第24回 東京フィルメックス・コンペティション作品、『ミマン』Mimang 上映後Q&A

第24回 東京フィルメックス・コンペティション作品、『ミマン』Mimang 上映後Q&A

2023年11月25日(土)、有楽町・朝日ホールにて、東京フィルメックス・コンペティション 8作品のひとつ、『ミマン』Mimang[韓国 / 2023 / 92分、監督:キム・テヤン ( KIM Taeyang )]が上映。上映後には、監督・キャストへのQ&Aが行われた。登壇者は、ハ・ソングク、パク・ポンジュン、チョン・スジ、キム・テヤン監督。撮影手法、サウンドデザイン、タイトルについて語った。

■ 『ミマン』Mimang 上映後Q&A

▼映画『ミマン』Mimang

変わりゆくソウルの街を散歩したりドライブしたりしながら、若い画家と映画講師の移り変わる運命と人生の節目を本作は捉えていく。恋愛関係やキャリアの目標、あるいは地元の記念碑について思いを巡らせ、会話を交わしながら、旧友である彼らは横断歩道や路地を肩を並べて歩く。
そして彼らが同じ場所や物語、そして同じ会話のポイントを巡って戻ってくる様子が、数年に渡る撮影の中で観察されていく。題名の「ミマン」という韓国語にはいくつかの定義があり、言葉では言い表しにくい概念の一つだと思われるが、本作が扱っているのもまさにそのような言語化しにくい感情であり、日常的でありながら、それでいて普段は忘れているような感情が、ここでは巧みに掬い上げられている。望遠レンズを用いて美しく切り取られた街並みと、街の環境音を含めた音響デザインも秀逸。新鋭キム・テヤン監督の長編デビュー作で、トロント映画祭ディスカバリー部門でプレミア上映された。


▼上映後Q&A(通訳あり)

◆4年かかった制作の過程

-この作品は撮影に、4年かけているとうかがっております。その過程について最初にお話していただけますでしょうか。
この作品はそれぞれのパートで三つの時間が存在していると思います。そのことも含めて撮影や制作の過程についてまず少しお話しください。

キム・テヤン監督
最初に撮影を始めたときは、4年も時間がかかるとは思いませんでした。
一つ目のパートを作成した後、コロナが発生しまして、その状況を受け入れざるを得ない状況になってしまいました。そこで映画制作が困難に直面したんですけれども、その後撮影を再開したのが3年後でした。
しかしながら偶然にも、その中で移りゆく時間の変化を撮ることができて、映画自体にはそれが貢献したのではないかとおもいます。

キム・テヤン監督

◆役者のみなさんからみた、キム・テヤン監督の印象

-キム・テヤン監督との仕事の印象や現場でのエピソードなど、お話お伺いできますでしょうか?

ハ・ソングク
まず映画を観てくださって本当にありがとうございます。
字幕で観るとまたちょっと感じが違うんですけれども、今回ですね、監督と撮影をして、監督はスタッフの方にも、俳優の方にも皆さんに親切な人で、リラックスして心地よく撮影することができました。

ハ・ソングク

パク・ポンジュン
監督は本当に優しい方なんです。
そして映画の中にも、監督の優しさがそのままにじんでいると思います。本当にリラックスして心地よく仕事を一緒にすることができました。
それから監督は、結構口数の多い方でして、今日、日本語の字幕であらためて作品を見させていただいたんですけれども、日本語で見たときに、言語の形が持つ美しさというものをあらためて感じました。
そこで監督がセリフの多い良い映画を作ってくださったわけですが、セリフが多くてよかったなと感謝しています。

パク・ポンジュン

チョン・スジ
監督は本当に優しい方です。丁寧に心を込めて映画を作る方だと思います。
今日あらためて映画を見たのですが、映画を観ながら、また新しい面を発見することができました。
また監督はフレキシブルに現場で対応しました。例えば雨が降ると、映画にそのまま利用したり、通行人も、まるでそこに配置をしたかのように普通に行き交っていて、それが全て映画のような感じになりました。
今日あらためて、日本の劇場で映画を観てよかったと思います。

チョン・スジ

◆撮影について

-次にですね、街中での撮影についていくつか質問をされたんですけれども、街の中での撮影についてどういうふうに撮っていたのかっていうのを少し教えていただければよろしいですか。

キム・テヤン監督
この映画の中のセリフで、絵を描く時のルールが出てきます。
“長く線を描いてほしい(線を描くときに短く切らずに長く書く)”というのがあるのですが、そのやり方をそのまま撮影に織り込みまして、町の中でも、ロングテイク(長回し)を使いました。それは現実的にもそうせざるを得なかったんですけれども、意味も込めて長回しで撮りました。
望遠レンズで遠くから撮影する技法をつかいました。実は街の中では、市民の方々が多く、行き来するのですが、カメラを1テイクで遠くから眺めるような形で撮るというのは、選択肢としてこの方法しかありませんでした。
そして、韓国政府の支援を受けまして、町もそうですし、お店も通行人も同意を得て撮影をしました。幸い出演してくださった市民の方々が撮影に同意してくださったので、たくさんの方のサポートを得て、この映画を完成させることができました。

◆サウンドデザインについて

-サウンドデザインとかセリフ、と音に関してどういうふうに作業されたというか、狙いを持って作業されたか教えていただきたいと思います。

キム・テヤン監督
一般的に映画のセリフは人の動きに合わせて撮ります。つまり、遠くの音は小さく、近い音は大きく聞こえます。
しかし私の場合は映画を撮影するときに全て遠くから撮影したので、どうすればいいのか選択しなければいけなかったんですけれども、セリフがとにかく多くて、私が意図したのは、この映画のセリフがポエムのように皆さんに届いてほしいと願っていました。
ですので、俳優が喋るそのセリフというのも、スクリーンの前の方に配置をしようと、サウンドデザインチームと話し合ってデザインを考えました。
それから工事の音ですとか車が通る音ですとか、そういうのはセリフと同じぐらい大事だと思いました。それは外の世界の変化や移り変わる様子を音で表現したいと思って、それが現実的に皆さんに届いてほしいと思いました。
皆さんがこの映画を観た時に、情緒というか気持ち、感情的に感じられるように音をデザインしました。

◆劇中に出てきて映画について

-劇中に出てきた映画が、実際の作品でしたらタイトルを伺いたいですという質問が届いています。

キム・テヤン監督
韓国映画初の女性監督が作った映画なのですが、パク・ナモク(朴南玉)という女性監督で、
『未亡人』という作品です。この“未亡”も『ミマン(Mimang)』という発音です。その作品は、1955年に製作されました。
朝鮮戦争以降に作られた映画なんですけれども、この各俳優のセリフを通じてどういう内容なのか少し推測できたのではないかと思います。
夫を失ってそして新しい男、愛する人に会って、娘がいて、そこでいろいろな出来事が起きるのですが、家族映画だと言えます。その映画を劇中に取り入れることで、主人公がそこから飛び出るような感じにさせたかったです。
そして第2パートの中で、パクさんがそういう感じを出すのですが、俳優のセリフの中で、「皆さんが劇場から出たときに、皆さんの物語が続いてほしい」というものがありますが、その願いを込めて劇中にこの映画を取り入れました。

◆タイトルについて

-タイトルに関する質問として、この『ミマン(Mimang)』という言葉がいろいろな意味があることを知りました。これを使った理由や経緯について教えていただけますか。

キム・テヤン監督
この劇中に出てくる映画のタイトルは『未亡人』だという話を先ほどしたんですけれども、この未亡人を辞書で引いてみると、“夫を失った女性。夫に先立たれて、ついて一緒に死ぬことができずにいる女性”というふうに書かれていたんですね。
私はその辞書の意味を見て、少なからぬ衝撃を受けました。
この「未亡人」の“人”を削って、「未亡」というのをもう一度、辞書で引いてみたんですけれども三つの意味がありました。これはこの映画の中にも出てきます。

そしてその三つの漢字を見たときに、『ミマン(Mimang)』の漢字を見たときに本当に美しいなと思いました。
そして私が描きたかった3つのパートの思いを適切に表現できる単語だというふうに思いました。そこで、単語の意味を考えながら物語を、その単語からインスピレーションを受けて物語を作りました。

そして最後の『ミマン(Mimang)』の単語の意味が小さな望み(微かな望み…微望)だったんですけれども。
これは私が漢字で作りました(造語)。
私の小さな望みとしましては、劇中の2人の人物、主人公が別れても、どこかで繋がったらいいなっていう望でもありますし、特別な人物ではないというか、普通にどこにもいるような人物が出てきて、そして男性の主人公がバスに乗る場面が出てくるのですが、その場面が終わった後にその残ったバスだけのシーンが長く続きます。
皆さんがこの映画を見たときに、客席が、そのバスの席になって皆さんがバスに乗ったような感じになってほしいなと思うというふうに思いました。
そして皆さんが映画を観終わって劇場を出たときに、皆さんの日常が映画のように始まって欲しい・続いて欲しいと思って、そういう小さな望みを込めてタイトルをつけました。

東京フィルメックス(作品紹介ページ) https://filmex.jp/program/fc/fc7.html


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