映画『掟の門』、『続・掟の門』伊藤徳裕監督インタビュー

映画『掟の門』、『続・掟の門』伊藤徳裕監督インタビュー

7 月 9 日(土)から 15 日(金)まで、 池袋シネマ・ロサにて、映画『掟の門』、『続・掟の門』が緊急上映されることになった。「元新聞社の映画記者から55歳で念願の映画監督の道を目指した」という伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督にメールインタビューを行い、映画監督の道を目指した経緯から、本作制作のさまざまエピソードをうかがいました。

■ 映画『掟の門』、『続・掟の門』伊藤徳裕監督インタビュー

Q1.「元新聞社の映画記者から55歳で念願の映画監督の道を目指した」点について

-監督の経歴と、映画監督の道を目指した行動に興味を持ちました。いつ頃、映画監督への夢を持ったのか教えてください

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
映画への興味は小学生の時からあり、卒業アルバムには将来の夢に「映画評論家」と書いていました。当初は「見る」専門だったのが次第に「撮りたい」と思うようになり、中学1年生のときに「エアポート’78」という航空パニック映画をクラス全員参加で撮りたくて、みんなが登校前の早朝に黒板に大きく「製作開始!」などと書いたんです。

PTAも乗り気になったのですが、担任の「親のスネかじりはだめ」の一言でおじゃんに。あのとき撮っていれば今は大監督になっていたかも。うそです(笑)。それからずっと映画を撮りたいという夢がありました。

Q2.映画学校への入学を考えたきっかけや、想いは?

-映画学校への入学を考えたきっかけは、どういうタイミングや出来事があったのか、その想いを教えてください。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
長年勤めていた新聞社を辞めたのがきっかけです。55歳で「GO!GO!じゃん」と思い、2020年には歴史的な東京五輪というテーマがあるので「映画を撮るのは今しかない」と思い、辞表を出しました。迷いはなかったです。死ぬときに悔いの残る人生は送りたくなかったので。映画製作についての知識はあっても、実際にシネマカメラを触ったことがなかったりと実践面に不安があったので、まず映画学校に入ろうということで門戸を叩きました。

Q3.あらためて、本作制作のきっかけは?

ー本作制作のきっかけについてあらためて、お願いします。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
何本か短編を撮ってから本作を撮りました。ちょうど新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期なので、「元」記者魂に火がついたというか、コロナを題材に長編を撮ろうと思いました。本作のヒロインは自分のアイデンティティを失った看護学生ですが、はじめは違っていて、感染の危機を察知するとテレキネシスを発揮する女の子でした。私の敬愛するブライアン・デ・パルマ監督の「キャリー」(1976年)や「フューリー」(78年)の主人公のような。ヒロインの橘さやかを演じた岡部莉子さんが元看護学生で、「看護師の母親がコロナに感染して看護師という仕事に疑問を持つヒロインはどうか」と提案してくれたので現在の形に落ち着きました。エンドクレジットに「原案 岡部莉子」とあるのはそのためです。

Q4.オマージュについて

ーオマージュとなるシーンに関して、監督がオマージュの元となる作品に対して抱いたリスペクトについて、何かエピソードを教えてください。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
ネタバレになるかもしれませんが、興味を持ってくれる映画ファンの方もいると思うので。私はアルフレッド・ヒッチコック監督やブライアン・デ・パルマ監督が大好きで、撮った作品には必ずオマージュを捧げています。映画学校時代の習作「悪意のにほひ」(2021年)は「ミッドナイトクロス」(1981年)、短編映画「やましい気持ち」(2021年)は「サイコ」(1960年)といった具合に。「掟の門」にもいろいろ仕掛けています。

※伊藤徳裕監督から、オマージュとした作品がどんな作品かのヒントとなる、伊藤監督作品中の場面写真を下記に掲載いたします。こうしたオマージュには、若い人にもっと昔の映画を見て、映画の先達から学んでほしいという願いも込められているそうです
正解が分かった方、答えが気になる方は、劇場にて、伊藤監督にたずねてみてください。

ヒッチコック作品をオマージュとした、伊藤徳裕監督作品中に出てくる場面写真

Q5.キャスティングについて

-非常に多くの、特にインディーズ映画や舞台で活躍している役者の顔ぶれが特徴的ですが、オファーやオーディション。選出の決め手・理由について主要キャストを中心に教えてください。

掟の門

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
ヒロインの岡部莉子さんは先述の「悪意のにほひ」で新聞記者役を演じていただいてから短編に何作か出てもらっています。「悪意~」からはほかに最近「距ててて」などのインディーズ映画で活躍している釜口恵太さんも参加しています。

新聞記者と女子高校生役はオーディションしましたが、基本的に過去に縁があった役者さんや、フェイスブック仲間の役者さんから選んだ方が多いですね。過去作の応募者ファイルを引っ張り出して優先的に決めることが多いんです。役者さんとの関係は「一期一会」ではなくて、応募してくれた時点で何かしらの縁があると思っているので、一度落とした役者さんも心にしまってあります。

掟の門

キャスティングの際は演技テストをしません。喫茶店などで談笑して決めてしまいます。記者経験が長いからか人となりは話していれば分かるので。これまでに自分の目に狂いはなかったと自負しています。
また「続・掟の門」では新たに大塚菜々穂さんと井神沙恵さんがメーンキャストになりました。この2人を含め、俳優事務所の「ユーステール」さん所属の俳優さんにも多く出ていただいています。代表の方とは同人グループ「三鷹シネマ倶楽部」からの知り合いです。

-「キャスティングを後回しにヒロイン役の岡部莉子と同年 8 月に真夏の井の頭公園でクランクイン」したそうですが、ヒロイン役・岡部さんとの出会い。クランクインに至るまでの声がけから撮影への経緯を教えてください。

掟の門

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
岡部さんは「悪意~」のときに行ったオーディションで知り合いました。私の両親と同じ静岡出身で、何より心が純粋で素直なんです。先述のような経緯で「アイデンティティを失った看護師の卵」というヒロインが生まれました。

2020年の夏も終わる頃だったのですが、当時はコロナがいつ収束するか分からなかったので、とにかくコロナ禍の空気感をカメラで記録しておきたいという思いが強く、脚本が完成する前に「掟の門」の冒頭シーンを岡部さんと井の頭公園で撮りました。ただ次々にイマジネーションが湧いてきて脚本はアッという間に書いてしまいましたね。

Q6.撮影について

-『掟の門』は、全編をスタッフはおひとりで、スマートフォン(SONY 製Xperia)で撮影されたそうですが、その理由は撮影時のエピソードを教えてください。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
なぜスマホで撮ったかというと、「掟の門」の1作目撮影当時、シネマカメラなどを持っていなかったという単純な理由です。ただ私のSONYの「Xperia 1Ⅱ」というのにはジェームズ・キャメロン監督の「アバター」(2009年)などで使われたSONYのシネマカメラ「VENICE」と同じ機能が搭載された「シネマ・プロ」というアプリがデフォルトで入っていて、これが優秀なんです。

ポケットにいつもシネマカメラが入っているようなもので、歩いていてコロナ禍の風景が目に飛び込んできたら、すぐに映画用に撮れちゃうんです。コンパクトなので冷蔵庫に入れて物を取り出す様子を中から主観的に撮るとかも可能です。そうした機動性が魅力ですね。ただ、小さいのでぶれやすいです。

スマホ用のジンバルに載せて撮っていたんですが、ある程度重量のあるカメラと違って軽いので、どうしてもぶれてしまいます。あと夏だったので熱停止が多くて辟易しました。これは演技に集中したい演者さんに申し訳なかったです。
録音は1作目ではほとんどスマホ本体のマイクで撮っています。2作目はSONYのシネマカメラ「FX3」で撮っていて、外部マイクなどを使っています。コロナ禍のリアルな空気感を映画に閉じ込めるのが大きな目的だったので、ほとんど環境音をカットせずそのまま使っています。聞こえづらいかもしれませんが、記録性を重視しました。照明はほぼ使わず自然光だけですね。モノクロ映画なので色味とかに気を使わないのが助かりました。

-総勢20人以上のキャラクターの登場に伴うキャスティングは、岡部莉子さん以降どのように行っていったのか教えてください。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
キャスティングは
①過去に縁があった役者さんや、SNSでつながっている役者さん
②それでも該当する役柄に合う役者さんがいなければオーディション-という方法です。

①でいえば、堤和也役の松谷鷹也さんは、映画学校時代に仲間の習作にスタッフ参加していたときに主演していて「いい役者だな」と思っていたのが縁です。

看護師長役の石本径代さんはLGBTをテーマにした「カランコエの花」(18年)という短編映画で知ってフェイスブック仲間になっていました。

刑事役の鈴木博之さんは新人監督映画祭でグランプリを取った「あくまのきゅうさい」(18年)での刑事役がとても印象的だったのでやはりフェイスブック仲間になり、今回オファー。

また元看護師役の佐伯日菜子さんは東京フィルメックスで上映した「僕はイエス様が嫌い」(18年)での母性ある母親役を見て今回オファーしたところ快諾していただきました。

飯田美代子さんという、現在93歳の女性は、商品CMを撮ったときに孫役の岡部さんと会話する祖母役に応募していただいて起用したのがきっかけ。そのときは往年の名女優、飯田蝶子さんの姪っ子さんとは知りませんでした(笑)。


②のオーディションでは、新聞記者役の長谷川愛美さんと、さやかの従妹役の北島かん奈さんと出会えました。また、女性警察官役の岩下莉子さんや、さやかの母親役の白木サキさんの起用もこのオーディションがきっかけです。

ー『続・掟の門』では、機材をSONY製シネマカメラFX3にしたそうですが、スマホからシネマカメラに変えた理由をお聞かせください。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
スマホですとボケ感といった深度に限界があったりするので、シネマカメラで撮りたいと思いました。FX3はワンオペでの撮影を考慮した設計になっていて正にピッタリな機材です。バリアングルモニターはどの角度から撮っていても映像を確認できますし、モニターをタッチするとそこにピントが合う機能も重宝しました。奥の刑事から手前の刑事にピントを合わせるときとかに効果を発揮しました。

Q7.航空自衛隊の広報に打診!?

-航空自衛隊ブルーインパルス の展示飛行の映像をお借りするために空自広報に打診したそうですが、その件について教えてください。どのように打診を行ったのでしょうか?(電話、メール、書面、直接訪問等)、空自広報の反応や映像をお借りするにあたって、難しかったこと、良かったことなどエピソードを教えてください。

掟の門

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
映画自体、全体的に閉鎖的なので、どこかでパーッと空間を広げた画(え)を入れたいと思っていました。海だとよくあるインディーズ映画になってしまうので、題材的にも医療従事者に感謝を表した2020年5月のブルーインパルスの展示飛行がいいと判断しました。

同年10月に「ブルーインパルスの飛行シーンを入れることで閉塞感の打破と未来への希望を描きたいと思っております」という企画意図を書いた企画書と、空自のYouTubeチャンネルにアップされていた展示飛行の映像を編集した動画を広報にメールしたところ、すぐに快諾の返事をいただきました。

担当者の方に電話でお礼を述べて、編集した動画をそのまま使わせていただきました。自衛隊が協力したインディーズ映画というのは珍しいと思いますが、これも記者時代の経験が生きた例だと思います。

Q8.次回作について

-本作は コロナが収束するまでシリーズ化する予定で、 3 部作まで考えているそうですが、3作目に関しての構想、どういった話になるか現在のイメージ、いつ頃の撮影、完成を目指しているか等、教えてください。

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
1作目はコロナ禍の真っ最中、2作目はコロナ禍での東京五輪、という明確なテーマがありました。さて、2022年は、というと、「コロナ慣れ」かと思います。当初はロシアによるウクライナ侵攻もありかと思いましたが、それはあくまでも背景にしかならない。今現在、コロナの感染状況が減ってきたと思ったら徐々に増加傾向にあって全く先が見えない状況です。

なので、前2作の登場人物のその後を頭に描きながら、日々の事象を追っているところです。素材撮影は少しずつ行っていますが、まだクランクインがいつなのか、完成はいつかは決めていません。すべては「神のみぞ知る」なのです。

Q9.映画を観にいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督
「掟の門」、「続・掟の門」に興味を持っていただき、ありがとうございます。この映画は、コロナ禍の日本を真摯に描いたヒューマンドラマです。撮影は2年前の2020年夏。当時はコロナウイルスという未知の病原体にどう対処していいのか暗中模索の時期でした。

本編に、コンビニのレジに垂れ下がった防護シートが「邪魔だ!」と男性が文句を言うシーンがあります。当時はこのようなことが頻繁に起こりニュースにもなったのです。今見ると奇異にさえ思えるほど、人々の意識も変化しました。それこそが私が意図した「記録性」なのです。

といっても堅苦しい映画ではありません。笑ったりハッとしたりする場面もあります。ぜひご高覧になって感想をお聞かせください。宜しくお願い致します。

▼監督プロフィール

伊藤徳裕 (Norihiro Ito)監督

1964年東京生まれ。元新聞社の映画記者で国内外の監督や俳優を多く取材。2020年、55歳で念願の映画監督の道を目指して映画学校「ニューシネマワークショップ」の門戸を叩く。記者経験を生かし主に社会派映画を好んで撮っており、2020~22年の間に短編映画「見えない敵」(ショートホラーフィルムチャレンジ 1 次審査通過)や「やましい気持ち」(第2回CyberSpaceFilmFestival正式出品)、「加奈とソフィア」(第12回オイド短編映画祭にて上映 )、中編映画の新作「SO SWEET」といったコロナ禍を題材とした作品を発表。初長編映画「掟の門」と「続・掟の門」はその集大成となる。ヒッチコック監督やデ・パルマ監督の熱狂的ファンで、作品内に必ずオマージュを捧げている。生涯ベストワン映画はテオ・アンゲロプロス監督の「ユリシーズの瞳」(1995年)。


■舞台挨拶

9日の公開初日と最終日15日の上映後に舞台挨拶を実施
・7月9日(土)松谷鷹也、長谷川愛美、伊藤徳裕監督
・7月15日(金)井神沙恵、松谷、伊藤監督、坂本梨紗(司会進行/フリーアナウンサー)

 ※最新情報は、公式Twitterアカウントをチェックしてください。


■映画『掟の門』、映画『続・掟の門』作品概要

イントロダクション
未曾有のコロナ禍に見舞われた 2020 ~21年。看護学校生や東京五輪有力選手らの苦悩や再起を描いたヒューマンドラマ。アルフレッド・ヒッチコックやブライアン・デ・パルマら映画の先達にオマージュを捧げつつ、これまでにないリアルな空気感を持った群像劇です。

▼スタッフ、キャスト、クレジット

『掟の門』
◎「この世は不条理だらけだ」―コロナ禍に見舞われた 2020~21 年。看護学校生のさや
かと演劇青年・和也の若い男女を軸に、人生をコロナに翻弄される人々を描いた群像劇。

<キャスト>
岡部莉子 松谷鷹也 石本径代 長谷川愛美 大瀬 誠 北島かん奈 釜口恵太 順哉 岩下莉子
飯田美代子 山下ケイジ 鈴木博之 佐伯日菜子 等
スタッフ)企画、製作、制作、撮影、他、監督)伊藤徳裕
シネマスコープサイズ、ステレオ 2ch、1 時間 32 分、モノクロ(パートカラー)

『続・掟の門』
◎「やっぱりこの世は不条理だらけだ」―前作「掟の門」から 2 カ月後。新型コロナウイ
ルスが依然、猛威を振るう 2021 年、東京五輪の開幕が近づいていた。コロナ感染で東京五
輪出場を断念した美紀と、前作で夫を殺害されたまゆみの 2 人の女性を軸に、前作の登場
人物たちのその後を描いた正統続編。

<キャスト>
大塚菜々穂 井神沙恵 岡部莉子 松谷鷹也 豊満 亮 順哉 笠野龍男 長谷川愛美 徳弘大和
西田百江 岩下莉子 伊藤凛香 村内孝志 釜口恵太 しじみ 今城沙耶 飯田美代子 白木サキ
石本径代 山下ケイジ 鈴木博之 等


<スタッフ>
企画、製作、制作、撮影、他、監督)伊藤徳裕
シネマスコープサイズ、ステレオ 2ch、上映時間 1 時間 33 分、モノクロ&カラー
製作・配給「©N・I FILM」(エヌ・アイ フィルム)

公式サイト https://okitenomon-1.jimdosite.com/

▼公開情報
7 月 9 日(土)から 15 日(金)緊急ロードショー 池袋シネマ・ロサ

掟の門

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