サラバ、さらんへ、サラバ

『サラバ、さらんへ、サラバ』公開記念舞台挨拶

映画『サラバ、さらんへ、サラバ』(洪先恵監督)の公開記念舞台挨拶が9月27日(土)、東京・新宿バルト9にて開催され、主演の蒔田彩珠さん(広瀬仁美役)、碧木愛莉さん(外山菜穂役)、そして本作が劇場デビュー作となる洪先恵(ホン・ソネ)監督が登壇した。本作は、茨城の田舎町に住む女子高生カップルの日常と別れを描いた短編映画で、監督自らの体験を元に創作され、国内外の映画祭で高く評価されてきた注目作である。

蒔田彩珠&碧木愛莉、別れ描く短編に込めた青春の葛藤 「未来は明るい」と観客にエール

映画『サラバ、さらんへ、サラバ』(洪先恵監督)の公開記念舞台挨拶が9月27日(土)、東京・新宿バルト9にて開催され、主演の蒔田彩珠さん(広瀬仁美役)、碧木愛莉さん(外山菜穂役)、そして本作が劇場デビュー作となる洪先恵(ホン・ソネ)監督が登壇した。本作は、茨城の田舎町に住む女子高生カップルの日常と別れを描いた短編映画で、監督自らの体験を元に創作され、国内外の映画祭で高く評価されてきた注目作である。

公開2日目を迎えた心境について、仁美役の蒔田さんは、撮影当時は日本公開が決まっていなかったため、「時間が経って日本でも公開するっていうのが決まった時はやっぱり嬉しかったですね」と、より多くの方に見ていただける喜びを語った。菜穂役の碧木さんは、2年前に「映画祭向けに作られる」と聞いていたため、「劇場で見れると思っていなかった」と述べ、喜びをあらわにした。脚本家として日本で活躍する洪監督にとって、本作は監督デビュー作であり、「初めて監督した作品がこうやってシネコンというか大きな劇場にかかることをとても光栄だと」述べ、観客やスタッフ、出演者に感謝を伝えた。

リアルな関係性を生んだ「女子会」

撮影は2年ほど前に行われた。同性愛という役柄や女性とのキスシーンが初めてだったという蒔田さんは、撮影に入る前に、碧木さんと2人で遊ぶ時間を設けてもらったと明かした。2人は渋谷でプリクラを撮ったり、タピオカを飲んだりするなど、女子高生のような時間を過ごし、これが「すごい楽しく入れましたね」と、役作りにおける重要な時間であったと振り返った。

碧木さんはオーディションで菜穂役を射止めたが、共演者が蒔田彩珠さんと聞いた時は「とても驚いて」台本を読み進め、「これ一緒にできるんだって、すごく楽しみになりました」と語った。

洪監督は、映画祭での観客の反応として、「本当にどこかに存在してそうな」「2人がどこかに本当に生きている感じがする」という感想が多く届いたと紹介。監督は、「この映画は本当にお二方の力で作られた作品だ」と、役者の力に感謝を示した。

長年のファンとして蒔田彩珠に「ダメ元」オファー

広瀬仁美役を演じた蒔田彩珠さんへのオファーは、洪監督の長年の願いが結実したものであった。洪監督は、自身が韓国にいた頃から蒔田さんのファンであったといい、今回のオファーは「ダメ元」でのアプローチだったことを告白した。
蒔田さんから出演の快諾が得られた際、監督は「本当ですか?」と何度も聞き返したほど驚きと喜びを感じたという。その瞬間、「本当にちゃんとやらないと」と、作品への大きな気合いが入ったと振り返った。

蒔田さんは、脚本を読んだ決め手について、セリフ自体は「派手なセリフがあるわけではない」としながらも、二人の登場人物の気持ちや「感情の動きみたいなのがすごく伝わってくる」点に魅力を感じたという。この脚本を「自分が演じたらどんな風になるんだろう」という楽しみな気持ちから、出演を決意した。


碧木愛莉はオーディションで監督の「直感」を掴む

一方、外山菜穂役を演じた碧木愛莉さんは、オーディションを通じて役を勝ち取った。
洪監督は、碧木さんがオーディション会場に入った瞬間、「この人になりそうだなっていうことはすごく思ってて」と、直感的なひらめきがあったことを明かした。さらに、話してみるうちに「この人を嫌いになる人っていない気がする」と感じ、その可愛らしくて愛される人柄 が、登場人物をリアルに描く上で非常に大切だと判断したという。

初監督・洪先恵、現場は「友達みたいな感覚」

監督の緊張を和らげた共演者とスタッフの優しさ

映画『サラバ、さらんへ、サラバ』の公開記念舞台挨拶に登壇した洪先恵監督は、自身にとって初監督作品となった本作の撮影現場の雰囲気について語った。

長年脚本家として活躍してきた洪監督は現場での振る舞いを案じていたという。しかし、監督の懸念とは裏腹に、現場は非常に温かい雰囲気だったようだ。洪監督は「本当に皆さんが現場がとても優しくて」と感謝を述べた。自身が「ちょっと突拍子もないことをやっても、なんか、あ、分かりましたみたいな感じで、周囲が受け入れてくれた」と振り返り、「みんな本当に友達みたいな感覚で接していただいた」と語った。

この現場の支えがあったからこそ、洪監督は「とてもやりやすく、自分も集中しやすくて」作品づくりに打ち込めたという。

また、監督は当初、初めての監督経験として、脚本の細かな意図まで含めて「現場でなんか話さなきゃいけないのかな」と考えていた。しかし、現場で主演の二人の芝居を見て、「そこまで何も詳しく言わなくても分かってる気がする」と感じたため、過度な指示は出さなかったと明かした。役者陣には「自然な感じでなんか仲良くしてください」とだけ伝えていたようだ。

洪監督は、撮影期間を終えるにあたり「現場が終わるのがすごく寂しいなって思わせてくれるそういう素敵な現場でした」と総括し、初監督作品を共に作り上げたチームへの感謝と愛着をにじませた。

監督のこだわりと異例の振り付け秘話

演出面について、蒔田さんは、洪監督が「言葉とかではなく、日常的にやっていることを表現する」ことにこだわっていたと解説した。具体的には、2人の関係性を表すために、耳を触ってみる、靴紐を結んであげるといった、非言語的な細かな動作が多用されており、「説得力があるな」と感じたという。また、監督は現場で実演して見せることもあり、終盤の重要なシーンについても、監督自ら「ごめんなさいって言いながら」演じてみせたエピソードも披露された。

一方、碧木さんは、「台本にはセリフよりもト書きが多い印象で、監督が基本的には役者へ委ねてくれたという感覚があった」と述べ、細かく「こういう顔で」といった指示は少なかったと明かした。

別れを描くシーンについて、監督はメイクや衣装の関係で「一発勝負」だったと告白。役者の感覚を信じ、「何も言わずに一旦最後までやり切りましょう」とだけ伝えたという。監督はモニターを見ながら泣きそうになったと、その時の心情を明かした。

このシーンについて蒔田さんは、「いざ本番始まって飛び込んだら足が全く動かなくて」。その一方で面白くて笑い合ってしまい、「これ、大丈夫かな?って思った」と振り返った。しかし、「何があっても最後まで続けて」という指示があったため、一番気が合う大好きな人との楽しい時間から「行かなきゃいけないんだ」という気持ちが強く芽生え、碧木さんは笑っているまま悲しくなるという、別れの切なさが際立った瞬間だったと説明した。

劇中で披露されるダンスについて、碧木さんは高校3年間バレエ留学をしていた経験があるが、K-POPジャンルは未経験だった。オーディションの数週前にK-POPのダンスクラスを一度受講し、それをオーディションで披露したという。

その後の練習で用いた振り付けは、なんとTWICEのモモさんのお姉さんが作ってくださった動画だったという、初出しの情報も明かされ、会場を驚かせた。

その後の練習で用いた振り付けは、なんとTWICEのモモさんのお姉さんが作ってくださった動画だったという、このエピソードについては、監督にとって初耳で驚く姿がみられた。

菜穂が目指すK-POPアイドルという設定は、監督が少女時代などK-POPの長年のファンであったことがきっかけで、日本映画に自身の「色」を入れるために取り入れられた。MCの奥浜レイラさんからは、“アイドルが恋愛を脇に置いておかなければならない”という設定が、同性愛者であっても異性愛者であっても共通する「リアル」を描しているという感想を述べた。

「モヤモヤ」を昇華させたシーン

短編ながら異例の単独上映を果たした本作のテーマは、同性愛者としての監督自身の個人的な経験が元になっている。韓国にいた頃、外部の圧力や親の厳しさにより、「自分自身で別れを選べない」恋愛が続いたことで残った「モヤモヤ」を、新しい視点で見つめ直すために、日本語で脚本を書き、日本の女子高生の物語として昇華させたという。監督は、韓国語で書いていたら「すごく生々しくって悲しい話になっていただろう、俯瞰的に見るために日本語を選んだことが重要だった」と語った。

蒔田彩珠、演じた仁美は「割とそのまま」

等身大の女子高生像に共感「自分のそのままお芝居ができた」

蒔田彩珠さんは自身が演じたキャラクターとの共通点について語った。仁美というキャラクターが自身と「近いな」と感じた点について問われた蒔田さんは、仁美を「割と等身大」の存在だと捉えていることを明かした。彼女は仁美を「普通の女子高生」であり、「ただ女の子が好きなだけ」という性格であると説明した。

具体的な性格的特徴として、仁美は「友達とはしゃいでる時はすごく楽しそう」である一方で、家では「色々考えちゃって調べたり」する面があると分析。こうした「女子高生みたいな性格」が、自身のパーソナリティと重なる部分が多かったため、「自分の割とそのままお芝居ができたんじゃないかなと思います」と述べ、キャラクターに共感していたことを示した。

碧木愛莉、役柄との共通点は「単身留学の覚悟」

15歳での海外経験が、夢を追う菜穂の決断に共鳴

映画『サラバ、さらんへ、サラバ』でK-POPアイドルを目指す女子高生、外山菜穂を演じた碧木愛莉さんが、公開記念舞台挨拶の場で、自身と菜穂という役柄の共通点について語った。

碧木さんは、菜穂が海外へと旅立つ決断をする背景について、個人的な経験から深く共感していたことを明かした。

碧木さんは、「私自身も 15 歳で 1 人で留学した経験がある」そのため、「菜穂が16 歳で自分なりたいことに海外に行くっていう決断をする点」や、「好きな人たち家族とか友達とかから離れて生活しないといけない」という状況に共感を覚えたという。
碧木さんは、そうした「覚悟」を求められる部分を、当時の自分を「思い出しながらやって」いたと述べ、夢を追う若者の葛藤と決意を、等身大の経験として役に反映させていた。

メッセージ

最後に、登壇者たちは観客へメッセージを送った。

洪監督は、作品にはいろんな思いを込めて作ったものの、「その後はやっぱり観客のものだと思う」とし、感想を教えてほしい、作品を広めてほしいと呼びかけた。

碧木さんは、「誰かのためにポジティブな影響与えられるような作品になってたらいいな」と願いを込めた。

蒔田さんは、21歳でこの作品を撮影したことで「自分が知らなかった世界を知ることができた」と述べた上で、「若い私たちには明るい未来がいっぱい待ってるんだな」という希望を感じたという。そして、「たくさんの方に見ていただいて、未来は明るいというか、将来はなんでもできるみたいな勇気を与えられる作品になっていたら嬉しい」と締めくくり、来場者へ感謝を伝えた。


《PROFILE》
蒔田彩珠(まきた・あじゅ)/広瀬仁美 役
2002 年生まれ、神奈川県出身。映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(湯浅弘章監督)で初主演。以降の主な出演作に『万引き家族』(是枝裕和監督)、『#ハンド全力』(松居大悟監督)、『星の子』(大森立嗣監督)、『朝が来る』(河瀬直美監督)、『Pure Japanese』(松永大司監督)、『ハピネス』(篠原哲雄監督) 、Netflix「クレイジークルーズ」「舞妓さんちのまかないさん」「忍びの家 House of Ninjas」、NHK「わたしの一番最悪なともだち」、TBS「妻、小学生になる。」「御上先生」、読売テレビ「DOCTOR PRICE」など。2025 年 11 月には主演映画『消滅世界』(川村誠監督/原作:村田沙耶香)が公開を控えている。

碧木愛莉(あおき・あいり)/外山菜穂 役
2001 年生まれ、千葉県出身。これまでの主な出演作に、『福田村事件』(森達也監督)、『痴人の愛 リバース』(宝来忠昭監督)、『青春ジャック 止められるか、俺たちを 2』(井上淳一監督)、『九十歳。何がめでたい』(前田哲監督)、Netflix「恋愛バトルロワイヤル」、テレビ朝日「顔に泥を塗る」など。2022 年の「POPEYE」ガールフレンド特集では巻頭のメインキャストとして登場。特技はバレエ。

脚本・監督:洪先恵(ホン・ソネ)
1996 年生まれ、韓国出身。韓国芸術総合学校映画学科に入学後、日本映画に関心を持ち、日本映画大学脚本コース
に編入、卒業。長編脚本『富士山がついてくる』が、第32回新人シナリオコンクールを受賞。レズビアンとして学生時代を過ごした自らのセクシュアリティと実体験をもとに描いた本作で初監督を務める


映画『サラバ、さらんへ、サラバ』

あらすじ:
16歳、茨城の田舎町に住む女子高生カップルの仁美と菜穂。アイドルになることを夢見る菜穂を、仁美は献身的に支えていた。ある日、菜穂から「K-POPアイドルになるため韓国に行く」と告げられ、2人に突然の別れが訪れる。



出演:蒔田彩珠、碧木愛莉、テイ龍進、石崎なつみ、笠本ユキ、涌田悠
脚本・監督:洪先恵
撮影:古屋幸一 照明:加藤大輝 録音:木原広滋 美術:森田琴衣 衣装:小宮山芽以 ヘアメイク:タカダヒカル 助監
督:内田新 音楽・音響効果:Steve Licht カラリスト:山田裕太 EED:小林明日美 足立淳 MA:草山洋次 ラインプロデューサー:村田潤
プロデューサー:三毛かりん プロデューサー補:太田垣百合子
製作・制作:テレビマンユニオン 配給・宣伝:イハフィルムズ
(1.85:1/ステレオ/26min) ©テレビマンユニオン

★第13回ディアスポラ映画祭 観客賞
★第20回大阪アジアン映画祭 インディ・フォーラム部門
★第39回BFIフレア:ロンドンLGBTIQ+映画祭 Daydreamer部門 ほか

X、Instagram @sarabasaranghae
https://sarabasaranghaesaraba.com/

9月26日(金)より新宿バルト9、横浜ブルク13他ロードショー

サラバ、さらんへ、サラバ

この記事を書いた人 Wrote this article

Hajime Minamoto

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