2025年11月15日に開催された第17回TAMA映画賞授賞式において、平一紘監督が最優秀新進監督賞を受賞した。同賞は「本年度最も飛躍し活力溢れる活躍をした監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督」に贈られるもので、平監督は『木の上の軍隊』と『STEP OUT にーにーのニライカナイ』の2作品での活躍が評価された。

80年の節目に沖縄戦を「正面から」描く
特に『木の上の軍隊』に対する授賞理由は、平監督が「沖縄戦と正面から合い困難を乗り越え 兵士たちの浮きを幅広い世代の心に届けました」という点に集約されている。この作品は、井上ひさし原案の同名舞台劇を原作とし、終戦を知らずに木の上で2年間生きた2人の兵士の実話に基づいた映画である。
平監督は、沖縄戦から80年という節目の年に、伊江島という場所でこの作品を撮れたことが、彼にとって「一生大事な経験になった」と強調した。沖縄出身の監督である平氏は、当初、沖縄戦を自分が描いていいのかという迷いがあったことを明かしている。

ユーモアがもたらした確信
監督は、高校時代まで学校教育やテレビ特番以外で沖縄戦について深く勉強したことはなかったと述懐した。しかし、プロデューサーから話を受け、2年間勉強を重ねる中で、この作品は絶対に「残さないといけない」という思いに至った。
特に、原作舞台が「ものすごくユーモラス」であったことから、平監督は「僕みたいに今までは沖縄戦に距離を置いていた人たちに届く物語になる」と確信したという。沖縄戦の辛さから目を背けがちだった人たちにも、物語として届ければ見てもらえたかもしれないという考えから、市民の映画祭でこの賞を受賞したことは、その物語が映画ファンに届いたという「目論見が成功したな」と感じる瞬間であったと語った。

11年越しの栄誉に感謝
平監督は、2014年にTAMA NEW WAVE(シネマフォーラム)で初の長編映画『アンボイナじゃ殺せない』を公開した際、「またいつか絶対映画を監督して戻ってきます」という言葉を残していたことに触れた。それから11年ぶりの凱旋となり、この場で素晴らしい賞をもらったことに感極まりそうになっていると喜びを語った。
また、平監督は『木の上の軍隊』の成功を支えてくれた、沖縄のスタッフやキャスト、そして主題歌を送ったアンリーさんたちにこの賞を捧げたいと述べた。
今後の活動については、沖縄を題材にした企画をいくつか持ちつつも、沖縄以外の場所でも多くの作品を作っていきたいとの抱負を語り、さらなる意欲を見せた。

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平監督の最優秀新進監督賞受賞は、平監督自身の映画監督としてのキャリアにおける重要な節目を象徴している。沖縄戦という重いテーマを扱うにあたり、監督自身が抱えていた葛藤や距離感を、原作の持つユーモアや人間らしさを活用することで乗り越え、結果として幅広い観客の心に届けるという「目論見」を成功させた点が、高く評価されたと言えるだろう。この受賞は、新進監督への期待だけでなく、社会的な題材への誠実な向き合い方と、それを大衆に届けるための表現手法の巧みさを証明する形となった。