映画『にわのすなば』黒川幸則監督、カワシママリノ、村上由規乃インタビュー

映画『にわのすなば』黒川幸則監督、カワシママリノ、村上由規乃インタビュー

現在ポレポレ東中野にて、黒川幸則監督最新作『にわのすなば GARDEN SANDBOX』が公開中。好評につき、2023 年 1 月 20 日(金)まで延長上映が決定した。今回、黒川幸則監督、カワシママリノ(サカグチ役)、村上由規乃(ヨシノ役)の3人に出会いやキャスティング、印象に残るエピソードなどを語っていただいた。

にわのすなば

■ 映画『にわのすなば』黒川幸則監督、カワシママリノ、村上由規乃インタビュー

▼井上文香さんの絵本『青の時間』との出会い

黒川幸則監督
画家の井上実さんと知己を得て、キノコヤで個展を開きました。実さんのパートナーの画家・井上文香さんが、その頃出来たばかりの手作りのジンを持ってきてくれ、キノコヤに置くことにしました。それが『青の時間』でした。一読して、色と風景に懐かしさを覚え、またユーモラスなところにも惹かれました。

▼黒川監督とカワシママリノさんの出会い

黒川幸則監督
拙作『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』(2016)で主演したミュージシャンの田中淳一郎さん(a.k.aのっぽのグーニー)が音楽を担当した映画、『ふゆうするさかいめ』(2021)を教えてくれました。映画は活き活きとして良かったし、俳優も瑞々しく魅力的だったので、キャストを探していた私は、田中さんを介して、監督の住本尚子さん、主演のカワシママリノさんとお会いしました。面接を兼ねて、4人で路上で飲みました。

カワシママリノ
私のスクリーンデビュー作、映画『ふゆうするさかいめ』の住本尚子監督とミュージシャンの田中淳一郎さんを介して黒川幸則監督とは出会いました。ぜひ一度お会いしてみたい、とお声がけ頂き、私の地元でお話することに。2021年の6月のことです。コロナ禍で居酒屋さんは休業している時期でしたのでコンビニでお酒を購入し、その町に流れる川のほとりで初めましての乾杯をしました。夜が深くなる頃には町を遊歩。休むことなく歩いていたので、途中、黒川さんは眠そうにペンギン歩きで私の後ろを歩いてました。大丈夫ですか?と尋ねると僕は大丈夫だから君らはそのまま歩いてて、と後ろから優しい声が。愛らしい監督さんだと朝陽がほんのり空に色づきはじめたときに想ったのを今でも鮮明に覚えています。

▼キャスティングについて

黒川幸則監督
配役に少し迷いましたが、カワシマさんなら性別に拘らない役作りができると思いサカグチにしました。村上由規乃さんと中村瞳太さんは、2人が出演していた柘植勇人監督の『ロストベイベーロスト』(2020)を見た縁です。その映画と今回では全然違う役柄なのですが、本人たちと会ったら心配は無用でした。
柴田千紘さんは私の映画の常連で、今回はコメディリリーフで活かせると思いました。佐伯美波さんはスケジュールが合わなかったのですが、どうしても出て欲しかったので追加撮影で来て貰いました。遠山純生さんと新谷和輝さんはキノコヤで上映会を主催して貰ったり、一緒に飲んだりしていたのがきっかけです。お二人とも俳優さんではないですが、なんの躊躇もしませんでした。
西山真来さんは前から仕事してみたかったのが叶いました。それから、自分がかつて見た映画で好きだった俳優さんを考えていたら、風祭ゆきさんが浮かびました。フットワークの軽い方で、出演快諾して頂きました。

カワシママリノ
私は俳優活動に約2年間のブランクがあった時期にお声がけを頂いたので、自分に対する不安はなかったと言ったらそれは嘘になります。キノコヤ映画の第1回作品の主演をお引き受けすることは私にはとても勇気のいることでした。でも、私を見つけ、受け入れてくれている黒川さんと由美子さんのあたたかさに応えたいと強く思い、すべてを捧げる気持ちでお返事をしました。

村上由規乃
監督から会って話してみたいと連絡をもらって、キノコヤで会いました。
お会いしたのは2019年のTAMA NEW WAVE以来で、お話しするのはほとんど初めましてでした。

にわのすなば

▼「脚本を最初に読んだ時の感想」と「完成した作品を観た時の感想」

カワシママリノ
私演じるサカグチは自身と似ている部分がいくつもあったのですぐに愛着が湧きました。舞台となっている架空の町、十函は、何だか生き物のようにも感じられました。妙な蠢きのある得体の知れない何か。時空の歪みや、異世界のことも連想させられる脚本で、本読みをしている段階から頭が飛ぶような感覚に陥ることが多々ありました。その町に住む人々。その中に純な心で入っていくサカグチ。作品を作り上げていく中で私は純粋さを大切にしていました。完成した作品を観て、そのエッセンスが画面に反映していたと私は自負しています。迷子になってしまった場所で頭の中にハテナは残りつつも、楽しいなぁと、時間に、そして場所に身を委ねている自由さに心地良さを感じました。

村上由規乃
私が最初に読んだ稿は、十函を流れる川の環境の問題など、今とは違う設定もあって、SFやファンタジーの様な印象を受けました。
十函の街がより異界的で、怪しくて、すごく面白かったです。感染症対策の影響で、そのバージョンから今の形になっていったこともあり、あのまま撮影していたらどんな作品になっていたんだろうと今でも想像してしまいます。
完成した作品については、とにかく黒川作品の世界を感じました。
その世界を自分が感じていること自体もなんだか奇妙に思えて来て…。それは登場する人々の存在感なのか、彼らが話している言葉のリズムなのか、分かりません。
完成した作品を観て、その不思議なムードがいろんなシーンに散りばめられていたことに気がつきました。

にわのすなば

▼印象に残っているシーンについてのエピソード

カワシママリノ
架空の町である十函は、実際には埼玉県川口市と東京都多摩市のロケーションから生み出されています。私が印象に残っているのは川の存在です。淡々と続く住宅地や工場地帯を抜けるとそこには川が。それはあたかも生物の血管のようで。水面のゆらめきは時間を麻痺させる力さえありそうな。水には何か魔力があるのかもしれないと改めて思いました。
川といえば、休憩時間に、共演者の村上由規乃さんと新谷和輝さんと橋の上から夕陽を見たのですが、あの情景は今でも胸に焼き付いています。

にわのすなば

村上由規乃
水門の上でサカグチとヨシノが話すシーンを撮っている時に、撮影部の方から「ヨシノは自分にとって都合の良い時しか笑わないよね」という意見が出て、それについて監督と考えたことはよく覚えています。脚本上ではヨシノが笑う場面が多く少しずつ減らしていたのですが、その指摘は新鮮で、ヨシノという人について考え直すきっかけだったと思います。

▼帰らないサカグチに考えたことと、猫(海とココ)の状況

カワシママリノ
生きていると予想外なことが起こる。私もプライベートでそのようなことが多々あります。…迷い込んでしまったけれど、何か惹かれるなぁ、まだここにいたい、この人と一緒にいたい、と。有限なことは理解しつつ、無限でしょう?と言わんばかりに戯けてみせて、今を生きる。サカグチの素直さ、私はとても好きです。キタガワに「最近は夜中コンビニ行く以外は滅多にどこも行かないし、人にも会わないし」と話しているように、普段は閉塞感のある過ごし方をしているはずなのに、十函では人々の渦にすぅっと入っていくサカグチに愛おしさを感じました。

三日間、家で待っていてくれた海とココは「海:あれ〜?ママちゃん(サカグチ)ちょっとおそいね。」「ココ:大丈夫だよ、ママちゃんのことだから、楽しく過ごしてるよ。私たちは遊んで食べて眠って…いつもの通り、ゆっくりして待っていようね。」とふたりで会話していたと思います。(当時の私と同じく、サカグチはまだ実家暮らしだったと思うので、ごはんとお水とトイレの心配は大丈夫です。両親がしっかりお世話してくれていたに違いありません。サカグチは「帰って猫の世話しなきゃ」とは言っていますが、その点は安心して十函を歩き回っていたのだと思います。)

■ お客様へのメッセージ

黒川幸則監督
軽い足取り。歩くこと。カワシマさんと新谷さん。反復して、カワシマさんと村上さん。これは70分間の足の物語とでも呼べばいいでしょうか。その足たちが、果たしてどこへ行き着くか、映画館でご一緒してみて下さい。

カワシママリノ
失われた”何か”が、『にわのすなば』には転がっているように私は思います。透明なカメラとメモ帳を片手に、一緒に十函を歩いてみませんか?その暁にはパーティーを。私たちなりの色を纏いながら。黒川幸則監督はじめ、プロデューサーの黒川由美子さんと魅力溢れる俳優陣、そしてスタッフの方々と大切に作り上げた『にわのすなば』をぜひ劇場でご覧下さい。

村上由規乃
誰も知らない十函の街で、ありのままに暮らしている人たちがいる景色の一角をどんなふうに観てもらえるのか、とても楽しみです。


▼『にわのすなば』作品概要>

友達の誘いで知らない町、十函(とばこ)にアルバイトの面接に訪れたサカグチは、理不尽な仕事を断って家に帰ろうとするが、なぜかすんなり帰れずに、町をさまよい謎めいた出会いと別れを繰り返す…。そんな<行先不明>のロードムービーです。引きこもり・自粛をせざるを得ない窒息しそうな社会から逃れ、たとえ無職で手ぶらでも、他者と共に愉快なひと時を過ごす、この映画はそんな時間を描き出します。
ロケーションの中心となったのは埼玉県川口市。映画『キューポラのある街』の舞台にもなった、かつては鋳物工業で栄えた街です。東京のベッドタウンとなった今でも住宅街の中に鋳物工場が散在し、歴史の層を感じさせる土地です。撮影現場となった不二工業がある領家工場街も、かつては荒川の支流・芝川沿いにたくさんの町工場が並んでいました。この地で幼少期を過ごした画家・井上文香さんが往時の記憶をもとに描いた絵本『青の時間』との出会いをきっかけに、時代の変遷の中、都市近郊の、今では失われつつある風景の痕跡を遊歩するこの映画『にわのすなば』は作られました。
出演は、独特のテンポで観る者を迷宮に誘うカワシママリノ(『ふゆうするさかいめ』)、これまでにない軽やかな魅力にあふれた村上由規乃(『オーファンズ・ブルース』『街の上で』)を中心に、キノコヤに集う遠山純生、新谷和輝といった映画評論家・研究者が、黒川監督たっての希望で出演しています。そこに柴田千紘(『恋の渦』『身体を売ったらサヨウナラ』)、西山真来(『夏の娘たち〜ひめごと〜』)、佐伯美波(『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』)、中村瞳太(『ロストベイベーロスト』)、そして日活ロマンポルノ出身の風祭ゆき(『セーラー服と機関銃』『キル・ビル』)らが個性
的な持ち味を生かし、それぞれの庭を掃き続けています。

ポレポレ東中野 公式サイト https://pole2.co.jp
『にわのすなば』公式サイト https://garden-sandbox.com/

ポレポレ東中野にて上映中
~12/28(水)18:30
1/2(月)~13(金)20:10
1/14(土)~1/20(金)レイトショー※時間未定

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