10月9日(土)渋谷ユーロスペースにて、映画『由宇子の天秤』の上映後トークイベントが行われた。登壇者は、河合優実、梅田誠弘、春本雄二郎監督の3名。トークイベントでは、キャスト起用のきっかけやオーディション時のエピソードなど、注目の集まる若手女優・河合優実にスポットをあてた話が披露された。
『由宇子の天秤』では、梅田誠弘と河合優実は父(小畑哲也)と娘(小畑萌)を演じている。
■映画『由宇子の天秤』河合優実x梅田誠弘x春本雄二郎監督トークイベント
トークイベントは、春本雄二郎監督が司会を務め、登壇した河合優実さんをメインに話がすすめられた。イベントは春本監督が河合優実さんに聴きたかったこと、河合さんのパーソナルな部分、そして、役に関して深く掘り下げた話が披露された。
▼春本監督と河合優実さんの出会い
春本雄二郎監督
まず、私と河合さんの出会いからの話になります。代々木上原の喫茶店で、2年前…2019年の多分、春から夏の手前ぐらいだったような気がします。その時は河合さんは確か18歳でしたね。お若い方で、鈍牛倶楽部という事務所に所属されていらっしゃるんですけれども、そちらに所属されている国実さんという方から、「すごく良い俳優さんが入ったので、ぜひ会ってもらえませんか」っていう形でご提案をいただきまして、初めて代々木上原の喫茶店でお話をしたんです。
まず、映画の話をしましたよね。その時、あまり緊張してるように見えなかったんです。
河合優実
よく言われます。本当に緊張してるんですけど、してないように見えると言われます。
春本雄二郎監督
落ち着いて見えるんですよ。今日もそう見えるじゃないですか、緊張していますか?
河合優実
冒頭の挨拶で噛みました…。
春本雄二郎監督
河合さんは自分の思いを持ってる意見をはっきり言える方だったんですよ。20歳以上も歳が離れているオジサンに、「私はこう思います。こういう映画が好きです」と。それで「あぁ、なるほど」みたいな。
なので、僕の第一印象としては、この方は何か自分の考えがしっかりされてる方なんだなと思いました。
その時話した段階だとキャスティングっていうところまでは踏み込めないので、実際にワークショップに参加していただいたんです。その後に初めてワークショップに参加してもらいました。僕のワークショップ
は一日目が自己紹介で、自分自身がどういうふうに生きてきてなぜ俳優をやっているのかっていう、その哲学というかパーソナリティを伺うんです。13人~15人ぐらい参加してたんですけど、僕は意地悪なので彼女を一番最後にしたんですよ。
河合優実
覚えています。自分の名前がなかなか呼ばれないなぁと思っていました。「ただの自己紹介ではないようにしてください」とは言われていませんでしたが、そういう意図があるってことはなんとなく感じていました。どんどん前の人が違うことをしていくから、自分のカードが無くなっていって、そんな中で最後になってしまったので、いやだなと思っていました。
春本雄二郎監督
自己紹介って、だいたい皆さんもわかると思いますけど、名前言って、生年月日を言って、出身地を言って、趣味とか特技とか、当たり障りのないことを言うんですが、それって単なる情報なんですよね。
その情報について、僕は全然興味がないんです。その人自身が、何で俳優をやっていて、どういうきっかけがあってどういう生き方をしていて俳優を目指すことになって、どういう考え方を持ってるのかっていうのを知りたいんです。だから、「情報は要らないです」って、僕はいつも最初に言うんです。みんなが急にそこで考え始めるんです。
そこで河合さんは、一般的な情報じゃなくて、ストーリーを話してくれたんです。それがとてもよく表現されていたんです。
▼女優・河合優実。表現者としての素晴らしい技術
春本雄二郎
僕が今日、河合さんに聞きたいと思ったことがあります。河合さんは18歳という年齢で、表現者として素晴らしい技術と発想力を持っているなと思ったんです。僕のワークショップは3日間やるんです。
1日目は自己紹介で、2日目3日目で2人芝居をやって、3日目で1人芝居をやっていくんです。
自分一人でストーリーをそのまま組み立ててやらなきゃいけないっていうお題を出すんですよ。みんながみんな同じような設定でやるんですけど、彼女は最後に1人芝居をやってもらったとき、本当にアイディアに富んでいました。
ワークショップは公民館の一室でやるのですが、みんなその部屋で同じような設定でやるんです。彼女は一人だけ、部屋の外の廊下から始めたんです、覚えてる?
河合優実
何の設定で始めたんですかね。
春本雄二郎監督
自分がいじめられているっていう設定でした。
河合優実
電車じゃない方ですか?
春本雄二郎監督
電車じゃない方。学校の廊下でしたね。
河合優実
思い出しました。
春本雄二郎監督
トイレに逃げ込んでくるところからスタートしていました。こういう設定で来る人って、初めて見ました。その会場の廊下を使う人って初めてだったんです。
設定は、「あなたは今、解決しなくてはならない心の葛藤を抱えています。そこで誰かに電話しなくてはいけません。そこで自分が言えないことを告白してください。それが解決するかしないかをおいてまた電話を切ります。」というものでした。
そしたら、みんながだいたい板付き(その場に舞台があったらそこからスタート)するんですけど、河合さんは廊下からやったんです。誰かが外にいる設定で、何か叫び声というか「やめて!」みたいなこと言って、中に入ってきたんです。それ以前の話があるみたいな。
入り方からもう全然他の人と違うと思いました。でも、「そこで何があったんだろう」って、見ている監督も俳優も一気に惹きつけられたんです。すごい想像力だなと。
それが何でかなと思ったんですけど、1日目のプロフィール・自己紹介をしてもらうときに、河合さんは1人でミュージカルを作っているという話をされていたんです。あれはどういうものなのか具体的には聞いていなかったので、それを聞きたいです。
河合優実
事務所を探してるときに目を引くかなと思って、“1人ミュージカル”ってプロフィールに書いていまだに残っています。超恥ずかしいのですが、消すタイミングを失っています。ミュージカルが好きで、家で好きな曲を流して歌って踊っているだけなんです。誰かに見せたりとかではないんです。
春本雄二郎監督
文化祭の時にもミュージカルをしたとおっしゃってましたね。
河合優実
文化祭とか体育祭が盛んな高校だったので、みんなの熱の入り方もすごかったですし、私もそういうことが大好きでした。“何とかリーダー”があったら全部やるみたいな。音源編集とかダンス部もやっていたんですけど。何かを作ったりまとめたりいろいろやっていて、「コーラスライン」という舞台に立つオーディションをする話のミュージカル作品をモチーフにして、自分たちの3年C組のドキュメンタリーというか、文化祭でオーディションをするような話を自分たちで書きました。私自身は書いていないんですけど、そのプロデュースというか、原案・振付・演出みたいなのをいろいろやって、そういうことを高校生の時に楽しんでいました。
春本雄二郎監督
だからこその何か想像力というか、表現力があるのかなって、僕は思ったんです。だから人に伝えるということ・こうすればこうなるっていうのをわかっているのかなって。
河合優実
それは考えていなかったです。ただ、お芝居をやってみたいというのもダンスから始まっています。
春本雄二郎監督
ダンスを始めたのはいつ頃ですか?
河合優実
ダンスは小学校のときからやっていて、高校もダンスが盛んでダンス部もやっていて、演劇だったりとか、ダンス、歌とかでステージに立つことがとにかく楽しいという感じでした。
▼河合優実:表現する仕事に就きたいと思った理由
河合優実
自分が楽しいっていうことしかなかったです。何か人に見せたり、自分たちが作ったものを見せて、そこで笑ってくれたり泣いてくれたりする顔を見るっていうことは、これ以上楽しいこと、自分の人生に多分これから先に起きないと思って、そういう道に進みたいと思って、お芝居の方に気が向きました。ダンスをしたいというふうにはならなくて、何かお芝居で表現する仕事に就きたいと思いました。
春本雄二郎監督
そして、良い事務所に入りましたね。
河合優実
はい。ラッキーだと思っています。
春本雄二郎監督
鈍牛倶楽部は良い役者さんがたくさんいる事務所で、光石研さんもそうですし、本当に良い事務所に入られたなと思っています。僕はそのきっかけがなければ知り会うこともできなかったです。
僕は一番難しい萌役を誰にやってもらえばいいか考えていました。とてもじゃないけど、萌は実年齢の子は、それが17歳18歳の子でも難しいんじゃないかと思ったんです。でも「いたっ!」という。奇跡ですね、本当にありがとうございます。
▼梅田誠弘から見た河合優実。二人の化学反応
春本雄二郎監督
ここからさらに踏み込んでみます。
河合さんがこの映画に関わることになったそのワークショップをやったことによって、私は彼女の表現力・想像力は、もう申し分ないと思ったんです。なのでもう即そのままやっていただくっていう形でお話を進めました。
そこで梅田誠弘がもう哲也をやることは決まっていたので、彼と河合さんは、どういう化学反応が起きるのかっていうことを見たいと思って、ワークショップにまた参加してもらったんです。ただ、その時は2人は絡みはなかったんですよね、確か。
河合優実
はい、写真だけ撮りました。
春本雄二郎監督
梅田さんは、河合さんをみてどう思いましたか?
梅田誠弘
設定を作って自分でそこに入り込んでるっていう、その設定を作るのがうまいなと思いましたし、それに見入ってしまいました。それが何なのか・あれは何なのかというのはずっと考えています。
春本雄二郎監督
河合さんは、観ている人を引き込む力がとにかくすごいんです。
河合優実
今後やりづらくなるんで…(汗)
春本雄二郎監督
褒め殺さないほうが良い?
▼はじめて台本を読んでの感想
春本雄二郎監督
『由宇子の天秤』の台本をお渡ししたんですけど、そのときその自分が萌という役を初めて読んでみて、やるってなったときにどう思われました。
河合優実
そうですね(お芝居をはじめて)1年目でしたし、経験もなかったので。そういうタイミングでやっぱり今思うとボリュームもあるし、複雑な台本だったなと思っています。読むので精一杯だった部分もあったんですけど、当時どう思っていたのかな…
でも、家族の目線でみていた気がします。萌っていう立場じゃないかもしれないけど、由宇子にとってみたら自分の家族が、自分を信じてきた正義を揺るがす出来事に関わってしまったという、そういう実感みたいなものが一番最初にありましたね。
萌を演じるっていうのはやっぱり不安もあったし、プレッシャーではあったのかな。でも楽しみの方が大きかったですね。「本当に私がやっていいんですか?」みたいな。
国実さんにご紹介いただいて、代々木上原のカフェで春本監督にお会いした時に、「いや、僕はものすごい信頼してる方に紹介していただいたとしても絶対オーディションには来てもらわないと使うことはないんだよ」みたいなことを…
春本雄二郎監督
そんな言い方していましたか?(汗)
河合優実
言い方はちょっと盛っているかもしれません(笑)
監督から優しく、「1個フィルターをちゃんと通します」っていうことを言い渡されたので、これはちゃんとやらないといけないなと思って、ワークショップに行ったので、それを任せてもらえたっていうことはまずすごく嬉しかったです。楽しみでした。演じるのが。
春本雄二郎監督
本当に難しい役で、一番難しいのは、“どうして彼女がそういう選択をせざるを得なかったか”っていう、三石さんとだったり、別の部分ですね。ダイチとかに言われている部分なんですけど。そこら辺を僕はあんまり掘り下げたくないというか、僕自身の解釈を俳優に与えてしまうことによって想像力が限定されてしまうっていうのは望むところではないので、俳優部とそういう設定の詳しい話をしないんです。
台本を読んでもらった人たちに、それぞれの想像力でこの人間のバックグラウンドはこうだっていう歴史はこうだって。当然僕にはそれがあるんですよ。
河合優実
脚本上、物語上掘り下げてないじゃないですか、萌の。
春本雄二郎監督
本当は裏で何があったのかっていうことですよね。
河合優実
その答えも言われてないし、でも話し合わないと。私はそこがずれるのが怖いと思っていたから、今でもどういう流れでそういうことに至ってしまったのかっていうのは、何度も話した記憶があります。
正直、明確なものを撮影当時もしっかりと決めてるわけではなくて、すごい迷いながら、いろいろ想像しながら、「こうだったのかな?」と思って、信じるしかないみたいな状況でやってました。
春本雄二郎監督
それが大事だと思うんです。「こうだ」っていうふうに一つの答えが提示されてしまうと、そこから演技の幅が広がらないと僕は思っています。想像力が固定化されてしまう・なぞってしまうっていうのを僕は一番恐れていて、僕の解釈と俳優部の解釈が重なる部分があればそれでいいと思っているんです。
あえてそこは答えは出さない。俳優部にも常にその現場に入る直前まで考え続けてもらうっていう。意地悪なんですよ、簡単に言うと。
▼梅田誠弘 x 河合優実 のリハーサル
春本雄二郎監督
では実際に、梅田さんと親子関係のリハーサルをやっていく中で、初めて梅田さんと芝居をしたときは。最初、どういう印象でしたか?
河合優実
リハーサルでは、想像を楽しんでいた時間だった気がします。つかみかかるシーンから始まったんですが、そこが初のお父さんとのシーンで、やっていて楽しいはずのシーンではないんですけど、私はすごい楽しかったですね。
どうやって距離を取っていくのかみたいな。(その時の)梅田さんは躊躇もないですし…躊躇というか、そのシーンでの役的な部分ですけど。
梅田さんって寡黙な方じゃないですか。それなのにお芝居になったら急に、その線はもう軽々とまたいでくる方なんで、そういうことがあった方が楽しみです。
春本雄二郎監督
梅田さんは河合さんに何か聞きたいこととか、あのときどう考えてたのかとか、なんかそういうのありますか。
梅田誠弘
僕は、あまり関係とか役とかをどうしようかなっていうディスカッションはない方がいいのかなと感じていました。
河合さんの印象的に、役にバーッと入りやすいのかなと思ったので、だったらその場で何かあった方が普段の関係をなしに、役にそのまま入れるのかなとか、そういう方なのかなと思って、そうできたらいいなと思っていました。
河合優実
どっちかっていうと、私のタイプを見て、そうしたということでしょうか?
梅田誠弘
僕もあまり、「ここはどうしようか」みたいなふうに喋るのが苦手なところがあるので、それも合わせてあります。
河合優実
事前に、役者さんと、どうしようかとか、こういう関係性だと思いますよみたいなことをやるときもありますか?
梅田誠弘
どちらかというと、一回やってみて、何かここ合わないなというところは、どうしようか・どうだろうみたいに、合わせるところを一緒に考えたりすることはあります。
春本雄二郎監督
確か梅田さんは、「自分の想像するストーリーの中で、こういう役の萌が出てきたらいいなみたいなイメージがあって、そういう人がいきなりポンと目の前に出てくると嬉しくなる」って言ってたじゃないですか。
梅田誠弘
そうですね。
河合優実
違ったらどうしよう…
梅田誠弘
ちゃんと娘として出てきて、戸惑いも受けたので、それはそっち側で会えた違和感を感じた気がしました。
春本雄二郎監督
「こんな萌か」って思いましたか?「こういう感じか」っていうか。
梅田誠弘
そうですね何か思い通りにならない感が、すごく感じられました。
春本雄二郎監督
「ふざけんなよ」みたいな?
梅田誠弘
そういうのも引き出していただいたと思います。
河合優実
結果的にそういう点も面白かったですね。
春本雄二郎監督
ここで喋ってる感じと役の感じでは、2人ともそれぞれ全然ちがうパーソナリティですから、面白いなって思います。
▼シナリオにないアドリブのシーン
春本雄二郎監督
由宇子と3人の団らんになって、台所で哲也と萌がやりとりするシーンがあったと思うんですけど、あそこ完全なアドリブなんですよ。
河合優実
でも結構やり直させられましたね。
春本雄二郎監督
あれはシナリオになかったから、僕がそこで「やって」って言ったんです。
河合優実
唯一、しっくりきてなかったです。
春本雄二郎監督
アドリブの中にこう盛り上がって、由宇子が「なんだこの親子面白いな」っていう空気で“カット”だったから、ベタになっちゃ駄目だし、この2人のうまい息の掛け合いというか盛り上がりが難しいんですよね。
梅田誠弘
それまで、普段でもそういう盛り上がりはしてないですし。役でも、ぎこちないのがずっと続いててそれが固まってきたときでしたね。一緒に盛り上がるっていうのは、なかなか難しかったですね。
春本雄二郎監督
そういう点も含めてちょっと2回目も観てもらえたらなと。あそこはアドリブです。7回くらい撮り直しをやってたからね。
河合優実
瀧内さん、結構疲れていたと思います。
春本雄二郎監督
もっともっと喋っていたいんですけれどもこれでお時間が来てしまいましたので、トークイベントは終了となります。ぜひですね、また今後も河合優実さんの成長をずっと見守っていただけたらなと思います。僕は河合さんを素晴らしい俳優さんになると確信しているので、また違う作品でご一緒できたらと思ってます。梅ちゃんも、一緒に頑張りましょう。おいていかれないように。
▼梅田さん、河合さんからメッセージ
春本雄二郎監督
最後に一言ずつ、皆さんにお願いします。
梅田誠弘
この作品を僕は5回ぐらい観ているんですけど、観るたびに視点を変えて、何か裏の話とかも見えてきて面白いなと思いましたし、人によっても解釈が全然違う作品だと思いますので、ぜひまたいろんな方にお話いただければと思います。
河合優実
観ていただいて、本当にありがとうございました。観終わった後に余韻にひたる時間が長い映画だと思うんですけど、私達がその状態で出てきてしまって脳内をかき乱したと思うので、一回忘れていただいて、噛み砕いていただいて、観た人とぜひ語り合ってもらったら、もっと面白さが広がるんじゃないかなと思います。
■映画『由宇子の天秤』
瀧内公美 河合優実 梅田誠弘 川瀬陽太 丘みつ子 光石研
脚本・監督・編集:春本雄二郎 プロデューサー:春本雄二郎、松島哲也、片渕須直
キャスティング:藤村駿 ラインプロデューサー:深澤知
撮影:野口健司 照明:根本伸一 録音・整音:小黒健太郎 音響効果:松浦大樹 美術:相馬直樹 装飾:中島明日香 小道具:福田弥生 衣裳:星野和美 ヘアメイク:原田ゆかり
製作:映画「由宇子の天秤」製作委員会 製作協力:高崎フィルム・コミッション 助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
配給:ビターズ・エンド 2020/日本/152分/カラー/5.1ch/1:2.35/DCP ©️2020 映画工房春組 合同会社
9月17日(金)渋谷ユーロスペース他全国順次ロードショー!