タイ映画『親友かよ』の一般試写会が6月4日(水)、東京・渋谷ユーロライブにて開催され、上映後にタレントで映画コメンテーターの加藤るみとライターのISOが登壇。アジア映画の中でも、特にタイ映画に造詣の深い二人が本作の魅力や近年目覚ましい発展を遂げるタイ映画界の「今」について語った。

■ タイ映画『親友かよ』
本作は、アジアのA24とも称されるタイの映画会社GDH 559が製作。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』で知られるバズ・プーンピリヤ監督がプロデュースを初めて手掛け、MVやCM制作で活躍してきたアッター・ヘムワディー氏が長編映画初監督を務めた。高校3年生のペーが、不慮の事故で亡くなった同級生ジョーの“親友”と偽り、彼の追悼映画を制作する中で様々な真実を知っていく青春物語。
加藤さんは、本作との出会いが昨年の大阪アジアン映画祭での日本初上映時だったと振り返り、自身がMCを担当した際に会場で鑑賞したと語った。その時の感動を「会場の皆さんも一体になってぶわーっと拍手されて爆発でしたし、私自身も先ほど言ったようにこうタイ映画に出会ってからこれほど心を掴まれた映画はないなというくらい良い映画だったなという感じですね」と表現。ISOさんも「新顔本当にいい映画ですよね。僕も大好きな映画なんで」と応じ、二人とも本作への強い思い入れを示した。加藤氏は、本作は「ここ数年のタイ映画でダントツに面白かった」と公言している。
映画のテーマについて、ISOさんは亡くなった人の存在を語り継ぎ、その新たな一面を知る描写に言及。残された人が区切りをつけて新たに踏み出す姿が描かれており、「それをこの映画ってすごく見事に描いていて」と評価した。また、死別という重くなりがちなテーマを扱いながらも、コメディとしてユーモアたっぷりに、かつ誠実に描いている点が「すごく新しく見事だなと思いました」と新たなマスターピースとしての側面を強調した。加藤さんも「これね、本当にコメディとしてユーモアはたっぷりだけどすごく誠実に描いてるって意味ですごい」と同意した。
映画制作の描写も映画ファンにはたまらない魅力として挙げられた。学生たちが映画作りをしていく中で、セリフにヒッチコックや是枝裕和、ザック・スナイダーといった映画監督の名前が登場したり、トム・クルーズ主演作のタイトルが引用されたりする点に触れ、「もうまさになんか映画ファンを狙いに来ているというか」と加藤さんは興奮気味に語った。I
SOさんは編集の巧みさにも注目し、撮影監督の次に編集が出てくる紹介順や、クリストファー・ノーランに憧れる編集担当のキャラクター設定、「クリストファーノーランって時間軸を編集するのが上手じゃないですか?この映画ってまさにそうですよね」と作品の構造と関連付け、「クリストファーノーランを意識してんのかな」と深読みする視点を示した。タランティーノへの言及もあるという。
本作のアッター・ヘムワディー監督について、加藤さんは30代とまだかなり若い監督であり、GDHでの初長編監督作品であることに触れ、「いや、初監督でこんなクオリティの高い映画をよく作れるな」と驚きを示した。また、ドラえもんの話題が出るなど、日本文化に対する愛情が感じられる点 や、是枝監督が好きなことに言及し、「やっぱり日本が好きだっていうことをおっしゃって、もう本当に日本愛もこの映画の中に詰め込まれてるなっていうのは日本人にとっても嬉しいポイントですね」と語った。
タイ映画業界全体の勢いについても話が及んだ。GDH 559は年間2-3本しか作品を制作しないが、その分一本一本に熱を込める制作環境があると指摘。ナタウット・”バズ”・プーンピリヤ氏が本作で初のプロデュースを手掛けたことに触れ、『バッド・ジーニアス』を監督した人物であること、そしてユーモアのある人柄が映画にも現れていると述べた。また、GDHに匹敵するような新たな映画会社「ネラミットナンフィルム」が現れたこと、『バッド・ジーニアス』あたりからタイ映画のクオリティがグッと伸びてきたこと、『おばあちゃんと僕の約束』がタイの代表作として選出されるなど、世界的にも認められつつある現状が語られた。加藤さんは「私はタイ映画好きとしてすごく嬉しい」と述べた。
キャストについても言及があり、アンソニー・ブイサレートさんとティティヤー・ジラポーンシンさんが『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』に続いて再びタッグを組んだこと、アンソニーさんが『ふたごのユーとミー』ではモテる役だったのに対し、本作では冴えない男子を演じており、そのコントラストが良いと指摘された。ポーケー役のティティヤーさんはタイで非常に人気があり、シャネルのミューズや韓国コスメのモデルも務めていることが紹介され、「これからかなり注目な俳優さんだなと思いますね」と語った。主演の3人全員が今後ブレイクするだろうと予想。特にジョー役の笑顔が良いと称賛された。また、端役にも将来のスターがいる可能性に触れ、告白相手の女の子がBNK48(タイ・バンコクを拠点に活動する女性アイドルグループ。AKB48グループのひとつ)のメンバーであることを明かした。
作品が描くテーマの普遍性にも焦点が当てられた。登場人物が皆、完璧な善人ではなく、嘘をついたり後悔したり、人間の複雑さや情けない部分も描かれている点に触れ、「そういうところをこうなんか温かくフウーミングに描いてるなとはすごい思いますよね」と共感を示した。青春の痛みやモヤモヤといった感情が丁寧に描かれており、学生だけでなく大人にも刺さる青春コメディである点が強調された。
お気に入りのシーンとして、ISOさんは遊園地でボーケーがジョーのデータを見ている後ろで花火が上がるシーンを挙げ、「映像的にも素晴らしいし演出的もすごい綺麗だなと思って大好きなシーン」と語った。加藤さんは最後のスピーチシーンを挙げ、「あそこがねやっぱり感情がみ上げてくるというか」と話し、「最後に少年・少女たちがスピーチする映画に外れはないと思う」とスピーチシーンへの特別な思いを語った。
ユーモアセンスも特筆され、日本とタイで共通する男子のじゃれ合いなどが挙げられた。音楽も素晴らしかったと評され、「内容と見事にはまってたのがすごいなって思います」と全体の調和が取れている点が高く評価された。
最後に、ISOさんは「6月って、近年まれに見るぐらい良質のアジア映画がたくさん公開される月なんですけど、その中でも本作って突出した作品かなと個人的には思うので、いろいろな人に見て欲しいんで、是非クチコミをどんどん広げていってもらうとありがたいです」と呼びかけた。加藤さんも「老若男女楽しめる青春コメディってなかなかないと思うんですよね。だから幅広い年代に楽しんでいただけると思います」と幅広い層に勧め、特に映画ファンにとってはお気に入りのポイントが多くあるだろうと述べ、「是非クチコミで広げてこれからタイを盛り上げてってくださると嬉しいです」と改めて観客にメッセージを送った。
映画『親友かよ』は、6月13日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント、池袋HUMAXシネマズほか全国で順次公開される。
映画『親友かよ』
監督・脚本:アッター・ヘムワディー
プロデューサー:ワンルディー・ポンシッティサック、バズ・プーンピリヤ(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』『プアン/友だちと呼ばせて』)
出演:アントニー・ブイサレート(『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』)、ピシットポン・エークポンピシット(「ラブ・バイ・チャンス2/A Chance To Love」)、ティティヤー・ジラポーンシン(『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』)
製作:GDH 559 Co., Ltd.
制作:Houseton
エグゼクティブ・プロデューサー:ジナー・オーソットシン、ジラ・マリクン、ブッサバー・ダオルアン、パイブーン・ダムロンチャイタム
共同プロデューサー:チェンチョニー・スーンソーンサラトゥーン、ヤンナスマ・タニット
ライン・プロデューサー:アモーン・ニンテープ、ワラントーン・チャーンジットクソン、スィラダー・ラッタナセーターウォン
撮影監督:パシット・タンデーチャーヌラット
編集:チョンラシット・ウパニキット
サウンド・デザイナー:カンタナ・サウンド・スタジオ
プロダクション・デザイナー:パッチャラー・ルートグライ
衣装デザイナー:パワレート・ウォンアラーム
プロダクション・マネージャー:ピアンポーン・パイブーンルーロート
音楽:フアランポーン・リディム
作曲:ウィチャヤー・ワタナサップ
英題:NOT FRIENDS
原題:เพื่อน (ไม่) สนิท
字幕翻訳:橋本裕充 字幕監修:高杉美和 協力:大阪アジアン映画祭 後援:タイ国政府観光庁
配給:インターフィルム
<2023年/タイ/タイ語/130分/1.85:1/5.1ch/DCP>
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公式X https://x.com/notfriends_jp
6月13日(金)新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント、池袋HUMAXシネマズほか全国順次公開

