濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』、コンペティション部門正式出品作品 銀獅子賞(審査員大賞)を受賞

濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』、コンペティション部門正式出品作品 銀獅子賞(審査員大賞)を受賞

第80回ヴェネチア国際映画祭の授賞式が、現地時間9月9日19時(日本時間9月10日AM2時)より開催され、コンペティション部門へ正式出品された濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』(英題:Evil Does Not Exist)が、最高賞の金獅子賞に次ぐ「 銀獅子賞(審査員大賞)」を受賞した。

悪は存在しない
© 2023 NEOPA / Fictive

濱口竜介監督は、映画『偶然と想像』(21)で第71回ベルリン国際映画祭の審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞、映画『ドライブ・マイ・カー』(21)では第74回カンヌ国際映画祭で日本映画初となる脚本賞を含む計3部門を受賞しており(第94回米アカデミー賞で国際長編映画賞も受賞)、それに続くヴェネチア国際映画祭での受賞という世界3大映画祭を制覇する快挙となり、日本人では黒澤明監督以来となる。

※さらに今回、映画祭本体とは別機関からの「並行賞」として、「国際批評家連盟賞」(国際映画批評家連盟によって選ばれる、ヴェネチア国際映画祭の独立賞のひとつ)、「映画企業特別賞」(「企業の倫理」について考察を与える映画に送られる賞)、「人・職場・環境賞」(特に「環境問題」に対する現代的アプローチに対して)の3つの賞も受賞している。

■ 濱口竜介監督(オフィシャルレポートから)

▼授賞式にて

濱口竜介監督
本当にありがとうございます。
このような素晴らしい賞をいただけるとは、この企画が始まった時は思いもよりませんでした。音楽の担当でもありこの企画の発案者でもある石橋英子さんに感謝をしたいと思います。
彼女の音楽が、私を今まで体験したことがないところへ導いてくれました、そして主演の大美賀均さん、そこで(客席を指差し)カメラを構えている撮影の北川喜雄さん、この3人で脚本を書く前に一緒にドライブをして薪割りをしてこの映画をどのようなものにしようかと考えていました。この旅をしながらここまで来られて嬉しく思っています。そしてキャスト、スタッフ全ての力があってこのような素晴らしい賞をいただけたと思ってます。

大美賀均
私からは一言だけ。(企画・音楽)石橋英子さん! 獲りました。ありがとうございました。

▼授賞式後の公式カンファレンスにて

-タイトルが付いた経緯、小規模での制作体制について

濱口竜介監督
 まず、石橋英子さんの音楽にどのような映像をつけるか?というお題をいただきました。その音楽に合う音楽に合うモチーフを探して自然というものを撮ることになりました。そして自然に向き合っている時にふと浮かんだのが『悪は存在しない』という言葉だった。自然の中に悪意を見出すことは難しく、一方でこの映画全体として本当に悪がないということを表現しているかというとそうではなくて、それは分からないと思います。そこには自然だけがあるわけではないからです。
 この映画はアートハウス系の映画でかつ非常に小規模のチームで作られました。小規模で自由に作った映画がこのように評価を受けるということは、映画制作の見方そのものを変えるきっかけになるのではないかとは思います。

悪は存在しない
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▼メディア囲み取材にて

悪は存在しない
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受賞の一言

濱口竜介監督
本当に素晴らしい賞をいただいて信じられない気持ちです。

企画を始めた当初は、海のものとも山のものともつかないような企画ではあったので、ここまでたどり着けたことも素敵だと思いますし、それは本当に関わってくださった皆さん、特に発案者でもある石橋英子さんの力はとても大きいと思います。そして、

キャストスタッフの皆さんの力があったおかげで、ようやくこういう結果に結実するようなそういう映画ができました。

大美賀均
先ほど濱口監督がお話されていますが、すごく小さなチームから始まりました。濱口監督、撮影の北川喜雄さんと自分と3人でシナハン(=ロケハンの前の脚本を書くために現地を回ること)に回っていたんですが、そこからスタッフが徐々に増えていき、撮り終わった頃には、本当にこんなにちゃんと撮るなんて思ってもみなかったです。その頃の想像よりはるかにすごいところまで連れてきていただいてありがとうございます。またスタッフさんはじめ、キャストの皆さん、現地で協力してくれた方々に本当に感謝しています。

-授賞式の壇上のスピーチでおっしゃっていましたが、受賞の時の「景色」というのはどういったものだったのでしょう?

濱口竜介監督
隣に大美賀さんがいて、目の前に撮影の北川さんがいて、あと他にもチームのメンバーがいてくれて、光って見えるというか、このチームでやってこれたことを本当に良かったなということを思い、胸がいっぱいになった感じがしました。

ー今回のコンペティションの中でアジアの作品として唯一だったと思うのですが、それについては?

濱口竜介監督
それは選考する側の問題なので、ちょっと分からないです。コンペで他の作品も観たかったですが観られなかったですし、全体的にどういう風に自分たちの作品が位置付けられているか分かりませんけれども、きっと他にもいいアジア映画があったと思います。たった1本であったというバランスについて、選んでいただいたこと自体はとてもありがたいことですけれども、そのバランスは本当なのかっていうことは多少思うところではあります。

-ベルリン国際映画祭での『偶然と想像』に続いて2回目の準優勝のような感じですが、ちょっと金(最高賞)、とりたかったなみたいなことはありますか。

濱口竜介監督
そういう思いは、本当に少しもないです(笑)。そもそもはこうやってコンペに選ばれるとも思ってなかったですし、こうやって賞をいただくことも思ってもみなかったので。そういう気持ちもそもそもないですね。それが正直なところです。自分達にとっては一番いいものをいただいたという感じです。


■ 映画『悪は存在しない』

映画『ドライブ・マイ・カー』(21)で初顔合わせした濱口竜介(映画監督)と石橋英子(音楽)による共同企画。はじまりは、石橋がライブパフォーマンスの為の映像を濱口に依頼したことで、濱口はこれを快諾。2人による「音楽×映像」プロジェクトがスタートした。その音楽ライブ用の映像を制作する過程で、106分の長編劇映画『悪は存在しない』が完成した。
また、『悪は存在しない』と共通の映像素材からつくられた石橋英子の音楽ライブ用サイレント映画『GIFT(ギフト)』は、10月にベルギーで開催されるゲント国際映画祭で初お披露目となり、それ以降、石橋によるライブ・パフォーマンスとともに世界各地で上映が予定されている。

※本作は、『ドライブ・マイ・カー』以降の濱口の長編映画最新作品となる

悪は存在しない

▼あらすじ

自然が豊かな高原に位置する長野県水挽町は東京からも近いため、近年も移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧とその娘・花の生活は自然のサイクルに合わせた慎ましいものだ。ある日、巧の家の近くでグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりで経営難に陥った芸能事務所が政府からの補助金を得て、その設営を計画した。しかし、彼らが町の水源に汚水を排水しようとしていることがわかり、町内は動揺し、その余波は巧の生活にも及んでいく。

【プロフィール】

悪は存在しない
濱口竜介

濱口竜介(映画監督)
2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。その後も317分の長編映画『ハッピーアワー』(15)が多くの国際映画祭で主要賞を受賞、『偶然と想像』(21)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グラランプリ)、『ドライブ・マイ・カー』(21)で第74回カンヌ国際映画祭脚本賞など4冠、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞。地域やジャンルをまたいだ精力的な活動を続けている。

悪は存在しない
石橋英子

石橋英子(音楽家)
石橋英子は日本を拠点に活動する音楽家。ピアノ、シンセ、フルート、マリンバ、ドラムなどの楽器を演奏する。Drag City、Black Truffle、Editions Mego、felicityなどからアルバムをリリース。2020年1月、シドニーの美術館Art Gallery of New South Walesでの展覧会「Japan Supernatural」の展示の為の音楽を制作、シドニーフェスティバル期間中に美術館にて発表された。2021年、映画「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当、World Soundtrack AwardsのDiscovery of the yearとAsian Film Awardsの音楽賞を受賞。2022年「For McCoy」をBlack Truffleからリリース、アメリカ、イギリス、ヨーロッパでツアーを行う。2022年より英ラジオ局NTSのレジデントに加わる。

【製作概要】
製作:株式会社NEOPA/合同会社フィクティヴ
プロデューサー:高田聡
企画・監督・脚本:濱口竜介
企画・音楽:石橋英子
撮影:北川喜雄
録音・整音:松野泉
出演 :大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁ほか
© 2023 NEOPA / Fictive

2024年、公開予定

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