爽子の衝動

映画『爽子の衝動』公開初日舞台挨拶:シネマカリテ閉館に戸田監督「育ててもらった学校がなくなるよう」

映画『爽子の衝動』の公開初日舞台挨拶が10月10日(金)の上映後に開催され、主演の古澤メイ、間瀬英正、小川黎、黒沢あすか、梅田誠弘、そして戸田彬弘監督が登壇した。遅い時間にもかかわらず会場は満席となり、キャストは感謝を述べた。

■ 映画『爽子の衝動』公開初日舞台挨拶

古澤メイ、間瀬英正らが登壇、観客に「社会の生きづらさ」への思考を問う

戸田監督は、本作が中編の45分という短い作品ながら単独公開に至ったことに触れた。また、本作を上映している映画館(シネマカリテ)が、自身にとって5本目となる作品の上映館であり、「9割方育てていただいた場所」、あるいは「学校みたいな場所」であるにもかかわらず、来年1月12日に閉館(平館)してしまうことに言及。このニュースを見た時は大きなショックを受けたと述べ、「育ててもらった学校がなくなるような気持ちで今ちょっと悲しい」と心境を吐露した。しかし、その映画館で自分の映画『爽子の衝動』を上映できたことを「すごく嬉しく思って」いると語った。

生活保護、ヤングケアラー問題に切り込む

本作の企画は、脚本家の野島伸司さんが顧問を務める俳優養成所「ポーラスター東京アカデミー」と協力し、若手俳優に主演やメインキャストのチャンスを与えるという目的からスタートした。戸田監督は、個人的に生活保護やヤングケアラーといった社会問題に強い憤りを感じており、ドキュメンタリーやニュース記事、取材を通して知ったこれらハードな内容を「自主映画でしかできないこと」として脚本にし、制作に挑んだことを明かした。

主演の爽子役を演じた古澤メイさんは、撮影からちょうど1年後に本格的な公開初日を迎えた心境について、「撮影時には考えられないようなこの環境で、このキャストのみんなと舞台挨拶できることは本当に嬉しく思います」と感謝を述べた。また、本作は自身にとっても「たくさんいろんなことを知って考えた作品」であり、観客一人一人が「何か考えるきっかけになればいいな」という思いで立っていると語り、来場者に作品を広めるための協力を求めた。

役作りへの徹底的な挑戦

オーディションで抜擢された桐谷さと役の小川黎さんは、初めての現場に「右も左も分からない」状態だったと振り返った。しかし、戸田監督が演技指導の際に「さとはどう思うのか」「どういう気持ちなのか」を自身に聞いてくれたおかげで、役と向き合う時間を持つことができ、「すごく贅沢な経験だった」と感謝を述べた。

爽子の父親役を演じた間瀬英正さんは、監督から「体を変える必要がありますね」とソフトに言われたことをきっかけに、役作りとして自己判断で13キロの減量を行ったことを告白した。間瀬さんは、電動車椅子を使用する四肢麻痺の方とパートナーに会い、その肉体の様子を見てショックを受けた経験が、減量に拍車をかけたという。性的描写があるため、主演の古澤さんや監督とは食事等でコミュニケーションを取り、またインティマシーコーディネーターの方に入ってもらって相談したり、ノートを交換したりしながら役に向き合ったと語った。

ホームヘルパー田口を演じた黒沢あすかさんは、戸田監督の過去作(『市子』)を見て以来、「戸田監督の作品の住人になりたい」と強く願い続けており、念願が叶ったことに「よっしゃ!」って思いましたと喜びを表明した。27年前にホームヘルパーの資格を取得していたこともあり、今回の役を通じて現場の技術的な変化などを学び直したという。黒沢さんは、現場で役柄を超えた意思疎通ができ、「なんていい現場なんだろう」と戸田組への参加の喜びを強調した。

ケースワーカー遠藤役の梅田誠弘さんは、印象の悪い役柄について、バックボーンが映らない中、役には「役なりの理由」があるように作りたかったと説明した。遠藤は、役所から言われたから動いていると「自分に言い訳をしながら、自分の芯みたいなものを隠して行動している」というキャラクター設定を語った。梅田さんもインティマシーコーディネーターの必要性を現場で感じたことを付け加えた。

「知ることで変わる」

最後に戸田監督は、観客が映画を見て怒りやいろんな気持ちを抱えているだろうと理解を示しつつ、本作はケースワーカーのすべてがひどいわけではないこと、しかし、生活に苦しむ性的搾取の被害者などが「日陰のところで生きづらさを持っている」現実を描いていることを改めて強調した。監督は、自身がドキュメンタリーやルポ、ニュース記事を読んで社会の事象を知っていったように、「知ることで変わる」と信じていると述べた。この映画が、観客が身近な人の「生きづらさ」に気づき、どのように心を寄せられるかを考えるきっかけとなり、「社会を変えていく力になっていく」ことを願っていると語り、舞台挨拶を締めくくった。


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Hajime Minamoto

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