- 2024年7月6日
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9月3日、東京・渋谷のホワイトシネクイントにて、映画「キムズビデオ」の上映後トークイベント「キムズビデオについて私が知っている二、三の事柄」が開催された。登壇したのは映画評論家の松崎健夫氏と、配給会社SIRENの三堀大介氏。イベントでは、伝説のレンタルビデオ店を巡る本作を起点に、失われゆく映画の「所有」という概念、著作権の問題、そしてデジタル時代のアーカイブのあり方まで、映画文化が直面する現代的な課題が多岐にわたって語られた。利便性が増した現代において、我々が手放しつつあるものは何かを深く問いかける一夜となった。

「キムズビデオについて私が知っている二、三の事柄
映画の記憶、共有から所有、そして消失の危機へ
イベントの冒頭、松崎氏は本作を観て「どびっくりした」と率直な感想を述べた。かつて渋谷に存在したレンタルビデオ店のVHSコーナーの記憶や、ビデオテープの劣化・再生不能が懸念される「2025年問題」と本作が日本で公開されたタイミングが重なることに言及し、「自身が考えていたことが映画の中で描かれていた」と熱を込めて語った。
トークの中心となったのは、映画という文化をいかに未来へ残していくかという問題だ。松崎氏は、配信サービスが主流となり、物理的なソフトを「所有する」感覚が失われつつある現状に警鐘を鳴らす。特に、すでに存在しない映画会社の作品などは、ソフトがなければいずれ観ることができなくなる可能性があると指摘した。さらに、問題はソフト側だけでなく、再生機であるビデオデッキが世界中で生産終了しているというハードウェアの危機、いわゆる「2025年問題」の核心にも触れた。公的機関でさえ、壊れたデッキの部品を確保するためにオークションでジャンク品を探しているという現状が明かされた。
アーカイブの方法についても議論は及んだ。松崎氏は約20年前にフランスとカナダで行われた研究を例に挙げ、デジタルデータはOSや記録媒体の進化に依存するため、5年、10年のスパンで更新が必要になるのに対し、フィルムは初期費用がかかるものの100年は持つため、長期的には安全であるという結論に至ったと紹介した。本作で描かれるビデオテープ奪還作戦はハッピーエンドに見えるが、その先にある「どうやって残すか」という、より深刻な現実を考えさせるきっかけになると語った。
また、本作で描かれる著作権の問題も重要なテーマとなった。キムズビデオの劇中のFBIの捜査を受けたシーンのエピソードに触れ、現在の著作権の考え方からすれば当然の措置としつつも、それによって多様な映画文化に触れる機会が生まれていた側面も無視できないと語る。松崎氏は、映像の引用に厳格な日本と、学術的な目的などであれば引用が認められる「フェアユース」の考え方がある欧米との違いを指摘。日本ではフェアユースの制度が整っていないため、過去の映画を引用して解説するようなドキュメンタリー作品が作りにくく、結果として映画史を知る機会が奪われていると危惧した。本作も、弁護士の名前がクレジットされているものの、実際にはフェアユースの考え方に基づき、1本も許諾を取らずに制作されたという。
最後に松崎氏は、レンタルビデオという文化が持っていた「誰かが見たものを自分も見る」という、人と人が繋がる感覚の重要性を語った。映画館で多くの人と作品を共有する体験と同様に、そこには効率性だけでは測れない情緒的な価値があったと振り返る。奇しくも、本作とテーマが共通するミシェル・ゴンドリー監督の『僕らのミライへ逆回転』が、日本では現在視聴困難な状況にあることが紹介され、選択肢が増えたように見える現代が、実は文化的に不便になっているという逆説的な現実が浮き彫りとなった。松崎氏は「見れる映画を見れるうちに見ておけ」という言葉で締めくくり、映画文化を享受し、未来へ繋いでいくことの重要性を観客に訴えかけた。

【プロフィール】
松崎健夫
映画評論家 東京芸藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の現場を経て執筆業に転向。『そえまつ映画館』、『シン・ラジオ』など、テレビ・ラジオ・配信番組に出演。『キネマ旬報』誌、映画.com、劇場パンフレット等に映画評論を多数寄稿、共著に『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)がある。ゴールデン・グローブ賞国際投票者、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、田辺・弁慶映画祭審査員、日本映画批評家大賞審査員、Yahoo!ニュースオフィシャルコメンテーター、デジタルハリウッド大学特任准教授などを務めている。日本映画ペンクラブ会員。
日本語タイトル : キムズビデオ
オリジナルタイトル : KIMʼS VIDEO
出演 :
キム・ヨンマン (主人公)
ショーン・プライス・ウィリアムズ (キムズビデオ元従業員)
アレックス・ロス・ペリー (キムズビデオ元従業員)
ディエゴ・ムラーカ (この地区の自治体の警察署長)
エンリコ・ティロッタ (キムズビデオの管理人/ミュージシャン)
ヴィットリオ・ズカルビ (かつてのサレーミ市長 2008~2012)
ジュゼッペ・ジャンマリナーロ (マフィアとの繋がりが疑われる謎の人物)
レオパルド・ファルコ (マフィア撲滅委員会 会長)
ドミニコ・ヴェヌーティ (サレーミ市長)
監督・編集 : アシュレイ・セイビン、デイヴィッド・レッドモン
撮影:デイヴィッド・レッドモン
音楽:エンリコ・ティロッタ
録音:デイヴィッド・レッドモン、マチュー・デボルド
アメリカ/2023年/英語、韓国語、イタリア語/88分/カラー/16:9
提供:ミュート、ラビットハウス 配給:ラビットハウス、ミュート
© Carnivalesque Films 2023
公式サイト https://kims-video.com/
公式X、https://x.com/usaginoie_film
8月8日 ヒューマントラストシネマ有楽町、ホワイト シネクイントほか全国順次公開
