台北映画祭(台北電影節)において、世界で最も注目すべき映像作家に焦点を当てる特集上映「Filmmakers in Focus」で、近年、この特集に選ばれた日本人としては、2016年の濱口竜介監督、2020年の大林宣彦監督に続く快挙であり、映画祭側は内山監督を「現代を生きる若者たちの孤独、不安、葛藤を豊かな映画的表現によって浮かび上がらせる稀有な才能」と高く評価している。同特集ではこれまでの長編作品『ヴァニタス』『佐々木、イン、マイマイン』『若き見知らぬ者たち』『しびれ』の4本が上映され、台湾初上映となった最新作『しびれ』の劇場は満席の観客で埋め尽くされた。

6月28日に誠品電影院(Eslite Art House)で行われた『しびれ』の上映後には、内山監督が登壇するQ&Aセッションが実施された。冬の新潟を舞台に、幼少期の記憶から言葉を発せなくなった少年・大地が歩む20年間の軌跡を描いた本作について、監督は「自身の最も率直な感情から生まれた半自伝的な作品」と語る。ただし自伝的な事実をそのままなぞるのではなく、それぞれの場面に自らの感情や実際の風景を織り込み、新潟という土地を一度解体して再構築したという。監督は「大地だけでなく新潟という土地ももう一人の主人公であり、絶えず表情を変える雄大な風景が彼を飲み込むように存在するさまを映し出したかった」と、作品に込めた深い新潟への想いを明かした。

主人公・大地の20年におよぶ生涯を、北村匠海をはじめとする異なる年代の4人の俳優が演じた独創的な手法にも注目が集まった。キャスティングについて内山監督は、外見の類似性ではなく「眼差しや内面からにじみ出る感情」を基準に選んだと回想する。青年期を演じた北村については、俳優活動に加え他分野での経験の積み重ねが同世代とは異なる深い眼差しに繋がっており、思い描く主人公像に最も近かったと述べた。また、大地の母親役を演じた宮沢りえについては、宮沢自身が前作『佐々木、イン、マイマイン』を熱愛し「監督の作品だったら出演したい」と熱望していたことから起用が実現し、その純粋さが役柄と共鳴したと舞台裏を語った。
今回初めて台湾を訪れたという内山監督は、独学で映画を学ぶ過程でエドワード・ヤン監督らの作品を通して台湾に関心を持ったと吐露した。この日は同監督の代表作『牯嶺街少年殺人事件』のロケ地である台北植物園を訪れたことを明かし、「いつか台湾で映画を撮りたい。今回の旅は観光であると同時にロケハンでもある」と語り、現地ファンを大いに沸かせた。上映終了後にはサイン会が急遽催され、日本公開時に購入した過去作のパンフレットを持参する熱心なファンの長蛇の列ができるなど、現地の熱気は最高潮に達した。

国内外で快進撃を続ける本作は、第26回東京フィルメックスでの審査員特別賞受賞、第76回ベルリン国際映画祭パノラマ部門への正式出品、そして第4回横浜国際映画祭での作品賞(グランプリ)を含む4冠達成など、極めて高い評価を獲得している。世界を魅了する内山監督の渾身の最新作『しびれ』は、日本国内でも9月25日よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国の劇場で一斉に公開される予定だ。

『しびれ』は9月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開