2025年10月30日(木)、 第38回東京国際映画祭のウィメンズ・エンパワーメント部門にて、映画「佐藤さんと佐藤さん」の上映前舞台挨拶が開催された。この日が完成披露であり、日本で初めての上映となる本作 の舞台挨拶には、天野千尋監督、主演の岸井ゆきの(佐藤サチ役)、宮沢氷魚(佐藤タモツ役)の三名が登壇した。

■ 映画「佐藤さんと佐藤さん」舞台挨拶
最初の挨拶:完成披露と観客への期待
最初に挨拶に立った天野千尋監督は、日本で初めての上映となることに「すごく緊張している」と率直な心境を明かした。監督は、観客に楽しんでもらい、感想を聞かせてもらえたら嬉しいと期待を寄せた。

サチ役の岸井ゆきのさんは、日本での初上映に「とても緊張している」としながらも、「すごく嬉しい気持ちでいっぱい」だと述べた。岸井さんは、この映画は「きっと面白い」と確信しており、観客が「自分のことを振り返り、ああ、こんなことあったなと思える映画」になっているはずだと語った。また、観賞後には「帰り道誰かと話したいな」という気持ちになってほしいと願っていると締めくくった。

佐藤タモツ役の宮沢氷魚さんは、会場に集まった多くの観客に「感無量です」と感謝を伝え、この映画は1年以上に前に撮影されたが、「スタートラインにようやく立てたのかな」という気持ちだと述べた。宮沢さんは、一般公開が11月28日であることを伝え、観客がこの映画をどのように受け止めるのか楽しみにしていると語った。

初共演の印象と役への没入感
続いて、今回が初共演となる岸井さんと宮沢さんの印象についての質問がなされた。
岸井さんは、脚本読みの際に初めて宮沢さんに会った時から、「あれ絶対どっかで会ったことあるよね」という印象を受けたことを明かした。それくらい「驚きのない空気感」があり、自然で楽に話せる関係性がすぐに構築できたため、お芝居に没入しやすかったと振り返った。また、宮沢さんを「優しくて穏やか」と評し、現場でピリつくようなことは起こらないだろうという安心感があったと述べた。

宮沢さんは、岸井さんの出演作品を見ており、魅力的で素晴らしい女優だと思っていたと述べた。共通の知人からも「本当に優しくて魅力的」だと聞いていたが、実際に会ってみると、想像していた以上に「はるかに本当に優しくて太陽のような存在でした」と、その人柄を称賛した。

オファーへの思いと撮影前の準備期間
本作のオファーを受けた時の気持ちと、撮影中に印象に残ったエピソードについて質問が移った。
岸井さんは、本作が佐藤さんと佐藤さんの出会いから恋人、結婚、家族となっていく15年間を描いている点に着目。約2時間の脚本に15年間の歳月を詰め込みつつも、決して大雑把ではなく、細やかな感情を丁寧に描いている物語に魅力を感じ、「この世界に入りたい」と強く思ったという。また、自身の生活では体験したことのない夫婦生活を垣間見ることができるかもしれないと感じ、演じるのが楽しみになった脚本だったと語った。

宮沢さんは、脚本が「とにかくすごく丁寧」であった点を挙げた。15年のスパンが描かれているものの、ピックアップされた部分が線となって綺麗に繋がっていると感じたという。脚本に描かれていない空白の時間や、この先二人が歩む人生に非常に興味が湧き、「この世界の⼀員になりたい」「タモツという人物を演じたい」という思いが高まり、早くクランクインしたいという気持ちでいたと明かした。

撮影エピソードとしては、クランクイン前の2週間ほど設けられたリハーサル期間が印象に残っていると宮沢さんは語った。この期間中、本読みだけでなく、三名で食事(タイ料理)をするなどコミュニケーションを取る時間があり、岸井さんが差し入れをしてくれたこともあった。そのおかげで、初日の緊張感や探り合いの時間が一切なく、役柄にスッと入ることができたと述べた。

天野監督が語る主演二人の起用理由
天野監督は、岸井さんと宮沢さんの俳優としての作品をこれまで見てきて、お二人が好きでオファーしたものの、実際にサチとタモツを演じてもらった姿は想像以上にすごく良かったと賛辞を送った。

岸井さんについては、そのお芝居の密度が濃く、「一 個も嘘がない、ごまかしがない」演技を「めちゃくちゃ力強くやってくれた」と評した。監督は、岸井さんの演技を見て、サチというキャラクターが「こんな力強い人だったんだ」と改めて知ったと述べた。サチは突っ走ってしまうため、一歩間違えれば嫌な奴に見えかねない部分もあるが、岸井さんの「チャーミングで愛嬌がある」性質が、サチを「許せてしまうキャラクター」にしてくれたと感謝を伝えた。
宮沢さんについては、クールな役を演じている姿をよく見ていたため、タモツのような「情けない役」を演じてもらったら面白いのではないかという目論見があったことを明かした。実際、タモツは「本当に面白い」キャラクターになっており、宮沢さんのクールなビジュアルが、その情けなさを「愛おしく見える」ように作用し、脚本にはなかったタモツ像が生まれてきたと述べた。監督は、二人に頼んだことでキャラクターが大きく膨らんだと感じている。
完成作を見て:見えない部分への「想像力」と「反省」
完成した映画を見た感想について、登壇者それぞれがコメントした。
岸井さんは、自身が出演していないサチが家にいないシーンを初めて見て、「タモツはこんな顔してたんだ」と感じたという。その時、サチを演じていたにもかかわらず、観賞後に「タモツごめん」という強い感情を抱いたと振り返った。これは、自分が演じるサチの行動によって見えなくなっていたタモツの「裏側」を想像できていなかったことへの反省だったという。岸井さんは、「見えてない部分を想像することが思いやりかもしれないと考えさせられる、非常に面白い映画になっている」と述べた。

宮沢さんは、演じていた期間は苦しい時間もあったが、完成作を見て、その苦しさが丁寧 に描かれていると感じた。この作品を経験したことで、自身の人生や日々過ごしている時間に、もっと真剣に向き合って生きなければ、自分だけでなく「いろんな人をこう苦しめてしまう可能性」があると痛感したという。自分の幸せや大切にしたいものを手放さないためにも、ちゃんと向き合いながら生きていこうと決意したと語った。

天野監督は、この映画が自身の日常や小さな出来事の積み重ねからできているため、この日常のドラマが面白いのかどうか、客観的に見られるまでは不安があったという。しかし、ラッシュ(映像を繋いだ段階)を初めてスクリーンで見た時、監督自身が二人を応援し、心から感情が寄っていった。その時、「こんなに私が自分自身が感動できてるんだから他の人がどう思われてももういいや」と思ったという。
ウイメンズ・エンパワーメント部門への選出について
本作が東京国際映画祭のウィメンズ・エンパワーメント部門に選出されたことについて、登壇者に考えが問われた。
天野監督は、女性を応援する大切なムーブメントであり、今の時代に必要だと感じており、「すごく光栄」だと述べた。しかし同時に、「やっぱりちょっと複雑な気持ちもあって」と本音を漏らした。あえてこの部門が作られることは、それだけ「女性を必要とするくらいの世の中の状態なんだな」と感じるため、「こういう状況がなるべく早く変わっていくといいな」という気持ちもあると語った。
宮沢さんは、この部門が去年から始まったことに触れ、女性のリーダーシップやスタッフが増えている日本の社会の現状を嬉しく思っていると述べた。本作は男女を題材にしているが、伝えたいのは「決して正解ということ」ではなく、夫婦やパートナーが「それぞれの正解というか、幸せを見つけるための形」を探し出してほしいということだと強調した。その点でも、この部門に選ばれたことを非常に嬉しく感じていると述べた。

岸井さんは、天野監督をはじめ、女性の監督やスタッフと物作りをすることが多く、みな「すごく頼もしい」と感じてきた。そのため、自身は「ウィメンズ」という点にあまりこだわっておらず、「その人、個のエネルギーがすごい強い」と思ってきたため、選出について少し戸惑いつつも、「でも頼もしく生きてます」と力強く語った。この映画を通じて、男女という視点よりむしろ、「そのパワーそのもの」を見出していただけたらと結んだ。

映画「佐藤さんと佐藤さん」は、11月28日(金)全国ロードショー!



映画「佐藤さんと佐藤さん」
岸井ゆきの 宮沢氷魚
藤原さくら 三浦獠太 田村健太郎 前原 滉 山本浩司 八木亜希子 中島 歩
佐々木希 田島令子 ベンガル
監督:天野千尋
脚本:熊谷まどか 天野千尋 音楽:Ryu Matsuyama Koki Moriyama (odol)
主題歌:優河「あわい」(ポニーキャニオン)
製作:清水伸司 菊池貞和 石井紹良 宇田川寧
エグゼクティブプロデューサー:松岡雄浩 中村優子
チーフプロデューサー:服部保彦 布川 均 プロデューサー:伊豫田章悟 柴原祐一 田代 蔦
撮影:趙 聖來 照明:村上憲次郎 録音:西條博介 美術:佐藤 希 編集:相良直一郎 フランス編集:シルヴィー・ラジェ
衣裳:松本紗矢子 ヘアメイク:杉本あゆみ 音響効果:浦川みさき キャスティング:伊藤尚哉 助監督:平波 亘
制作担当:川上泰弘 ラインプロデューサー:本島章雄
配給:ポニーキャニオン 製作プロダクション:ダブ
2025年/日本/カラー/アメリカンビスタ/DCP/5.1ch/114分
©2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会
2025年11月28日(金) 全国公開
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