映画「渇愛」の公開記念舞台挨拶が5月17日(土)、上映後のイベントとして池袋シネマ・ロサで開催された。本作は、「痩せなければ愛されない」という考えに囚われ、次第に摂食障害に陥る大学生の早紀の物語を描く。元小学校教師である岩松あきら監督が、かつての教え子から聞いた実話を基に12年の歳月をかけて完成させた渾身の一作だ。この日の舞台挨拶には、主演の石川野乃花(早紀役)、共演の加藤睦望(早紀の姉・翔子役)、獅子見琵琶(トモエ役)、そして監督自身が登壇。さらに、『侍タイムスリッパー』で知られる安田淳一監督が応援ゲストとして駆けつけ、作品への熱い思いや撮影秘話などが語られた。

岩松監督は、「この映画を作ろうと思ってから12年」を経てようやく公開を迎えられた喜びを語った。作品完成のために「24年間務めた教員を辞めて」制作に取り組んだことを明かし、出演者・スタッフ「全て手弁当で、もう純粋に良い映画を作りたい。この思いだけで作ってきた映画です」と、多くの人の協力と思いが込められた作品であることを強調した。教師を辞めて作ったこの映画を「絶対に後悔しないように」と、上映が終了する日まで毎日チラシ配りやSNSでの発信など「全力でやっていく」と決意を述べ、観客に「何か感じることがあれば、周りの人に伝えて応援してほしい」と協力を呼びかけた。

主演の石川さんは、公開を迎えての反響として、「摂食障害と戦っている方がインターネットで映画を知ってお越しくださった」ことに触れ、「じわじわと広がっているのを感じている」と語り、より多くの人に見てもらえるよう最後まで頑張りたいという思いを語った。本作にはルッキズムや摂食障害といった言葉が関わるが、それだけでなく、親世代や同世代、それぞれへのメッセージが込められていると観客に語りかけ、観客が感じたものを自分たちに届けてほしいと願った。

早紀の姉・翔子役を演じた加藤睦望さんは、撮影当時を振り返り、監督の家での合宿中に石川さんが「お金ないんだからご飯くらい作るよ」と安い食材で料理を振る舞ってくれたエピソードを語り、これがまさに「手弁当」だと実感した記憶が蘇ったと述べた。特に「カレーがおいしかった」と思い出を共有した。観客には、映画を見た感想をSNSなどで発信し、今後の参考にしてほしいと呼びかけた。

施設での先輩・トモエ役の獅子見琵琶さんは、12年という歳月を経て出演者たちの変化に触れ、特に石川さんの成長に言及した。撮影当時の思い出として、石川さんが撮影後に「見たことないスアマ」などを美味しそうにたくさん食べていた様子を明かした。映画はたくさんの人の思いで作られており、より多くの人に見てもらうため、来場者に「お二人ずつに紹介してほしい」と協力を仰いだ。また、劇中でぶちまけたみかんは無駄にせず皆で食べたという裏話も披露した。

応援ゲストの安田淳一監督は、岩松監督との出会いが15年以上前に愛知県で開催されていた岩松監督主催の映画祭だったと紹介。落選した人にも丁寧なメールを送るなど「ホスピタリティ」が高く、自身の初めての自主映画を上映してもらい、その後の映画制作のきっかけになった人物との出会いもあったと、岩松監督への「恩」があることを語った。岩松監督とは17年来の付き合いで、互いの制作現場にも足を運び合う「戦友のような存在」であると紹介された。

本作を鑑賞して「すごいものを作ったな」と驚きを表明した安田監督は、映画の内容を「ホラーでもあり、強烈なカルトムービー」と表現。「好きな人はめちゃくちゃはまるんちゃうかな」という可能性に言及し、映画を通して「摂食障害で苦しまれている方たちの苦しみを体験できる」ような感覚があったと述べた。キャストの演技を「脱帽」「すごい」と絶賛し、特にスキンヘッドにするなどの役作りや若い女優たちの演技を高く評価した。また、撮影や照明といった技術面もインディーズ映画としては「すごいレベル高い」と称賛した。
観客へのメッセージとして、安田監督は「かなり覚悟して見に来て欲しい」と述べ、「刺激はまあ強い」と伝えつつも、この映画は一度見て判断してほしいと語った。そして、岩松監督が12年かけて多くの人に手弁当で手伝ってもらって作り上げた映画であることを踏まえ、観客にはSNSで「なるべく肯定的な感じ」で「応援してあげて欲しい」と強く呼びかけた。
現代社会が直面する深刻な問題に鋭く切り込む映画『渇愛』は、監督の情熱と多くの人の熱意、そして手弁当での協力によって生み出された。岩松監督は改めて、「何か感じることがあれば、周りの人に伝えて応援してほしい」と訴えた。劇場ロビーでは、女優・遠野なぎこさんの寄稿や監督と石川さんの対談を含むフルカラーのパンフレットが1000円で販売されていることも告知された。
映画『渇愛』は、5月16日(金)から池袋シネマ・ロサにて公開された。今後、第七藝術劇場、シネマスコーレ、刈谷日劇ほか全国で順次公開される予定。
映画『渇愛』
<あらすじ>
大学生の早紀は、はたからは家族関係も問題なく平穏な生活を送っていたが、心の奥に孤独を抱えていた。ある日、彼女
はキャンパスで玲奈の存在を知り、一気に魅了される。玲奈のように痩せて美しくなり、誰からも愛されたいという思いが
芽生えるが、早紀と玲奈の関係は悪化。傷ついた早紀は、そのストレスから食べ吐きを繰り返し、摂食障害に陥ってしまう。
治療のため山奥の施設に入所し、入所者との共同生活を送るが、その先には予想もしない出来事が待っていた…
出演:石川野乃花、新藤栄作、大島葉子、加藤睦望、火田詮子、高橋慎祐、
獅子見琵琶、大路絢か
監督・プロデューサー: 岩松あきら
脚本: 清水雅人
撮影: 沓澤武志
音楽: パウロ鈴木。
配給: ラビットハウス
2025年/カラー/16:9/5.1ch/137分
■公式サイト https://www.mikawaeiga.jp/ben-joe
5 月16日(金)より、池袋シネマ・ロサ
第七藝術劇場、シネマスコーレ、刈谷日劇 ほか全国順次公開