かぶと島が浮く日

映画『かぶと島が浮く日』初日舞台挨拶/満席の新宿で松林慎司ら登壇陣が語る、故郷・岩国への愛と失われゆく記憶の物語

山口県岩国市を舞台に、変わりゆく街の風景とそこに生きる人々の温かな繋がりを描いた映画『かぶと島が浮く日』が10月3日、東京・新宿K’s cinemaにて公開初日を迎えた。上映後に行われた舞台挨拶には、企画・プロデュース・主演を務めた松林慎司をはじめ、共演のドロンズ石本、佐伯日菜子、岡本信人、篠田諒、そして片山享監督が登壇。超満員となった会場で、作品誕生のきっかけやタイトルの背景、撮影中の知られざる裏話などが明かされ、観客との一体感に包まれる温かなイベントとなった。

満員の劇場で迎えた公開初日、登壇陣が万感の挨拶

作品の上映終了後、拍手に包まれた場内にキャスト陣と監督が姿を現した。本作で主人公の親友・信弘役を演じ、この日の司会進行を務めたドロンズ石本は、自ら持ち込んだお祝いの花束を手に挨拶に立ち、満席の客席に感謝を述べた。

続いて登壇者が一人ずつ初日を迎えた胸中を語った。企画・主演を務めた山口県岩国市出身の松林慎司は「満席の客席を見て、本当に胸がいっぱいです」と感無量の表情を見せた。信弘の妻・あけみ役の佐伯日菜子は「まさかの満席で、本当にお天念にも恵まれて心から良かったと思っています」と喜びを口にした。信弘の父親・大村役で岩国市出身の岡本信人は「地元の舞台にした映画に出られたことをとても嬉しく思っています」と故郷への想いを滲ませた。新商品開発に奮闘する登役を演じた篠田諒は「満席で初日を迎えられたことを本当に嬉しく思います」と感謝を伝え、片山享監督も「今日はお越しいただき本当にありがとうございます」と頭を下げた。

「原点回帰」を胸に映画化、タイトルに込められた少年の日の情景

トークセッションでは、まず企画の立ち上げ経緯が明かされた。22歳で俳優を目指して上京した松林は、40代を迎えて帰る場所があるありがたみに気づき、2020年から岩国市の観光大使を務める中で「映画や物語を通じて岩国の魅力を発信したい」と発案。自身の長編初主演作『いっちょらい』を手掛けた片山監督に全幅の信頼を寄せて監督をオファーしたという。

片山監督は、松林から提示された「原点回帰」というテーマを受け、シナリオハンティング(シナハン)で岩国を訪問。再開発が急速に進む街のダイナミズムを目にし、「失われゆく過去や記憶を否定せず、今を生きる若い世代も共に前に進んでいく姿を描こう」と決意したと振り返った。

印象的なタイトル『かぶと島が浮く日』の由来について片山監督は、松林の小中高校時代の通学路から見えた無人島「かぶと島(甲島)」のエピソードを明かした。松林が「心が弾む良い日は島が浮いて見えた」と語ったのに対し、監督が「今は浮きますか」と尋ねると、松林は「最近は浮かない」と答えたという。片山監督は大人になるにつれて浮かない理由ができてしまう心情に着目し、「過去や未来と向き合いながら今を生きる」という作品の核心をタイトルに込めたと明かした。

役作りと撮影秘話、30年ぶりの再会やリアルな演技に感動の声

続いてキャスト陣がそれぞれの役作りや現場でのエピソードを明かした。家庭を支える力強い女性・あけみを演じた佐伯は、片山監督から高い演技レベルを求められ悩んだものの「30年近く俳優をやっていますが、ハッとさせられることが多く大変勉強になりました」と回想。20歳頃からの知り合いである松林の人生や故郷への想いが詰まった完成作を観て「感無量でした」と声を詰まらせた。

記憶が薄れゆく元野球部監督の父親を演じた岡本は「記憶が失われても息子と野球の記憶は変わらない、昭和の頑固親父というスタンスで演じました」とコメント。これに対しドロンズ石本は、自身の亡き父の認知症の経験と重ね合わせ、岡本のリアルな立ち振る舞いによって自然と溢れ出る演技を引き出してもらったと深く感謝した。さらに佐伯は、18歳の時に伊丹十三監督の『静かな生活』で岡本と共演して以来約30年ぶりの再会となった喜びを語る一方、作中でペーパードライバーでありながら岡本を助手席に乗せて運転するシーンでは極度に緊張したという裏話を明かした。石本からは、この日劇場にやって来る途中で岡本が往年の映画ファン5〜6名に囲まれ、大切に持参されたパンフレットに丁寧にサインに応じている姿を目撃したという微笑ましいエピソードも紹介された。

事務所の先輩である松林からの声掛けで参加した篠田は、初めて訪れた岩国の穏やかな空気感や地元の温かい支援に触れて役を構築したと説明。片山監督から「台本にとらわれず登るとして感じたことを演じてほしい」と助言されたエピソードを披露すると、松林も「本当に頼りになる後輩です」と篠田へ全幅の信頼を寄せた。

監督の「逆質問」で明かされたクライマックスシーンの真相

イベント中盤には、片山監督から進行のドロンズ石本へ予定外の「逆質問」が飛び出す場面もあった。監督が「映画館のシーンでミッキー(幹男)と二人で話している時、何を考えていたんですか」と尋ねると、石本は驚きつつも本音を吐露。撮影の際、テストの段階で片山監督がボロ泣きしていた姿を見て、自身の父親の記憶や映画館がなくなる寂しさが一気に込み上げたことを告白した。そして「形あるものはなくなっても、心の中で忘れなければなくなるものではない」という想いであのクライマックスに臨んでいたと語ると、片山監督も「忘れないでおこうと思ったその瞬間の気持ちこそが大切なのだと思える素晴らしいシーンだった」と深く頷いた。

和やかな「もしもタイトルをつけるなら」大喜利と熱い決意

終盤には、もし登壇者が自分でこの映画にタイトルをつけるとしたらという問いが投げかけられた。松林が「実在の映画館の名前から『ニューセントラル』」と答えて監督からダサいと突っ込まれると、佐伯は劇中の名台詞から「『俺は忘れんよ』」と回答。これには石本も「僕も全く同じことを考えていた、やはり(劇中の役柄通り)夫婦ですね」と笑顔を見せた。岡本が「何も浮かばない」と率直に答えると、石本が「『全然浮かばない』というタイトルも、認知症や浮かない島と掛かっていて素晴らしい」と絶妙なフォローを入れて会場の爆笑を誘った。篠田はテーマである原点回帰から「『僕の帰る場所』」と答え、それぞれの個性が溢れる回答となった。

最後の挨拶で片山監督は「初日にこうして満席の中で皆様と集まれたことが本当に幸せです。皆様それぞれの中に『かぶと島』があり、それが浮く日が来ることを願っています」と語りかけた。松林は、9月6日に岩国で行われた660名動員の先行上映に触れつつ、「岩国市民の皆様やご協力いただいた企業の皆様お一人おひとりの思いがあったからこそ今があります。この満席の景色を岩国に持ち帰って報告したいです」と感謝を噛み締めた。

舞台挨拶終了後はマスコミ向けのフォトセッションに加え、観客による写真撮影タイムやパンフレット購入者を対象としたサイン会も行われ、熱気に包まれたまま初日イベントは幕を閉じた。映画『かぶと島が浮く日』は10月3日より新宿K’s cinemaほか全国にて順次公開される。


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Hajime Minamoto

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