中川奈月監督作『彼女はひとり』現場でプロに学んだこと。福永朱梨がオーディションで見せた姿と素のギャップ。

中川奈月監督作『彼女はひとり』現場でプロに学んだこと。福永朱梨がオーディションで見せた姿と素のギャップ。

映画『彼女はひとり』が10月23日(土) より、新宿K’s cinemaをはじめ全国で公開される。今回、中川奈月監督と主演の福永朱梨さんのお二人を取材し、監督には本作の制作のきっかけを。福永さんには役作りにあたって取り組んだことを。撮影時のエピソードも含めて語っていただきました。

彼女はひとり
左)福永朱梨 右)中川奈月監督

映画『彼女はひとり』
<ストーリー>

高校生の澄子(福永朱梨)はある日橋から身を投げた。しかし、死ねずに生還してしまった。数ヶ月ぶりに学校に戻ってきた澄子は、幼馴染の秀明(金井浩人)を執拗に脅迫し始める。身を投げる原因を作ったのは秀明であり、秀明が教師である波多野(美知枝)と密かに交際していると言う秘密を握っていたのだった。その行為は日々エスカレートしていくが、そこには秀明との過去、そして澄子の家族に関わる、ある少女の幻影があった。彼女の孤独な復讐の行き着く果ては…

彼女はひとり
©2018「彼女はひとり」

■福永朱梨、中川奈月監督、インタビュー

▼『彼女はひとり』のはじまり

-今回の作品は、「立教大学 現代心理学部研究科 映像身体学専攻 2016年度修了制作作品」ということですが、学生の修了制作の枠に収まらないほどの要素やテーマ、そして構成といった脚本が練りに練られている印象を受けました。
中川監督が映画作りに当たって、作りたいジャンル・物語だったりとか、描きたい主人公などがあると思うのですが、本作の制作はどういった部分から始まったのでしょうか?

中川奈月監督
やりたい要素がいっぱいあって、私もどれが初めだったのか思い出せないぐらいです。まずホラーがやりたくて、幽霊に出て欲しくて、主人公は復讐をして欲しい。そして、主人公は女の子でやって欲しいという要素がありました。
特に主人公に関しては感情的であるというか、初期の考えでは暴力的な女の子であって欲しいというのがありました。原形の時には、ラストシーンで主人公・澄子と幼馴染の秀明と殴り合うような話の構想もあり、いろいろな要素を入れた結果、最終的な形になりました。

▼監督が感じた“ひとり”と物語

-タイトルが『彼女はひとり』であり、澄子の孤独という部分がクローズアップされてくると思いますが、その“孤独”という題材はどこから来たものでしょうか。

中川奈月監督
それはやはり自分の経験、20代前半の時期のものになります。私自身が社会から外れた存在かもしれないと思っていたことがありました。私は人と繋がることがそんなにうまくないというか苦手というのもあるのですが、人間って、いろんな人ときちんと関係をつないで繋がり合って生きていると思うんです。
その相手は恋人や家族だと思うのですが、世の中にはそういったことに不器用な人っていっぱいいるし、人同士の関係をつくろうとしていったにも関わらず、でもそこには行き着くことができなかった人たちもいるだろうなと思ったんです。
そこで弾かれた人を主人公の心情に混ぜていったら、良い形に物語ができました。

▼書いては消してを繰り返した脚本

-主人公・澄子を取り巻く環境に、大変多くの要素(幼なじみの3人、家族・父と娘、恋愛、教師と生徒、相手に求めるもの、承認欲求、復讐など)、いろいろ出てきたと思うんですけど、これを思いつき、一つにまとめることは大変な苦労だったのではないかと思いました。これらをどのようにまとめていったのでしょうか。

中川奈月監督
この形に至るまで、脚本をかなり書き直しました。いろんな要素を出しつつ、書いては消し書いては消しみたいなことをしていました。それがどんどんたまっていったんだと思います。登場人物の成り立ちみたいなものが、いろいろ作っていったものの中から凝縮して最終的にこの形に収まったかなというふうに思っています。
何か行動させるのに理由がなきゃいけないなと思いました。一人の登場人物がボーッとあるだけじゃ、どうしようもできないというか自分でもあまりうまく動かせなかったので、それぞれの理由を話のためにドンドン作っていったことが、きちんと最後に作品として生きたのかなと思います。

▼福永さんが書いた主人公・澄子の日記

-脚本をいただいて、役づくりをして、オーディションに臨む時はどのような感じでしたか?

福永朱梨
事前に脚本を読んでのオーディションへの参加でした。自分と主人公の澄子とは、あまり役と離れている感じがしなくて、無理せずにスっと役に入れた感じがありました。

彼女はひとり
福永朱梨

-福永朱梨さんが役作りにあたって、ご自分の年表を作って役と比較して臨むことをされているという話を目にしました。今回は何か工夫はされましたか?

福永朱梨
この時は、澄子の日記を書きました。澄子は何が好きでこれが嫌いでといった客観的なものではなく、澄子自身として、今日何があって、こういうことがあってという日記を書いていました。

-かなりの期間、その日記を書かれたのでしょうか?

福永朱梨

そうですね。現場に入る前も書いていましたし、現場に入って秀明と会ってから書いたものもありましたね。

-作品の中で言うと、映画で描かれる前のトラウマとなる出来事からラストに至るまでといった感じでしょうか?

福永朱梨

そうです。

▼素の福永さんと澄子とのギャップ

-オーディションはどういった形式でしたか?どんな感じで行われて、福永さんを選ばれた理由を教えて下さい。

中川奈月監督
2シーンぐらいお芝居をやってもらうオーディションでした。ペアで組んでもらって、いろんな人の組み合わせでやったんですけど、福永さんのときは秀明秀明と喋るシーンをやってもらったと思います。

-オーディションで使われたのは、劇中の実際のシーンでしょうか?

中川奈月監督
後半のシーンだったかな。

福永朱梨
結構、感情的になるシーンだったと思います。

彼女はひとり
©2018「彼女はひとり」

中川奈月監督
「どうぞ」と行って部屋に入ってきてもらった時の福永さんは、すごい怖い顔をされていたんです。その時私は、「怖いな、この子」と思いました。福永さんはそのオーディションの時に、血の通っていると言うか、とても良いシーンにしてくれて、「これは!」と思いました。
福永さん自身のことはよくわからないし、下手したら付き合いづらい人かもしれないという不安も抱えつつも、その時に福永さんにやってもらいたいと思いました。
その後で、(澄子ではなく)福永朱梨さんとして会ったら、もう澄子とは全く違うニコニコしている人でした。福永さんと何も無かったかのように喋って、「ありがとうございました!」、「よろしくお願いします!」といった感じで、そのギャップがすごいです。映画を観た後だと、皆さん気づかないんです。

彼女はひとり
©2018「彼女はひとり」

福永朱梨
『彼女はひとり』の上映が終わってすぐにロビーに立っていても、誰にも気づかれず「出演されていた方なんですね?」とびっくりされます。

-映画の中での特徴として、“笑わない”という点があったと思うのですが、感情の表し方として、気をつけていた点にはどういったものがあるのでしょうか?

福永朱梨

澄子は笑わない子と私が決めつけることはしたくなかったです。拒絶することでしか助けを求められず、誰かに甘えたり笑うことを忘れてしまった、という感覚で演じていました。

▼映画の外では和気あいあい

-共演者の方々とのエピソードを教えて下さい。作品的・役柄的に、共演者の方々とは拒絶や復讐といった関係性がありましたが、その共演者の方々とのやりとりでエピソードはありますか?

福永朱梨
待ち時間では、私は共演者の方々と和気あいあいと接していました。作品の中では、家族や幼なじみ同士の楽しい思い出を描いたシーンが全くなかったので、待ち時間に過去にあったはずの良い思い出づくりをしている感じでした。
秀明役の金井さんが集中しているときは、スッと距離を置いて、和気あいあいとできるときは、楽しく話してというのが多かったです。

彼女はひとり
福永朱梨

▼母校の特徴を活かす

-撮影場所として、山手学院を使われていますが、中川監督にとってはどんな場所なのでしょうか?

中川奈月監督
自分の母校である高校を使わせていただいて、そのまま学生さんたちにも来ていただきました。私の母校だということもあり、頼んだら割とスムーズにOKをいただいての撮影でした。門を入って校舎に行く間に長い坂があったり、屋上ではない途中の階に広いバルコニーのような場所があったり、使えそうなところはあるなと撮影前から思っていました。
校舎内に階段があるというのは芦澤さんたちにとってかなり大きい要素だったようです。私も面白いところだなと思っていたのですが、あれをどう活かすかは、あまり考えることができていませんでした。
それが、ロケハンに行ったときに芦澤さんたちのテンションが上がって、「こんな高校は見たことがない」という声が上がりました。「高校ってたいてい無機質でだいたい同じような廊下と白い感じで、どうしてもつまらなくなってしまうんだけれども、ここは場所的にもすごい面白い」と言っていただいて、「良かった…」っと思いました。場所に助けられたというのも大きいですね。

彼女はひとり
©2018「彼女はひとり」

▼現場でプロに学んだこと

-昨年の中川奈月監督特集上映の際に、撮影時に、芦澤明子キャメラウーマンの存在が大きかった話をされていて、撮影時に監督が戸惑われている時に助けられた話をされていたと思います。どういったことがあったのか教えて下さい。

中川奈月監督
そもそも映画を撮る・画作りを考えるといった所に、私がもう全くわからない状態でした。どう撮ったら、どう映るみたいな、スクリーンの大きさというものが自分の中で考えられなくて、こう撮っても、映る・映らないみたいなことの意識さえも素人な状態でした。
それを芦澤さんがしっかりセットして決めてくれて、「こうなるんだ…」というのをまず勉強させてもらいました。それを最初に芦澤さんに見せてもらえたということが、他の人には絶対できない経験で、ものすごい贅沢な時間だったと思います。

▼プロの画作りへの姿勢と現場

-階段のシーンの撮影エピソード
昨年開催された中川監督の特集上映の舞台挨拶でも話題になっていましたが、階段のシーンが印象的ですね。

中川奈月監督
自分の身近にあった母校の階段で、自分が知っている場所で撮らせてもらったんですけど、それを芦澤さんがすごい画にしてくださいました。階段を撮るために、柵(手すり)に足をかけて、そこから下に落ちたら死んでしまうような体勢で、「芦澤さん大丈夫ですか!?」という感じでした。いろんなところに果敢に行って、もうすごい画を撮ってくださいました。

福永朱梨
芦澤さんは屋根の上にも登っていらっしゃいましたよね。

中川奈月監督
屋根の上に登って撮って、そのときも屋根の上に置いた照明が一瞬落ちそうになって、照明の御木茂則さんがすんでで掴むっていう。すごいみんなでハラハラしていました。そんな姿を見て、「ここまでのことをして、画にするんだっていうふうな気負いというもの、これがプロなんだっていうものを見せてもらい、かつ、画もすごい綺麗に収めてもらって、すごかったですね。

▼福永さんの趣味。デジタルカメラを買ったものの…

-近況のお話をうかがおうと思います。福永朱梨さんは今年の春に一眼レフを購入したそうですが、

福永朱梨
元々カメラが趣味で、フィルムカメラで撮っていたんですけど、妹の結婚式があった時に、しっかりした写真を撮ろうと思って、デジタルカメラを購入したんです。ただ、今って、フィルムカメラが流行っていますよね。写ルンですとかが卓上にあって、出席者の人に撮ってもらうというスタイルが流行っていて、妹からも「デジタルカメラよりもフィルムで撮って欲しい」と言われて出番が無くなってしまったんです。なので家で猫の写真を撮るのに使っています。

-ちなみにどちらのカメラですか?

福永朱梨
SONYのα6100です。

▼中川奈月監督おすすめスイーツ

-監督の最近の趣味は何でしょうか?

中川奈月監督
最近は食というか「美味しいものを食べたい」という欲が増えてきています。私は神奈川県に住んでいるのですが、逗子にすごい美味しいパフェ屋さんがあるんです。とても芸術的な盛り方をするんです。そこにたまに行きます。そろそろシーズンメニュー的に終わってしまうと思うんですけど、私はイチジクが好きで、そのイチジクのパフェが毎年出るんです。それを食べに行って、1500円ぐらいするパフェを2個食いするという。ちょっと時間があるとパフェを食べようかなみたいな。

福永朱梨
高級ランチみたいですね。

彼女はひとり
左)中川奈月監督 右)福永朱梨

▼次回作、撮りたいものは?

-次回作として撮りたいものはありますか?

中川奈月監督
男女逆転した話をやりたいと思っています。ヒーローがいて、ヒロインを助けるという。悪い状況に囚われている人を助けるみたいなもので逆転したバージョンがあったら面白いなと思っています。ちょっとアングラで、ちょっとサスペンスを踏まえつつ…といった映画を何とかして撮れないかなと思っていて、その話を練っています。

-もう執筆は始めているんですか?

中川奈月監督
そうです。それを誰かプロデューサーさんがいいって言ってくれたらいいなと思っています。

-今回の上映が効いてくるといいですね。

▼やってみたい役

-福永朱梨さんの今後の抱負をお聞かせください。「何かアウトプットしていきたい」と書かれているのをインスタで拝見しました。

福永朱梨
25歳位まで、自分の年齢より下の役を演じることが多かったんです。高校生とか、舞台では男の子だったり、青年の役をやったりとか。実年齢に近いとしても、新社会人とか就活生ぐらいの年齢の役がすごく多かったんです。
顔つき的にも声とか的にもやっぱり年齢より下の役が多くて、母親の役とかに憧れがあったんです。最近ちょっとずつ新人・社会人じゃなくて、社会人四、五年目とか、若い妊婦さんの役が来たりして、ちょっとずつ年相応な役や少し年上の役も挑戦したいなっていう気持ちがあります。

▼本作の見所、好きなシーン、映画を観にいらっしゃる方へのメッセージ

-映画の見どころ、お好きなシーン、お客様へのメッセージなどをお願いします。

中川奈月監督
福永朱梨さんと金井くんが2人で喋ってるシーンが、すごく面白くて、台詞もすごく痛々しいというか、観ていてある種、スカッとする部分もあるんですけれども。最近は喋ってないときの福永朱梨さんの顔もじっと観てほしいなって思います。
そこには言葉を受けての福永朱梨さんの反応の顔に、すごくぐっとくるところがあるので、福永朱梨さんの顔がパッと映った静かなシーンを良く観てほしいなと思います。

福永朱梨
今回、全国公開っていうのが決まったので、今までに観てくださった方も、また何回でも観ていただきたいですし、いろんな年齢層の方、映画を今まであまり観たことがない方にも、ぜひ出会ってほしい作品だなと思うので、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。

彼女はひとり
左)福永朱梨 右)中川奈月監督

■映画『彼女はひとり』

<キャスト・スタッフ>
福永朱梨 / 金井浩人 美知枝 中村優里 三坂知絵子 櫻井保幸 榮林桃伽 堀春菜 田中一平 山中アラタ

脚本・編集・監督:中川奈月 プロデューサー:ムン・ヘソン 撮影:芦澤明子 照明:御木茂則 録音:芦原邦雄  整音:板橋聖志
編集協力:和泉陽光 音楽:大嶋柊 美術:野澤優 衣装:古月悦子 助監督:杉山修平 スチール:明田川志保 吉田留美 
特別指導:篠崎誠 

配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト 共同配給:ミカタ・エンタテインメント
2018/カラー/ビスタ/60分 
公式HP:https://mikata-ent.com/movie/884/
Twitter: https://twitter.com/kanojo_hitori

10月23日(土) より、新宿K’s cinemaほか全国公開

彼女はひとり
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