ROPE

映画『ROPE』が紡ぐ、現代の絆――本作のロケ地のひとつでもある下北沢「浮島」で、俳優・樹と八木監督が語る、ゼロからつくりあげた物語

2025年7月25日(金)より、映画『ROPE』が新宿武蔵野館を皮切りに全国で順次公開される。本作は俳優・樹さんと八木監督が学生時代からの友情を基に、企画から脚本、そして完成までを共に手掛けた意欲作。今回のインタビューは、本作の重要なロケ地の一つでもある下北沢のバー「浮島」で実施。この特別な場所で、盟友である樹さんと八木監督に、『ROPE』に込めた想い、制作過程での苦労や印象的な出来事、そして作品が観客に届けたいメッセージ について、深く語っていただきました。彼らがゼロから紡ぎ上げた『ROPE』という作品が、どのようにして観客の心に響く「絆」を描き出しているのか、ぜひご一読ください。

目次 Outline

■ 映画『ROPE』 俳優・樹 x 八木監督インタビュー

Q1: 映画『ROPE』は樹さんと八木監督がお二人で企画を立ち上げられたと伺いました。学生時代からのご友人であるお二人が、具体的にどのようなきっかけでこの映画の企画を共に立ち上げるに至ったのでしょうか?

樹: きっかけは、僕と八木が友人として親しくなったのが、僕の俳優デビュー作でもある『AREA』という作品の現場でした。その作品は僕と河合優実さんが主演で、関翼さんという監督が卒業制作で作られたものです。八木も関さんも僕の1つ上の先輩だったので、その現場で元々知り合いではあったものの、二人との距離がかなり縮まりました。

「いつか今度は八木の作品も一緒にやってみたいね」という話を以前からしていて、そのタイミングで、僕が「長編の主演作が欲しい」八木も「長編のデビュー作が欲しい」という思いが統合し、企画を始めました。

八木監督: そうですね。最初は本当に敬語で話すぐらいの関係でした。同じ学校の1つ上って意外とそういった関係なんですよね。

Q2: 樹さんにお伺いします。当初はご自身の長編主演作が欲しいという思いから企画を始められたとのことでしたが、やがて、「今だからこそ作れる映画を残したい」という思いへと変化していったと語られています。この心境の変化について、詳しくお聞かせいただけますか?

樹: 自分の演技の代表作にしたいというよりも、長編映画で主演をしたことがない段階だったので、まずは一本作品として持ちたいという思いでした。

最初は、八木に企画を持ちかける際、「笑って泣いて怒って」といった自分の演技の振り幅を見せられる作品であれば、プロモーションにも繋がると思っていました。しかし、二人で話し合い、共にする仲間が増えていくにつれて、そういったプロモーション的な思いは「どうでもいい」とまでは言いませんが、八木監督が描きたい主人公像に合わせようと気持ちが切り替わっていきました。僕のプロモーションは一旦諦めて、同じ方向へ進んでいこうという思いになりました。

ー: 「今だからこそ作れる映画を残したい」という思いは、どちらから、あるいは自然に二人から出たものですか?

八木監督: 企画書を作る前に映画を作ろうと決めていた時に、主要なキャストを同世代にし、僕たちが生きる20代の心情を入れて作った方が生きたものになるだろうという感覚はありました。それは脚本に取りかかる前から二人の間で決まっていました。

Q3: 八木監督にお伺いします。樹さんから共に映画を作らないかと声をかけられ、「一番信頼できる役者」だと思って企画書から脚本までゼロから二人で肉付けしていったとのことですが、この共同での脚本制作プロセスにおいて、特に印象的だったことや、苦労した点などはありますか?

八木監督: 初めは僕が樹を呼び出して話したのがきっかけでした。彼を一番信頼できる役者だと思っていました。

企画を最初に二人で作る中で、「不眠症の男が人を探す」という最初の原型が決まりました。主人公である樹が演じた修二のキャラクターを作る上では、二人で意見が大きく食い違ってぶつかるようなことは、企画書が出来上がるまであまりありませんでした。かなり同じ方向を向いてスタートしましたね。

樹: 撮影前は僕が八木監督を「八木さん」と呼び、敬語で話していましたが、企画書を作り終える頃にはタメ口になっていました。プロデューサーや企画をすることがどういうものか分からなかったものの、友達同士だからこそ、言いたいことは言わないと一生撮り切れないだろうという思いがありました。企画と共に、映画を作る上での関係値も一緒に出来上がっていったと感じています。

Q4: 物語の着想について、八木監督は「いつも見てる景色やドメスティックな住宅街の中で、夜に眠れない男が歩いていて…といったビジュアルが先に頭の中にあって」と仰いました。この初期のビジュアルが、どのようにして『ROPE』のようなロードムービーや会話劇、群像劇の要素を持つ物語へと発展していったのでしょうか?

八木監督: 「ドメスティックな住宅街の中で、夜に眠れない男が歩いていて、張り紙を見つける」というビジュアルが、先に頭の中にありました。夜の住宅街をメインの舞台にしたいというのはありました。長編映画を自主制作で撮るにあたって、今回はロードムービー風にしたい思いがあったので、閉じた世界で撮るより、住宅街を歩きながら移動していくような構成にしたいと考えました。場所やシチュエーションが移り変わるような脚本にしたかったんです。特に、夜の街にある張り紙のイメージを一番撮りたかったですね。

ー: タイトル『ROPE』はどの段階で決まりましたか?

八木監督: タイトルについてはかなり話し合いました。印象的な古道具という意味でも、「縄」というのは頭の中にありました。そして、主人公が何かに引っ張られるように移動していく姿や、主人公が囚われているものが何なのかという、作品の主題を何重にもはらんでいるのが「ROPE」だと感じ、ビジュアル的にもそう思いました。ヒッチコックの作品にも『ロープ』(1948年)がありますが、それでもこれで行こうと二人で決めました。

企画の初期段階、企画書の一稿か二稿目が上がる頃にはもう、仮タイトルという形ではありましたが、「ROPE」と印刷されていた気がします。キャストの方々に配る時も、もう「ROPE」で決まっていました。

ー: タイトルが作品のストーリーに影響した部分はありましたか?

八木監督: タイトルに惹かれて作品を大きく変えたということはないですが、物理的に縄が印象的に出てくるシーンは、撮影時に気を付けて撮りました。縄の長さや細さ、色にもこだわり、2種類ほどの縄を使い分けていました。

Q5: キャスティングについて、八木監督は翠役として芋生悠さんを「絶対にお願いしたい」と強く希望されたとのことですが、他の主要キャストの皆さん(藤江琢磨さん、中尾有伽さんなど)は、樹さんと共に議論を重ねて決められたと伺いました。それぞれの俳優さんに対して、どのような「理由や意図」でオファーをされたのか、そのキャスティングの決め手について詳しくお聞かせください。

樹: 僕の友人であったり、お互い連絡先を交換している俳優さんの中から、八木監督が書いたものに当てはまる方がいればいいなという思いがありました。当てはまらなければオーディションも考えていました。僕は八木に「こんな人いるよ」と送る役目を担いました。その際、これまでの出演作を見て演技がどう、という話ではなく、みんなで作品に向き合うことになるので、信頼できるかどうか、そして映画というものにリスペクトと誠実さがあるかという部分で信頼できる人を八木にたくさん送りました。

八木監督: その中から僕が一人一人見ていって決めました。芋生さんと、同世代ではない中で翠の母親を演じられた荻野友里さん以外は、僕が提示した俳優さんからオファーしました。全キャスト、オーディションではなくオファーです。

八木監督: 主演の樹と、ヒロインの芋生さん、そして聡役の藤江さん、貴子役の中尾さんの主要な4人のエピソードが軸になると考えていたので、この4人のバランスはとても重視しました。その他の多くのキャストの方々は、キャラクターに合っているという選び方と同時に、「あまりこういうお芝居をしているのを見たことがない」というような新鮮さも求めていました。

Q6: 本作は20代のキャスト・スタッフを中心に構成され、俳優の皆さんも「同世代」でのものづくりについて言及されていました。この「同世代」というチーム構成が、撮影現場の雰囲気や作品作りにおいて、どのような影響を与えたと感じていますか?

樹: 同世代だと、言葉が通じやすく、作品に対するモチベーションやコミュニケーションを取ろうとするみんなの思いが一点に集まると感じました。先輩方や年上の監督と作品を作り上げるという経験は、おそらくみんなそれぞれの現場で何度も経験していることだと思います。だからこそ、僕がプロデューサー、八木が監督をするなら、同世代であった方がやる意義があると感じました。後輩や先輩というより、同じ距離感の友達としてやった方が現場も楽しくなるだろうし、一つの目標に向かった時によりストイックにもなれるだろうと思いました。

八木監督: 撮影地にはスタッフみんなで入り、美術を作ったりしました。その最中に俳優の方々が見学に来て、一緒に準備しながら話し合ったりする様子は、商業映画にはないような一体感を生んでいましたし、それが画面からも伝わってくるように思います。一方で、大東駿介さんや水澤紳吾さん、荻野さんのような年上の世代の方々が入った日は、また別の雰囲気が生まれたと感じています。

Q7: 撮影現場でのエピソードとして、大雨の日があったことが挙げられていましたが、その他に、特に印象に残っている撮影時の出来事や、予期せぬ困難、あるいはチームの一体感を強く感じた瞬間などがあれば、お聞かせいただけますか?

樹: 印象的なことがたくさんありますが、2024年の1月から3月に撮影したうちの、1月パートの最終日かその前日がすごい大雨でした。みんな雨の中でも機嫌を悪くせず、一生懸命でした。気温もものすごく寒かったですね。

僕が先に撮影を終えた後、まだ芋生さん、中尾さん、藤江さんのシーンが残っていると知って、あまりに寒かったので一度家に帰ってシャワーを浴びました。(撮影地から家が近かったので)コンビニでみんな分のカイロと温かいお茶を買って、走って現場まで持っていったんです。でも、雨がすごすぎて全部冷めてしまっていて…。それでもみんな「ありがとう」と言って飲んでくれたのを覚えています。「すごい温かいチームだな」と思いました。みんな自分で傘を差して、カメラを守りながら過ごしたり、一体感がありました。

ー: その時、監督はどんな感じでしたか?

八木監督: びしょびしょでしたね。雨でもいいシーンだという判断で、雨は降るだろうと思っていましたが、あんなに降るとは思っていませんでしたし、寒くて大変でした。樹もモニターを一生懸命運んでくれていた記憶があります。

Q8: 八木監督にお伺いします。芋生さん、藤江さん、中尾さんといった俳優の皆さんを起用するにあたり、以前から彼らの作品を拝見されていたとのことですが、実際に本作で共に仕事をされ、彼らの演技において「新しい表情」や「新たな一面」を発見された瞬間はありましたか?

八木監督: そうですね、特に藤江さん(聡役)と中尾さん(貴子役)のお二人が劇中で話している時のパワーバランスや雰囲気が新鮮だと感じました。また、小川未祐さんが演じた修二の相手役、無意識に人と距離が近くなるキャラクターを演じられている姿が新鮮でした。今まで彼女がやっていなかった役どころで、初めて見た新しい一面だと思いました。

樹: 僕は撮影中は自分の役のことを考えていたので、客観的に他の役者さんの演技を見ることはありませんでした。藤江さんとは共演経験があり、村田凪さんとはワークショップで出会っていました。

撮影が始まる前は「友達ばかりのスタッフとキャストで大丈夫かな?」という不安もありましたが、始まってみると、友達とすることも初対面の人とすることも、良い意味で大して変わらないと感じました。みんな、それぐらい真剣に現場に臨んでくれていたんです。見終わった後には、もちろん友人の作品が一つ増えたという新しい視点はありましたが、驚きは意外となく、まるで初対面の人とやっている時のように、役同士で向き合ってくれていたので、みんな誠実にストイックに役で現場に来てくれたなと感じましたね。休憩中はみんな友達に戻るんですけどね。

Q9: 映画『ROPE』は「ゆるやかにディストピア化しつつある社会に生きる」若者たちの姿を描き、「見えない明日を生きていくこと」について観客に問いかける作品であるとされています。現代の若者たちが抱える「人と人との距離感」や「貧困」、「本音が言いづらい世の中」といったテーマについて、どのように物語に落とし込み、観客に伝えたいと考えましたか?

樹: 最近のニュースで「若者にとって生きづらい社会になった」という話は多いですが、そんな中でも、楽しく生きていくことや無気力にならないためには、やはり友達や会いたい人との繋がり、約束があることが大切だと感じています。この企画も人との繋がりでできた映画なので、そういったものに少し励まされるという僕の気持ちが、映画に反映されていると思います。

「ディストピア化」とは、不景気のような分かりやすい社会問題というよりも、みんなが「麻痺」してきている感覚を指しているという一面もあると思います。多様性やSNSでの情報がすごく増え、大体「これが正しいだろうな」というものが分かってしまっているからこそ、葛藤が生まれる。SNSで「これは良くない」と投稿するような状況で、僕は一番救われるのはリアルに人と会うことだと思っています。SNSの文章で感動することもあるかもしれませんが、本当に救ってくれるのは目の前の友達や家族だ、と強く感じていました。

八木監督: だからこそ、ィストピア化しているけれども、人と人が出会い、関わり合っていくような作品にしたいね、と樹と話していました。すごく温かい作品かは分かりませんが、確実に温かさはある作品にできたかなと思います。

Q10: 最後に、先行プレミア上映会を終え、いよいよ多くの人々に作品が届けられることになります。この『ROPE』という作品を通じて、観客の皆さんに最も感じてほしいことなどお聞かせください。

八木監督: いろんなキャラクターが出てきたり、話したくなるような行動や筋書きがある映画なので、細かく見た方とぜひ感想を話し合いたいですね。映画を見た上で、その人の価値観を一緒に共有できるきっかけにもなるかなと思っています。

樹: 僕も本当にたくさんの人に見ていただきたいですし、見た方と感想を言い合いたいです。映画に限らず、音楽を聴いてどう思うかといったように、一つのことについて友達と話し合う輪が色々なところで起きてほしいです。その輪の中に、作品に登場する修二が顔を出すような形で、作品が広がっていってくれたら、僕と八木が企画を立てた時のように「撮ってよかった」と感じると思います。もちろん年上の方にも見ていただきたいですが、特に同世代の方々に本当に見ていただきたいです。そして、その人たちがまた何かを作ったりするのを見たいですし、広がっていけばいいなと思います。


この映画は、まるで撚り合わさった一本の「縄」のようです。当初は個々の思い(主演作が欲しい、デビュー作を撮りたい)という細い糸から始まり、それが同世代との協働という結び目でしっかりと繋がり、ディストピア化する社会の中でも人とのリアルな繋がりこそが救いであるというテーマを紡ぎ出しています。最終的には、観客一人一人の心に、語り合いの輪という新たな結び目を作り出し、作品がさらに広がり、未来へと続いていくことを願う、そんな一本のROPEに仕上がっています。


撮影協力:バー浮島
所在地: 〒155-0032 東京都世田谷区代沢5丁目36−14 湯浅ビル 2階


『ROPE』

樹 芋生悠 藤江琢磨 中尾有伽
倉悠貴 安野澄 村田凪 小川未祐 小川李奈 前田旺志郎
大東駿介 荻野友里 水澤 紳吾

監督・脚本:八木伶音
劇伴:TAKU(韻シスト) 主題歌:玉置周啓(MONO NO AWARE/MIZ)
助監督:横浜岳城 撮影:遠藤匠 照明:内田寛崇 録音:家守亨 グレーディング: 杉元文香
現場スチール: 竹内誠 ヘアメイク:村宮有紗 衣装澪 小道具・美術:天薬虹花
ポスタースチール:野口花梨 ポスターデザイン:徐誉俊
音楽協力:nico 宣伝:平井万里子 配給:S・D・P
2024 年 / 日本 / 16:9 / 5.1ch / 93分 ©映画「ROPE」

7/25(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

この記事を書いた人 Wrote this article

Hajime Minamoto

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