映画『あの⼦の夢を⽔に流して』遠⼭昇司監督インタビュー。脚本執筆で最初に浮かんだ言葉。

映画『あの⼦の夢を⽔に流して』遠⼭昇司監督インタビュー。脚本執筆で最初に浮かんだ言葉。

映画監督、アートプロジェクト・国際芸術祭ディレクターなど、多彩な才能を発揮する遠⼭昇司監督 6 年ぶりの⻑編映画『あの⼦の夢を⽔に流して』が、2023 年 5 ⽉ 20 ⽇(⼟)渋⾕ユーロスペースほか全国順次公開。この度、遠⼭昇司監督にお時間をいただき、本作にまつわるお話をうかがいました。

あの子の夢を水に流して

■ 映画『あの子の夢を水に流して』 遠⼭昇司監督インタビュー
▼本作制作の経緯について

-本作が描くのは、「球磨川という河の流れと我が子を失った女性の姿」とのことですが、「我が子を失った女性の姿」を描くに至った話をお聞かせください。
本作制作のきっかけは八代に住む友人のSNSの投稿とのことで、熊本の豪雨水害後に球磨川の河口付近で人吉・球磨地方の郷土玩具である“きじ馬”を拾い上げる老人と出くわした話とのことを監督のコメントで拝見しました。

遠⼭昇司監督
 本作の物語は、私の想像力だけによって生まれたものではなく、実際に私が目の当たりにした現地での風景、リサーチする中で伺った当時のお話をもとにまずは脚本として書き上げています。
 熊本県の球磨川流域で発生した「令和2年7月豪雨(熊本豪雨)」の傷跡をめぐり始めた頃、私は、生死をさまよう幼い子供とその両親の姿とも出会います。球磨川の流れも生死をさまよう幼い命も私自身が目の当たりにしたものです。熊本豪雨では、84名の方が亡くなり、行方不明の方も2名いらっしゃいます。
 災害だけでなく、コロナ禍やウクライナ侵攻もそうですが、失われた命、失われたものを数えなければいけない日常の中で、それでもいつしか誰かが残ったものを数え始めます。
 傷跡が残る球磨川の様々な風景を背景としながら、残された命としての「我が子を失った女性の姿」を描くことは、私にとってささやかな希望のようなもの、あるいは祈りのような行為だと思っています。

遠山昇司監督
遠山昇司監督

▼内田 慈さん(主演・瑞波 役)のキャスティングについて

-本作主演の内田慈さんのキャスティングはどのように決まったのでしょうか?選出理由、印象などを教えてください。

遠⼭昇司監督
内田さんが出演されていた舞台を20代の頃から何度か観ていました。
キャスティングを務めたスタッフから内田さんの資料が送られてきまして、かつて観た舞台のことなどを思い返していたのですが、直接、お会いして話してみると僕自身が記憶していた「内田慈」とは異なる姿が垣間見えてきてハッとしました。当然といえば当然なのですが…

ちょうど、お会いしたときの内田さんの前髪の感じが、私がイメージしていた「瑞波」の前髪と同じで、「瑞波」の声、「瑞波」の後ろ姿などがより具体的に見えてきました。
この人は、まだ誰も見たことがない色の炎を灯すことができる人だろうなーというのが私の最初の印象です。

▼本作と「川」、「時間」について

-映画の中で「川」、「時間」を大きなテーマとして感じました。本作における、監督自身が抱く「川」、「時間」についての考えを教えてください。

遠⼭昇司監督
 脚本を書くにあたって、最初に浮かんだのは「川がいい。海でも山でもなく。川がいい。」という瑞波の台詞でした。傷つき弱った瑞波にとって、圧倒的な自然の力と生命力をもつ存在より、時間そのものである川が必要だと思いました。
 川と人生を重ねた表現は、映画だけでなく歌や小説などでもたくさんありますが、それは人生という時間と川が似ているからだと思います。時間が一方向にしか進まないように川も同じく一方向にしか進まない。過去には戻れず、息子の死も消えることはない。前を向いて進んでいくというよりは、川の流れに沿って瑞波たちは歩いていきます。
 川の上流から河口へと向かう旅は、水の流れそのものであり、登場人物たちの心の時間の経過でもあります。

▼本作と地元の名産品について

-地元の焼酎である林酒造場の極楽が劇中に登場していました。地元由来の名産品と作品へのつながりで意識した点などありましたら教えてください。

遠⼭昇司監督
 意識したのは、球磨川から派生する命と水の循環です。
 熊本の人吉・球磨地域で長年作られ続けている球磨焼酎もまた球磨川という水の恵みによって生まれたものです。雨、虹、川、木々と花、涙、焼酎。これらもまた水の循環によって存在するまたは、もたらされるものとしてつながっています。

▼球磨川の美しい姿、豪雨の爪痕の映像について

-球磨川の美しい川の流れや、豪雨による爪痕を数多く映しだされていました。撮影時にこだわった点について教えてください。

遠⼭昇司監督
 本作の撮影監督・森賢一は、私の長編第一作『NOT LONG, AT NIGHT ―夜はながくない―』と短編映画『冬の蝶』でも撮影監督を務めてくれた写真家です。
 彼の切り取る風景とその美しさは、私の監督作品において重要な奇跡だと思っています。
 撮影前にふたりで話し合ったこととしましては、今回は自分たちの美意識を突き詰めていくのではなく、目の前の現象を的確に捉え続けていくことに専念しようということでした。
 また、あの時にしか撮れなかった、今はもう残っていない風景も数々あります。豪雨によって失われた風景、新たに生まれた風景をアーカイブするという意識もありました。

▼今後取り組みたいテーマや制作したい作品について

-アートプロジェクトや本作で監督のご出身地である熊本を舞台に撮影をされていますが、今後取り組みたいテーマや制作したい作品について、お話しいただけますか?

遠⼭昇司監督
 美術館での初個展が予定されているため、映像などを用いたインスタレーション作品の新作をこれから制作したいと考えています。そこでも「時間」について考えていきたいと思っていますが、その場所でしか見ることができない、つまりは複製されない映画、そして時間旅行のような体験を生み出せたらと思っています。
 アートプロジェクトの方でも、“「偶然」から「運命」を作り出す仕組み”をテーマにした新作を発表していく予定です。

▼お客様に向けてのメッセージ

-この映画を観るお客様に向けてメッセージをお願いします。

遠⼭昇司監督
 主人公の瑞波役を演じた内田慈さんの静かで切実な演技、恵介役・玉置玲央さんの川とともに生きる者としての佇まい、良太役・山崎皓司さんの誠実で真っ直ぐな言葉、そして3人を温かく見守り続ける出水役・中原丈雄さんの眼差しが川の流れと重なることでこの映画は生まれました。
 川に流れているもの、流されたもの、そして人が川に流すもの。
 川という時間を映画という時間で体験して頂けたら幸いです。


■ 映画『あの子の夢を水に流して』

STORY
⽣後間もない息⼦を亡くした瑞波は、失意のなか、10年ぶりに故郷である熊本・⼋代に帰省する。瑞波は幼なじみの恵介と良太に久しぶりに再会し、3⼈で豪⾬災害による傷跡が残る球磨川を巡り始める。川を前にして語られる、それぞれが「あのとき」⾒たもの。
3⼈はそこで、不思議な現象を⽬の当たりにする。

キャスト・スタッフ
内⽥慈 ⽟置玲央 ⼭崎皓司 加藤笑平 中原丈雄
脚本・監督:遠⼭昇司|撮影監督:森賢⼀|照明:⾼⽊英貴|録⾳:尾⽅航|ヘアメイク:池上ゆき
スタイリスト:キクチハナカ、まなべかずこ|美術協⼒:北澤岳雄、加賀⾕静|制作:⼩森あや
⾳楽:志娥慶⾹|編集:加藤信介|タイトルデザイン:吉本清隆|短歌:池⽥翼|主題歌:⽟井⼣海
プロデューサー:⼩⼭真⼀、武⽥知也
70 分|カラー|アメリカンビスタ
⽂化庁「ARTS for the future! 」 補助対象事業 ©「あの⼦の夢を⽔に流して」製作委員会
https://anoko-no-yume.com
twitter.com/anokono_yumewo

2023 年 5 ⽉ 20 ⽇(⼟)渋⾕ユーロスペースほか全国順次公開

あの子の夢を水に流して

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