7/19(土)より新宿K’s cinemaにて、映画『また逢いましょう』が公開。主人公の漫画家・夏川優希役を演じられた大西礼芳さん。大西礼芳さん自身がイラストを描き下ろした新ポスターも完成した。予告編では、実際にタブレットを使用しイラストを描く姿が垣間見られる。そんな、ご自身の特技や経験が役柄に深く反映され、作品との特別な縁を感じさせる本作について、詳しくお話を伺いました。

■ 映画『また逢いましょう』大西礼芳インタビュー
▼お名前「礼芳(あやか)」の由来
ー: 本日はお忙しいところありがとうございます。本サイト恒例の質問です。大西さんのお名前「礼芳(あやか)」は、珍しい読み方だと感じました。その意味や由来についてお聞かせいただけますか?
大西礼芳: 実は、あまり深い意味はないんです。親は「芳」の字をどうしても使いたかったそうで、というのも、この字が名前に含まれている人たちが、これまで出会った人みんな頭が良かったという思いがあったみたいです。
そして、「礼儀の礼」である「礼」の字は、画数に合わせて選んだようです。
ー: 礼儀を重んじる美しい人といった意味合いがあるのかと考えていました。読み方としては難しいと思うのですが、お名前についてのエピソードはありますか?
大西礼芳: そうですね、学年が上がるたびに先生が名簿を見て名前を呼んでくれるじゃないですか。でも、どの先生も正しく呼んでくれませんでした。読み方を間違えられることがほぼ100%だったので、少し嫌だなと思う時期もありました。でも、今は字の形が綺麗ですし、「礼芳」という字を付けてくれたことに感謝しています。
▼監督・脚本家との不思議なご縁
ー: 今回の作品は、西田宣善監督と大西さん、そして脚本の梶原阿貴さんの3人のつながりが深く影響している作品だと感じています。大西さんご自身が、この作品の始まりから出演に至るまでの部分で、縁やその不思議さを感じることはありましたか?
大西礼芳: 西田さんからお声がけいただいた時は、以前、映画『嵐電』でもご一緒させていただいていたので、また呼んでいただけたな、嬉しいなと思っていました。ただ、『嵐電』の時は西田さんは企画プロデュースという立場でしたが、今回は監督ということで、どんな演出をされるんだろうという少しの不安もありながらのスタートでした。西田監督は、『嵐電』での私の演技に感銘を受け、今回の主演を念頭に置いてくれていたそうです。
ー: 脚本の梶原さんとは、どのようなご縁があったのでしょうか?
大西礼芳: 梶原阿貴さんとは、高橋伴明監督の作品『夜明けまでバス停で』で初めてご一緒させていただき、そこから仲良くさせてもらっていました。その時、梶原さんが「今度、大西礼芳主演の映画の脚本でも書きたいな」と冗談めかして言っていて、それがこんなに早く実現するとは、本当に嬉しい驚きでした。梶原さんは、今回の企画が私のスケジュールに間に合うよう、急いで脚本を完成させてくれたとうかがっています。私自身もその時期は忙しい時期で、スケジュールが合致したのも不思議なご縁だと感じています。
▼役柄と自身の共通点、そして難しさ
ー: 大西さんが演じた優希は、漫画を描いたり、ピアノを弾いたりする設定で、大西さんご自身の特技が取り入れられていると伺いました。役柄がご自身と近いというか、ご自身に寄せられていることについて、演じる上でのやりやすさや難しさを感じたことはありますか?
大西礼芳: 漫画を描くとか、楽器を演奏するとか、そういう行動は優希とものすごく近いです。実際に劇中で優希が描く漫画は私自身が描きましたし、使用した道具も私物でした。絵を描いたりピアノを練習したりと、役の準備をする中で、私自身が優希にどんどん近づいていけたというのは確かで、その時間があって本当に良かったと思っています。梶原さんが、私が漫画がとても上手だと知っていたから、優希の役柄をライターから漫画家へと変更してくれたと伺っています。
ー: では、難しさを感じた点はありますか?
大西礼芳: はい。一方で、優希が発する言葉には、私自身からは出にくいものが多く、そこに難しさのようなものはありました。しかし、どんなにセリフに自分とのズレがあったとしても、やはり優希を「見捨てたくない」という気持ちが強く、言葉や行動の意図を深く理解しようと努めました。共通している部分が強く結びついていたからこそ、そう思えたのかもしれません。

▼創作活動の原点
ー: 大西さんはこどもの頃から絵を描いたり、何かを創造する活動に興味があったと伺っています。その原点、つまり最初に何かを作ったり書いたりした時の記憶や、どのような絵を描いていたかなど、覚えていらっしゃることがあれば教えてください。
大西礼芳: なんで絵を描いていたんだろう、と今まで考えたことはなかったのですが、実は、子供の頃から2020年のコロナ禍までは、絵を全く描いていなかったんです。コロナ禍で時間ができたから、また描き始めたという感じです。
ー: それは意外ですね。では、こどもの頃は何を描いていましたか?
大西礼芳: 私自身が何かを見て感動したものを、自分でもやってみたいと思う性格だったので、素敵な絵を見ると「私もこれ描けるんじゃないか」と思い込んで模写していました。なので模写ばかりやっていました。また、自分で想像して描く絵は、山が3つ並んでいて、その山のつながり目から道がビューッと伸びているという構図を繰り返し描いていました。道がどんどん手前に近づいてくる遠近感のある絵で、それしか描けなかったんですけど、遠近感があるというだけで嬉しかったんです。自分が平面的でないものを描けるという喜びのようなものがあって、それは今でも覚えている構図です。

▼漫画制作の道具と自身の漫画への取り組み
ー: 以前のインタビューで、漫画家デビューしたいという意欲を話されていたのを拝見しました。その思いは今も変わらないのでしょうか?
大西礼芳: 「漫画家デビューしたい」とまで言い切ったかな、と自分ではちょっとあやふやなところもあるんですけど。でも、漫画は好きなので、今も小学館の漫画賞に応募することを目指しています。まだ途中ですが、応募したいと思っています。
ー: 大西さんご自身。絵を描かれる方として、いわゆる「絵画の絵」と「漫画」では、どこに違いを感じますか?
大西礼芳:かなり違いますね。漫画の面白いところは、どこを排除してどこを詳細に描き込むかという判断がすごく楽しいところです。ここは飛ばしても大丈夫だろうとか、ここからここまでの時間を飛ばしてしまった方がすっきりして見やすいな、などと考えるのが楽しいですね。また、コマの大きさやページのめくり方を考慮した絵の配置で、受ける衝撃度を調整する「強弱のつけ方」も、漫画のすごく面白いところだと思います。
ー: その漫画を描くという経験が、役者としてカット割りや視点の意識など、何かトレーニングであったり役立っていることはありますか?
大西礼芳: 確かに、漫画を描くようになってから、どこから撮っているのか、カット割りはどうなっているのかといったことをものすごく気にするようになりました。自分で漫画を描いてみて思ったのは、映画もそうですが、アートすぎたら、もしかしたら観客に届けるという意味では重要度が下がる可能性があるということです。人に見てもらい、読み進めてもらうためにはどうしたらいいかということを、ものすごく考えるきっかけになりました。大学時代に映像の編集も経験しているので、ストーリーをどう組み立てて、どこを切り出すかといった判断に自然と役立っているのかもしれません。編集でも本当に勉強になりましたね。
▼カトウシンスケさん演じる野村との距離感
ー: カトウシンスケさんが演じるケアマネジャー・野村の似顔絵を描くシーンがありますが、大西さんが描かれたのでしょうか。
大西礼芳: はい、描かせてもらいました。何種類か描いて提出したのですが、カトウさんは喜んでくださったようです。カトウさんは描き甲斐のある顔でした。
ー: 大西さんは以前、「人との距離感が近い役柄には入り込みにくい」とインタビューで語っていらっしゃいました。カトウさんが演じる野村は、優希との距離が縮まっていく役柄ですが、演じにくさはありましたか?
大西礼芳: やはり難しいですね。カトウさんはすごいなと思います。ああいう、人との距離が近い役柄を恐れずに、パーッと表現できるのは、おそらくすごいエネルギーがいるんです。相手の性格や状況、パーソナルスペースにどこまで踏み込むか、相手の好意があるかなども含めて、難しいと感じます。
ー: 優希として、野村との関係性で特に意識したことはありますか?
大西礼芳: 優希の役柄としては、父親の事故をきっかけに施設に足を運ぶことになり、どんどん知らない世界に引きずり込まれていくような状況でした。周りにいる施設の人々は個性がものすごく強いので、それに飲み込まれていく、身を任せていくような感覚で演じました。そちらの方が楽だったと感じています。

▼家族からの手紙と記憶
ー: 映画の中で登場する「ハレルヤ通信」では、優希が父親の本心を知る重要なアイテムだと考えました。大西さんご自身が、父親や母親、あるいは他の家族から受け取った手紙やメッセージで、特に思い出に残っているものはありますか?
大西礼芳: 祖母からもらったたくさんの手紙があります。今でもすべて大切に保管しています。
ー: お祖母様からの手紙で、特に印象に残っているメッセージはありますか?
大西礼芳: 「食べ物だけは始末したらあかん」といったシンプルなメッセージや、大学時代に一人芝居、つまり一人で誰かと話すような芝居をしていた時の感想も書いてくれたことを覚えています。祖母が「あんたが(ひとりで)芝居をやっていることが心配だ。一緒に芝居をやってくれる友達もいないのか」と勘違いをして心配してくれた手紙が、特に印象に残っています。祖母は芸術にあまり触れてこなかったので、私がしていることが「異様なこと」に映ったんだと思うのですが、その心配の言葉が強く心に残っています。ちなみに、日本舞踊は祖母から教えてもらいました。言葉を使って何かをするのと、体を使って何かをするのは全く別のものだと感じますね。
▼お客様へのメッセージ
ー: 最後に、映画をご覧になるお客様へのメッセージをお願いいたします。
大西礼芳: 私が演じていてふっと思い出したことなのですが、映画では優希の父親が大きな事故に遭い治療している中で、「笑ってはいけない」という感覚があるにもかかわらず、施設の人々と出会い、ものすごく笑い、もしかしたら恋しているかもしれないという状況が描かれています。人って、「笑ってはいけない」と思いながらも笑ってしまうという矛盾を常に抱えながら生きていると思うんです。だから、この映画の面白い点は、そのような矛盾も描かれているところなんじゃないのかなと思います。
介護や働き方の話ではありますが、ぜひ、笑いに来てください。そんな気持ちで、この作品を観ていただけたら嬉しいです。監督の西田さんも、とにかく明るく、笑えるところもある映画にしたかったと仰っていました。介護というと高齢者の話や死を連想しがちですが、本作は障害を抱えた比較的若い方の苦悩や、恋の話があったりするところも見どころとなる作品だと感じています。

映画『また逢いましょう』
あらすじ……
東京でアルバイトをしながら漫画を描いている夏川優希は、父・宏司が転落事故で入院した知らせを聞いて京都の実家に戻ってくる。ちょうど出版社に持ち込んでいた漫画の原稿も不採用となり、先が見えないまま京都で暮らすことに。父は退院後、介護施設「ハレルヤ」に通所を始め、優希も付き添いで行ってみると、そこは利用者と職員が和気あいあいと談笑しリハビリテーションに励む、居心地の良さそうな空間だった。明るいベテラン職員・向田洋子や、ケアマネジャー・野村隼人、利用者の人々と「ハレルヤ」で交流しながら、いつしか温和な笑顔で利用者や職員を見守る、武藤所長の考え方の深さに魅かれていくーー。
【クレジット】
大西礼芳 中島ひろ子 カトウシンスケ 伊藤洋三郎 / 加茂美穂子 田川恵美子 神村美月 / 梅沢昌代
田中要次 田山涼成 筒井真理子
製作・監督:西田宣善 脚本・アソシエイトプロデューサー:梶原阿貴
原案 伊藤芳宏「生の希望 死の輝き 人間の在り方をひも解く」(幻冬舎刊)
音楽:鈴木治行 撮影監督:藍河兼一 美術:竹内公一、竹内悦子 録音:廣木邦人、荒木祥貴
編集 藤田和延 監督補 鈴木農史 題字 後藤理絵 漫画・ピアノ演奏 大西礼芳
主題歌「みんなしぬ」 作詞:梶原阿貴 作曲 鈴木治行 歌 大西礼芳 中島ひろ子
製作:ジュリア オムロ 配給:渋谷プロダクション 宣伝:MAP
2025年 カラー 91分 ©︎Julia /Omuro
公式HP: https://mataaimasho.com
公式X:@mataaimasho.com
公式Instagram:matamataaimashou1889
7月18日(金)よりアップリンク京都、シネ・ヌーヴォ
7月19日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開!