寺本勇也

横浜で上映『傷』『ゆい』。正反対な二作を撮った寺本勇也監督が語る情熱と、主演・倉本琉平らが明かす「少年心と本気」が同居する現場の真実。

12月6・7日の横浜「第四世界 (not) 3D」で上映される、映像作家・寺本勇也の新作『傷』と『ゆい』。裏社会を描くハードな物語と難病の少女の実話という正反対の二作だが、監督は共に「青春映画」だと語る。
本記事では監督へのインタビューに加え、主演・倉本琉平ら盟友たちの証言を掲載。「自分が見たい」を貫く情熱と、関係者が明かす「ガチモード」な現場の素顔から、次世代クリエイターの核心に迫る。

12月6日と7日に横浜で開催される映画イベント第四世界 (not) 3D
そこで上映される2つの作品。過酷な人生を歩む兄弟の物語をハードなタッチで描いた『傷』。白血病と戦う女子中学生の実話を描いた『ゆい』。
正反対な2作品を監督した寺本勇也へのインタビュー。

▼映像の道へ

ー:映像制作に興味を抱くきっかけとして、以前のインタビューでは(https://www.7777777.jp/post/article008-1 )幼少期に見ていた特撮番組のお話があり「作っている人の側に関心を持った」という流れが興味深いと感じました。創作が好きな子供だったのでしょうか?

寺本勇也: 幼少期の映像を見ると、ソフビ人形を使ってずっと遊んでるんですよね。

ー:自分がキャラクターになりきるのではなく、物語を空想していた?

寺本勇也: 多分、頭の中には映像があり、展開があって、という妄想の世界が広がっていたと思うんですよね。それって今やっていることと本質的には変わっていないと思ってて。



初期制作の変遷:人形からクラスメイトへ

寺本勇也: その人形遊びの延長線上で、小学生になると人形を使ったストップモーション(コマ撮り)のようなビデオを、親のカメラを使って作っていました。それが楽しくて学校に行かないで作るほどのめり込んじゃいました。
それが中学にあがると、自分のカメラになり、被写体が人形さんからクラスメイトに変わったんです。

ー:なるほど。そこから仲間との自主制作が始まったんですね。

寺本勇也:でも当時は誰かに見せたいから作るというより、自分が見たいから作るって気持ちの方が強かったです。今でもそのアマチュア的な感覚が完全には抜け切ってない気もしていて困ってはいるんですが。

進路の選択と映像制作への思い

ー: その後、映像の道に進む決断をするまでが早かったと思うのですが、その原動力には、どのような思いがあったのでしょうか。

寺本勇也: 中学時代って成績の良い悪いが如実に出るじゃないですか。僕はとにかく成績が低かったんですけど、テストの点数だけで頭がいい子、悪い子って判断されることに疑問があって。生意気にも(笑)
だから、「そうじゃないだろ」って証明したくなっちゃったんじゃないですかね。

テストの採点システムが減点式だからミスをしない人間が優秀とされちゃうわけですよね、それでもし自己評価が低くなっちゃってる子がいたら、大丈夫だよって言いたいです。僕みたいに好きなことを見つけられれば将来楽しいことが待ってるはずだって。

ー: どのようにしてクラスの友達たちと映像を作り始めたのでしょうか。

寺本勇也: それはもう類は友を呼ぶとしか言えなくて。同じオモシロを追求できるなというセンサーが働くんです。だから今でも、この業界でも何人か仲間がいるんですけど、本気だからこそぶつかることもあるんです。でも普通の友達と違って、オモシロで繋がっている=目標地点が同じ仲間だから、作品が完成する頃にはぶつかったことなんてお互い忘れてて、結局次作でも一緒に頑張る。みたいな感じですねいつも。



▼対極な作品:『傷』と『ゆい』の対比

ー: 『傷』と『ゆい』という正反対な二作を連続で撮ってみていかがでしたか。

寺本勇也: 商業用の短編はいくつか撮ってきましたが、『傷』は実質的に商業デビュー作なので、自分が好きなことを詰め込んでまさに「自分が見たい作品」を攻めの姿勢で撮りました。
一方で『ゆい』は実話ベースというのもあり「誰が見ても」伝わる作品を撮ろうとしました。
今回のイベントでこの2作を同時に観たお客さんは「同じ監督?」と思うかもしれませんが、僕からすると、過去に作った作品たちも含めて、テーマは一貫しているつもりです。『傷』も『ゆい』も、主人公が自分の人生を好きになろうとするためにもがく【青春映画】だと思っています。ただ、やはりタッチは全然違うので、作風の振り幅も含めて楽しんでいただけたらと思います。


映画『傷』:モチベーションとテーマ

ー: 『傷』は、反社会的勢力の兄と真面目な大学生の弟という対照的な二人の人生を描く社会派ドラマ。『傷』があのような作品になった経緯は?

寺本勇也: 所属する制作会社からの依頼でした。準備期間が短かったので最初は悩んだのですが、逆境ほど燃えるというか(笑)もうチャンスだと思って挑戦してみました。でもこういった“ほぼインディーズ映画”のような作品って、劣悪な環境であったりとモチベーションを保つのが難しいですけど「自分が見たい作品」なら最後まで気持ちが折れずにやれるだろうと。

ー: その「自分が見たいもの」のルーツはあるのでしょうか?

寺本勇也: まず一つは、ジョン・ウー監督です。超ザックリまとめると「男グサい熱い話」。昨今の興行の流行からすると真逆だからこそ、他のディレクターがあまり手をつけてないジャンルなんですよね。そういうのに照れずに正面からぶつかってみたくて。

もう一つは『狂い咲きサンダーロード』(石井聰亙監督/1980年制作)。今でも大事な時には見返してる心の作品なのですが、インディーズ映画のレジェンドとして、リスペクトを捧げる意味で主人公の名前などオマージュをさせていただいてます。
他にも無意識レベルでアングルやカラコレ(色彩)などから自分が見て育ってきた東映作品への愛が溢れてしまってるかもしれません。

でもこうやってこの現場を思い出したときに感じるのは「汗と涙」とか綺麗なものじゃなくて「血の味」。痛みがよぎる(笑)
想定していたように、撮影の内容が内容なため緊張感が絶えない現場でした。
ですが映画監督って歌手や漫画家と違って、自分が好きなものを作れることはほぼ無いんですよね。
プロデューサーやクライアントに依頼された物を納品するのが仕事で。でも『傷』に関しては、自分が心から好きと思える物語とキャラクターを“本気で”撮ることができた。そういう意味では最高に幸せな時間でした。


映画『ゆい』:実話とメッセージ性

ー: 一方の『ゆい』は、白血病と闘い16歳で亡くなった少女・小山田優生さんのSNS発信に励まされた同じ病を経験した高校生の闘病体験を題材にした実話に基づく作品で、ドナー登録や献血の重要性を若年層に伝える目的も持っています。

寺本勇也: このオファーを受けたときは、27歳の監督が撮っていいものなのかと思ったんですけど、具体的なターゲットが設定されていて、伝えたいことが明確だったので、全力で企画に寄り添うことができれば上手くいくだろうなと思いました。

脚本を書かれたのが土井康平さんなので(俳優/トップインフルエンサー)自分の企画じゃないからこそ、この作品では全編に渡って【撮影】も担当しました。事前にコンテを割らずに、その場でお芝居を見て感じたことを切り取っていったので、僕が演出に専念してた作品よりも、没入感というか、見た人がキャラクターをより身近に感じられる見心地になってるかもしれません。

▼仲間たちの視点:監督像と現場の真剣勝負

ここで、映画『傷』で主人公である玉井文也役を演じた倉本琉平さん。
そして寺本監督と長年に渡って共に制作をしてきたプロデューサー根本翔さん、番組ディレクターとして活躍中の湯浅マホガニーさんにお話を伺ってみました。

俳優 倉本琉平が語る寺本監督

ー: 倉本さんから見た寺本監督の現場の特徴や、他の監督との違いを教えてください。

倉本琉平: たぶん負けず嫌いなんだと思います。誰に対してかというと自分自身にです。
『傷』のラストシーンで、水溜まりのなかに僕が投げ飛ばされるシーンがあったのですが、ピンマイクなどの機材が濡れてしまうかもって状況のなか、寺本さんは「もし壊れたら俺が責任とるから」とまで言ってくれて、僕も遠慮することなく本番に挑むことができました。

他にも時間が足りないとか現場の都合で妥協しないといけない瞬間でも、理想のショットを撮るためにギリギリまで拘ってくれます。だから芝居も簡単にはOKがでないのですが、役者がリミッターを外す作業に時間を取ってくれるので心強いです。僕らの関係性だからこそですが、ハードな現場でも「それが限界?」って煽ってくるので、まだまだいけます!ってこっちもムキになっちゃうんですよね(笑)おかげで殻を破ってこれました。

一方で子供心を忘れてない人でもあって、明るいシーンの現場では誰よりも笑ってるんですよ。監督がそこまで楽しんでくれてると、こっちもどんどんやっていいんだって気になれるので芝居しやすいです。大人の真剣勝負と、少年の休み時間が両方できる現場という印象です。

ー: 倉本さんにとって、『傷』の文也役を演じる上で、大変だった点は。

倉本琉平: 文也という役は、持病を抱えながらも母親の介護をしていて、兄のせいで就活を落とされるといった悩み多き人物です。そんな彼の疲弊感を出したくて、僕自身も撮影前に徹夜をしたり、バイトを無理やり増やしたり、私生活から役に近づこうとしました。なので心身共に追い詰められましたが、その苦労が少しでもスクリーンから伝わればいいなと思っています。

スタッフが語る寺本監督

根本翔: 寺本とは今は同じ制作会社にいて企画の統括や進行を主にやっています。

湯浅マホガニー: 僕は高校から寺本の映像チームに加わり、作品を作っていくなかで同じ業界に進みたくなり、今は別の会社で地上波のバラエティ番組などのディレクターをしています。

ー: 湯浅さんが寺本監督の仲間に加わった経緯というのは?

湯浅マホガニー: 実は寺本とは違う高校なんですけど、まだユーチューバーなんて言葉が無かった時代に、ショートドラマをネットに投稿してる変なヤツがいるって噂が回ってきたんですよ。で、思いきって会いに行ってみたらちゃんと変なヤツだった(笑)でもその現場が本当に楽しかったので今に繋がっています。

ー お二人から見て、寺本監督の特徴はありますか。

湯浅マホガニー: アイデアを出すスピードとか、想定外の出来事が起きた時の判断とかがすっごい早いんですよ。そういった決断力やリカバリー能力は、昔から自主制作を長くやってきたからこそ身についたのかもしれませんね。あと特徴としては、演出だけじゃなく動画編集者としての一面があります。常に頭の中で編集しながら撮影してるっていうのを聞いたことがあって。だから結果的に使われないといった不必要なカットを撮ることがほぼ無く、現場の進みが早いです。

根本翔: 縦型ショートドラマなどの現場では笑いの絶えないとても和やかな空気です。監督が若いからこそ各部署がアイデアを提案しやすいんですかね。他の現場よりもキャストやスタッフが爪痕を残して帰っていけてる印象があります。特に新人のキャストにはかなり寄り添って、時には台詞を変更するなど柔軟に進行していますね。

ー: ショートドラマ以外の現場では?

湯浅マホガニー: これが、映画作品になったときのフォームチェンジっぷりが凄まじくて。

根本翔: 鬼気迫るとまでは言いませんが、やはりギアが入るんでしょうね。
あの監督から笑顔がなくなります。通称ガチモード。ですが別に空気が悪いとか怒ってるとかは一切なく、全員が良い緊張感のもとで仕事できています。

ー: 最後にお三方へ、なにか今後に期待することはありますか?

湯浅マホガニー: たぶん本当は、やりたいことの1割もできてないと思うんですよ。
今みたいな規模感で作品撮ってる場合じゃないと俺は思っています。
あんだけネタ帳にアイデアびっしり書いてる人なんだから、早くメジャーのステージにどんどん上がっていって思う存分暴れてほしいです。

倉本琉平: 僕も寺本さんと大作でご一緒したいって夢は強くありますが、
僕はメジャーではなく、寺本さんが制限の無いなか、自由に作った作品にもっと出てみたいです。インディーズ映画の希望を信じているので。

根本翔: 真逆の意見だ。

倉本琉平: とにかく一番は『傷』が広まって評価されれば道は見えてくるはずなので、みなさん応援よろしくお願いします!

今後の展望:三部作構想と情熱

ー: 最後に寺本監督へ、今後の構想はありますか?

寺本勇也: 『傷』で最初に点を打ち、『ゆい』で二つめの点を打ったことでそれが結ばれて線になった。そうすると三つ目の点を打ったら面になるわけですよね。その時にどれだけ大きい面を作れるかが映像作家としての総合力なんだと思ってます。
なので3作目は全く違った作風になるといいなぁと思っています。

とか言いながら、規模感は関係なく見た人が良かったぁ〜て思える作品を作っていきたいので、これを見てる業界の方いたら、頭の片隅に置いといてください!

イベント情報
第四世界 (not) 3D
12月6日&7日に横浜で開催される映画イベント。チケットはこちらより
https://keihinvideoplanning.com/the4thfrontier3winter/




反社の兄と真面目な大学生の弟、相反する二人の人生が壮絶に交わう時、運命の歯車は残酷に動き出してしまった。自分たちの人生に落とし前をつけるため過酷な現実に抗う男たちの物語。
【キャスト】
・橋本全一
・倉本琉平
・秋山ゆずき
・佐田正樹(バッドボーイズ) 
・川瀬陽太 
・堀井翼 
・正村徹 
https://www.youtube.com/watch?v=FQ4JIio0QpA


ゆい
いつもと変わらない学校生活を送っていた中学3年生の町田くるるは、
ある日突然、急性骨髄性白血病と診断される。
抗がん剤治療が始まり学校にも通えなくなってしまったくるるは、友達とも距離をとり、
看護師や家族にも怒りをぶつけてしまい、生きる勇気を失ってしまう。
そんなとき看護師から、同年代で白血病の闘病を続ける女の子の動画を教えてもらって…。

【キャスト】
・鈴木 心緒
・東山 麻美
・宮迫 博之
・高梨 優佳
・木村 彩音
・枡田屋 汐里
・山下 ケイジ
・鈴木 大二郎
・土井 康平
・町田 くるる
https://www.youtube.com/watch?v=u3MsZAB0Vqk

倉本琉平
俳優を目指してTikTokを開始し、数々のショート動画をバズらせるなかでフォロワー数は100万人に。その後、初舞台「DOGのBLUES」にて主演に抜擢されたことをきっかけに俳優としてのキャリアをスタート。短編映画「クジラの背中で話すコト」では、数々の映画祭でグランプリを受賞するなど作品が高く評価されるほか、個人としても、⻄湘映画祭7th短編部門でベストアクター賞を受賞し、渋谷佐世保TANPEN映画祭2024では最優秀助演俳優賞を獲得した。
さらに、上田慎一郎監督の縦型ショートドラマ「逆面接」がX(旧Twitter)などで話題を呼び、⺠放のニュース番組にも取り上げられるなど多くの注目を集めた。ショートドラマのコンペティションである「ショードラアワード2024」にて出演者賞を受賞。

寺本勇也
株式会社AoiProに入社し、数多くのCM作品に携わった後に独立。現在は映像制作会社である株式会社イントリニティに所属し、劇場作品や広告映像の監督として幅広く活動をしている。国内最大の縦型映画のコンテストである「TikTok TOHO Film Festival」で監督作品が2年連続でファイナリストに選出された。


仕事依頼は→ https://movie.in-trinity.net/

この記事を書いた人 Wrote this article

Hajime Minamoto

TOP