俳優の奈緒が主演を務める映画『死ねばいいのに』(金井純一監督、7月3日公開)の完成披露上映会が6月11日、東京・テアトル新宿にて開催され、奈緒、金井監督、そして原作者の京極夏彦氏が舞台挨拶に登壇しました。京極氏による同名ミステリー小説を実写化した本作は、謎めいた主人公・渡来映子が、殺害された女性・鹿島亜佐美について尋ね歩く物語です。イベントでは、奈緒による役作りの裏側や、京極氏から寄せられた完成作への最上級の賛辞に加え、本作の企画経緯から現代における映像化の意義まで、濃密なトークが展開されました。

■公開を待ちわびたキャスト陣と、原作者・京極夏彦からのユーモアあふれる挨拶
舞台挨拶の冒頭、奈緒は「この作品を撮っているときは、公開前にこうして拍手で皆さんに受け入れていただける光景が本当に想像できていなかったので、感動しています」と率直な思いを明かし、「何より、この作品を生み出した京極先生とこの日を迎えられたことが、すごく幸せです」と喜びを語りました。

続いて京極氏は「変なタイトルでごめんなさい」と切り出し、会場の笑いを誘いました。「小説としてはよかったんですけど、こういう形になると拡散、宣伝が難しい。大きなハンディキャップを背負わせることになってしまい、それはすべて私の責任です」とユーモアを交えつつ、「大変いい映画ですので、皆さん楽しみにしてください」と呼びかけました。

金井監督も「タイトルもそうですが、強いメッセージ性を込めた作品ですので、タイトルの意味が伝わったらいいなと思っています」と期待を寄せ、上映前の舞台挨拶ということで「ネタバレしないようにとても緊張しています」と心境を明かしました。

■「いたく感心した」原作者からの賛辞と、映画化への道のり
トークセッションでは、本作の企画に関する裏話も飛び出しました。京極氏によると、本作は約16年前に書かれた小説であり、これまでにも映像化の話は多数あったものの、すべて立ち消えになっていたといいます。そのため、今回の映画化については「チャレンジャーだなと思いました。映像作品は映像を作る方の作品と思っているので、『やれるならやってください』という感じでした」と当時の率直な思いを明かしました。
しかし、完成した映画を鑑賞した京極氏は「小説って、書いてあることより、書いていないところのほうが大事なんです。映像は、その書いていない部分なんですね」と語り、最初から最後まで亡くなっている設定の亜佐美について「初めて見て『あ、こんな人だったんだ』と思いましたし、書いた小説の中の風景は『こんな風景か』と少し感動しました」と絶賛しました。さらに「(原作と)全然違うんだけど、その通りだなと、いたく感心した次第です」と完成作を高く評価しました。
この言葉を受け、金井監督は「一番最上級のお言葉を頂いて、今日は一番とても救われた瞬間です」と感無量の様子を見せました。奈緒も「舞台挨拶の前に3人でお話しする時間をいただいたんですが、そのときも先生は『うれしいです』とおっしゃってくださったので、すごくほっとして力が抜けました」と安堵の笑顔を見せました。
また、金井監督が本作を映画化しようと思った理由について、「1対1で主人公が尋ね歩くというお芝居の密度に惹かれたことと、読み終わったあとの言語化できない余韻を、映画ならではの表現で作れたらと思った」と明かし、テアトル新宿の音響システムを活かすなど、劇場でしか味わえない感覚にこだわったことを語りました。
■奈緒が演じた“鏡のような”渡来映子
劇中で奈緒が演じる映子は、周囲の人物を訪ね歩きながらも、自身の内面は多く語られない捉えどころのない人物です。奈緒は脚本を読んだ際「この人は、見ている人や対峙している人を映し出すような、鏡になるような余白のある人だと感じた」と振り返り、「“映す子”でいたいから、あまり何かを自分の中で埋めすぎずに行こうと思った」と役へのアプローチを明かしました。
その解釈について金井監督に相談したところ、監督から「まさに映し出す子で“映子”。匿名性がある映子という意味を込めて、この名前にしました」と告げられたといい、奈緒は「自分の中で雲をつかむようなスタートだった映子が、少しずつ自分の中で埋まっていくようで、ほっとしました」と、役をつかんだ瞬間を回想しました。
■今どうしても知りたいこと――京極氏の着物からAIの話題まで
映子が尋ね歩く物語にちなみ、「今、気になっていること」「どうしても知りたいこと」をフリップで発表する企画も行われました。
京極氏は達筆で「何もありません」と回答。「この商売は、どんなものにも興味を持たないといけないので、一つだけに興味を持っていたらやっていられない」と説明しつつ、「こうしているときも、たくさんのことに興味が湧いています。こんな状況を楽しみたいというのはありますね」と語り、最終的には「好き嫌いがない上に、えこひいきが嫌いなので、大体全部いいんです」とまとめ、奈緒を感嘆させました。
一方、奈緒が掲げたのは「京極先生」でした。現場では緊張して話せなかったため、完成した今もっとお話ししたいと語り、京極氏の着物スタイルについて「いつからこのスタイルができたのか」と質問しました。

京極氏が「ずっとです。黒い着物が多い。でも、きょうは黒を着てこなくてよかった」と、全身黒の衣装だった奈緒と監督に触れると、奈緒は「『死ねばいいのに』でオールブラックはかなりインパクトがある」と応じました。すかさず京極氏が「オールブラックは死んだ後ですから!」と返し、会場は大きな笑いに包まれました。

さらに金井監督は「AI」と回答し、映像業界におけるAIの浸透に触れつつ、「この物語は映子が直接人に会いに行くお話。チャットGPTなどで調べられる時代だからこそ、直接会いに行くことの意味が皆さんに伝わるのではないか」と作品のテーマを現代と結びつけました。また、「今回はグリーンバックで撮らずに、本当の草むら(グリーン)で撮りました」と、AIとは真逆の手作り感あふれる撮影手法を採用したことも明かしました。
■奈緒「タイトルの先に続く言葉を探して」
イベントの最後には、登壇者からこれから映画を鑑賞する皆様へメッセージが送られました。
金井監督は「決して明るい映画ではないですが、見終わった後に何か伝わったらいいなという強いメッセージを込めて作りました。今日こうして観ていただけることが映画としての生まれた瞬間でもあります」と力強く語りました。
奈緒は、作品タイトルについて「『死ねばいいのに』というタイトルとこの映画と向き合ったとき、“のに”という表現が、言葉としてとても日本人らしく、曖昧で、その先には違う言葉が続くように感じました」と表現し、「この映画を観て、タイトルの先に続く言葉を探していただけたらと思います」と観客へ呼びかけました。さらに「言葉というのは、投げかけるほうもそうですが、受け取る側もどう受け取るかによって変わると思います。この映画を通して一緒に考えられたら幸せです」と作品に込めた思いを伝え、イベントは盛況のうちに幕を閉じました。


映画『死ねばいいのに』
【あらすじ】
「亜佐美のこと 聞かせてもらいたいんです」
何者かによって殺された鹿島亜佐美。 そんな、彼女のことを知りたいと、 渡来映子が亜佐美の職場の上司・山崎を訪ねてきて――。
【クレジット】
奈緒
伊東蒼
前原滉 髙橋ひかる 草川拓弥
浅野竣哉 カトウシンスケ 木原勝利 日高七海 / 田畑智子
平原テツ
原作:京極夏彦「死ねばいいのに」(講談社文庫)
監督・編集:金井純一 脚本:喜安浩平 音楽:D flat 主題歌:This is LAST「アイリス」
製作幹事:S・D・P メ〜テレ 配給・宣伝:S・D・P 製作プロダクション:ダブ
2026年/日本/カラー/シネマスコープ/DCP/5.1ch/95分/映倫区分:G
©️京極夏彦/2026映画「死ねばいいのに」製作委員会
*音楽:D flat *配給:S・D・P
公式サイト https://shinebaiinoni-movie.com/公式X @shineba_movie