映画『東京予報 ―映画監督外山文治短編作品集―』ワールドプレミア上映。映画は少しずつ形を変えながら、役者の力によって着地する

映画『東京予報 ―映画監督外山文治短編作品集―』ワールドプレミア上映。映画は少しずつ形を変えながら、役者の力によって着地する

外山文治監督による8年ぶりの短編作品集「東京予報 ―映画監督外山文治短編作品集―」のワールドプレミア上映が2025年5月5日に行われ、上映後には横浜国際映画祭の会場で舞台挨拶が開催された。映画『ソワレ』や『茶飲友達』といった長編作品で知られ、海外でも注目を集める外山監督 が手掛けた本作は、2025年の東京の「かたすみのひかり」をコンセプトに描かれた全くジャンルの異なる3つの短編からなる作品集だ。舞台挨拶には、監督に加え、作品集を彩る豪華キャストの中から、田中麗奈さん、遠藤雄弥さん、星乃あんなさん、河村ここあさん、内海誠子さん、イトウハルヒさん、宇野愛海さんの総勢8名が登壇し、それぞれの作品への思いを語った。

■ 映画『東京予報』ワールドプレミア上映 舞台挨拶

一人ずつ紹介された後、登壇者からの挨拶が始まった。上映後に拍手が湧き起こったことに「感激してしまいました」と語った田中麗奈さんは、ご来場と映画鑑賞への感謝を述べ、「短編集ということで、別の作品の出演者の皆さん、世代を超えた皆さんとご一緒に、素敵な時間を皆さんと共有できたらと思います」と、この機会の喜びを語った。

遠藤雄弥さんも、忙しい中での来場に感謝の意を示し、「短い時間ではございますがよろしくお願いいたします」と挨拶した。

『はるうらら』で春役を務めた星乃あんなさん、うらら役を務めた河村ここあさん、『forget-me-not』でミカ役の内海誠子さん、『forget-me-not』でエリ役のイトウハルヒさん、『forget-me-not』でハル役の宇野愛海さん もそれぞれ来場者への感謝を伝え、短い時間ながら舞台挨拶への意気込みを述べた。

続いて監督の挨拶となった。外山文治監督は、「ワールドプレミアということで、世界最速上映ということで、皆さんが初めてのお客様でございます」と、記念すべき初お披露目であることを強調した。長編映画を2、3年に1本撮っているが、その合間に短編映画を撮ることを「ライフワークのようにしている」と自身の活動について説明。

今回の3作品は「東京の『かたすみのひかり』というコンセプトを掲げて」制作したものであることを明かした。「これらの短編映画がワールドプレミアとして、横浜の皆様にお披露目される機会を得て、また5月16日から全国順次公開していく運びになった」と報告。

作品集は『名前、呼んでほしい』、『forget-me-not』、『はるうらら』という3つの作品からなると紹介し、『名前、呼んでほしい』は田中麗奈さんと遠藤雄弥さんの共演。

『forget-me-not』はガールズバーの女の子がお客さんの葬儀に行くというストーリー。

『はるうらら』は女子中学生のお話であると簡潔に内容に触れた。

▼印象に残っているシーン・思い入れのあるシーン

続いて、作品の印象的なシーンや思い入れのあるシーン、または撮影の雰囲気について、登壇者それぞれに質問が投げかけられた。

田中麗奈さんは、撮影期間は短かったものの、かねてから共演したいと思っていた遠藤さんとご一緒できた喜びを語った。アドリブ的なことも多かった撮影で、その時感じた空気や外山監督の一言をそれぞれが拾い、膨らませることで生まれたものを「すごく繊細にお互いに大切にして演じられたような気がします」と振り返った。

遠藤雄弥さんは、田中さんから話が出た映画の話をしているシーンに言及。実際にカフェでお茶をしている時に、セリフがオフの状態でアドリブで楽しそうな話をしており、外山監督からの演出で「ジョーカー2の話をしている」と明かした。撮影はそんな和気あいあいとした空気で繰り広げられた」と語った。

『はるうらら』の星乃あんなさんは、父親と喧嘩をするシーンが印象に残っていると述べた。あそこのシーンは「カメラが回ってない時でもすごい緊張感がある空気」で、「リアルな緊張感が伝わるようなシーンになっているかな」と語った。

同じく『はるうらら』の河村ここあさんは、春と初めて喧嘩をする橋の上のシーンを挙げた。うららは学校では比較的静かな子で、春の言うことにも何でも受け入れていたが、そのシーンは感情をぶつける場面だったため、演じる際に自分も「すごくドキドキしてたし、罪悪感もあったりして、すごくちゃんとリアルな気持ちでできたかな」と感じたと述べた。

『forget-me-not』の内海誠子さんは、ガールズバーの呼び込みのシーンが一番印象に残っていると語った。彼女たちの日常が一番見えるシーンであり、映画自体が呼び込みから始まり呼び込みで終わるため思い出深い。呼び込みの「イントネーションが肝だな」と感じ、「『こんばんは。ガールズバーエスポワールです。』ではなく、『こんばんは。ガールズバー エスポワールです↑』と語尾が上がるのが印象的な呼び込みの仕草だった」と実演を交えて説明。これを「みんなで話し合って見つけた」とし、「たくさん練習しました」と明かした。

『forget-me-not』のイトウハルヒさんは、撮影期間が短かったことに触れつつ、撮影前のリハーサルで初めて3人(内海誠子さん、宇野愛海さん)で顔を合わせた時の本読みが印象的だったと語った。その時に「なんとなく自分のその役の立ち位置みたいなのが掴めた感じがして、実際3人ともキャラクターが違うが、カメラが回ってない時も本当にこのまんまずっとその3人のままで喋っていたみたいな空気感があり、それが映りこんで作品の雰囲気が出ているといいな」と願った。

『forget-me-not』の宇野愛海さんは、遺書を読み上げてもらうシーンが一番好きだと述べた。特に「イトウハルヒさんの演じるエリリンが薄目で見たら、~に似ているシーン」と述べ、「あれいいですよね」と共演者に同意を求めた。

外山監督は、それぞれのシーンに思い入れがあると前置きし、特に『名前、呼んでほしい』で、沙穂の旦那さんが気まずい夕食を食べるシーン」を挙げた。もともと台本にはセリフがなく、ト書きに一言だけ『家族と鍋を食べる沙穂、母親の顔になっている』だけしか書いてなかったそうだが、「現場であれが生まれまして、結果的には一番映画の中で長いシーンが生まれた」と明かした。「映画はそうやって少しずつ形を変えながら、当初撮ろうとしていたものと異なる形になり、“役者の力によって着地する”というところがとても印象的だなと思います」と語った。

▼役作りの苦労やこだわり

続いて、今回の作品の役作りの苦労やこだわりについて質問が移った。

田中麗奈さんは「苦労っていうのは今回本当になくて」と即答。自身の役を「自分の生活の中の延長上にあるような、そういう日常から少し違う場所に出かけたというような、そういった状態」と感じたとし、普段でも幼稚園のお迎えに行った時などに「お父さんをちょっとより、もしかしてこの方が遠藤さんの役と重ねながら妄想してみたり、お母さんたちを見て、いや、知らないけど実はそういうような…」と、自身の日常での想像や妄想を役作りに取り入れたと語った。「誰かを重ねてみることでまた違うドキドキ、スリルを味わえたりして、そういったことを少し映画の中に取り入れられたらなと思って楽しみながらやっていました」と、楽しみながら役に向き合ったことを明かした。

遠藤雄弥さんも「僕も苦労したっていうのは特になくて…まあ苦労しなかったといってもおかしな話なんですけど」と述べた。役としては、受け取り方によっては「彼はどうなんだろう…」って考えさせられてしまうような人物になったと語り、今回の撮影では田中さんとの共演で「ドキドキポイント」がたくさんあったと振り返った。「特に、田中さん(沙穂)が一回エレベーターに入られて、僕が廊下で待っていて、一回入ってきて…」というような、外山監督の「あんなのドキドキするだろう」といった演出を「いつも通り感じるっていうのが、しいていえば大変だったかもしれない」と、微細な心情表現の難しさに言及した。しかし個人的には「すごく楽しかった」とも付け加えた。

『はるうらら』の星乃あんなさんは、河村ここあさんと顔が似ていると外山監督が言って脚本を書いてくれたことに触れ、「どういうところを作品中で似ているって、見ている方に思ってもらえるかなと考えた。」笑い方などを河村さんをチラチラ見ながら」似せてみたりしたという。しかし春役は明るいキャラクターであるのに対し、河村さんの笑い方は「すごいお上品」なので、お上品だけど明るい元気な感じを出すのが難しく、そこは頑張りました」と役作りの工夫を明かした。

河村ここあさんは、明るく元気な春役に対し、自身が演じたうららが「ちょっと落ち着いてる子」だったため、「学校のシーンがちょっと難しかった」と述べた。春や他の友達が明るくてすごい盛り上がっていた中で、私がどれだけ一緒に盛り上がって、でも落ち着いてる役っていうのを見せるのがすごく難しくて、星乃さんと相談しながら頑張った」と語った。

『forget-me-not』の内海誠子さんは、常連客である君島さんがミカのもとに通い詰める君島の理由、ミカの魅力みたいなものをどうやって自分の中で見つけたらいいのかなと考えたという。ミカは前の職場などで心の傷を負っているが、それをむやみにさらけ出すような人ではないと感じ、一方君島さんはそのミカの心の傷をちゃんと見ていて分かっていて、遺書のシーンで初めてミカが自分を見つめ直していく過程や、ミカが一つ一つ大人になっていくきっかけが生まれたらいいなという気持ちで演じたと、役柄への深い理解を示した。

『forget-me-not』のイトウハルヒさんは、外山監督のこれまでの作品で描かれる「関係性がどんどんその唯一無二の関係性になっていく」というイメージが自分の中にあったと述べた。しかし今回の『forget-me-not』の3人(ミカ、ハル、エリ)の関係性はこの場でお仕事で会ってるから、すごく仲良くなってるけど、きっとこのお店を誰かが卒業したら連絡を取らないんだろうな…という、浅いけどでも心地がいいから一緒にいるっていうその関係性が出ると、すごく良いと思っていて、それを表現したいと考えた。特に「ここをこうしよう」って3人で話したことはないが、この撮影期間を過ごしてる間に、そういった和気あいあいとした雰囲気が出ているといいなと思いながら演じました」と語った。

『forget-me-not』の宇野愛海さんは、役作りの苦労として「エアドラム」を挙げた。ドラム経験がなかったが台本に書いてあり、外山監督に急に「エアドラムを練習して」と言われ、調べても「全く出てこなくて、エアドラムやってる人がいなかったため、「頑張りました」と、意外な苦労を明かした。

▼外山文治監督からのメッセージ

最後に、外山監督から来場者へのメッセージが送られた。『東京予報』の3つの短編は「東京のかたすみのひかり」ということをテーマにしているが、東京に限らず「横浜であったり、地方であったり、今を生きる皆さんの暮らしの中にきっといるであろう出来事だったり、人たちだったりするんじゃないかな」と思って制作したと語った。本作は皆様に初めて見ていただきまして、5月16日から東京で上映が始まります。5月30日には横浜で上映が開始されます」と今後の公開予定を改めて告知。「少しずつですがこの作品の輪を広げていけるように私たち頑張っていきたいと思っておりますので、ぜひ応援をしていただければ」と呼びかけた。また、クラウドファンディングが「あと3日」で終了することに触れ、「もし気に入っていただきましたら、一緒にサポーターになっていただきまして、一緒にこの作品の輪を広げるお手伝いをしていただけたらな」と支援を求めた。「私たちの作品が横浜国際映画祭で初めて上映されたという本当に素敵な機会をいただきまして誠にありがとうございました」と、映画祭への感謝の言葉で締めくくった。

大きな拍手の中、キャストと監督がステージを後にし、盛況のうちに舞台挨拶は幕を閉じた。


▼クラウドファンディング特設ページ

https://motion-gallery.net/projects/tokyoforecast


『名前、呼んでほしい』『はるうらら』『forget-me-not』

「東京予報―映画監督外山文治短編作品集―」収録

公式HP: https://tokyo-forecast.studio.site/

公式X: @tokyo_forecast

公式Instagram:tokyo_forecast

2025年5月16日(金) シモキタ – エキマエ – シネマ『K2』を皮切りに全国順次公開予定

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