キャストが語る「今だから言える話」、「好きな台詞」、「好きなシーン」。役者同士で聴きたいこと。映画『いきうつし』、『ぬけがら』

キャストが語る「今だから言える話」、「好きな台詞」、「好きなシーン」。役者同士で聴きたいこと。映画『いきうつし』、『ぬけがら』

2021年12月25日、池袋シネマ・ロサにて、田中晴菜監督特集上映が行われた。上映作品は『いきうつし』、『ぬけがら』の2作品。上映後には舞台挨拶が行われ、キャストおよび監督が登壇した。登壇者は、岡慶悟、笠原千尋、長谷川葉生、田中一平、田中晴菜監督。4つのトークテーマに沿って、作品を振り返った。

田中晴菜監督特集

■映画『いきうつし』、『ぬけがら』

『いきうつし』で生人形師の亀八を演じるのは、『愛しのダディー殺害計画』(イリエナナコ監督)、『デイアンドナイト』(藤井道人監督)、『ケンとカズ』(小路紘史監督)など、出演作の公開が続く岡慶悟。病に冒された少女、椿を演じるのは、『DEPARTURE』(園田新監督)山形国際ムービーフェスティバル最優秀俳優賞など、多くの映画において鮮烈な印象を残す笠原千尋。

『ぬけがら』で喪失感を抱えた女性、ひばり役を演じるのは、『書くが、まま』(上村奈帆監督)、『つむぎのラジオ』(木場明義監督)等、近年主演作が多数公開されている長谷川葉生。物語に変化をもたらす太一役を演じるのは、ヨルシカ『盗作』、『創作』MVなどで、圧倒的な存在感を放つ田中一平。

田中晴菜監督独自の世界観の中で、多彩な魅力を放つ俳優陣を堪能出来ることも、本特集上映の見所の一つ。

■舞台挨拶内容

▼トークテーマ1 「今だから言える話」 今だから言える話。撮影中、映画祭、上映時の思い出

岡慶悟
笠原さんと亀八という役とそれ以外の役もやらせていただいた岡と申します。 『いきうつし』は、笠原さんと僕で出演させていただいています。 撮影中は、一人五役で全部の役と絡んでいました。 『いきうつし』は、田中監督が子供の頃からずっとこういう画を見てみたいと念じていたものを満を持して・大人になられて具現化した作品なので。
キャラクターを我々は演じさせていただいているのですが、田中監督のイメージをとても大事にしたいということがありました。
亀八という実在の人物をモデルにしているのですが、江戸時代に仏師として活躍されていた。その人物を一個人、岡がやるというよりもやっぱり田中監督が持っている亀八というものにより近づきたいという気持ちがありました。
五役という、全部の役での関係性がある中で、作品の中だけでは収まりきらず、笠原さんとあれもやりたい、これもやりたいというように、自分の中でどんどん湧き上がってきました。

それで映画の中で全てが表現できていれば良いと思うのですが、まだまだやりたいという感じになりました。後ほど、販売されているパンフレットの方にも撮影中に撮った写真、イメージフォトのようなものがあります。
イメージフォトはほぼ僕が笠原さんと、こういうシーンが撮りたいとか、こういうことをやってみたいというのを公私混同で無理やりやったものが載っています。

田中晴菜監督特集
岡慶悟

田中晴菜監督
劇中にないシーンからのもの、今日配らせていただいたポストカードにもあったりします。
パンフレットの中にたくさんの写真を使わさせていただいておりますので是非御覧ください。

岡慶悟
その中の一枚で、「開眼点睛は最後にやるんだ」という、眼の黒目を塗るというのが人形作りの基本らしいのですが、僕の中では最後に人形に口紅を塗るという、紅を引くというのをやってみたくてどうしようもなくて、その撮影のときだけ一回やらせてくださいと言って、笠原さんに口紅を塗るのをやらせていただいて、それがポストカードの一枚になっているので、是非手にとって見ていただきたいです。

笠原千尋
それがやりたくて岡さんはご自分で筆を用意されたんですよね。

▼トークテーマ2 「好きな台詞は?」

笠原千尋
これはそれぞれ思い浮かびました。どちらが良いかと言われても選べなかったので、両方とも言いたいです。『いきうつし』だと、「あんたが一番いかれてる」が大好きです。 これはオーディションのときにもそのシーンの抜粋がありました。同じく冒頭の呼子のシーン、私と岡さんが同じセリフを言っているシーンもオーディションにありました。
私はその呼子のシーンが大好きで、呼子のシーンを読み始めて、「これは面白い作品だ、よしよし」と思っていたその次のシーンで、「あんたが一番いかれてる」っていうのをみて、よしと思いました。
それくらい、大好きなシーンです。
なんで大好きなのかって言われたら、それこそもう私の性癖ではないですけれど、胸キュンってこういうことを言うのかもしれないと思いました。
それで私は出演する前から田中監督の大ファンになりました。

田中晴菜監督特集
笠原千尋

岡慶悟
田中監督の作品にはそういう台詞が多いですよね。俺が好きな台詞は『ぬけがら』で言えば「時代劇の人ですか」です。これもおしゃれだと思いますし、『いきうつし』だと梅野の「御覚悟なさいませ」とか、すごい良い台詞だなと思います。

笠原千尋
『ぬけがら』でいうと、「時代的の人ですか」の台詞の前に、葉生さんが言う「どっちかにしたら」が大好きです。葉生さんが含んだニュアンスもあると思うんですけど、とても優しいけど、ユーモアもあるような感じがすごくほっとした感じがありました。

田中一平
確かに優しかったよね。「どっちかにしたら」っていうのが。

岡慶悟
僕もそう思いました。傘を「あげる」という時もどういった気持ちであげるのかなって思いました。葉生さんと田中監督の間での打合わせや役作りのなかでつくった部分もあるとは思うんですけど、田中くんが演じている辰巳という存在が、めちゃくちゃ絶望の淵で、今からそういう現場に向かう途中なわけで、そこでどういう風に気持ちが整理されるのかとか。 ちょっと柔らかいタッチで優しい感じで傘を渡していたじゃないですか。

長谷川葉生
優しくするつもりはなかったんですけど、でもふと観ていて思ったのは、旦那さんとの朝のシーンは、空気的には和やかだけれども、お互いに当たり障りの内容にコミニュケーションをとっているというか、裸ではコミュニケーションをとりにはいっていないような部分があって、だからすれ違いとか距離感になっていて、それはそれで好きなシーンではあります。
辰巳に関しては近いものを感じて共鳴してしまっているから、多分、そういった距離感が初めからなくて、自分に対しても子どもみたいに裸の状態で出た言葉だったのかなって思いました。

田中晴菜監督
汲み取っていただいて表現していただいてありがとうございます。
あの2人の会話って、お互いが言葉を発しているんですけど、お互いに違うことを考えながら受け答えをしていて、どちらかというと自分に言っているような感じがしています。 噛み合わないけど噛み合っているような感じの雰囲気で撮りたかったので、それが大成功でした。ありがとうございます。

▼トークテーマ3 「好きなシーン」

長谷川葉生
好きなシーンはいっぱいあって、このテーマを引き当てたらどうしようかと思っていました。 まず、『いきうつし』ですけど、全部好きです。

田中晴菜監督特集
長谷川葉生

笠原千尋
冒頭のシーンから、口元のシーンとか色っぽ過ぎますよね。

長谷川葉生
全部というと困ってしまうと思うので、めちゃめちゃ好きなのは、青い着物を着せられてる時の椿の立たせられ方とか表情とかかわいいです。
あと、「本物が一等美しいと云うのなら、なぜわざわざ偽物を作るの」の一連の会話がめちゃくちゃ好きです。
あと、椿のね、出来上がった人形をみて、崩れ落ちてしまう姿も痛くて、「私ね、わかっちゃったの」という台詞もめちゃめちゃ痛いですね。

『ぬけがら』は、今日観て初めて思ったことがあります。
家もめちゃくちゃぬけがらだと思いました。
青ニが出かけていく時のドアを開け閉めする音がすごい響いて、すごく空っぽって思いました。

田中晴菜監督
『いきうつし』と『ぬけがら』で、同じ家を使っています。どちらも冬の撮影だったので、カラッと乾燥していました。あと、裸足で畳を歩いていく感じとか、空気感が出せればと思っていました。
私が好きなシーンは、『ぬけがら』の葉生さんの顔の半分が影になっているところからズレていく、絵本をめくっているシーンです。
『いきうつし』の方は、先ほど私が言って欲しい台詞を書いたという話を何度かしているとおもいますが、役者さんに言ってもらいたい、作り手側の「なんで作るの」という問答とか。「嘘に飾りをつけて売るのが仕事だ」という言葉を役者さんに言ってもらうって、ニヤニヤしてすごい嬉しいと思ってしまいます。

田中晴菜監督特集
田中晴菜監督

▼トークテーマ4 「この人に聞きたい」

田中一平
葉生さんに聴きたいことがいっぱいあるんですけど…。

田中晴菜監督特集
田中一平

岡慶悟
葉生さんって、普段の様子をご存知の方は分かると思うんですけど、すごくふわふわしていて、キャッキャキャッキャと現場を盛り上げている感じなんです。なので、改めてスクリーンの中の葉生さんをみるとびっくりします。どうやって台本を読んでいるんですか?
葉生さんはインタビューを見ていても、内面からキャラクターを演じることから始めるということと、物語の客観性のようなものを良いバランスで役作りされているなと思っています。
僕なんかは、いつも手探りでやっているので、葉生さんはどのように役作りをされているのか聴いてみたいです。

長谷川葉生
私は自分のことを結構理屈っぽいと思っています。
脚本に書いてあることからだいたい拾っていきます。おおまかに拾って、全体的に拾ったら次はシーンを拾って、シーンを拾えたら次は台詞を拾うというように、小さく小さくすぼめていく感じです。

岡慶悟
アンソニー・ホプキンスの言葉に、全てのヒントは台詞の中にあるから、それだけで十分だ。言葉の中に全てが入っているからということをいま思いました。
でもやっぱりその数少ないヒントの中で、僕はそれだけではやることができないので、どうしてもそこに書かれていること以外を体験したくなるし、勉強していろいろ取り込んでみたくなります。

長谷川葉生
私は読み違えたり、気づいていないこととかあるし、映像を見ていて、「ああ、こういう気持ちなんだ」って初めてわかったということもあります。
今日、『ぬけがら』を観ていて思ったのは、傘を渡した後に交差点のシーンで、理屈だけではたどりつけない心の動きだなと思いました。

笠原千尋
読みきれない、読みすぎない余白が大切なのかもしれない。
決め過ぎてしまうと、予定外のことに対応できないという。
予定外のことも許容できる余白を持っているんじゃないかなと思います。

長谷川葉生
泣いて良いのかなって思ったときに、監督に涙を流してしまっていいですかときいて、okと言われたから泣いたとかがあります。

田中晴菜監督
あのシーンは大事なシーンで、境目というか、あの交差点を渡るか渡らないかで、ずっとひばりは葛藤していると思います。
そこは作品の中で、ひばりって生と死の間にずっといるような存在かなと思って描いています。
それはあの交差点のちょうど境目だったり、あそこで傘を渡すかどうかも境目です。
その際(きわ)で揺れているところを表現していただいたと思っています。

田中晴菜監督特集

■映画『いきうつし』、『ぬけがら』

『いきうつし』(2018 年/日本/30 分/カラー/DCP)

○あらすじ
仏師として立ち行かず、見世物小屋の生人形制作で糊口をしのぐ亀八。興行で立ち寄った土地の名士から、不治の病におかされた娘を美しいまま写した人形制作を依頼される。一度も家の外に出たことのない椿と、興行で土地を転々とする亀八、二人は次第に惹かれ合うが、人形の完成が近づくにつれ、椿の身体は動かなくなっていく。

○生人形とは?
江戸末期から明治にかけて見世物として制作された木製、等身大の人形。歯や毛髪の一本一本まで、本物と見紛う程の精巧さで作られたことからそのように呼ばれた。国内に現存するものには、 熊本市現代美術館蔵、安本亀八作《相撲生人形 野見宿禰と当麻蹶速》などがある。

○監督コメント
美しさでも、精緻さでも、信仰心でもなく、対象への異様な執着を技術で焼き付けた人のようなもの「生人形」。たましいの在りか、テレビと教養に蹂躙された見世物小屋、活動写真と入れ違い
に廃れていった生人形を、映画で描きたいと思った。今生のうちに長編で描きたい題材のひとつ。

○キャスト
岡慶悟、笠原千尋

○スタッフ
製作・脚本・監督・編集 田中晴菜、撮影・照明 岡田翔、録音 岩松道朗 野中慎二、助監督 望月亜実、撮影助手 野中慎二 酒井要、照明助手・制作 吉岡茂、録音助手・制作 馬場雅司、小道具・制作 若菜滋子、衣装・ヘアメイク 竹本磨理子(Anita Hair Make Office)、グレーディング 岡田翔、整音 岩波昌志(ディオス)、効果 佐久間みなみ(ディオス)、MIX D’IOS 中野坂上スタジオ、音楽 蓑地理一、主題歌 NSTINDANCETON、車輌 田廣亮、スチル 福島正次、題字 中谷貴美子、協力 オフィスモノリス、機材協力 ニューシネマワークショップ、撮影協力 三鷹ユメノギャラリーen

いきうつし

『ぬけがら』(2020 年/日本/15 分/カラー/DCP)

○あらすじ
何かの気配を感じて目覚めた朝、ひばりは庭で蛇のぬけがらを見つける。ひばりの時間はある日から止まったまま、戻りゆく日常を受け入れられずにいた。夫が玄関先に置いて行った弁当を持って家を出るひばり、やがて雨が降り出す。煙草屋の軒先で雨宿りをしていた太一は、ひばりに借りた黄色い傘を媒介に、白昼夢を見る。

○監督コメント
登場人物たちは、それぞれの主観で世界を見ていて、その世界は少しずつずれている。泣きながら起きた朝に書きとめた、おぼろげな夢のような世界の中で、傘を媒介にして伝染していく記憶、あなたが居たはずの、他の誰も埋められない空席、遠くから自分自身を眺めているような感覚を「ぬけがら」として描いてみたいと思った。

○キャスト
長谷川葉生、田中一平、岡慶悟、中島颯一朗

○スタッフ
製作・脚本・監督・編集 田中晴菜、撮影 岡田翔、照明 田中銀蔵、撮影照明助手 野中慎二 貝田祐介、録音 岩瀬航、助監督 望月亜実、助監督補佐 寺谷千穂、小道具・衣裳 佐々木里絵、美術・小道具 吉岡晶、助監督補佐・制作 馬場雅司、車輌・制作 小松豊生、制作 吉岡茂、制作応援 山田亮、ヘアメイク 上原幸子 竹本磨理子(Anita Hair&Make Office)、スチル・タイトルデザイン 西田 幸司、カラーグレーディング 岡田翔、音楽 蓑地理一、整音 岩波昌志(ディオス)、効果 佐久間みなみ(ディオス)、MIX D,IOS 中野坂上スタジオ、英語翻訳 マイケル・ファンコーニ、スチル機材協力 株式会社コシナ

ぬけがら

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