映画ゆい

映画『ゆい』舞台挨拶レポート —— タイトルに込められた「結び」の願いと、実話が生んだ奇跡

2025年12月6日(土)、横浜シネマ・ジャック&ベティにて、京浜ビデオ企画が主催するインディーズ映画の祭典『第四世界 (not) 3D』が開催。「個人の情熱と狂気」をテーマに掲げた本映画祭。Aプログラムの上映作品の一本として、実話を基にした中編映画『ゆい』(寺本勇也監督)が上映された。本作は、中学3年生で急性骨髄性白血病と診断された少女・町田くるるが、闘病中に「小山田優生(ゆいちゃん)」という少女の動画と出会い、生きる勇気を取り戻していく物語。上映後の舞台挨拶には、以下の4名が登壇し、制作の経緯や作品に込めた想いを語った。

■ 映画『ゆい』舞台挨拶レポート

【登壇者】

  • 寺本勇也(監督・撮影・編集)
  • 土井康平(脚本)
  • 鈴木心緒(町田くるる 役)
  • 町田くるる(本人)

「ゆい」=「結い」:タイトルに込められた意味

冒頭、脚本とプロデューサーを務めた土井康平氏は、タイトルの由来について語りました。 「『ゆい』という題名は、亡くなった『ゆいちゃん』の名前であると同時に、『結ぶ』と書いて『ゆい』とも読みます。この作品がいろんな人の『結び』になればいいなと思って作りました。」 その言葉通り、本作は人との繋がりを温かく感じさせる作品として、会場の観客に届けられた。

講師と生徒としての出会いから映画化へ

本作制作のきっかけは、土井氏が演技講師を務めていた学校に、モデルとなった町田くるるさんが生徒として入学してきたことでした。 「(以前から)ゆいちゃんの話を聞いていて、その次に町田くるるさんが入学してくるという話を聞き、そこでぜひ撮りましょう、撮ってくれという話になり、長い時間をかけて考えた作品です」と土井氏は振り返った。

作家性を封印し、企画に寄り添った演出

メガホンを取った寺本勇也監督は、実はアクションやバイオレンス作品も得意とする映像作家(同映画祭 Cプログラムでは、ハードな作品『傷』も上映)。 しかし本作では、「ターゲットが明確で、やりたいメッセージ性が具体的だったため、企画に寄り添えば問題ない」と考え、あえて自身の作家性を前面に出さず、実話の重みとメッセージを素直に伝えるしっとりとした演出を心がけたと語った。 土井氏も、YouTubeに上がっていた「ゆいちゃん」の別作品の世界観やトーンを崩さずに作れる人物として、長年の信頼がある寺本監督に依頼したことを明かした。

実在のモデルを演じるプレッシャーと感謝

主人公・町田くるる役を演じた鈴木心緒さんは、「実際にあった話を元にしており、ご本人も実際に闘病されている方もたくさんいる中で、“浅いな”と思われないようにしなければというプレッシャーが常にありました」と、役作りにおける葛藤を吐露した。

その言葉を受け、モデルとなった町田くるるさん本人は、完成した作品について次のように語った。 「自分が経験したことが、ここまでちゃんと誰かの心に残るような作品にしていただいて、改めて見ても『この作品は刺さるな』と思うところが何度もありました。」
自身の過酷な経験が映画へと昇華され、誰かの心に届く作品になったことに、深い感謝を示した。

映画館を超えて広がる「結び」

本作は映画祭での上映にとどまらず、看護学校の授業や実際の病院内でも上映されるなど、医療の現場でも活用されています。また、日本赤十字社の協力も得ているとのことですが、舞台挨拶では司会者がかぶったスイス国旗の帽子を赤十字のマークと似ているとた見間違える一幕もあり、会場の笑いを誘った。

映画『ゆい』は、そのタイトル通り、映画という場所を通じて、患者、医療従事者、そして観客たちの心を「結ぶ」役割を果たした。

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Hajime Minamoto

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