ニューヨークに存在した伝説的なレンタルビデオ店「キムズビデオ」の膨大な映画コレクションの行方を追跡するドキュメンタリー映画『キムズビデオ』が、来る8月8日(金)より全国で順次公開されるに先立ち、トークショー付き先行上映会が開催された。登壇したのは、映画パーソナリティの伊藤さとり、そして、かつてTSUTAYAでビデオの仕入れを担当していた可野修平。両氏はレンタルビデオと映画にまつわる思い出深いエピソードを披露した。

■ 映画『キムズビデオ』トークショー付き先行上映会
映画パーソナリティの伊藤さとりさんは、約30年前に、映画の原稿執筆とDJを兼任し、TSUTAYAの店内放送「TSUTAYA店内放送 WAVE-C3」のナビゲーターを務めていたことを明かしました。当時は、映画の紹介原稿だけでなく、レンタルビデオ棚に添えられる「ポップ」の原稿も手掛けていたそうです。映画への深い愛情から、普段の会話でも比喩を映画に例えてしまう癖があると語り、「ポルターガイストのような」という比喩が映像化される場面や、映画『アルゴ』がそのまま作中で再現される展開に驚きと感動を覚えたと述べました。
また、自身の店内放送に対して、“自身が関心のない映画を紹介する際には淡々とキャストや監督の経歴のみを語り、好きな映画については映像美や内容を熱く語っている”と指摘された経験があるというエピソードを明かした。そんな当時の緩やかな制作体制と自身の個性が垣間見えるエピソードも披露し、会場の笑いを誘いました。
個人的な思い出としては、高校生の頃に近所のレンタルビデオ店で、人気のためなかなか借りられなかったフィービー・ケイツ出演の映画『パラダイス』を巡る逸話を紹介し、当時の「貸し出し中」という概念が持つ独特のワクワク感を共有しました。

一方、TSUTAYAのビデオフロアを担当していた可野修平氏は、1999年12月17日にオープンした渋谷TSUTAYAの品揃えを全て手掛けた人物として紹介されました。彼が担当したのは恵比寿店や新宿店も含まれ、特にVHSが主流だった時代には、業者向けの卸売店へアルバイトのメンバーと共に、一般には流通しない廃盤やレア盤を買い付けていたと語りました。恵比寿店時代から続く「ないビデオはない」というコンセプトのもと、お客様からのリクエストを投書箱で募り、それに応える形でレア作品を収集し蓄えていったとのこと。中には、入手が困難すぎて店頭には出さず、特定の顧客にこっそり貸し出す「幻の一本」と呼べるような日本風映画も存在したと明かし、当時の熱狂的なビデオ文化を偲ばせました。新宿TSUTAYAの閉店に伴い、約6000本のVHSが渋谷店に集約された時期もあったこと、そしてビデオデッキの貸し出しサービスを行っていたことも紹介し、レンタルビデオ店の変遷と、現在のレンタル売り場の消失に対する寂しさも口にしました。

ドキュメンタリー映画『キムズビデオ』については、ニューヨークの伝説的ビデオ店「キムズビデオ」の5万5000本もの膨大なコレクションがイタリアのシチリア島に放置されていることが発覚し、それを救出する「荒唐無稽な奪還作戦」を決行するという物語が紹介されました。劇中には多数の映画作品が引用されていますが、これらは「フェアユース(Fair Use)」(※著作権で保護された著作物を、著作権者の許可なく一定の条件を満たせば利用できるという、アメリカの著作権法における解釈)という考え方に基づき、弁護士の監修のもとで権利がクリアされている点が強調されました。また、ドキュメンタリーでありながら、後半はファンタジーのような展開を見せる点や、音楽担当者と監督の関係など裏話も語られ、そのユニークな制作過程が明かされました。
可野さんは、新宿店から渋谷店に集められたVHSコレクションの現在の行方が不明であることに触れ、キムズビデオと同様に、日本にも失われた貴重なビデオコレクションの物語が存在する可能性を示唆しました。
現在、キムズビデオのコレクションはニューヨークのシネマコンプレックス「アラモ・ドラフトハウス・ロウアー・マンハッタン」の一角で「キムズビデオ・アンダーグラウンド」として新たな生命を得ており、ビデオデッキの貸し出しも行われていると紹介されました。これは、映画『ロボット・ドリームズ』やダーレン・アロノフスキー監督の新作にもキムズビデオが登場するなど、今なお多くの映画ファンに愛されている証拠と言える。
失われゆくレンタルビデオ文化と、それにまつわる映画への尽きない愛情を描く『キムズビデオ』は、8月8日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ホワイト シネクイントほか全国で順次公開。


日本語タイトル : キムズビデオ
オリジナルタイトル : KIMʼS VIDEO
出演 :
キム・ヨンマン (主人公)
ショーン・プライス・ウィリアムズ (キムズビデオ元従業員)
アレックス・ロス・ペリー (キムズビデオ元従業員)
ディエゴ・ムラーカ (この地区の自治体の警察署長)
エンリコ・ティロッタ (キムズビデオの管理人/ミュージシャン)
ヴィットリオ・ズカルビ (かつてのサレーミ市長 2008~2012)
ジュゼッペ・ジャンマリナーロ (マフィアとの繋がりが疑われる謎の人物)
レオパルド・ファルコ (マフィア撲滅委員会 会長)
ドミニコ・ヴェヌーティ (サレーミ市長)
監督・編集 : アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン
撮影:デイヴィッド・レッドモン
音楽:エンリコ・ティロッタ
録音:デイヴィッド・レッドモン、マチュー・デボルド
アメリカ/2023年/英語、韓国語、イタリア語/88分/カラー/16:9
提供:ミュート、ラビットハウス 配給:ラビットハウス、ミュート
© Carnivalesque Films 2023
公式サイト https://kims-video.com/
公式X、https://x.com/usaginoie_film
8月8日 ヒューマントラストシネマ有楽町、ホワイト シネクイントほか全国順次公開
