2025年7月26日(土)より池袋シネマ・ロサで2週間限定公開中の映画『架空書影。』。長谷川朋史監督は「人生を変える一冊」と願う本作に「一冊の本が変えるアナタのすべて。」を掲げた。「存在しない本の表紙」を意味する本作は、本を巡る二つの物語で構成され、主演・峰平朔良が一人二役を熱演。本インタビューでは、監督の創作背景や峰平朔良さんの役への挑戦など、制作秘話を明かします。

■ 映画『架空書影。』長谷川監督&峰平朔良インタビュー
Q1. 『架空書影。』というタイトルに込められた意味について
ー:本作のタイトル『架空書影。』は「存在しない本の表紙を意味」し、「この映画があなたの心を揺り動かす一冊になってほしいと強く願っている」とコメントされています。このタイトルに込めた深い意図や、観客にどのような体験をしてほしいという願いがあるのか、詳しくお聞かせいただけますか?
長谷川朋史監督:自分の創作意欲の根っこは何だろうと考えた時、少年期、青年期に接した書物に受けた衝撃を、他者と共有したいという願望であることに気がつきました。つまり、自分の感動を追体験してほしいという気持ちです。感動と言っても、涙を流したり喜びに打ち震えたりといった大袈裟なものでなく、些細な感情だけど、ずっと心に引っかかって忘れられないような小さな感動の部類です。それら些細な感情が自分の人生の岐路において進む道の選択に大きな影響を与えていると感じています。眉村卓に出会わなければ、あるいは手塚治虫に出会わなければ、いま、こうして映画を作っている自分は存在しないかもしれません。「架空書影」というタイトルには、「まだ皆さんが出会っていないけどきっと人生を変える一冊」という意味を込めました。いろんな本との出会いと同様、この映画も皆さんの心に中に引っかかって人生の一部にしてもらえたら嬉しいです。
Q2. 監督の幼少期の体験と作品への影響
ー:監督は1970年代の幼少期にNHKの「少年ドラマシリーズ」に夢中になり、筒井康隆氏や眉村卓氏の作品から強い衝撃を受けたと仰っています。これらの文学作品に漂う「得体の知れない不安感、淡い恋愛幻想」は、具体的に本作もしくは作品作りに、どのように反映されているのでしょうか?
長谷川朋史監督:少年期に感じていた不安は、1970年代のテレビ文化と直結していて、米ソ核戦争、公害汚染、石油の枯渇、不安を煽るようなニュース番組の裏でドリフのドタバタコメディーや、いつも笑顔のアイドル達が楽しそうにしている番組が流れていたり、世界の滅亡が明日やってくるかもしれないけど、考えても仕方がないみたいな風潮に起因していると思います。
筒井康隆さんの全ての作品に、この「世界の滅亡が明日やってくるかもしれないけど」のニュアンスが含まれているように感じました。本作の第二話「埋めてくる」はその影響を強く受けていると思います。
恋愛幻想については眉村卓さんの影響が大きいと思います。
眉村さんの作品の登場人物はみんな誠実で、まっすぐです。物語の中で、自分が所属する社会から弾き出された主人公Aをもう一人の主人公Bが理解し助けるという構図が多いのも特徴です。主人公Aが置かれた状況は、言葉では言い表せない悲しみに満ちていて、ヒロイン役の登場人物が主人公Aに心惹かれていくが思いは成就しない。そんな恋愛観への憧れも自分の作品に色濃く現れているように思います。第一話「書架の物語」の結末はまさにそのものです。
Q3. 短編から長編映画化への経緯と挑戦
ー: 『書架の物語』と『埋めてくる』はそれぞれ国内外の映画祭で入選・受賞した短編映画ですが、今回これらを統合し、長編映画『架空書影。』として公開しようと決めた背景にはどのような思いがありましたか?長編化にあたって、物語や表現面で新たに加えた要素や、特にこだわった点、あるいは苦労された点があれば教えてください。
長谷川朋史監督:短編では劇場公開は難しい、という認識は以前からありましたが、正直あまり深くは考えていませんでした。「書架の物語」が国内6映画祭に入選して、このままではもったいないなと感じていた時期に「埋めてくる」の撮影準備を始めました。なので、なんとか二つの作品に関連性を持たすことができたと思います。2作品の製作団体が違うので、完成してからそれぞれ相談して劇場公開を目指す同意を得られて本当によかったです。許可が得られなければ公開はなかったと思います。作品の中身について大きく変えたところはありませんが、映画は冒頭とエンディングが変わったら全然違うイメージになることが今回よくわかりました。
Q4. 二作品、それぞれの主演・峰平朔良さんの起用について
ー:峰平朔良さんが第一話のツムギと第二話のマリという、全く異なる二人の主役を演じられました。監督から見て、峰平さんのどのような点に、この一人二役という難しい役どころを任せる魅力を感じられましたか?また、それぞれの役柄に深みを与えるために、どのような演出をされましたか?
長谷川朋史監督:田口敬太監督「対話する世界」で峰平さんの演技を見て、え? なんでこの女優、無名なの? と思ったのが正直な感想です。大袈裟な演技じゃなく、小さい演技ができる俳優さんを常に探していたので、「みつけた!」と思いました。ツムギは台本でちょっとキャラクターを作り過ぎてしまったので、もっと何も考えてないキャラクター、マリをどう演じるのか楽しみでしたが、期待以上でした。演出として、キャラクターに関する質問には徹底して答えを教えない方針で臨みました。本人は不安だったと思いますがとても上手くいったと思います。
Q5. ご自身の読書体験と作品テーマの関連性
ご自身のコメントで、清水杜氏彦さんの『少女モモのながい逃亡』が「めげそうになっている私の心を元気な心へと変えてくれる一冊」と紹介されています。この個人的な読書体験が、本作のメインコピーである「一冊の本が変えるアナタのすべて。」 というテーマ、あるいはツムギとマリという役柄を演じる上で、どのように影響を与えましたか?
峰平朔良:ツムギは「本を禁止された未来」から捨て身の覚悟で過去に戻り「本」に会いに行き、それがマリという別人格になって記憶を無くしたとしても「本」と離れずに生きています。
直接意識したわけではありませんが、
『少女のモモのながい逃亡』にも描かれている「何があっても諦めない」という魂の核の強さみたいなものは彼女たちが強く共鳴する場所なのかなと思います。また、私の普段の考え方や台本の読み解きにもきっと影響してると思います。

Q6. 第一話「書架の物語」ツムギ役の挑戦
第一話で演じられたツムギは、「本が禁止された未来の世界から来た」という非常にSF的な設定を持つ少女です。このユニークな役柄を演じる上で、特に意識したことや、演じる上で難しかった点、あるいは発見があった点などがあれば教えてください。
峰平朔良:質問にもある通り、このSF的な設定をまず自分の中に落とし込むことを大切に意識しました。
「本」というツムギのアイデンティティを禁止された「抑圧感」や失った時の「絶望と喪失」は頭では理解できても、私の今までの経験では本質的な芯を掴むことが難しかったです。
なので自分の日常生活の中にツムギを置いてみて彼女だったらどう思うか、どう感じるか、考えながら生活してみました。
そうしていくうちに、少しずつ彼女との共通点や新たな発見を見つけることができツムギの1番のコアを理解して演じることができました。
このトライをした準備期間は私にとってすごくいい経験になりました!
今後にも活かしていきたいです。
Q7. 第二話「埋めてくる」マリ役の複雑な心理描写
ー:第二話のマリは、人気作家のゴーストライターでありながら、作家の死体を隠蔽しようとするという、倫理的に非常に複雑な状況に直面します。マリの葛藤や危機、そして遊助(髙橋雄祐)との関係の中で生まれる心理的な変化を、どのように表現しようと試みましたか?
峰平朔良:遊助に言われたことは必ず起こるし、彼の言うとおり動かないといけない。
だからこそマリは遊助が何を言い出すのか、
自分がどんなふうに振り回され何をしてしまうのか恐怖に感じている。それがマリの不安定さとして表現できればと思ってお芝居しました。
マリは遊助とずっと生きてきたし、助けられもしてきたのかもしれません。
そのかけがえのない存在が自分の恐怖と不安定さであることを大切にしました。
Q8. 一人二役を演じ分ける上での工夫
ー:ツムギとマリは同じ峰平さんが演じながらも、全く異なる物語とキャラクター設定を持っています。一人二役を演じ分けるにあたり、どのように役作りをされましたか?それぞれのキャラクターへのアプローチや、心情の切り替え方で工夫した点があれば教えてください。
峰平朔良:実は1作目「書架の物語」と2作目「埋めてくる」が1つの映画として繋がっていくことを全く知らされていなかったんです。
なので演じ分けようという考えすらなく、どちらもいつも通り目の前のことにただ向き合って演じました。
そのおかげで全く違う人物に見えた。と言っていただくことが多いいです。
そして演じてみた私もやっぱり別人のように感じています。
繋がりを知った上で作品に入りたかったですが、おかげで素直にツムギとマリを演じることが出来たので感謝しています。
Q9. 制作過程で印象に残るエピソード
ー:監督は脚本・美術・撮影も兼任され、峰平さんは両作品の主演を務められました。撮影現場や制作過程を通して、特に印象に残っているエピソード、大変だったこと、あるいは思わぬ化学反応が生まれた瞬間などがあれば、それぞれお聞かせいただけますか?
長谷川朋史監督:「書架の物語」はエキストラを含め約20名で、自分の作品では最多キャスト。控え室がお祭り状態、賑やかで楽しそうだったのが印象に残ってます。一転「埋めてくる」は5名で移動も多く、静かかなと思ったら、控え室はやはり賑やかでした。ほぼ全員20代だから元気ですね。若者が集まると賑やかなのはよくわかりました。
峰平朔良:監督との撮影は本当に何のハプニングもなくとても心地よく集中して撮影できました。ある意味何もないというか、、、
強いて言うなら2つの現場ともチームの仲が良かったことです。
特に「埋めてくる」は笹生さん率いる大学生の同期の方達がチームに入っていたので、和気あいあいとした空気の中に入れてとても楽しかったです。
Q10. 映画が観客にもたらす「変化」への期待
ー:本作のメインコピーは「一冊の本が変えるアナタのすべて。」です。このメッセージを込めた映画が、観客の皆さんにどのような「変化」をもたらすことを、監督と峰平さん、それぞれ最も期待されていますか?
作品を見る方へのメッセージをお願いします。
長谷川朋史監督:アナタの全てを変えるのか、それとも、アナタの中で変わった全てなのか。いつか何年か経って思い出すような作品であってほしいと思います。
峰平朔良:私は物語(本 映画 舞台 なんでも)に触れるようになってから、語彙が増えてそれに伴って今まで感じれなかった感情をきちっとキャッチ出来るようになりました。
なので、この映画を通して物語に触れることの豊かさを一緒に共有出来たらなと思っています。
そして、物語を記すツールの原点に近い「本」を改めて感じていただけたら幸いです。 最後まで読んでくださりありがとうございました!

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