脚本を執筆している。
■ 『マル秘の密子さん』 概要
土ドラ10「マル秘の密子さん」
出演:福原遥 上杉柊平 清水尋也 志田彩良 吉柳咲良 ・ 桜井日奈子 黒羽麻璃央 ・ 渡辺真起子 小柳ルミ子 松雪泰子
脚本: 丑尾健太郞
藤岡明子 上野詩織 ばばたくみ
音楽: Ken Arai
演出: 中茎強 小室直子 伊藤彰記 苗代祐史
チーフプロデューサー: 田中宏史
プロデューサー: 鈴木亜希乃 柳内久仁子
制作協力: AX-ON
製作著作: 日本テレビ
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