映画『水いらずの星』写真家として映画製作に関わるということ【前編】

映画『水いらずの星』写真家として映画製作に関わるということ【前編】

映画は撮影部隊だけがスタッフではない。
その後のポスプロチームしかり、宣伝チームにしかり関わっている人の数は計り知れない。
その中でも映画「水いらずの星」は特殊だ。
1st Generationの以前の記事でもとりあげたように、映画本編が、登場する男と女が夫婦として離れてから6年後再会したところから始まるということで、写真家の上澤友香がインスタグラム、ツイッターにて 「映画本編へと辿りつくまでの男と女の6年を写真で紡ぐ、インスタ限定アナザーストーリー。」と題し、その時代を日々更新し続けている。

写真家として映画製作に関わるとはどういうことか?前編と後編に分け、今回の【前編】では映画本編でもスチールとして参加した上澤友香さん自身に迫ります。

水いらずの星
©梅田誠弘 [左)川口ミリ 右)上澤友香]

■ 映画『水いらずの星』に関わる写真家・上澤友香インタビュー

▼1:写真家として活動し始めた経緯

-写真家として活動し始めた経緯を教えてください。

上澤友香
ずっと雑誌のカルチャーがすごく好きで。そんな中、通っていた高校の文化祭でパンフレットを作る係になり、その時に写真を担当したんです。
みんなが準備する様子をスナップしたり、バンドの演奏を撮影したりするうち、記録することや、本を作ることの楽しさをあらためて感じました。
今もそうなんですが、多分その頃から、写真で自分自身を表現するというよりは、その“時”を残すことに興味があって。大切な人との楽しい“時”をカメラに収めておきたいというのが、最初に写真を好きになった理由だと思います。

本当は大学で写真を学びたかったんですが、親に反対され、デザインを勉強することに。大学でも学内向けのフリーペーパーを作る機会があって、また写真を担当したんです。 いろんな生徒のポートレートを撮りました。
さらに当時、盛んになってきていたTwitter経由で、全国各地にいる、絵を書いている人や文章を書いている人に声をかけ、制作に参加してもらって。Web上で誌面のデータをダウンロードできるようにもしました。

思い返すとこの頃は、写真家に憧れてはいたのですが、どちらかというと「雑誌に関わりたい」という気持ちの方が強かった気がします。

しばらくして就職活動を始めるんですが、その最中に東日本大震災が起き、すべてが一旦ストップしてしまって。その時に、“自分の名前で、自分の言葉で発信している人たち”こそが、世の中に大きな影響を与えていると感じました。
自分もどこかに所属するよりは、一人でも活動していける人になりたい。そう思い、就職活動をやめて、写真の道に進もうと決意しました。

卒業制作では、友だちを中心に45人のポートレートを載せた写真集を作りました。卒業後は、写真家・三部正博さんのアシスタントを経て、2015年からフリーランスで活動しています。

▼2:写真家として、映画の現場に入りたいと思ったこと

-上澤さんが写真家として映画の現場に入りたいと思ったきっかけや理由にはどういった想いがあるのでしょうか?

上澤友香
そこまで詳しいわけではないんですが、やっぱり映画が好きで、これまで何度も救われてきました。
今、学生時代からの夢だった雑誌の仕事に関われてはいます。でも一方で、ずっと手元に残したい雑誌が減ってきている印象があって。たとえば20数年前の雑誌などをいっぱい持っているんですが、今自分が関わった雑誌を10年、20年後も残しているかといったらわからない。
でも、映画は何十年経っても色あせないし、「この映画といえばこのビジュアルだよね」と、みんなの記憶に焼きついていたりする。そういった長く残る何かに関わりたいという想いが大きいです。


-ちなみに、映画のスチール撮影の経験は、どの程度あったのでしょうか?

上澤友香
映画にスチールカメラマンとして入るのは、今回の『水いらずの星』が初めてでした。現場のことも、スチールとしての立ち振る舞いもよくわかっていないまま、参加させていただきました。
先ほどもお伝えしたように、何十年経っても色あせないものに携わってみたいという気持ちで参加し、とても貴重な経験をさせていただけて感謝しています。

水いらずの星
©上澤友香

▼3:アナザーストーリーを写真で撮ることになった経緯

-今回『水いらずの星』に初めてスチールとして入られたということですが、特に、“アナザーストーリーとして写真を撮る”ことになったきっかけにはどういった経緯があるのでしょうか?

上澤友香
最初は2022年の初夏ごろだったか、制作決定のプレスリリースのために何か写真が必要ということで、撮影の依頼がありました。
その打ち合わせをした時に、河野知美さんと出会い、初対面とは思えないぐらい意気投合したんです。2人とも黒いワンピースを着ていたことをよく覚えています。“アナザーストーリーとして、本編から6年前の男と女の姿を撮る”というアイデアは、河野さんが出してくださったんです。
数日後には撮影しまして、その写真はプレスリリースに載せるだけでなく、公式インスタグラムでも公開していくことになりました。

▼4:上澤友香が紡ぐアナザーストーリーはどのように撮影しているのか

-アナザーストーリーをどのように撮影しているのでしょうか?ストーリーとして描かれていない部分は、想像や男と女を演じる梅田さんと河野さんと話し合いや準備をして撮影に臨んだのでしょうか?

上澤友香
基本的には何も決めていませんでしたが、撮影場所だけは、作品の台詞から連想できるような海辺の街にしようという話になり、最初は横須賀に行きました。
いざカメラの前で具体的にどう振る舞ってもらうかは、かなり2人に委ねていた部分が大きいです。
アナザーストーリーの写真は4回に分けて撮ったんですが、その間にも2人はリハーサルをずっと重ねていたので、きっと彼らの中にどんどん生まれてくるものもあっただろうし、その時の感情や状況を楽しんで撮影する方がいいだろうなって。

面白かったエピソードとしては、三浦半島で撮影した時に、「すごく素敵だね。絵になるね」って3人で話していた家がありまして。その近くの道で撮影していたら、ある女性が「なんの撮影なの?」と話しかけてきたんです。
そうしたら、なんと彼女がその素敵なお家の方で。そこからトントン拍子に「うちを使っていいわよ」と言っていただいて、お家の中で撮影させていただけたんです。とても不思議な出来事でした。

また4回撮影していく中で、だんだん男と女の間に距離が生まれていくというのを意識していました。最後の方は2人で一緒に撮るより、一人ずつの撮影が増えました。特に女の心情とか、悲しい気持ちを大切に撮影していた気がします。

-アナザーストーリーを作り出すというよりは、お2人の動きを見て記録するところに徹している感じを受けました。

上澤友香
そうですね。アナザーストーリーはみんなで作りました。

▼5:上澤さんから見た連載の効果、印象とは?

オンラインメディアPINTSCOPEで河野さんが連載記事に上澤さんも写真家として参加されています。この連載についてどのような思いがありますか?

上澤友香
河野さんに寄り添って、一緒に戦うようなつもりでいます。毎回、“その時の河野知美”を撮り下ろすということをしていますね。河野さんの日記連載にはありのままの赤裸々な思いが綴られているので、私も写真を通して、ありのままの彼女を伝えたいという気持ちです。

河野さんが乳がんになったことは、同じ女性として他人事ではないし、それを読んでくれた周りの人たちからも、「いろいろ感じることがあった」と共感してもらえて。誰かの力になる連載だと思います。

水いらずの星
©上澤友香

▼6:この写真たちが本編にどのような作用をもたらすと思いますか?作用をもたらすといいなと思いますか?

-上澤さんが撮られている写真というものがどのようにこの作品に対して作用するか、影響するか、もしくは影響したらいいなと思いますか?

上澤友香
『水いらずの星』の男と女に愛着を持ってほしいなと思います。作品は2人が6年ぶりに再会するところから始まるのですが、アナザーストーリーの写真によって、その空白の6年間を想像してもらえたらいいなって。

写真がなかったとしても想像してもらうことはできるけど、あれば2人の背景やキャラクターがより視覚的に浮かぶんじゃないかと。「何があったのかな」とか、「6年前はこうだったのに切ないな」っていう気持ちも生まれると思いますし。

水いらずの星
©上澤友香

「映画本編へと辿りつくまでの男と女の6年を写真で紡ぐ、インスタ限定アナザーストーリー。」


映画『水いらずの星』

【クレジット】
タイトル:水いらずの星
監督:越川道夫 『アレノ』『海辺の生と死』『背中』
原作:松田正隆 『紙屋悦子の青春』『海と日傘』『夏の砂の上』
主演:梅田誠弘 『由宇子の天秤』『鬼が笑う』『かぞくへ』
河野知美 『ザ・ミソジニー』 『truth〜姦しき弔いの果て〜』
撮影:髙野大樹 『夜明け』
プロデューサー:古山知美
企画・製作:屋号 河野知美 映画製作団体
制作協力:有限会社スローラーナー/ウッディ株式会社
配給:株式会社フルモテルモ/Ihr HERz 株式会社
©2022 松田正隆/屋号河野知美映画製作団体

■Twitter:@Mizuirazu_movie
■Instagram:mizuirazu_movie

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