映画『アリスの住人』でファミリーホームの温かな母親役を演じたしゅはまはるみ。いつか叶えたいゆっくりとした場所。

映画『アリスの住人』でファミリーホームの温かな母親役を演じたしゅはまはるみ。いつか叶えたいゆっくりとした場所。

12月4日から映画『アリスの住人』の上映が池袋シネマ・ロサで上映されている。本作で主人公たちが生活するファミリーホームの母親役を演じたしゅはまはるみさんに取材の機会をいただき、本作制作および参加の経緯を伺った。
『アリスの住人』の撮影前に行われたワークショップでは、それぞれの役者の叶えたいことが監督に伝える課題があったという。本作出演の経緯としゅはまさんが叶えたいことについてお話を伺いました。

アリスの住人
しゅはまはるみ(加茂朋恵 役)

■映画『アリスの住人』への参加の経緯と、叶えたいこと

▼本作への参加のきっかけ

-本作参加のきっかけを教えて下さい。本作の製作にあたり、澤監督主催のワークショップオーディションがあったそうですが、しゅはまさんのワークショップへの参加の有無。本作にはオファーによる参加だったのか教えて下さい。

しゅはまはるみ
澤監督とは、『カメラを止めるな!』をご覧いただいたことや、池袋シネマ・ロサで上映された澤監督の作品を観に行ってお話したことが出会った経緯になります。
以前、澤監督のドキュメンタリー映画『そこにあるもの』への音声ガイドを担当させていただきました。

それが澤監督とのお仕事での最初の関係性になります。その依頼をお受けする前に澤監督と知り合っているわけですが、はっきりとした経緯はあまり覚えてなくて…。池袋シネマ・ロサに集まるインディーズフィルムの監督さんたちとの決起会が2019年にあって、「俺たち、頑張っていこうぜ!」という場に、澤監督と私が参加していた時かもしれません。

アリスの住人

▼ワークショップオーディションとオファーについて

-『アリスの住人』への参加は、澤監督からしゅはまさんへのオファーだったのでしょうか。

しゅはまはるみ
オファーをいただきました。ワークショップを開催しているのは知っていたので、「私も行こうかな」、「私も行きたい」って言ったんです。ただタイミングが合わなかったので、「行きたいんだけど、行けないんだよね」という話になりました。そうしたら澤監督から、「しゅはまさんが来ちゃうとみんなが緊張しちゃうかも知れないので、逆にタイミングが合わなくて良かったです」って言われました(笑)

-しゅはまさんの雰囲気ならば、それは和やかな雰囲気のワークショップになりそうな気がしますけれども。

しゅはまはるみ
そうですね、私が行って緊張はしないと思うんですけど。もちろん、どうなるかはわかりませんが。

-オファーを受けたときには、ファミリーホームのお母さん役というお話はあったのでしょうか。

しゅはまはるみ
オファーをもらったときにまだ脚本はなかったと思います。多分プロット段階で、「こういうのをやろうと思ってる」ということをお聞きしました。その時に役柄として、そういうことは聞いていた気がします。澤監督のドキュメンタリー作品自体も少し力の弱い人に寄り添っているとても素敵な作品なんですよね。
今回の『アリスの住人』もプロットを聞いて、「それはぜひ参加したい。良いテーマのものだな」ということで、私自身の子供の頃のこともお話ししました。監督からも「実はこれをやろうと思ったのはこういう理由なんです」と、ご家庭のことをお話してくれました。そこで、「私も是非参加したいです」と返事をしました。

-しゅはまさん自身の子どもの頃のことを澤監督に話されたということなのですが、しゅはまさんからの映画のコメントに「子ども時代に安心を感じることが少なかった」と書かれていました。差し支えなければ、お話を聞かせていただけますか?

しゅはまはるみ
DVがあったわけではないんですけど、うちの両親も父親は大声で母を怒鳴ったりするようなタイプの人でした。また母はそれに負けていなくて、言い返して、言い合ってる毎日みたいな印象が強かったんです。安心して落ち着いていられる場所っていうのが家庭にはあまりなかったんですよね。
私が大人になってからは、母も父も、母なりに父なりに私のことを昔からずっと愛してくれていたっていうのは理解はできているんです。ただそれはやっぱり私が大人になったからわかっただけで、子供の頃のあの時間の不安感は嘘ではなかったというか、勘違いではなかったはずだと思っています。
とても幸せな家庭ももちろんあるとは思うし、また、とても稀有なことではないかと思うぐらい、皆さん大なり小なりつらかった時期やタイミングがあるのではないかと思っています。それが、私の両親にもあったと思うし、私の両親もきっと子供の頃に、落ち着いて安心できる環境じゃなかったから、自分の子供に対しても落ち着いて安心できる環境を整えてあげることができないんじゃないかなと思いました。全ては繋がっているんじゃないかなと思っています。

-澤監督も家族から受けたことが、自分が親になった時にも同じことをしてしまうのではないかという怖れを抱いていたという話をされていましたね。

▼しゅはまさんが叶えたいこと。

-しゅはまさんがいま考える「叶えたいこと」はどういったものがありますか?

しゅはまはるみ
叶えたいことはいっぱいあります。ハリウッド映画やアメリカドラマに出たいとか、そういう女優としての願望があります。今回、私がこの映画に出て、ファミリーホームという存在を知りました。
元々、里親といったものに興味がありました。でも里親って、多分結婚していないとできないと思うんです。

(※養育里親としての登録は独身でも可。特別養子縁組里親という制度では、配偶者が必要だそうです)

ファミリーホームの制度自体もやはり条件があって、養育者と補助者が何人以上だとか、委託児童の養育経験の年数だったりとか、いろいろある条件をクリアするのは非常に難しいです。けれども、制度と離れたところでもいいので、子供が安心していられる場所みたいなものを作りたいなって思っています。
すぐ近い未来ではなく、もう少し先になると思うんですけれども、その夢は叶えたいなと思っています。こじんまりとした「こども食堂」だったら、資格がなくてもできるのかなあと思うし、そこから派生して、三、四時間ゆっくりしてもらえる場所が作れたら素敵かなって思っています。

アリスの住人

▼撮影を挟んでの感想

-脚本を読んだ時の感想、完成した作品を観ての感想をそれぞれ聴かせてください。

しゅはまはるみ
結果としては、“脚本を読んで素敵だなと思った部分”と、“完成したものを見て、やっぱりよかったな”って思った部分と印象は同じです。
ただ、映画は編集の段階で変わってしまうところがあるじゃないですか。撮影された素材を私が見られるわけじゃないので、果たしてどういうふうに撮れているかは分からないわけです。脚本と完成した映画がきちんと地続きで繋がるかどうかっていう不安はちょっとありました。
たくさんの人に見てもらいたい。届いてほしいと思える良い脚本だったので、完成した映画もそんなふうにちゃんと思えるかどうか「どうかなぁ、どうかなぁ」とドキドキしていました。
でも零号か初号試写で観たときに安心して、もうこれは間違いなく自信を持っていろんな方にお薦めしたい・満足してもらえる作品になったと思いました。

-ファミリホームに集まった役者さん達の「叶えたいもの」については、お話はされていたんですか?

しゅはまはるみ
私は聴いていないですね。役者さん同士が知っていたかは私はわからないです。ワークショップ生たちはみんな知っているのかもしれませんけれども。

アリスの住人

▼好きなシーンとその理由

-映画の中で好きなシーンとその理由を聞かせてください。

しゅはまはるみ
好きなシーン…。どれも好きですね…。
強いて一つ選ぶとしたら、伴ちゃんがお父さんの所に会いに行って、お父さんが多恵に呼びかけて、それに多恵がこたえるシーンです。「これはリアルだな。」と思いました。多恵の素直に返事はできない気持ちが表されていると思いました。

▼映画を観にいらっしゃるお客様へのメッセージ。

-インディーズ映画ということもあり、作品の受け取り方は観た方の感覚に委ねるところがあるかと思いますが、作り手側からのアピールや観に来る方へのメッセージ、観る方へのヒントなどをいただければと思います。

しゅはまはるみ
映画のキャッチコピーに「希望と再生の物語」って書いてあります。
テーマとしては辛い話で、トラウマを今でも抱えている方にとっては、観ていられない映画なのかも知れないという不安はあるんです。だからそこで無理して観に来てくれとは思わないんですけど、でも、あくまでも希望と再生の物語で、最後にはささやかだけど、希望が見出だせています。それが何かしらのヒントになることを願っています。
いろんな悩みを抱えている人や、悩みを忘れてしまった大人にも観ていただきたいです。
これを観たら、自分も1人ではないって気づけるかもしれない。そばに誰かいるんじゃないか、誰かを頼っていいんじゃないかって気付けるかもしれないです。
ファミリーホームは施設ではなくて、家庭という点。先生ではなく、お母さんである点。里親となると縁組のようになってきてしまうんでしょうけど、そこまでの縛りはなくて帰ろうと思えばいつでも帰れる。どっちにも帰れる家が二つあるみたいな感じ。それがすごくいいなあと私は思いました。

アリスの住人
インタビュー当日には、伴優香さんもいらっしゃいました。

■映画『アリスの住人』 作品情報

STORY
実父から性的虐待を受けたつぐみは、その事実を母親に打ち明けられなかった。その後悔とトラウマに囚われながらファミリーホームで過ごしている。もうすぐ高校卒業し社会に出ていかないといけない社会に出る準備をしないといけない年齢。今ある日常をどのように変えていけばいいか…。そんなある日、賢治という青年と出会う。自分が飲み込まれそうな気持ちになるという理由から海へ行ったことがないと話すつぐみに賢治は海へと誘うが、つぐみの心の準備は間に合わず断念する。徐々に賢治に惹かれていくつぐみだが、思いもよらぬ悲劇が待っていた・・・

キャスト
樫本琳花 淡梨 しゅはまはるみ 伴優香 天白奏音
久場寿幸 合田純奈 みやたに 大山大 萩原正道 太田翔子
蓮田キト 荻野祐輔 小春 るい乃あゆ 獣神ハルヨ 森下さゆり
遠藤史也 たなかあさこ 小澤雄志 赤江隼平 山下徳久 大石将弘 山谷ノ用心

スタッフ、クレジット
原案・脚本・監督・編集:澤佳一郎|助監督:曽我真臣 合田純奈|撮影:温水麻衣子 髙田裕真
録音:川上翔生|ヘアメイク:蓼沼仁美 片山智恵子 藤澤和紀|音楽:伊藤求
制作:大石知恵 久場寿幸 高瀬満寿保|Executive Producer:宮崎和紀|後援:一般社団法人 日本ファミリーホーム協議会 主題歌:『群衆の中の猫』作詞・作曲:尾崎豊 編曲:Tomi Yo 唄:レイラーニ
英題:Resident of Alice|©2021 reclusivefactory
製作・配給:reclusivefactory〔2021|日本|カラー|DCP|アメリカンビスタ|ステレオ|64分〕

公式Twitter https://twitter.com/film_of_alice

公式サイト https://www.reclusivefactory.com/alice

しゅはまはるみTwitter https://twitter.com/shuhamah

12月4日(土)池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

アリスの住人

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