ヴァレンティンヌ・カディック監督

パリ五輪の喧騒と孤独な女性の対比を描く。映画『THAT SUMMER IN PARIS』ヴァレンティンヌ・カディック監督来日インタビュー

2024年のパリオリンピックを背景に、ひとりの女性の孤独と家族の絆の再構築を描いたフランス映画『THAT SUMMER IN PARIS』。第33回フランス映画祭2026での上映を機に、本作が長編デビューとなるヴァレンティンヌ・カディック監督が来日を果たした。華やかな巨大イベントと個人的なドラマを対比させた意図、思い通りにいかないパリのリアルな姿、女性映画人支援団体での活動、日本の観客への思いまで、本作の制作過程と裏側に迫るロングインタビューをお届けする。

■ 映画『THAT SUMMER IN PARIS』ヴァレンティンヌ・カディック監督来日インタビュー

▼「巨大なイベント」と「個人的なドラマ」の対比について

ー:本作では、パリオリンピックという世界的な大イベントの喧騒の中で、異母姉妹との再会という非常に個人的で親密なドラマが展開されます。この対極的な要素を掛け合わせた意図は何でしょうか?

監督:出発点にあったのは、巨大なイベントが個人の軌跡にどのような影響を与えるのかを描きたいという思いでした。オリンピックのような大イベントは通常、友人や家族などのグループで楽しむことが前提とされています。そこに「孤独」な主人公を直面させることで、全く異なる視点が生まれます。一人でいるとき、人は周囲の出来事をどう見るのか、そして周囲は彼女をどう見るのかを描き出したかったのです。また、大都市パリは、誰も知る人がおらず助けがない場合、非常に暴力性をはらんだ都市になり得ます。そこで、主人公が気楽にありのままでいられるノルマンディー地方と対比させました。私自身の家族の大部分もノルマンディー出身であり、同地へのリスペクトも込めています。

▼「思い通りにいかない街」としてのパリの機能について

ー:水泳観戦のために訪れた主人公にとって、オリンピック期間中のパリは何もかもが思うようにいかない戸惑いの街として描かれています。この状況を背景に置くことで、どのような効果を狙ったのでしょうか?

監督:実は撮影の2年前に東京へ一人で旅行をした際、言葉も文化も違う大都市で少し迷子になるような孤独を感じました。その時の精神的な迷いや感覚が、無意識のうちに主人公に反映されていると思います。実際の五輪期間中は、大混雑や渋滞を予想して多くのパリジャンが街を離れたため、パリは予想外に空いていました。私たちは予測不可能な事態に備え、シナリオに米印をたくさんつけて複数の展開を想定していましたが、この街の予期せぬ変化には驚かされました。最終的にはパリジャンたちも戻ってきて、普段のパリとは違う国際的で祝祭的な素晴らしいムードに包まれました。

▼現実の出来事とフィクションの融合について

ー:ベルリン国際映画祭など世界各地で評価された本作ですが、現実の歴史的イベントを長編デビュー作のフィクションに編み込む面白さや難しさはどのようなものでしたか?

監督:物語の展開や撮影のロジスティクスに関しては入念な準備をしましたが、同時にドキュメンタリー的な要素をシナリオに統合する想定もしていました。例えば、セーヌ川の水質悪化で競技が中止になり、ジャーナリストにインタビューされるシーンは、実際に現場で起きた現実のニュースに合わせて作品の流れを変え、そのまま組み込んだものです。考え抜かれたフィクションの枠組みを現実の出来事が壊し、私たちの目を開かせてくれるこのプロセスは、短編時代から好んで用いている手法であり、とても刺激的な経験でした。

▼女性映画人を支援する活動団体「レ・フィルムズ」とフランス映画界の現状

ー:監督は女性映画人を支援する団体「Les Filmeuses(レ・フィルムズ)」の創設メンバーでもあります。フランス映画界における女性の状況や、団体での活動内容、そして本作の制作への影響について教えてください。

監督:「Les Filmeuses(レ・フィルムズ)」は、学生時代に映画製作を助け合う目的で友人たちと立ち上げた団体です。フランスでも、大きな予算が動くプロジェクトになるほど女性監督の割合が減っていくという現状があります。また、私は女優としても活動してきましたが、俳優は監督以上にミソジニーや暴力的な扱いに直面しやすい立場にあります。しかし、先人たちが戦ってくれたおかげで、現在の女性監督たちの間には素晴らしい連帯が生まれています。 団体の主な活動は、映画の制作、上映イベントの実施、そしてパリ郊外のメリエス映画館での超短編のフェミニスト映画祭の主催という3つです。フランスには、チケット代の一部を還元して作家主義映画を支援するCNC(国立映画映像センター)の素晴らしい制度があり、学生や若手の大きな助けになっています。 本作自体は団体の製作ではありませんが、メンバーである撮影監督のナオミ・アマルジェ(Naomi Amarger)をはじめ多くの友人が参加してくれました。また、本作はフランスに拠点を持つ日本人プロデューサーの制作会社(Comme des Cinémas)と協働したことで、私は監督業にのみ専念でき、精神的な負担が大きく軽減されて新たなアプローチで作品づくりに挑むことができました。

▼5:日仏映画の今後の可能性とトークショーに向けて

ー:3月22日には「映画と女性、パリ」をテーマとしたトークショーで、西川美和監督や福間美由紀プロデューサーと登壇されます。どのような意見を交わしたいですか?

監督:日本の素晴らしい女性映画人の方々とお話しできるのは本当に光栄で、好奇心をかき立てられます。あえて事前に話す内容を決めすぎず、その場で起きる化学反応や即興的な対話を楽しみたいですし、経験豊かなお二人から多くを学びたいと思っています。私は日本映画が大好きなので、いつか女優として日本の作品に出演したり、日本の俳優やチームとコラボレーションしたりできたらという夢も抱いています。フランスで制作を行っている日本人監督の作品にも日頃から大変感銘を受けており、将来的な協働の可能性も閉ざしていません。

ー:確かに、フランスと日本の合作映画の制作となると難しいと思いますが、まずは、それぞれの作品に、俳優が出演するということであれば実現可能な気がしました。
監督:とても好きな映画・美しいなって思う映画として例を挙げると、畑明広監督の作品に感銘を受けています。将来的に何かできたらというビジョンはもちろんあります。畑監督からは、日頃から大変、インスピレーションを受けております。日本の監督ですけれどもフランスで映画制作している方で、彼の作品のファンです。好きな映画は『グラン・シエル』※というタイトルです。

※東京フィルメックス 上映作品「グラン・シエル / THE SITE」
 https://filmex.jp/program/fc/fc9.html

▼日本の映画ファンへのメッセージ

ー:最後に、日本の映画ファンに向けて『THAT SUMMER IN PARIS』をどのように楽しんでほしいか、メッセージをお願いします。

監督:この作品は特定の誰か向けというわけではなく、すべての年代や性別の人に主人公との出会いを楽しんでいただきたいと願っています。本作はすでにベルリン、釜山、エジプト、イタリアなど世界各地の映画祭を旅してきましたが、国や文化によって「孤独」や「家族」というテーマに対する反応や受け止め方が異なるのがとても興味深い経験でした。今回、日本の観客の皆様にこの映画を観ていただき、どのようにお会いして反応をいただけるのかを心から楽しみにしています。



THAT SUMMER IN PARIS
Le Rendez-vous de l’été

監督:ヴァレンティンヌ・カディック 出演:ブランディーヌ・マデック、インディア・エール
2024年/フランス/77分/フランス語/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:NAKACHIKA & Fly Free Entertainment
©2024 Comme des Cinémas – Cinq de Trèfle Productions

2024年、パリオリンピック。30歳のブランディーヌは、水泳競技を観戦するためにノルマンディーからパリを訪れる。何もかもが思うようにいかない、喧騒と混乱に満ちたこの街に戸惑いながらも、彼女は思いがけず、疎遠になっていた異母姉妹と姪との絆を再び深めることになる。

この記事を書いた人 Wrote this article

Hajime Minamoto

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