俳優・佐藤京さんの魅力に迫る今回のインタビュー。BS12で放送されたドラマ『六月のタイムマシン』でのレギュラー出演や、8月8日公開のホラー映画『近畿地方のある場所について』での印象的な演技で注目を集める彼女の活動は多岐にわたります。本名でありながら、その響きと字画に込められた「京」という名前の由来から、彼女の原点である秋田での幼少期の経験、多岐にわたる趣味・特技がどのように俳優業へと繋がっていったのか、その唯一無二の軌跡と、表現者としての情熱に迫ります。彼女が「全てをプラスの方向に変える」と語る、表現への道筋とは一体どのようなものか。ぜひ、ご一読ください。

■ 佐藤京インタビュー
▼1.名前について
ー:まず、お名前について伺います。「京」という一文字のお名前に珍しさを感じました。どういった由来があるのでしょうか?
佐藤京:本名で活動しているのですが、名前の由来をたどると、父が私のことを「きょうちゃん」と呼びたかったという理由からだと聞きました。照れてしまうような理由ですが(笑)。それと、父の名前が漢字一文字なので、こどもにも一文字でという思いがあったそうです。
元々「響く」という“響”の名前も検討されていたそうですが苗字の「佐藤」との画数の兼ね合いで、最終的には名前の最後が末広がりになる「京」という字が当てられたと聞き、それを小学校の作文で読んだ記憶が今でも残っています。
ー:SNSのアカウント名「kefu2m2c」も、その「京」からきているのでしょうか?
佐藤京:そうですね。「kefu(けふ)」は、まさに名前の「京」の字からきています。中学に上がって古文が始まった時、国語の先生が「いろは歌」の授業で「1年4組の佐藤京さんはこの時代だと表記は『けふ』になりますね」と私の名前を引用されたことがあり、そこから中学や高校の時に「けふちゃん」と呼ばれる機会が出来ました。Instagramが流行ってきたタイミングで、その「ケフ(kefu)」を頭につけてアカウントを作ったんです。 続く「2m2c」は、中学時代の親友2人と、高校時代の親友2人の名前から取っています。中学と高校の親友の名前が「みのりちゃん」と「まよちゃん」、「ちせちゃん」と「ちえちゃん」だったので、そこからMとCを取り、2m2cになりました。私は友達が好きすぎて…。自分の要素の一つとしていれたアカウント名を今でもそのまま使ってしまっています。

▼2.俳優としての道のり
ー:俳優を志したきっかけと、デビュー時期について教えてください。2018年のミスあきたこまちがきっかけだと想定していますがいかがでしょうか?
佐藤京:2018年のミスあきたこまちは、芸能活動とは直接関係していません。芸能活動という感覚は無く、就職活動に有利にはたらきそうだからやってみようという意識で、大学2年生の時に務めました。秋田出身だし、自分の興味・関心としても食に関わることが好きだったので、その掛け合わせで始めたんです。
実際に俳優としてスタートしたのは、2020年4月です。少し遡るのですが、高校3年の時に様々な選択が迫られる中、あるお菓子メーカーで商品開発したいという思いで管理栄養士の大学に進学をしたという経緯がありまして。無事第一志望だったメーカーから内定をいただいたのですが、内定式で「どうしようこれじゃない」と感じてしまって。私の中を全部ひっくり返して、もう一度考えてみたんです。誰かに導かれるでも無く、自分のために行動するなら何なのか、自分の持てる要素をすべて良い方向に持っていくためにはどうしたらいいか考えました。自分のウィークポイントさえもプラスに変えたかったんです。興味関心や好きなことと自分の要素を合わせた時に、一番真ん中の色濃く残った部分に「俳優」という職業が重なりました。 私は映画や演劇を見て育ったわけではなく、人が好きで、物語が好きで、芸術が好き。「俳優」が職業だと気づいてから、自分の心の動きに悩んだり、コントロールしきれなかったものを、すべて良い方向に持っていけるかもしれないと感じて、初めて自分から「やりたい」と思えました。
芸能活動というよりは、「人の生活、命を演じる」ことへの興味がきっかけです。演技や学びは、俳優を志してから始めました。映画を観始めたのも、好きになったのも俳優をやろうと思ったことがきっかけです。

▼3.趣味と特技
ー:プロフィールにはスノーボード歴17年とありますが、かなりの経歴ですね。秋田のご出身ということも関係していますか?
佐藤京:プロフィールを改めて見返してみたら、今年で20年でした!小学校2年生の時からなので、8歳くらいから始めています。秋田の雪と遊ぶ感覚で滑ってました。一番最初のきっかけは、秋田の家の近所にあったカフェの店長さんが私のスノーボードの師匠で、私と弟に教えてくれたことです。
ー:ドラムも特技とされていますね。
佐藤京:ドラムは大学の時に始めました。元々音楽やバンドが好きで、初めて「ONE OK ROCK」の野外フェスを見た時に、ドラムの音に雷のような衝撃を受けたのがきっかけで「自分も叩けるようになりたい!」と思いました。その翌日にドラムレッスンに通い始め、練習場所も欲しかったので大学の軽音楽学部にお邪魔させていただくようになりました。
ー:絵を描くことも特技とされていますが、おじいさまが日本画家とのことですね。おじいさまの影響はありますか?また、どんな絵を描かれますか?
佐藤京:そうですね、影響は大きい気がします。祖父が日本画家だったので家にはアトリエがありました。100号のような大きな絵が並んでいるのが当たり前の環境で育ちました。幼い頃は墨や絵の具で遊んでしまってたしなめられることもありましたが、「この色とこの色を混ぜるとこんな色になるんだよ」と教えてもらったことを今でも覚えています。
祖父からは「物を細部までよく見る、観察することがいかに大事か」ということを教わってきました。 祖父が亡くなったタイミングで、せっかくもらった才能を自分が活かさないのは嫌だと思って絵を描くようになりました。 絵を描く対象としては人が好きです。祖父は山野草といった自然や風景を描いていましたが、私はそこに興味を持てませんでした。たぶん興味があるものでないと、描きながら向き合い続けるのが大変で難しいんだと思います。私は人が好きだから、観察し続けられるのかもしれません。あとは食べ物を描くのも好きですね。現場の待ち時間が長い時などには、iPadで落書きのようにいろんなものをスケッチしています。美術さんのトートバッグの柄や、みんなが集まる現場のストーブ、手に取られて減っていくお菓子などを描いたりしています。
ー:ダンスも特技とのことですが、お芝居にどのように活かされていますか?
佐藤京:これについて、ちょっと聞いていただきたくて!ダンスは本格的にやっていたわけではないんです。あるオーディションで「ダンスも踊れてドラムも叩けてお芝居もできる人」という条件があり、マネージャーさんから「ダンス踊れますか?」と聞かれました。私は「振り付けがあれば踊らせていただきます!」と返事をして、動画を提出しまして、それを見たマネージャーさんから「これは特技にしても良いのでは」と言われた経緯があって特技として書いていたんです。
改めて聞かれるなら「新しい可能性の幅を広げていく戦略」といいますか。「やれと言われたらやれます!」という精神で全てやっています。
ー:料理も特技で、管理栄養士免許やフードスペシャリストの資格もお持ちですね。共演者の方に振る舞うこともありますか?
佐藤京:料理は本当に好きです。食べることも作ることも好きですね。特にカレーが大好きで!ドラマ『六月のタイムマシン』で仲良くなった矢嶋由菜さんとは、たまにお家でお泊まり会をするんですけど、夜ご飯や朝ご飯を作ったりしています。カレーやお菓子作り含め料理において、私は何か一つのことにすごく集中してしまう癖があって、ハマるとずっと作り続けたり、「なんでこんな味になったんだろう」「なんでこのスパイスと食材は合うんだろう」と、深く掘り下げたり、研究するのが好きなんです。タルトの時期は「このタルトのサクサク感に一番合うフィリングは何だろう?」と没頭していました。料理は生活を担うものですが、自分の知的好奇心を探求するものでもありますね。

▼4.出演作について
ー:この春放送されたドラマ『六月のタイムマシン』では、小林みどり役でレギュラー出演されました。週刊誌記者であり、メインキャラクターのひとり柏木琉青の元恋人という複雑なキャラクターでしたが、どのように解釈し演じられましたか?
佐藤京:この役は以前ご一緒した本作の監督が、私の中にキャラクターの要素を見つけてくださったような「当て書き」の感覚もあったと言われました。みどりと私では、人に対する距離の取り方や、自分を守るためのカードの切り方が違いました。みどりは集団の中では求められる役割を全うしようとする姉御肌や責任感があるのですが、私自身はどちらかというと1対1の個人の間の関係性を大切にする節があります。
なので、役と私の真ん中を探す中で、集団の中では皆に求められる「みどり像」を演じ、1対1の場面では、その人の前だから現れるみどりのこどもっぽさや柔らかさといった素のパーソナルな部分を出すように構築していきました。人数構成によってみどりの印象が変わるように意識しましたね。人は集団でいる時と、どの人間と対峙しているかで違う面があると思うからです。
ー:『六月のタイムマシン』は、佐藤さんにとって「一つの作品に長く関わることが初めての挑戦となる緊張感」があったとコメントされていますが、どのような違いや新たな発見がありましたか?
佐藤京:これまでの単発作品では、すでに雰囲気の出来上がっている座組に飛び込むことが多かったのですが、今回はチームの皆さんとの関係性を、メインキャストとしてゼロから構築する初の現場だったので、そこに緊張感がありました。人と人とのコミュニケーションや空気感が多少なり作品に影響するので、約1ヶ月という期間の中でひとりひとりが心の柔らかいところを持ち寄って良い作品にできたらと思いながら、全員との関係性作りを意識していました。
ー:川上亮監督とは映画『札束と温泉』でもご一緒でしたね。監督とのやり取りで印象的なことはありますか?
佐藤京:はい。脚本をいただいた後、前作でもご一緒した小浜桃奈ちゃんと監督の3人で、台本の疑問点や「私はこう捉えたんですが、監督から見てみどりはどんな人物ですか?」といった密なコミュニケーションを取る機会をいただけたのが印象的でした。 監督から特に印象的なディレクションとして、私が持ってきたみどり像より「もっと精神年齢を落としてください」と言われたことが残っています。私が思っているよりも、つい感情的なスイッチを押してしまう、自分を守ろうとする時に出る荒さを、もう少し愛されるように役のバランスを求めているのだと感じました。現場に入ってからもシーンをすり合わせる時に、みどりの温度感や表現方法を細かく模索していました。また、この物語は人が亡くなる話ですが、監督はコメディを軸に流していきたい、シリアスで血なまぐさいものにせず、爽やかな部分や幼馴染6人の関係性を大切にしたいという主軸を意識されていたので、その兼ね合いを準備段階と現場でよく話しました。 キャストも皆仲良くなれたので、それが作品にも出たのだと思います。

ー:菅野美穂さんと赤楚衛二さんがW主演を務めた映画『近畿地方のある場所について』では永野遥役でホラー映画にご出演されますね。ホラーならではの難しさや挑戦はありましたか?
佐藤京:ホラー映画への出演は、純粋なホラージャンルとしては2作目です。ホラーは本当に苦手で、お化けもダメなんです。本作『近畿地方のある場所について」もオーディションに臨む前に「無理!!」と思いながら白石晃士監督の作品を拝見しました。 私の撮影は編集部の社内だけだったので、他のシーンがどうなっているのか台本で読んだだけでどうなっているのかはわからず、映像になったらどれだけ怖いんだろうと思いながら臨みました。恐怖シーンの体感としては意外とビビらずに済むと思っていたのですが、全てが揃った現場に流れる独特の空気感に、共演した赤楚さんとの演技シーンの気味悪さも加わって、テイクを重ねるとドッと疲れてしまって。自分がどれだけ心を準備しても、現場に行って衣装を着て、その空間に足を踏み入れた時点で初めて得られるものがあると感じました。白石監督の細部にわたる演出に集中したり、環境と対人に影響されたりしながら結局すごくビビりながら撮っていました。最後のOKテイクでは間合いがわからず、現場に置かれていた本棚にぶつかってしまったくらいでした(笑)。
▼5.故郷・秋田の影響
ー:秋田ご出身とのことですが、故郷の風土や経験が俳優としての感性や演技に影響を与えていると感じることはありますか?
佐藤京:秋田にいるときは言語化していなかったかもしれませんが、地方では関わる対象が限られるという点で、良くも悪くも感じていた「寂しさ」は影響しているかもしれません。私はいろんなことに疑問を抱く「なんで?なんで?」人間だったので、分からないことや理由を教えてもらえない時や、自分の体験した感覚にまだ言語や表現方法が追いついていない時などに一抹の寂しさを感じていました。「これはこういうものだから」と言われてきたり、一方的にまとめられそうになったりしたことに、飲み込めない違和感を感じることが当時は多かったのかもしれません。 だけど私が人を好きになったのも、秋田で過ごしてきたときに人のやわらかなところに触れてきたからだとも思います。「あったかいのに寂しい」。この温かさと寂しさが同居しうるという感覚は、私の根本の部分に共通しているのかもしれないと思っています。この「原風景」があるからこそ頑張れるし、夢を届けなきゃと思えます。
▼6.映画をご覧になるお客様へのメッセージ
ー:最後に、8月8日から公開される映画『近畿地方のある場所について』をご覧になるお客様へメッセージをお願いします。
佐藤京:映画館で見るというのは、私にとって「見る」という感覚より「体験」という感覚に近いと思っています。ぜひ映画館に来て、映画を体験した先で、何かを「見つけて欲しい」なと思います。

Hairmake:白銀一太(TENT MANAGEMENT)
Stylist:Peter Gunn Sho
佐藤京プロフィール
1997年11月21日生まれ。秋田県出身。
主な出演に映画「札束と温泉」越智遥役(監督:川上亮)、「STRANGERS」田村涼役(監督:池田健太)「いつもうしろに」由香子/だーこ役(監督:田中さくら)、「恋脳Experiment」黒岩藍美役(監督:岡田詩歌)、ドラマNHK「ユーミンストーリーズ-春よ、来い」都築奈々役など。25年は映画「近畿地方のある場所について」永野遥役(監督:白石晃士)、ドラマBS12「六月のタイムマシン」小林みどり役(監督:川上亮)、9月3日から配信されるPrime Video「セフレと恋人の境界線-恋人になれたら」(監督:山中瑶子)など出演作の公開が続く。
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