遠藤雄弥

遠藤雄弥、映画『男神』を語る:家族愛、冒険、そして日本の原風景

映画『男神』が、2025年9月19日(金)全国ロードショー。監督は『ソローキンの見た桜』の 井上雅貴監督。主演は、『辰巳』『ONODA 一万夜を越えて』で鮮烈なインパクトを残した遠藤雄弥。命をかえりみず禁断の地に踏み入れ、得体のしれない“存在=男神”に立ち向かう、妻子思いの愛情深い父親役を、熱演。
今回、遠藤雄弥さんにお時間をいただきインタビューを行いました。本作の深いテーマ性について、熱のこもったお話を聞くことができました。撮影の裏側から、作品に込められたメッセージ、そして観客への期待まで、多岐にわたるインタビュー内容をお届けします。

1. 初めてのジャンルへの挑戦:ファンタジーホラー作品への参加

ー: 制作発表時のコメントで、本作が遠藤さんご自身にとって初めてのファンタジーホラー作品であるとお話しされていました。このジャンルならではの難しさや、逆に俳優として挑戦しがいがあった点などをお聞かせください。

遠藤雄弥: ファンタジーホラー作品が初めてという話は、まだ撮影前で、台本も完全に上がっていなかった時の話かもしれません。今回、『男神』はファンタジーホラーというジャンルにはなっているのですが、蓋を開けてみるとホラー調ではあるものの、ファンタジーの要素と家族愛の要素、そして冒険映画の要素がかなり色濃くあるようなタッチの作品でした。井上監督のクリエイティブな感性が随所に織り込まれていると感じました。

まずホラー映画というものに携わるにあたって、頭の中では「アトラクションに近い感覚でお客さんを魅了させる手法があるのかな」と捉えていたんです。けれど、今回改めて『男神』のシナリオと向き合った時にそれだけではないし、むしろその割合はかなり薄いんじゃないかなと思ったんです。井上監督が書き上げてきたシナリオは、まさに家族愛と冒険ファンタジーが主軸にあり、ホラー調はあくまでテイスト、タッチとして表現されていました。

この作品は、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』の世界観にすごく通じる部分があるなと、脚本を読んだ時に感じました。それに加えて、ホラー映画と言いつつ、「家族で見てもらえるホラー映画」というか、家族愛がテーマにありますし、穴に入っていく、入ってはいけないところに入っていき、違う世界に入りこむ冒険ファンタジーのような側面もあります。ある意味、ドラえもんの映画を見るような感覚で、ご家族で劇場で見てもらえる要素もあるのではないかと思いました。

ー: 確かに、私も拝見して、ホラー作品と聞いていましたが、かなりファンタジー要素が強いと感じました。いわゆる「怖い」という感じではなく、おっしゃる通り、ご家族でも見られる作品という印象です。

遠藤雄弥: そうなんです。お子さんでも見られる作品というか、こどもと親という構図が出てくる作品だと思います。


2. 父親像へのアプローチ:愛と狂気の狭間で

ー: 和田勇輝という父親役を演じる上で、普遍的な家族愛がテーマの一つとのことですが、どのようなことを意識されましたか?

遠藤雄弥: 今回、主人公の和田勇輝を演じるにあたって、妻と息子への愛情の深さを強く意識しました。監督とお話ししたのは、「“愛が深すぎるがゆえの狂気”をどこかで出せるといいですね」ということでした。具体的には、妻と息子を助けるために穴に入り、「“黄泉の国”へ行った後の巫女たちとの対峙の場面で、家族を守るという彼の強い信念から来る態度に、少し狂気が混ざっていると面白いかもしれない」と監督からヒントをいただきました。そういった点は演じる上で意識したかもしれません。

もう一つは、カトウシンスケさん演じる木曽田浩司というキャラクターに対する、嫉妬といった、人間的なリアリティですね。お客さんも、浩司と妻の夏子の間に何があったのか、何を隠しているのかという、シナリオ上でも重要な部分について、勇輝がどのような感情を抱くのか、というところが、演じる上でも人間味のある部分だと思いました。ある種、演じていて楽しかった部分でもありますね。

ー: 非日常的な空間の中で、正常ではいられない状況だからこそ、自らの内にある狂気のようなものが現れる、という感じが確かにありましたね。


3. 印象に残る撮影地での体験:愛知・岐阜の魅力

ー: 制作発表時に、愛知県日進市(および岐阜県下呂市など)での撮影をとても楽しみにしていて、地元の名物についても触れていらっしゃいました。実際に現地で撮影されての感想や、印象に残ったエピソード、日進市や下呂市の豊かな自然や街の魅力についてお聞かせいただけますか?

遠藤雄弥: 今回、下呂市も日進市も市が全面的にバックアップしてくださり、撮影に協力していただきました。山本工務店さんには重機をお借りしたり、愛知牧場さんには乗馬の練習も含めて馬の貸し出しなども含めて協力していただきました。

個人的にすごく印象的だったのは、乗馬のシーンがあったことです。恥ずかしながら、芝居で馬に乗るのは今回が初めてだったんです。カトウシンスケさんも練習したいとおっしゃっていたので、一緒に乗馬練習をさせていただきました。その経験がとても思い出に残っていますし、愛知牧場さんで食べさせていただいたアイスクリームもとても美味しかったです。愛知牧場さんは土日になるとたくさんの観光客で賑わっていて、とても人気のスポットなんだと実感しました。

下呂の方では、ロケ地となった巨石群がとても有名で、縄文時代から歴史のあるパワースポットのようでした。実際に儀式が行われていたとかいないとか、そんなパワーのある場所で、まさに『男神』にぴったりなロケーションで撮影させていただきました。撮影以外でも、宿泊先で温泉に入らせていただいたりして、日本の原風景がたくさん残っている岐阜県という場所は、心安らぐロケーションで、とても胸を打たれました。

ー: 数多く、自然に触れられた感じですね。

遠藤雄弥: マイナスイオンが発生しているようなロケ地でした。下呂も本当に素敵な場所でした。撮影地には「第二の地元」のような、愛着が湧きました。


4. 共演者・スタッフとの連携:須田亜香里さんの魅力

ー: 共演者の須田亜香里さんとの現場でのエピソードや、作品作りにおける連携で印象的だったことがあれば教えてください。

遠藤雄弥: そうですね、須田さんはまさにパブリックイメージそのものというか、とても明るい方で、須田さんが現場に来ると、現場のトーンが3トーンぐらい明るくなるようなムードメーカーの方でした。
お芝居についても、ご自身のキャラクターに対して、監督にしっかりと意見を提示している場面もあって、台本をしっかりと読み込んでいるし、キャラクターに対して責任を持って演じられているという印象が強かったです。本当に素敵な裕斗の姉・愛子を演じていました。現場を盛り上げつつ、演じる時はしっかりと演じるという、スイッチの切り替えがすごいと思いました。本当に明るさが似合う人でした。


5. 世界への発信:日本の美と普遍的な感情

ー: 本作は「日本の伝統美や文化に触れることができる作品として、世界に向けて発信することを目的としている」とのことですが、遠藤さんご自身は、この映画が海外の観客にどのようなメッセージや衝撃を与えることを期待されていますか?

遠藤雄弥: 『男神』は、目に見えないものを信じる、という普遍的な感情を描いています。それが恐怖にもつながるし、安心したいがために信仰するという側面もある。この「目に見えないものを信じる」という感覚は、万国共通の感情なのかもしれないと思います。そして、その舞台が日本であり、日本独自の儀式が、海外の人から見て面白く映ればいいなと思っています。

先ほどロケーションの話も出ましたが、下呂市などが「黄泉の国」のシーンで主に使われていて、日本の原風景の美しさを井上監督がとても綺麗にとらえています。もし海外の方にもっと見ていただいて、「日本の景色ってこんなに綺麗なんだな」と感じていただけたら嬉しいです。

井上監督自身も、日本のクリエイターの中では珍しいタイプで、ロシアとの合作経験が豊富なんです。日本の良さも知りつつ、海外のお客さんのツボも抑えているクリエイターだと思いますので、彼の感性がどれぐらい海外のお客さんの感想につながってくるのか、個人的にはすごく興味があります。

もともと、YouTubeで聞ける『男神』の朗読は、非常にホラー色が強かったのですが、井上監督が映画のシナリオを書き上げ、さらに仕上げの編集の部分で、石井岳龍監督のエディターとしての経験や、ロシアとの合作で培った経験、そして『男神』が持つ日本の歴史や風景といった要素が融合し、唯一無二の映画になっているなと改めて感じます。海外のシネフィルを含め、お客さんが見た時の感想が今からすごく楽しみです。


6. 映画への期待と見どころ:新しい「家族で見るホラー映画」

ー: 最後に、遠藤さんご自身が考える映画『男神』の見どころや、観客の皆さんに「ここを特に見てほしい」という点があれば教えてください。

遠藤雄弥: 今までお話ししたことと重なりますが、この映画は「ファンタジーホラー映画」と表現するのが一番分かりやすいと思いますが、蓋を開けてみると、やはり家族愛がこの映画の醍醐味の一つです。そして、「入ってはいけない場所に入っていくロマンとワクワク感」といった冒険映画の要素も感じられます。

本当に幅広い世代、幅広い客層に楽しんでもらえる映画になっていると思います。ご家族でお子さんを連れて、夏休み映画のような感覚で『男神』を見てもらっても、決して間違いではないと思います。もちろんお子様連れだけでなく、恋人同士でも、ご友人同士でも楽しめる映画になっていますので、ぜひ、新しく、見たことのないような映画を劇場で目撃していただけると嬉しいです。

この映画は「ただのホラー映画じゃない」というところが一番のポイントです。「家族で見てもらえるホラー映画」という、新しいジャンルだと考えています。私も完成した作品を見た後、「これ、どんな風にPRするのが適切なんだろう?どう言語化したら皆さんに興味を持ってもらえるんだろう?」と、いい意味でしばらく考えました。でも、PC(ペアレンタルコントロール)もついてないし、ある種、童心に戻れる映画でもあるので、こどもが見ても楽しめる映画になっているという結論に至りました。本当に家族で楽しめる冒険映画、ファンタジー映画、ホラー映画という、新しいジャンルの作品です。
ぜひ、映画館まで観に来てください。

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映画『男神』

遠藤雄弥

彩凪翔 岩橋玄樹 須田亜香里 カトウシンスケ

沢田亜矢子 加藤雅也(特別出演) 山本修夢 塚尾桜雅 アナスタシア すずき敬子 大手忍

チャールズ・グラバー 藤野詩音 齋藤守 清水由紀(友情出演) 永倉大輔(友情出演)

監督・脚本:井上雅貴 原案:「男神」(八木商店)

ロケ地:愛知県日進市、岐阜県下呂市 協力 高山市、飛騨・高山観光コンベンション協会

支援 日進市企業ふるさと納税 下呂市ふるさと文化振興助成金

協賛 マテラ化粧品 ワンダーランド そうび社 龍の瞳 イオス コーポレーション 題字:小林芙蓉

2025年/日本/93分/カラー/シネスコ/5.1ch 配給:平成プロジェクト/配給協力:東京テアトル
©2025「男神」製作委員会

   【WEB】 公式サイト: https://otokogami-movie.com/

2025年9月19日(金)全国ロードショー

男神

この記事を書いた人 Wrote this article

Hajime Minamoto

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