映画『3653の旅』中村更紗、野本梢監督インタビュー。出演の決意、改めて前を向かされた

映画『3653の旅』中村更紗、野本梢監督インタビュー。出演の決意、改めて前を向かされた

8月13日(土)から、池袋シネマ・ロサにて、映画『3653の旅』そして、『彼女たちの話』が同時上映される。今回、野本梢監督と両作品に出演する中村更紗さんにお時間をいただき、中村さんの主演となる『3653の旅』とご自身についてお話を伺いました。

3653の旅
中村更紗

■映画『3653の旅』 中村更紗、野本梢監督インタビュー

▼映画『3653の旅』制作のきっかけについて

-今回、『次は何に生まれましょうか』の稲村久美子プロデューサーとタッグを組まれていますが、本作の制作にあたっての声掛けなどはどのように始まったのでしょうか?

野本梢監督
2、3年前から稲村さんにはお声がけいただいていました。稲村さんが2011年から通い続けている石巻で10年目の夏に映画を撮りたいと。しかし、新型コロナウイルスの影響でなかなか現地を訪れることが難しく、地方に東京・埼玉の者たちが伺って撮影してよいものかと悩む日々でした。そうしているうちに夏は近づき、稲村さんの鶴の一声で石巻へ向かいました。そこで感じたことや自分が震災について抱いていた思い、誰かが亡くなったこと見つからないことにどう折り合いをつけていくのか震災に関する書物で読んだことなどから、脚本を書き進めていきました。

▼中村更紗さんと野本梢監督の出会いは?

-いつ頃、どのようにお二人は出会ったのでしょうか?

野本梢監督
ワークデザインスタジオ(https://workdesignstudio.club/)のワークショップですね。

中村更紗
その時、監督を招いて短編映画を作る企画を行っていて、その最初の監督が野本さんで、そこに私が参加したことが最初の出会いになります。

-監督から見た中村さんの最初の印象はいかがでしたか?
 何か、今回の作品に繋がる光るものがあったのではないでしょうか。

野本梢監督
そうですね。光るものがバンバンありました(笑)
そのワークショップには、中村さんは途中から参加されたんです。
ワークショップでの組み合わせを考えるときに、他の方はお芝居のワークショップで見ていたんですけど、中村さんのことは存じ上げていなかったので、「中村さんってどういう方なんだろう」と思って映像を探したんです。そこでとある映像を見つけて。 

中村更紗
その映像は、角洋介(すみ・ようすけ)さんという監督の撮ったショートムービーです。
(参考: youtube.com/watch?v=wq4uoUVRs14 「BECAUSE IT’S THERE(2020)」)

野本梢監督
その映像で観た中村更紗さんの存在感がすごくて、「あ、出会ってしまった!」みたいな感じがしたんです。「ワーッ!」ってなったあの感情が忘れられないです。
その後でご本人にお会いしたんですが、やはり良かったです。

▼中村更紗さんからみた野本監督の印象

-中村さんから見た野本監督の印象や覚えていることは?

中村更紗
ワークショップで野本さんを見たときにまず「俳優としての参加者の方かな?」って思ったんです。ワークショップの参加者の年齢層が二、三十代で、私は映像の現場もワークショップ自体もほぼ行ったのが初めてだったので、誰が監督かも分からなくて。
そこにいらしたのが野本さんでした。最初は特に会話をする機会もないままワークショップが進んでいきました。その時にやった内容も面白かったのを覚えています。
その後オーディション用に台本を渡されたのですが、その台本の、男女に限らず、カップルだったり、夫婦だったり友達だったり、いくつかあるいろんなペアの体と心が入れ替わるという内容が、自分が考えていた愛の形にすごく近くて。
ちょうど私自身も「私が私の姿じゃなくなったときに、この人は自分のことを愛してくれるだろうか」とか、「何が欠けたら愛してくれなくなるだろうか」といったことを考えていた時で、よく会話もしないままの関係の時にその台本が届いて、「あぁ、来てよかった」って思えて、そこから野本さんと会話をしたんです。
そこで、まず頭がすごく良い人だなぁと思いました。脚本にそういったことを起こしていけるのがすごいと思って、少し遠くから見ていました。

3653の旅
中村更紗

-このワークデザインスタジオのお話はいつ頃のことですか?

中村更紗
ちょうど2年前(2020年)の7,8月頃ですね。

-中村さんが映像の世界に入り活動を始めた頃なんですね。

▼中村更紗さん起用の経緯と選出理由

-今回『3653の旅』に中村さんを起用・選出した流れを教えてください。

野本梢監督
今回の中村更紗さんのキャスティングはオファーになります。
『彼女たちの話』を先に撮影していて、その後『3653の旅』の撮影でした。
まだそんなにキャラクターも固まってない段階でどなたにお願いしようかなと考えていた時期がありました。
企画が本格的に動いてから、撮影までの日数があまりなく、『3653の旅』の出演者をオファーする際に、「『彼女たちの話』でお願いしたばかりだし、むやみに更紗さんを呼べば大丈夫みたいなのって、どうなの?」という変な迷いがあったんです。
そのタイミングでプロデューサーの稲村久美子さんから、「中村さんにお願いしませんか?」という話があって、中村さんに出演してもらいたいという意見が一致するのであれば、「何が何でもやっていただきたい」というのがありまして、更紗さんにお願いしました。
そこで、更紗さんに決まりました。今回はみんなを引っ張っていくような役なのですが、「サバサバした感じの部分が、更紗さんで見られたらいいな」というものが加わっていきました。

-出演者として、東日本大震災の被災地に関係する方々から、今回の『3653の旅』に選ぼうといった発想はありましたか?

野本梢監督
それはありました。でももちろんそれだけでお願いしたわけではないんです。
ただ、被災された地域に住んでいた方が演じてくれた方が、私たちも心強いと思っていました。

▼石巻での取材と脚本への反映

-本作の玲と凪という登場人物は、地元に残る人、離れる人といった対照的なキャラクターだったと思います。
 取材をした中でのエピソードから脚本に落とし込んでいった流れなのでしょうか?

野本梢監督
自分がずっと関東にいるので、石巻に住み続ける人物を主人公として描くのは難しいという考えがありました。
複数の人の話や文献を元にした話が入っているので、どの段階で今回のテーマを決めたのかがあやふやではありますが、シナリオを書く前に石巻に行った段階で、「復興って何だろうね」っていう言葉を耳にしたんです。それはなにもかもを流されてしまって、何もないところに、花を植えてカフェを経営している方がいて、そこは人が住めない場所になってしまったんですけど、そこで整備を進めている方がそのように言っていたんです。
その一言が、大きな取っ掛かりになったと思います。

▼野本監督からの演出は?

-現場での監督の演出・指示はいかがでしたか?

中村更紗
『3653の旅』も、『彼女たちの話』も“ガチガチに演出する”ではなくて、いつも、“足りないところ”、“どうしてもここが欲しい”といったところを演出してくださるんです。
なので、これはいつもですけど、演出だと感じないというか、無理のない動きの流れの一部みたいなことを言ってくださるので、それが野本さんの演出なのかなと思っています。
歩いているのに急に「止まれ!」みたいなものがないので、それをすべてとても心地よく受け止めていって、「何が演出だったかな…」みたいに後々感じることはありました。

3653の旅

-野本監督の演出は、役者の方ご自身の良さを見つけて、それをキャラクターに映し出させるような方法でしょうか。

野本梢監督
そうですね。お芝居をする中で役者さんが一番役のことを考えてくれているとずっと思っています。それは脚本を書いた自分よりもその人の魅力とか、普段どういう人なのか、何を考えるのか…といったところを考えてくれている・時間を割いてくれていると感じているので、自分が「この役はこう!」と最初から言ってしまうと、その可能性をそいでしまう気もして、考えてきてくださったことや、その役で言ってくれることをまず見させてもらった上で、ずれがあったら話し合うようにやっていきたいと思っています。

▼中村更紗さんの想い

-中村さんの本作のクラウドファンディングのコメントを拝見しました。

「十年前、私も玲と同じ十七歳で、地元岩手県にて震災を経験しました。
けれど、私は被災者ではない。その思いが、震災に纏わる作品に関わる事に長く影響をしてきました。」
https://asia-ina.com/movie/crowdfunding/3653/

-「私は被災者ではない。」と、その思いが「どう影響してきたか」について教えてください。
例えば、岩手県と言えば沿岸部と内陸部で被災状況も大きく違うと思いますし、震災に纏わる作品というとどうしても繊細な部分があると思うのですが。

中村更紗
そうですね。本当にその通りです。
私は岩手県出身ですが、内陸部の生まれだったので自分の周りには大きな被害や亡くなった方はいなかったんです。
でも、私が通っていた高校の後輩の家が流されてしまったとか、結果として見つかったんですが、沿岸で勤務している友人のお父さんが数日間連絡がつかないという話を耳にしていました。当時は、携帯の電波は通じるけどほとんど意味をなしていなくて、他にやれることもなく、ラジオで流れる安否確認でその友人のお父さんの名前を探して聞くことくらいしかできませんでした。そしてテレビがつくようになったら今度は津波の映像が何日もずっと流れるような時間が通り過ぎていって。
私はなんともなかったのに、岩手県出身というと「津波大丈夫だった?」と言われるし、もし震災に纏わる作品に取り組むとしたら、生半可な気持ちで参加してはいけないと思っていました。
初舞台が3.11に纏わる作品だったのですが、その時私は見習いのような役ではあったんですけど、自分は被災者じゃないのに感じるエネルギーがすごく大きくて、しばらく海に行けない時期もありました。
そういったものを沢山感じていたので、私は3.11に関わるような作品で、例えば今回のようにメインキャストや主演をいただいてやるのは「多分できないな」とずっと思っていたんです。でもやっぱり作品としては、岩手県出身だから、やれるならやりたいともずっと思っていました。でも、なかなかやりきれずにいて。
そんな中で偶然にもこのお話をいただいて。野本さんと何度かお仕事をさせていただいて、一緒に作品を作らせていただいてきて、「もうそろそろ、自分は大丈夫かな。野本さんとなら大丈夫だろう。」と思ったんです。
あとは、観てもらった時に“恥ずかしくない”じゃないですけど、“やりました!”ってちゃんと言えることをすればいいだけだと思って、「よし!」という気持ちになって、その言葉をコメントとして書いていると思います。

3653の旅

▼『3653の旅』の脚本を初めて読んだ時の感想は?

-先ほどの質問に続き、出演を決意する後押しにもなったと思われる本作の脚本を初めて読んだときの感想はいかがでしたか?

しかし、脚本を初めて読んだ時、震災の事実だけではなく、玲の大切な人を無くした後の在り方に共感をしました。そして、この物語の終わりに私自身も改めて前を向かされました。
https://asia-ina.com/movie/crowdfunding/3653/

中村更紗
3.11のことだと聞いていたからこそ、今みたいなことを考えて、「ぐぅ~」っと固まっていたのですが、脚本を読んでいくうちに、野本さんが脚本を渡してくださるときに仰っていた“残された人の話”ということが脚本の中にすごく見えたんです。
それって、3.11じゃなくても、例えば誰かが亡くなったり、親が亡くなってしまって残された人とか、兄弟が亡くなってしまったとか、いろいろなことに当てはまるというか、“残された人”という方の印象が強くて、3.11にこだわり過ぎず、そこを目指していけるんだって思いました。

-なるほど、そこが、「改めて前を向かされた」ということなんですね。

■中村更紗さんご自身について

▼役者をはじめるきっかけ、理由

-演技の世界、役者をはじめたきっかけや経緯について教えてください。
 プロフィールを見ると、演技を始めたのが2016年。映像の仕事を始めたのは2020年頃との記載がありました。 2016年というと、22歳くらいの頃ですね。

中村更紗
上京した理由が服飾の専門学校で。染織を学んでいたんです。
その卒業制作を作っている時に、作っているものが全てくだらないゴミに見えてしまったんです。「駄目だ!」って思ってしまった時がありました。
そのまま作って妥協して卒業するのがすごく嫌だったので、そこで初めて父に「休学させてほしい」とお願いしたんです。
その間、何もせず東京でアルバイトだけして暮らすのは、なんだか嫌だなと思って、自分が興味のある中でやったことのない表現方法をやってみようと思いました。
一人っ子ということもあり、ありがたいことに小さい頃から親が色々経験させてくれたおかげで、ピアノとかダンスとか一通りの習い事をして、歌も昔から好きで、美大に行こうかなと思ったりした時以来、絵も趣味で触れる機会が多くて。
そんな中で「やったことがない表現方法ってなんだろう?」と考えた時に、すごく浅はかな気持ちだと思うのですが、「お芝居か」と思ったんです。
そこでネットで“演技 レッスン”と調べたところで、演技のレッスンを始めて、2016年に舞台の世界に飛び込みました。
そうしたら、こっちの方が俄然楽しくて今まで続いています。

-卒業制作で作って「駄目だ!」と思ったのは、どんな気持ちだったのでしょうか?

中村更紗
完全に、自分が納得がいかなかったからですね。
「作りたくて作って、やりたくてやっているのに、なんて中途半端なものを作って私は学生生活を終わるんだろう」という気持ちになっていました。
“完璧主義”だとはよく言われますね。でも、自分の中での“完璧”なので、他の人の“完璧さ”とは違うと思います。納得するか納得しないかという、頑固なだけかもしれないです。

3653の旅

▼演技経験について

-では、演技に関しては、お話のあったレッスンを始めるまでやったことがなかったんですね。

中村更紗
はい。やったことがありませんでした。
ただ、父が趣味で演劇をやっていたという背景は影響しているのかもしれません。
岩手にいた頃、ほとんどその演劇を観に行ったことがなかったんですけど、元々、映画が好きで良く映画館に行くような家族だったので、映画や演劇に触れる機会は多かったと思います。
なので、「できるだろう」とまでは思わないけれど、「そんなに敷居の高いことではない。努力をすれば、ある程度まではいけるんじゃないか」といった気持ちが当時はありました。今になってみては「何を生意気なこと言ってんだ!」って感じなんですけど(笑)

-お父さまが関わっていた演劇に誘われて出たことは?

中村更紗
出たことはないですね。
父が4年前に亡くなったんですが、亡くなったその年に、父が出演していた劇団の代表の方に誘っていただいて、岩手で父を題材にした舞台に出演しました。

▼舞台→映像。そのきっかけ。

-2016年から舞台・演劇で、2020年から映像の世界へという流れだと思うのですが、映像の世界に飛び込んだきっかけは?。

中村更紗
お芝居をやっているっていうと、よく「テレビとか?映像?」とたずねられて。「いえ、舞台です」と答えると皆さんから「えー!?」といった反応だったんです。「映像、向いてそうなのに」と言われることが多くて。でも舞台が好きだったからあまり気にせずにずっと舞台を続けていたんです。
ただ、2019年に1度初めてオーディションで合格したWebCMをやった時に、もの凄く楽しくて。元々興味があった中で、「どうやってやればいいかわからないけど、やってみよう」と思ったのが2020年でした。
舞台も好きだけど、どっちもやるのは要領が悪いからあまりできないだろうと思い、まず集中して映像をやってみようという気持ちでした。

▼共演者・二田絢乃(にたひろの)さんとのエピソードは?

-二田さんとの撮影時のエピソードはありますか。初共演ですよね。

中村更紗
そうです。今となっては凄く仲良くさせていただいています。
私と二田さんは似ているところがあって、ちょっと人見知りだったり、同じ一人っ子であったり。
最初は役の中の距離感もありましたし、現場の中で会話がほとんどなかったんです。
先に石巻での撮影で、関東に帰ってきてからまた撮影があったんですが、撮影の最後の方のようやく玲と凪が仲良くなるぐらいで、ちょっとずつ会話して、「また会おうね」といって現場を離れました。

-お二人とも舞台を経験されてきた役者さんのイメージがありますね。

中村更紗
そうですね。二田さんはずっと舞台に立たれている女優さんで、彼女も最近、映像を始めたと思います。言葉的にあまりよくないのかもしれないんですけど、すごくやりやすい役者さんでした。
そのまま受けて、そのまま返してくれる女優さんで、パワーがすごくて。相手役が彼女でよかったなと思いました。

3653の旅

▼趣味「写真撮影」について

-10年ほど前に撮影されている写真もいくつか拝見したのですが、写真撮影が趣味だそうですね。

中村更紗
はい。今も写真は撮ります。フィルムカメラを使って。完全に趣味ですが。
今はフィルムでの撮影が好きですね。古いものだとか、年季の入ったものが元々好きなんです。「古いなあ」っていう家や、おばあちゃんの手とかも好きだから、そういったものと同じ感じです。

-カメラは何をお使いですか?

中村更紗
カメラはオリンパスのPENシリーズと、ニコンのFAとFM2です。ニコンは叔父からもらったものなんですけど。「昔は何十万円もしたんだぞ」と言われたものをいただきました。

-PENシリーズは小さくてかわいらしいカメラですし、FM2は電池が無くても動作する基本をおさえたカメラで、どちらも素敵なカメラだと思います。

中村更紗
趣味にしては十分すぎるカメラだと思っています。

-カメラと言えば、お好きな被写体はありますか?

中村更紗
植物とか、人が好きですね。人を人として撮るよりかは、すごく寄ってみて、肌とか目とかを撮るのが好きです。
ちょうど今朝まで地元の岩手にいたんですけど、自然が多い中で自分も息を止めたような状態で写真を撮る時間がとても好きです。

▼趣味「人間観察」について

-人間観察が趣味だとか。

中村更紗
人間観察しちゃいますね。

-人間観察は、あえて出かけて行ってするタイプですか?それとも日常、どこでもしてしまうタイプですか?

中村更紗
どこでもやっちゃいますね。カフェとかで友達と話していても、その後ろを歩く人が気になったりします。
街を歩いていて、「あ、朝に電車で一緒だった人だ」とか、観察するというよりは、“気づく”とか“勘”のようなものです。
「あの人はこれから待ち合わせかな…」って見ていたら、「あ、本当に待ち合わせだった」といった感じです。

■お客様へのメッセージ

-映画を観にいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。

中村更紗
今回3.11のお話で、私は“残された人”という役だったんですけど、これは3.11だけにあてはまらず、いろんな経験をされた方々の心に届く作品だと思っています。「3.11の話だったな」と終わらせなくても、自由な感じ方をしていただけたらと思っています。
観てくださる方々へ何かを言うのは難しいんですが、もし感じたこととか、もちろん疑問や意見、感想が生まれた時は、ぜひどんな形でもいいので伝えていただけたら嬉しいです。
「観に来てください!」と明るく言うような作品ではないのかなと思いますが、観て下さった方々に少しでも何かを伝えられたら、感じていただけたらと思います。

野本梢監督
あのとき東北に住んでいなくても、多くの方が被害に遭ったり心を痛めたりしていたと思います。誰かを助けたいときに相対的に自分の気持ちを押しやってしまうこともあると思いますが、それが小さなストレスとなって蓄積されていくこともあるでしょう。自分の思いを認めてあげる、自分に向き合ってあげる、それは更紗さんもおっしゃっていたように、3.11に限らず大事なことで、多くの方に届く思いではないかと思います。私自身、近年大切な家族との別れを経験したときにこの作品のために読んだ本が支えになることもありました。そんな、誰かの傍にある映画であったらいいなと思っています。

3653の旅
左)中村更紗 右)野本梢監督

【プロフィール】
中村更紗(映画『3653の旅』主演・中元玲 役、映画『彼女たちの話』霜田玲 役)
1993年11月15日生まれ、岩手県出身。
2016年より演技を始め、以降舞台を中心に活動。2020年より自主制作映画や広告等、映像演技を本格的に開始し、現在公開待機作を多数控える。

◆ 稲村久美子 企画・プロデュース

1967年4月生まれ。有限会社エイジア代表取締役。日本心理学会所属認定心理士。映画プロデューサー。25歳で独立起業。震災時「東北関東草の根支援プロジェクト」を立ち上げ、主に石巻へ通う。一男三女と猫5匹の母。

野本梢 監督

埼玉県出身。学習院大学文学部卒。シナリオセンター、映画24区、NCWにて映像制作について学ぶ。人を羨み生きてきた為、奥歯を噛み締めて生きる人たちに惹かれながら制作を続けている。2020年製作の『愛のくだらない』(主演:藤原麻希)が第14回田辺・弁慶映画祭にてグランプリを受賞、テアトル新宿、池袋シネマ・ロサをはじめ各地で劇場公開される。

=フィルモグラフィ 主な受賞歴=
「私は渦の底から」(2015/27min)
・第24回 東京国際レズビアン&ゲイ映画祭 レインボー・リール・コンペティション グランプリ
・福岡インディペンデント映画祭2015 レインボー賞
・あいち国際女性映画祭2016 短編部門グランプリ
・第10回 田辺・弁慶映画祭 映画.com 賞
「わたしが発芽する日」(2016/27min)
・第19回 長岡インディーズムービーコンペティション グランプリ
・福井駅前短編映画祭2017 ゾンタクラブ賞・杉並ヒーロー映画祭2018 観客賞
「次は何に生まれましょうか」(2019/25min)製作:(有)エイジア 稲村久美子プロデュース
・福井駅前短編映画祭2019グランプリ
・鶴川ショートムービーコンテスト2019グランプリ
・函館港イルミナシオン映画祭2019観客賞(グランプリ)
・西東京市民映画祭2019優秀作品賞
・第21回 長岡インディーズムービーコンペティション監督賞
「透明花火」(2020/97分) 初長編映画 池袋シネマ・ロサ、他全国公開作品


■映画『3653の旅』

◆ストーリー
東日本大震災から10年。故郷石巻を離れ、埼玉のリフォーム会社に勤めている玲の気がかりは、部屋にこもりがちな幼なじみ・凪。玲は、凪を埼玉へ連れ出すため、同僚の祐太と石巻を訪れる。祐太が指令通り凪との仲を深める中で、玲は今も行方のわからない母と過ごした日々を思い出していく。
玲と凪が抱く、それぞれの過去への向き合い方、それぞれの未来への向き合い方。そこに生じる二人の心の掛け違いが、あの日と今を引き寄せる。

◆クレジット
出演:中村更紗 二田絢乃 卯ノ原圭吾 鈴木達也 坂巻佑 多田浩志 稲村美桜子
主題歌:「鳥人」ナックルヘッド feat.心near
監督・脚本・撮影 野本梢|録音 横田彰文|助監督 金子愛奈|ヘアメイク浜香奈子/松村南奈|ドローン撮影 加藤正明|制作 稲村健一/遠藤晃/Isakazu|編集 知多良|音楽 ナックルヘッド|デザイン 本木友梨|企画・プロデュース 稲村久美子
製作:有限会社エイジア/エイジアムービー/石巻で映画を撮るプロジェクト
『3653の旅』(2021年|日本|42分|カラー|DCP)©︎エイジアムービー

◆公式サイト https://asia-ina.com/movie/film/

■ 映画『彼女たちの話』

きっと分かち合える/2年にわたる撮影が、世界の見方を変えた

◆イントロダクション
「女性による女性のための映画」として企画が立ち上がったものの、撮影をしながら監督自らが男女の分断的考えを省みはじめたことから、移ろいゆく季節の中で考えを変化させていく主人公の姿を約2年にわたって描いた中編映画。映画初主演となる稲村美桜子が等身大の少女を瑞々しく、凛々しく好演、『アルム』『おろかもの』の笠松七海が男女の分断的思考にハマり堂々と生きようとしながらも常にもがいている少女の姉を見事に演じた。

◆ストーリー
中学生になったミクは男子生徒と衝突し悔しい思いをしたことから、「強くなりたい」と、近所のお姉さんからアクションを学び始める。同じ頃、就職活動で「彼氏はいるのか」と訊かれ、O Bには「女って時点で就職は不利」と言われた姉・チカがS N Sで共闘をうたう女性たちに救われ、自らも動画サイトで発信を始める。そうしてミクはチカと女性の権利のため力を合わせて活動していくのだが、近所のお姉さんやミクの塾の先生の不遇が何も変わらないこと、自由気ままに生きているもう一人の姉ウナが起業に励んでいること、その後男子生徒がミクの体調を気遣った際にそれを受け入れなかった自分のことなどに、モヤモヤを募らせていく。

◆クレジット
出演:稲村美桜子 笠松七海 関口蒼 中村更紗 絢寧 岡野航
坂口彩夏 花音 八木拓海 津田恭佑 松木大輔 足立英 土屋直子 村田啓治 渋谷悠 ゆかわたかし 加藤紗希 田村魁成 小沢まゆ 花瑛ちほ 遠藤優子
監督・脚本 野本梢 プロデューサー 稲村久美子
撮影 知多良・小川和也 録音 横田彰文 編集 知多良・野本梢 ポスター・ロゴデザイン 本木友梨
協賛 鴻巣アドバンス株式会社 石川煎餅店 製作 有限会社エイジア エイジアムービー
『彼女たちの話』(2022年|日本|56分|カラー|DCP)©︎エイジアムービー

◆公式サイト https://asia-ina.com/movie/film/


2022 年 8 月 13 日(土)〜26 日(金) 池袋シネマ・ロサにて2週間限定公開

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