映画『夢見びと』Kenjo監督、川口高志(マサ役)インタビュー「監督と話をすることが役作りに繋がっていった」

映画『夢見びと』Kenjo監督、川口高志(マサ役)インタビュー「監督と話をすることが役作りに繋がっていった」

2024年4月13日(土)より、映画『夢見びと』が、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開。インディーズ邦画としては異例の30映画祭10部門受賞22ノミネートという快挙を成し遂げ、賞レースを席巻した本作。イギリス出身・日本在住で映画監督と会社員を兼業する異色の新進気鋭Kenjo(ケンジョウ)が監督・脚本を務めた長編デビュー作。今回、Kenjp監督とマサ役を演じた川口高志さんにお時間をいただき、本作制作のエピソードをうかがいました。

本作は、その場限りの「偽りの関係」で出会った若い男女が、夢への情熱と現実のはざまでもがきながらも「真実の自分」を見出していく姿を圧倒的な歌とダンスで彩るミュージカルドラマ。

■ 映画『夢見びと』監督、キャストインタビュー


▼Kenjo監督の経歴について

―イギリス出身・日本在住で映画監督と会社員を兼業する異色の新進気鋭Kenjo(ケンジョウ)監督。本作は監督・脚本を務めた長編デビュー作。
あまり耳にしたことがない経歴でした。あらためて、監督になる・映画を撮るまでの経緯のお話をきかせてください。

Kenjo監督
母が栃木出身の日本人で、父がアイルランド人です。2人とも映画が大好きな人たちなのですが、父は多分この40年ほど映画館に訪れておらず、父とはいつもテレビで流れている映画を二人で観ていました。母とは映画館に行ったりビデオで映画を観て過ごし、両親から映画の魅力の影響を受けました。
大学で映画を学び、友達と一緒に組んで、短編映画を何本も作りました。それは、練習や遊びとして映画作りを楽しめる活動だったと思います。
大学卒業後にリーマンショックの不況を受けました。それはイギリスだけではなく、世界中に影響が及んだと思います。
ウェイターの仕事をするのにも、100人くらいの順番待ちがあり、半年から10か月くらい 待つような状況でした。
そんな時期だったので、子どもの頃に何度も訪れたことがあり、親戚もいる日本に行きました。日本の文化や社会はイギリスと似ていて、そこが面白いと感じていました。
そんな日本をもっと詳しく知りたくて 、ALT(Assistant Language Teacher:外国語指導助手)として、高校や中学校でネイティブスピーカーとしての仕事をしました。
最初は九州の佐賀県の商業高校に行って、そのあとに福岡に移動して2年間住みました。
そのときは24歳だったので、ずっと目指していた 映画監督への夢をかなえるため・経験を積むために東京へ移動しました。

ーイギリスの大学に通い、短編をいくつか撮って、その後、日本に来て、しばらくは外国語指導補助員をして、少し映画とは離れてブランクがあり、その後、九州から、監督というか撮影・映像をやりたくて東京に出てきたということですね。

Kenjo監督
日本に来てからの話をすると、日本に来てからいろいろな動画制作の活動を行っていました。一度、助監督の仕事をやらせてもらったのですが大変すぎて、少し嫌な経験もあったので、もうこんな現場に入りたくないという気持ちがあって、最初の短編を自身で作りました。それがきっかけで、自分の作品を作りたいという気持ちになったと思います。
それから、2017年に「オートメーション」という短編を作って、その次の年2018年に「やもめ」という短編を作りました。それ以外にも短編をつくりつつ、今回、初長編作品となる『夢見びと』を制作しました。

▼輝かしい映画祭受賞歴。なにか戦略的に行ったことは?

-インディーズ邦画としては異例の30映画祭10部門受賞22ノミネートというすばらしい受賞成績を残していらっしゃいますが、かなり精力的・積極的に映画祭に応募されたと思います。なにか戦略的なものはありましたか?

Kenjo監督
自主制作映画は映画祭の戦略が非常に難しいと思います。きちんとした商業としての観点や映画祭に応じた流れがあると思います。例えば、映画祭の開催順序とか。
サンダンス映画祭は前年1月に開催されるのです。夏から申し込む事ができます。
この時はあまり戦略的な考えは無しで提出料を払って、それ以外は、あまり考えずに、100個くらいの多くの映画祭にWEBサイトから応募してみました。
映画祭に100件くらい応募しないとなかなか結果が出せないと思って、数多く応募しました。今までアメリカの映画祭で選ばれたことがなかったのですが、今回はアメリカに限らず多くの国の映画祭で賞をいただけて、とても嬉しかったです。

▼メインキャラクターのマサとカナコの誕生について

-本作の主役となるマサとカナコがどのようにうまれたかをききたいと思います。独身の漫画原作者 や、レンタルファミリー役の女優という、どこか独特で日本的なトレンドとも言えるキャラクター設定に興味を持ちました。このあたりの話をお話しいただけますか?

Kenjo監督
脚本を書いてるときにどこかで自分自身を投影してしまう 感じになるんです。だから多分主人公のマサ はクリエイティブで、私と少し似ているところや、もちろん似ていないところもあるのですが、やはり自分の境遇や興味、弱点を主人公に入れるわけです。なので、クリエイティブな方で、監督ではない職業を考えて、漫画の原作者で決めました。

レンタルファミリーの女優についてですが、5年前に脚本を書き始めたときはホステスだったんです。いろいろな脚本を書く仲間に意見を聞いてみたのですが、「ホステスはベタなんじゃないか」という感想があって、それには私も同感でした。そこで、レンタルファミリーの女優になっていった経緯があります。

▼音楽について

ー今回は、「音が、美的な要素だけでなく、機能的な役割を果たすようになった」といったことが作品紹介にありましたが、これはどのような意味なのでしょうか?

Kenjo監督
ミュージカルのシーケンス(構成、流れ)として、二つの役割があると思います。まずは観客者を喜ばすエンターテイメント。それは当然というかエンターテイメントのために作るんですね。あと一つは映画のテーマとキャラクターの発展。登場人物の思っていることや感情を示すためにそれを合わせる役割もあります。

-ありがとうございます。ミュージカル観る機会・経験が個人的にあまりなく、ひょっとしたら、自主制作映画を好んで観る方々も動揺なのではないかと思い、ミュージカル映画を観るにあたって、なにかかみ砕いた説明があった方がいいと思い質問いたしました。ありがとうございました。

▼キャスティングについて

-キャスティングはどんな形式で行われたのでしょうか?(指名してのオファー、募集してのオーディション等)

Kenjo監督
自主映画なので、オーディションの開催が頭を悩ます課題としてありました。シネマプランナーズというサイトで、キャスト募集の情報を掲載して、履歴書等を送っていただいたうえで、その容姿や経験や感覚的なものを考えながら選んでいきました。
オーディションでは、脚本上にあるワンシーンのセリフを読んでもらって、それを動画で撮って、選びました。
川口さんの場合は、出演されていた映画『東京不穏詩』を熱海国際映画祭 で観る機会があって、その映画で川口さんがすごく印象的でした。自然で魅力的な演技で、初めて会って話した時から、マサについて話し合って、コンセプト等についてオープンに話してくれたので、僕からもいろいろと意見を言いながら、映画のプロットに反映させていったというか、徐々に映画の形になってきて今に至りました。

キャスティングで大変だったのは、ダンスができて、歌も歌えなくてはならないですし、そこに演技もあわせられる役者の方を探すのがとても難しかったことです。カナコ役に関して、ずっと決まらずに悩んでいたところ、川口さんに話を聞いてみると、同じダアクティングスタジオ にいらした森川さんの話しがでてきたんです。

川口高志(マサ役)
そうなんです。カナコ役のキャスティングがすごく難航していました。演技もできて、歌ができてダンスもできてっていう女優さんがなかなか見つからずにいまして、僕と同じく新国立劇場演劇研修所の修了生 で、由樹ちゃん(森川由樹・カナコ役)を紹介させていただきました。
僕は由樹ちゃんとは何度も共演していたので、彼女が素晴らしい女優さんだということも知っていたし、歌ができてダンスもできるということは、知っていたので、Kenjo監督に、「ぜひ、彼女に会ってください」」とお願いしました。

Kenjo監督
森川さんとは実際に池袋で川口さんを交えて3人で会って、そこで2人に脚本の中のセリフを読んでもらってから、カジュアルな感じでいろいろ話して、その場で出演していただくことを決めました。会ってからの決断は早かったと記憶しています。

-川口さんがカナコ役の森川さんをKenjo監督に紹介したことで決まったという経緯があったんですね。

▼川口さんの出演にあたっての思い

-川口さんご自身も歌・ダンス・演技とその難しさに不安がある役どころの相手役を紹介するのには葛藤等があったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?ミュージカル映画への出演は、俳優さんにとっても、どこか特殊な演技・撮影環境で難しいものではないかと思うのですが。

川口高志
そこは正直、かなり自分の中でも、「本当に自分は出来るのか…?」という点は考えました。ただ、マサ役に関してはKenjo監督の方から「煌びやかなダンスや歌を披露することよりも、むしろ役としていることを大事にして欲しい。マサとして、そこにいてくれればいい。 」と言ってくださったので、その言葉で勇気づけられてと僕も挑戦してみようという気持ちになりました。
ただ相当なプレッシャーでした。

▼森川さん(カナコ役)への声がけ

-ご自身が不安の中、森川さんに声をかけるのは結構勇気が必要だったの ではないかと思うのですが、いかがでしたか?

川口高志
共演したことがあったので信頼関係はできていましたし、一緒にやることに対しての確実性みたいなものがあったからお声がけしました。すごく勇敢な人で、なんにでもチャレンジしてくださる方だと僕は思っています。
自主制作という規模で大変なこともあるかと思ったのですが、由樹ちゃんなら楽しみながらそういった困難を一緒に乗り越えてくれるっていう確信がありました。
僕たちは、本当にたくさんいろいろな作品で一緒で 、いろいろなことを乗り越えてきた同志でもあったんです。
なので、そういう意味で一緒に作品をつくりあげてくれるだろうと思いました。

-やはり共演経験があることは、身近に感じられるというか、息を合わせるうえでも大事なことだと思うのですが、有利に働いた点はありましたか?

川口高志
やはり共通言語もありますし、まさに息が合うというか、相手の気持ちを感じ取れるようなところがあるので、全てを信頼して自分もお芝居ができるし、芝居を受けることができる状態でのスタートできたのは、この映画にとって有益だったと思います。

▼3人で撮影の前に、お話して、実際撮影の現場で2人が歌い踊り、演技する姿を見ていかがでしたか。

Kenjo監督
撮影は12月に10日間の予定の撮影期間が決まっていました。初日は一番難しい14ページぐらいある最後のシーンでした。最後のシーンは、ほとんどの登場人物が集まるところなのですが、みんながお互いのことを知らないし、初めてその場で会ったんです。
私も本作を作れる自信がちょっとなくなりそうなところだったのですが、無事に全部で14ページ分の撮影を撮ることができました。

ーやはり。初日は単純なシーンとか、順撮りがいいという話をききますよね。

Kenjo監督
はい、そういったリラックスした環境が大事なのですがその日にしか撮れなくて、その日になりました。それから2人のダンスシーンのデュエットは、この期間の10日目か11日目くらいに撮りました。
確かダンスシーンと歌うシーンは最初の撮影で、それが10月25日だったと思います。そこから大体1ヶ月半で撮ったと思います。

川口高志
ミュージカル映画で歌って踊るシーンっておそらく一番感情的に盛り上がるシーンだと思うので、そこを先に撮ってしまうというのは結構大変でしたね。

-撮影が2019年の後半となると、翌年はコロナの流行がはじまりましたね。

Kenjo監督
2020年の映画祭の戦略も含めてすごく難しい環境で、2021年の映画祭を狙っていました。編集の時間もずっとほとんど家にこもっていたし 、時間はいっぱいありました。

▼川口さんの出演にあたっての準備、役作り、苦労話

-川口さんがマサを演じるにあたっておこなった準備や役作りについておしえてください。

川口高志
ダンスに関しては練習あるのみでしたので、もうとにかく、いろんなことをしました。街でよくダンスをされる方たちが窓に向かって自分の姿を映して練習していると思うのですが、それに似た練習を毎日しました。歌に関しては、自分はわからないことがすごくたくさんあったので、もう稲葉さん(稲葉瑠奈 ・作曲家)ととにかく話して、皆さんに導いていただいてとにかく真剣に取り組みました。
演技 に関しては特に何か特別にあったってことはないんですけれども、Kenjo監督が脚本も書いて、監督もしているということで、先ほどKenjo監督も、“ある程度自分というものを投影してる”といったことを話していたと思うのでが、そういう部分があるんだろうと僕も思っていました。
なので、Kenjo監督とコミュニケーションをとったり、監督が何を見ていてどんなことを考え、どんなことを感じているのかを知ることが、役作りにきっと繋がるだろうと僕は思って、なるべくKenjo監督と、現場でも、現場に入る前からもずっとコミュニケーションをとって、密にいろいろ話し合いながら、役作りを進めていきました。
監督と話をすることが、結果的に役作りに繋がっていったとすごく思っています。

Kenjo監督
2人で話し合っていたんですけど、こういったことを耳にするのは、ほとんど初めてですね。川口さんがどういうふうに考えてたとか、私は多分現場では話せていなんです。
あのときは、助監督もラインプロデューサーもいなくて、ほとんど私が撮影・監督・演出全てがすごく気になっていて、時間のことも含め、いろいろ考えていたので、他のことを考えられず、Instinct(本能・直観)で現場をすすめていたと思います。

▼お客様へのメッセ―ジ

Kenjo監督
面白いことをいうか、真面目なことを言うか悩むのですが…
私のように、そんなにミュージカルに興味がなくても…。

-あ、そうだったんですね。

Kenjo監督
私が『ラ・ラ・ランド』を観たときに、「ミュージカルはこういうふうに作られているんだ…」と、とてもびっくりして、その影響を受けて、『夢見びと』を作ってみました。
だからもし、『ラ・ラ・ランド』を好きな方は、ハマってくれると思います。また、『ラ・ラ・ランド』を観ていないくて、ミュージカルにそんなに興味がない方でも、ぜひ『夢見びと』を観に来て、普通のミュージカルではなくて、感情深いストーリーをみてくださればと思います 。

川口高志
僕たちのチームの中で、多分1人もミュージカル映画というものを作ったことがない中でチャレンジをした作品でした。ただ、フィールドは違えど、皆さんそれぞれ第一線で活躍しているスタッフ・キャストが集結しました。 ストーリーもとてもパワフルですし、一生懸命生きてる登場人物たちから勇気をもらえるような作品になっていると思います。
一歩踏み出す勇気みたいなものが欲しい人に、ぜひ見ていただきたい作品です。

Kenjo監督
何回も何回も。

川口高志
何回も何回も観て欲しいです!


■作品概要

映画『夢見びと』


【STORY】
恋愛に奥手で独身の売れない漫画原作家マサ(川口高志)は、長年疎遠だった父が危篤であることを知る。自分が充実している姿を見せることで、少しでも父を元気づけようと考えたのが、レンタルファミリーの女優を雇い「偽装妻」を仕込むことだった。一方、マサに「妻」として雇われたレンタルファミリーの女優カナコ(森川由樹)は、さまざまな偽りのキャラクターを演じる日々を過ごしている。歌手になる夢を抱えながらも、理想と現実のはざまで思い悩んでいた。
こうして「ニセの夫婦」としてマッチングした2人はマサの父の見舞いに向かうが、ひょんなことから「妊娠」という嘘まで重ねることになってしまう。マサの父や親族の前では、“もうすぐ子供が生まれる夫婦”としてその場限りで振る舞い続ける2人だったが、思いがけずマサの父の容態が回復し、2人の偽りの関係にほころびが生じ始める・・・。

【INTRODUCTION】
インディーズ邦画としては異例の30映画祭10部門受賞22ノミネートという快挙を成し遂げ、賞レースを席巻した『夢見びと』は、イギリス出身・日本在住で映画監督と会社員を兼業する異色の新進気鋭ケンジョウが監督・脚本を務めた長編デビュー作である。

本作は、その場限りの「偽りの関係」で出会った若い男女が、夢への情熱と現実のはざまでもがきながらも「真実の自分」を見出していく姿を圧倒的な歌とダンスで彩るミュージカルドラマ。キャストが吹替なしで披露する圧巻のパフォーマンスが最大の見どころだ。

主人公マサを演じたのは舞台や映画で活躍中の川口高志。奥手だが心優しい青年マサを朴訥した存在感で演じている。レンタルファミリーの女優カナコを演じたのは映画、CM、舞台と幅広い活躍をみせる森川由樹。飾りっけのない等身大で好演している。
音楽製作には『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団』の挿入歌「キミがいてくれるなら」を担当した上新功祐(かみしんこうすけ)。作曲を担当した稲葉瑠奈(いなばれな)は、国内外で活躍するピアニストであり、本作でシアトル映画祭サウンドトラック賞を受賞した。振付は、プロダンサーとして多くのメディアに出演しながら海外にも活動の場を広げる平山さゆりが担当している。

夢を追い求め、愛を欲して、偽りで現実を塗りつぶしながら、苦悩と葛藤にもがく若者たち。彼らがやがて、嘘もごまかしもなくまっすぐ自分の人生に向き合い、それぞれの「真実」を見出していく姿は胸のすく感動を呼び起こす。ここに、唯一無二の人生賛歌エンターテインメントが誕生した。

2024年4月13日(土)より、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

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