石井隆監督 没後3年 特集上映に先駆け盟友・竹中直人が語る 『ヌードの夜』、忘れえぬ監督との時間

石井隆監督 没後3年 特集上映に先駆け盟友・竹中直人が語る 『ヌードの夜』、忘れえぬ監督との時間

映画監督・石井隆(2022年5月22日永眠)の没後3年を記念し、6月6日よりシネマート新宿ほかロードショーとなる特集上映「石井隆Returns」。これに先立ち、5月23日に池袋HUMAXシネマズで先行上映イベントが行われた。上映作品である代表作の一つ『ヌードの夜』HDリマスター版 に合わせ、主演を務めた俳優の竹中直人氏と、石井隆監督ファンを公言するライムスター宇多丸氏が登壇し、監督との思い出や作品について語り合った。

■ 「石井隆Returns」先行上映イベント

ファン代表として話を聞く立場だと述べた宇多丸氏 が、まず竹中氏に石井監督との最初の出会いについて問いかけた。竹中氏は、石井氏が劇画家だった子供の頃から漫画を読んでいたと振り返り、「映画放送部を訪ねていった時、ゴミ箱に『ヌードの夜』と書かれた台本が捨ててあって、いいタイトルだなと思って拾い上げたら、監督・脚本が石井隆って書いてあった」のが出会いだったと明かした。この台本は、後に石井監督のデビュー作となる『天使のはらわた 赤い眩暈』として制作されたものの原型だったという。

宇多丸氏が、なぜ竹中氏が石井監督に気に入られたのかと問うと、竹中氏は信じられないという様子を見せながらも「僕のこと好きだったみたい」と語り、「眼差しがとても優しかった」とその印象を述べた。『ヌードの夜』というタイトルが『天使のはらわた 赤い眩暈』に変更され、わずか8日間という短期間で撮影された後、「ヌードの夜というタイトルがとても素敵だったので」と、竹中氏は石井監督に改めてこのタイトルで映画を撮ってくれないかと心からお願いしたという。石井監督は周囲の強い反対を押し切って竹中氏を主演にすると決め、「竹中しかいない」と言ってくれたと明かし、「それがとても嬉しかった」と当時を振り返った。

竹中氏は、石井監督には役作りに関する具体的な演技指導はほとんどなかったと語る。「『役を超えたもの』というか、石井さんと俺との関係なんだというのを感じることができた」と述べ、石井監督が自分を信じてくれているという思いが強く、「現場での石井さんと過ごした時間は夢のようだった」 と語った。完成した作品よりも、現場での監督との関係性が重要だったという。

『ヌードの夜』の撮影エピソードとして、宇多丸氏も触れた終盤の水中シーンについて、竹中氏は「すごい汚い海だったんですよ。猫の死体まで浮いてて」と過酷な状況を明かした。ダイバーに無理やり水中に沈められ、パニックになりながらも酸素ボンベを受け取ってまた沈められるという壮絶な撮影だったという。石井監督が「晴れよりも雨が好き」で、天候が監督の思い通りになる奇跡が何度かあったこと、撮影中に共演者の余貴美子さんが石井監督の問いかけに返事をせず、竹中氏が仲介に入ったエピソードなども披露された。

宇多丸氏が共演者の椎名桔平氏について言及し、事務所での迫真の格闘シーンがワンカットで撮影されたことに驚きを示すと、竹中氏は特殊メイク担当がフレームのギリギリで待機し、自分が倒れた後にメイクを施して顔が腫れているように見せた舞台裏を明かした。また、『GONINサーガ』での安藤政信氏との共演シーンでは、竹中氏を見ただけで安藤氏が笑いが止まらなくなり、撮影が何度も中断したというエピソードも語られた。

竹中氏は、石井監督が常に「どうせ俺なんか」という意識を強く持っており、前向きではない点で自身と波長があったと感じていたと語り、「僕の映画なんて誰も見ませんよ」とすぐ言うような監督だったが、「その気持ちが好きでしたね」と述べた。同時に、その自信のなさのようなものが「めっちゃくちゃ色っぽい」「愛しくなる」魅力だったと表現した。監督とは新宿の街を歩いたり、一緒に映画を見に行ったりと、男同士のデートのような交流があったという。

宇多丸氏から、今回の特集上映で石井監督の映画を初めて見る観客がいることについて問われると、竹中氏は「それがすごく思いました」「初めての映画ですもんね。とても嬉しい感謝すべきこと」と喜びを語った。しかし同時に、「石井隆なぜ死んだと思っちゃいますね」「もっと撮って欲しかったな。悔しいすね。切ないっすよね」と、早すぎる死を惜しむ率直な気持ちを吐露し、石井監督ならではの唯一無二の映像表現を改めて称賛した。

最後に竹中氏は「こんな最高な監督がね、本当にいなくなっちゃったのは本当に寂しいけど、皆さんがこんなに集まってくださって石井隆の映画を見てくれるってのは本当に感謝します」と述べ、会場に集まった観客への感謝を伝えた。宇多丸氏も、HDリマスター版でさらに美しくなった映像をスクリーンで見られるのは最高のことだと述べ、改めて特集上映「石井隆Returns」への期待を語り、イベントは盛況のうちに幕を閉じた。


没後3年 「特集上映 石井隆Returns 初期監督作4本HDリマスター版上映」

<イントロダクション>
劇画家、脚本家、映画監督として、女と男の愛の物語を描き続けた、
唯一無二の映画作家・石井隆が、スクリーンに還ってくる

石井隆が、2022年5月22日に永眠してから今年の5月で、まもなく3年という月日が経つ。劇画家、脚本家、映画監督として、これまで数々の男と女の愛の物語を描き続けた、唯一無二の映画作家。この間、イギリス、フランス、北米などでワールドセールスが続々と決まるなど、海外で再評価が高まり、こうしたムーブメントを受けて90年代の傑作4本を一挙HDリマスター版上映が実現!石井隆の世界が、再びスクリーンに還ってくる!! 

配給ムービー・アクト・プロジェクト

協力:ファムファタル、キングレコード、日活、キネマ旬報社、中央映画貿易、ダブル・フィールド

■公式サイト https://mapinc.jp/ishii-takashi

■公式SNS X:@ishii_Returns
     Instagram:IshiiTakashi_Returns

6月6日(金)よりシネマート新宿、池袋HUMAXシネマズ他 全国順次上映

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